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星が照らす行先は  作者: 健健
三章 ヴェール学園
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 長い航海の末、目的地であるヴィレット帝国を目前にアルナイルは初めて目にする他国に興奮が隠せなかった。

任務の為とはいえ生まれてこのかた二十三年間、アル・スハイル王国から出た事が無いアルナイルにとっては初めての経験なのだから当然の事かもしれない。


今回はダン星騎士長からの依頼で来ているので、浮ついた気持ちを抑えなければいけないと、頭の中で必死に理性に働きかけていた。だが理性に反した行為程、中々どうして抑えられないものである。


己との戦いに集中していたアルナイルは、船の速度が落ちる感覚ではっと顔を上げた。いつの間にか港が近付いており、周りを見れば入港の準備で船員の人達が慌ただしく動いていた。


 アルナイルもそろそろ荷物の準備の為に部屋に戻ろうとしたその時、視界に映る光景にふと違和感を覚えた。

違和感の正体を探る為、アルナイルは目を凝らして港を観察しその正体に気が付いた。


「雪が降ってる・・・」


見間違いかと再度観察するが、やはり視界の端々に微かにチラチラと舞うそれは、確かに雪にしか思えなかった。

驚きに固まっていると後ろからヒンギルに声を掛けられた。


「おい、嬢ちゃん。荷物の準備はいいのか?」

「あっ!すいません、急いで準備します!」

「おう、よろしくな」


ヒンギルにお礼を言いながら、停泊準備に取り掛かっている船員達の邪魔にならないよう気を付けつつ、アルナイル急いで部屋へと駆けていった。


荷物を纏めて甲板に出ると、既に桟橋に停泊しており下船の準備も完了していた。


「随分と陸地まで近い距離に停泊しますね」

「ああ、ここら一帯は人工的に水深を深くしてあるんだ。この港は俺らが乗ってきた船以上にデカい貿易船も停泊するからな」


そうして下船し桟橋に降り立った二人は頭上を見上げ、甲板から二人を見送っていた船長に別れを告げる。


「船長、ありがとよ!ダン長から聞いてると思うが、帰りの船は心配しないでいいぜ」

「うむ、達者でな」

「お世話になりました、船長もお元気で!」

「うむ」


そう返事をした後、船長は振り向き際に二人に向けて手を上げながら甲板の奥へと移動していった。

視界から船長の姿が消えると、アルナイルは先程から気になっていた事を質問した。


「ヒンギルさん、どうして今の時期に雪が降っているんですか?まだ夏が終わったばかりですね?もしかしてスハイル王国とヴィレット帝国は季節が違うんですか?」

「ん?季節は対して変わらんぞ?それにこいつは雪なんかじゃない」

「え?じゃあこれは一体・・・」


試しにアルナイルは舞い散るそれを一つ、掌に落としてみた。

一センチにも満たないそれを観察してみると、薄いガラス片の様な形をしており、指先で触ってみると確かに雪の冷たさはせず、脆く形が崩れてしまった。


「そいつに軽く魔力を流してみろ」

「魔力をですか?」


ヒンギルに言われるがまま、アルナイルは指先に魔力を込めてソレに触れてみた。すると一瞬微かに淡い光を発した直後、煙の様に霧散して消えてしまった。


「何なんですかこれは?」

「はっきりとした事はまだ不明だ。文献だと前触れも無く突然こいつが舞い散るようなったらしいぞ。もう百年以上は振り続けているらしい」

「そうなんですか。不思議な話ですねぇ」

「ま、今みたいに魔力を流せば消えちまうからな。帝国民にとっちゃ日常の風景の一部なんだろよ」

「なるほど」


燻らせていた気持ちに火を付けるような話に、アルナイルは再び心を落ち着かせながら、これからについて確認をする事にした。


「無事に帝国に到着した訳ですが、これからの予定はどうしますか?」

「事前に予定していた通り、このままヴェール学園に向かうつもりだ」

「確かヴェール学園がある帝国の首都まで、大体ここから馬車で三日程の距離でしたよね?」

「俺らなら走ればもう少し早く着くだろうからそれでもいいがな。だがその前に大事なことがある」

「大事なことですか?」

「あぁ、とても大事なことだ」


見ればヒンギルの表情は何時もよりも険しく、よほど重要な事かとアルナイルは身構えながらヒンギルの返事を待つと、力強くはっきりとした口調でヒンギルが言い放った。


「飯屋に行くぞ!」

「え?飯屋ですか?」

「まだ昼飯食べてないだろう?」

「昼食前に港に到着してすぐ下船したので食べれなかったですね」


確かにまだ昼食を食べていないが、果たしてそこまで重要な事なのかと思ったアルナイルの考えは、ヒンギルの次のセリフにより一転した。


「船では魚ばっかだったよな?」

「そうでしたね」

「肉が喰いたいんだよ、俺は」

「わかります」

「魚も嫌いじゃないが暫くはいらん。三食魚は流石に飽きる」

「同感です」

「塩漬けの干し肉なんかじゃなく、瑞々しく食べ応えのある肉を食べたくはないか?」

「食べたいです」

「新鮮な生野菜や果物も食いたくないか?」

「食べたいです!」

「その為に俺達がやるべき事はなんだ?」

「承知しました。ちょっと地元の人達にこの港町一番の食事処を聞いてきます」

「うむ、だがその点については問題ない。以前に此処に来た時に入った店が当たりでな」

「流石です、ヒンギルさん」

「そう褒めんなって。じゃあいくか、ここからだと五分も掛からん」

「はい!」


 そうしてヒンギルに連れられ店に到着したアルナイルは、店内に漂う食欲をそそる香りにあれよこれよと注文した結果、二人の座るテーブルを埋め尽くす量の料理が運ばれてきたが、なんとか残さず食べきる事は出来た。


限界まで胃に詰め込み動けないアルナイルを見て、ヒンギルは大笑いしていた。


流石に今のアルナイルに向かってヴェール学園まで走るぞと言える筈も無く、食後の運動がてらにとアルナイルを店内に残し、馬車の手配に向かったヒンギルの背中を見送りながら申し訳なさで一杯のアルナイルなのであった。


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