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それから連日アルナイル達は話し合いを重ね、とうとうアルナイルが帝国へ出発する前日になった。
今日は傭兵になって二年間一緒にパーティーを組んでいた三人に、暫くの別れの挨拶を伝えに朝から傭兵ギルドに立ち寄っていた。
既に魔法の師や前に働いていたお店の店主のアンリさんには済ませている。
パーティーメンバーにも早めに伝えたかったがのだが、あっちの傭兵の依頼やこっちの話し合いなどで中々時間が嚙み合わず、今日やっと都合があったのだ。
少し早く来すぎたのか三人はまだ来て居らず、ギルド内に設置されているベンチに腰掛け待つ事十数分。
「お待たせー、待たしちゃったー?」
少しぼぅーとしていたアルナイルはハッとして顔を上げると、傭兵ギルドの入り口から三人がアルナイルを見つけて近付いて来ていた。
「さっき来たばかりなので大丈夫ですよ」
「それにしてもなんだか久し振りだねー」
「そうか?顔を合わせなくて一週間も経ってないだろ?」
「まぁ二年間ほぼ毎日一緒に依頼を受けていたからな。その気持ちも分からなくないぞ、俺は」
メンバーが揃っのでアルナイルは話せる部分だけを話し、しばしの別れを三人に伝えた。
「そっかー、寂しくなるなー。同じ女の傭兵って数が少ないからさー、アルナイルが居なくなっちゃったら肩身が狭くなっちゃうよー」
「馬鹿をいうな、お前がそんなの気にするタマかよ」
「まぁそこんところはギルド長にでも言えば解決するだろう。仕事に関しては真面目に出来る人だしな」
「急な話で申し訳ないです」
「いいっていいってー、傭兵なんかやってれば別れなんてある日突然来るもんって理解してるしー」
「そうだな、別れの挨拶を交わせるのは良い事だ」
「そう言ってもらえて助かります」
「今日はもう時間は空いていないのか?」
「まだやる事があるので、すみません」
これから最後の打ち合わせをする為にアルナイルは城に呼ばれていた。
「そっかー。じゃあ元気でねアルナイルー、また一緒にパーティー組もうねー」
「はい、皆さんもお元気で」
三人に挨拶を済ませ、アルナイルは傭兵ギルドを出てそのまま城へと向かった。
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「すみません、少し傭兵ギルドに用があったので遅れてしまいました」
「その件はファンから話は聞いている、気にすることは無い」
今日はダンとヒンギル、アルナイルの三人で話し合いが行われた。
「いよいよ明日だ、今日はその最終確認だ」
「はい」
「先にアルナイルに伝える事があるのだが、明日はヒンギルも君と一緒に帝国に同行する事になった」
「え?」
「嬢ちゃんが学園にたどり着くまでだがな。まぁ、帝国に俺の光魔法の〈印〉を付ける為でもある。それが終わったら俺は帰るぞ?」
「なる程。でも少しだけ安心しました、やはり一人で帝国に向かうのは心細かったので」
「はっはっ!そいつは良かったぜ。そうだ、嬢ちゃんに渡しておきたいモノがあるんだ。忘れない内に渡しておくぜ」
「渡したいモノですか?」
そう言ってヒンギルがアルナイルに渡したものは、仄かに黄色く輝く魔石が嵌められたネックレスだった。
アルナイルが不思議そうにその魔石に触れると微かに魔力が感じ取れた。
「コレってもしかして・・・」
「そうだ、その魔石には光の魔力が込められている。正確に言えば俺の光魔法だがな」
「ヒンギルさんの?」
「そいつはこの国の技術の一つでな、魔石に魔法を封じ込めて特定の魔力を流せばその魔法が発動するんだ。そのネックレスの魔石は俺の光魔法・〈光への帰路〉が込められている。嬢ちゃんの光の魔力を流せばそれが発動する」
「発動したら何処に飛ばされるんですか?」
「この城の医務室だ。発動は一度きり、まぁ何かあった時の保険だと思えばいい」
「ありがとうございます、ヒンギルさん。有難く受け取りますね」
それから三人は明日の日程を確認した。
帝国へ行くには船で約一週間掛かるので、出港時間はなるべく早い方がいいと朝一の船に乗る事に決まった。
手荷物は最小限にし生活に必要な物は向こうで揃える様にとも言われた。
元々私服より傭兵の装備の方が多いアルナイルは、特に困る事は無かった。
その他、細かな注意事項を幾つか確認して最後の話し合いは終了した。
「ではアルナイル君、今日はベナトとゆっくり過ごすといい」
「はい、お気遣い感謝します」
ダンの言葉に甘え、アルナイルは今日残った時間をベナトと二人で過ごしす事にした。
明日の為の軽い荷造りを済ませた後、アルナイルは何時もより早い時間にベットに横になった。
寝付きは良い方なのだがやはりと言うべきか、一時間程ベットの上でゴロゴロして中々寝付けなかった。
翌朝
まだ日が昇る前に起き出し日課の走り込みをした後、アルナイルは朝食を作ってベナトを起こす。
食事を済ませ二人は港に向けて家を出た。
まだ薄暗い朝の中、二人は心地よい肌寒さを感じながら他愛のない話に会話を弾ませゆっくりと歩いていく。
港に着くと既にダン、ヒンギル、ファンの三人が待っていた。
船は準備を終えており、何時でも出港出来る状態で待機していた。
アルナイルはベナトから学園への手紙を受け取り大事にしまう。
「嬢ちゃん、忘れ物は無いか?」
「ありません」
「よし、じゃ早速出発するぞ」
「はい」
アルナイルはヒンギルに返事をした後、ベナトの方を向いた。
「行ってきます」
「行ってらっしゃい」
何時ものようにそう言葉を交わす。
別れの言葉は互いに求めて等いない、再開を願っての言葉であった。
こうしてアルナイルはヒンギルを乗せた船は帝国へ向けて出港した。
ベナトは目を細め、アルナイルを乗せた遠く離れていくその船を見送るのであった。




