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「急に呼び出してごめんなさいね。ベナトの娘さんがどういった人物なのかこの目で見ておきたかったのよ」
「大丈夫です。今日はこれといった用事もありませんので」
先程自身の失言で大笑いしていた学園長は、暫く笑い続けていたが満足したのか
アルナイルに呼び出した理由を説明した。
「そういえ自己紹介がまだでしたね。私の名はダフネ・ヴェール、ご存じの通りこの学園の学園長よ。気軽にダフネと呼んで頂戴」
「改めましてアルナイルと申します。ダフネ学園長、これからよろしくお願いします」
アルナイルは改めてダフネと顔を合わせて挨拶を交わす。
少し皺の目立つ顔からは想像出来ないほど声も背筋も良く張っており、身長はアルナイルよりも高い。
「学園長なんて付けなくてもいいわよ?」
「ではダフネさんとお呼びしてもよろしいのでしょうか?」
「その堅苦しい口調も直して貰えるとなお良いわね」
「すみません、ベナトば…さんにも普段からこの口調なんです」
「あらそうなの?ならいいわ。それから普段からベナトの事をばあちゃんと呼んでいるなら別に無理して直さなくてもいいのよ?…ふふっ」
「…」
口角を無理やり抑えつつ、ダフネはアルナイルに他愛のない質問をした。
ベナトは相変わらず口が悪いのか?元気にやっているか?
娘にしては年が合わないがどういう関係なのか?等々…
主にベナトに対しての質問が多かくあった。それに対して特に隠す事なくアルナイルは答えた。
「ベナトが孤児を引き取るなんて昔のベナトからは想像もつかないわ!10年前のベナトに言ったらどんな顔をするのかしら?…ふふっ」
「ベナトばあちゃんは最初、私を孤児院に入れるつもりでしたよ?色々あって今は家族になりました」
「その色々の部分を是非とも聞きたいけれど、またの機会にしましょう。この学園での生活について軽く説明するわね」
「はい、お願いします」
「まずは学生寮についてね。ヴェール学園の生徒には学園内にある寮部屋を二人一組であてがわれるけれど、特にこれといった規則はないわ。毎日家から通学する者もいるし、研究室で寝泊まりしてそのまま授業に出席する者もいるから、門限なんかもないわよ。」
「分かりました」
「それから授業について。ヴェール学園は基本的に生徒の自主性による学びを重視しているの。自分が受けたい授業の内容があれば申請して自由に受けれるわ。逆に受けない事もまた自由よ」
「授業を受けなくても卒業出来るんですか?」
「年に四回、授業を行う導き手に生徒側が自身の実力や研究成果を認めて貰う為のの発表会が開かれるの。その内一回でも認められれば進級出来るし、場合によってはそのまま卒業して帝国に仕える生徒も居るわ」
それを聞いてアルナイルのヴェール学園での目標が決まった。
(年四回の発表会で私の実力を見せつける…分かり易くて助かったなぁ)
行動指針が定まったところでアルナイルは質問しる。
「ちなみに直近では発表会はいつ行われますか?」
「丁度一か月後に今年二回目の発表会が行われる予定よ。参加するの?」
「はい、是非とも参加したいですね」
「あらっ大分強気なのね、流石はベナトの娘だわ!参加条件も特にないから問題ないわ、思う存分やっちゃいなさい!」
アルナイルがさんするといったダフネの反応からして、とても親しみやすい人柄だと感じたアルナイルは先程から気になっていた事を質問した。
「あの…あまりベナトばあちゃんとは離れてない様に見えるのですが、失礼ですけどダフネさんってお幾つなんですか?」
「まぁ!本当に失礼な質問ね、乙女に年齢を聞くだなんて!まぁいいわよ、教えてあげる。今年で確か七十歳になるわ」
「えっ!?」
ベナトよりも少し年上だと想像していたアルナイルは、あまりの衝撃に思わず声が出てしまうアルナイル。思わずダフネの容姿を観察するが、いくら見ても今年で七十歳には見えなかった。
「そんなに見つめられると照れるわね」
「はっ!すみません!」
「いいのよ、最初はみんな似たような反応をするから」
それはそうだろうと心の中で呟くアルナイルは、それからまた会話を続けた。
暫くしてふとダフネが用事がある事を思い出し、今日のところは切り上げる事になった。
「楽しかったわ、また今度時間を作ってお話しましょう」
「はい、私も昔のベナトばあちゃんの話に興味があるので是非」
「楽しみにしといてね。寮までの案内の為に部屋の外で門番を待機させてあるわ、分からない事があれば質問すればいいわ。明日の朝に詳しく説明してくれる人を部屋に送るわ」
「ありがとうございます、では失礼しました」
部屋を出ると、ここまで案内してくれた門番が壁を背にして廊下に立っていた。
結構な時間ダフネと話し込んでいたが、その間ずっと待機していたであろう門番に声を掛ける。
「すみません、お待たせしました」
「仕事ですので問題ありません。では寮までご案内致します」
「お願いします」
門番の案内で学園内を進んでいくアルナイルは、一人だと絶対に迷うであろう広大な学園を物珍しさから当たりを見渡しながら進んでいく。
アルナイルは案内してくれる門番に興味が移り声を掛けてみた。
「気になったんですけど、門番なのに学園の案内もされるんですね」
「導き手を除いてですが、学園で働く多くの者は基本的に雑用から門番まで幅広く任されておりますので」
「そうなんですか、中々珍しいですね」
「因みに私の以前の持ち場は調理場でした。その前は寮の管理人です」
「勝手が違うと大変じゃないですか?」
「仕事ですので」
そこで会話は途切れたので、アルナイルは再び周囲を見ながら門番に着いて行く事にした。
「到着しました、こちらのが貴女の部屋になります」
「ありがとうございます」
案内された部屋の室内を確認してみると、左右の壁際にはベットと机が置かれており二人で寝泊まりするには十分すぎる程の広さがあった。
「私と同室の方はどなたかご存じでしょうか?」
「リーンさんです。二週間程前にご実家に一度戻るとの申し出がありましたので現在は学園にはおりません。数日中には戻ると思われます」
「分かりました、案内して頂きありがとうございます」
「仕事ですので、何かありましたら管理人にお聞き下さい。それでは持ち場に戻りますので失礼します」
遠ざかっていく門番の背中を横目に、アルナイルは部屋に入る。何も置かれていない恐らく自分用であろうベットに腰掛ける。取り合えず身に着けている装備品一式を外し身軽になった後、疲れていたので少し仮眠をとる事にした。
ベットに横になり目をつむると、急に眠気が沸いきてすぐさまアルナイルは眠りについた。
結局アルナイルは翌日の朝まで寝覚める事はなかった。




