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ベナトに帝国行きの話をした次の日、アルナイルは朝からダンに呼ばれて城に向かっていた。アルナイルが帝国へ出発する日は一週間の予定だがその間に話し合う事は山程あるのだ。
だが昨日と違って今日はアルナイルは一人ではなかった。
「城に足を運ぶのは何時振りかねぇ」
そう呟きながらベナトがアルナイルの横に並んで、一緒に城へ向かって歩いた。
今日の話し合いにはベナトも連れてきてくれとダンから言われていたのだ。アルナイルの足取りは何時も城へと向かう時よりも少し軽く、しかしゆっくりとベナトに合わせて歩いていく。
そんなアルナイルにも少しだけ懸念点がある。城での話し合いの場に傭兵ギルドの現ギルド長であり、ベナトの元パーティーメンバーであるファンが同席している事だ。
アルナイルは内心ハラハラしていた。
事前には伝えておりベナトもそれを了承した上で一緒に城に向かっているので、一応は大丈夫なのかなと淡い期待を持つしか出来ないアルナイルだった。
そうこうしている内に城門前広場に着いた二人は、城に入れてもらおうと門番をしている騎士に声を掛けようとした。その時、後ろから逆に誰かか声を掛けられた。
「あれー?随分と懐かしい顔だと思ったらやっぱりベナトじゃないかー」
「・・・」
「・・・」
二人が無言で振り向くと、そこには声の主であるファンが何やらニヤニヤしながら二人に向かって歩いてくる光景が目に映った。
「いやー僕も丁度この時間に城に行こうと思っていてね。偶然だよねー」
そんな見え透いた嘘を言いながらファンは二人に合流した。
ファンは笑顔、対するベナトは忌々しい人を見る様な表情を互いに向け向かい合う。
「久し振りだねベナト。暫く見ない間にかなり老けたね?」
「はっ倒してやろうか?」
これが十数年振りに再開した者同士の会話の第一声であった。
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慣れた足取りでダンの待つ部屋へと向かう二人を先頭に、ベナトも二人についていく様に城内を進む。
「いやーそれにしても最初にアルナイル君と会った時は驚いたよ、子供が居るなら報告ぐらいしてくれてもいいもんじゃない?仮にも元パーティーメンバーなんだしさ?」
部屋へと向かっている間、ファンはベナトに話を掛け続けていた。
「あんたにいちいち報告するもんか。アルが傭兵になりたいと言わなきゃ合わせる気も無かったよ」
「えー?でもヒンギルやダン長にも言ってなかっただろ?僕にならともかくなんで二人にも言わなかったの??」
「後々紹介するつもりではあったよ」
「それは本当かい?君は昔からそういうトコを面倒くさがる節があるからねー??実際のところどうだったんだろうねー???」
「・・・いちいちうるさい奴だねぇ」
「もしかして自分が娘を可愛がっている事が僕等にバレるのが恥ずかしかったりしちゃったりするのかい??年を重ねても可愛げが残ってるなんて見かけの割には若いねー、ベナトばあちゃん???」
「次そう私を呼んだらあんたの手足を折るからね」
そんな二人の会話を横で聞きながら歩いているアルナイルは、ベナトの意外な一面を見れて少しだけ面白かったりした。
そしてやはり二人の仲が大分悪いという事もわかった。
二人の仲が悪いというよりベナトが一方的に嫌っていて、ファンはソレを面白がっている様子だ。まぁ大概の人はベナトの様になるのは理解できる事だ。
何故なら相手はファンなのだからそれも当然だろう。
そうこうしている内にダンの待つ部屋の前に着き、ファンがドアをノックした。
「何の用だ?」
「ダン長、僕です。アルナイル君とベナトも一緒です」
「ファンか、よし入れ」
「失礼します」
三人が中に入ると部屋の中にはダンだけではなくヒンギルも居た。
「ベナト、随分と久しぶりだな」
「ダン長がギルド長を辞めてからは、一度もあって無かったからねぇ」
「俺は仕事の依頼で何回か会ってるからな。だがこの面子が揃ったのは何時振りだ?」
「十五年振りだよ」
「もうそんな前だっけ?時が経つのは早いねー」
四人が再開の言葉を交わすのをアルナイルは微笑ましく、すこし羨ましながら眺めていた。
「さて、思い出話は後で話すとしようか。今日皆を呼んだのアルナイル君の事についてだからな」
ダンが話の軌道を修正し、五人での話し合いが始まった。
「さて、では会議を始めるとしよう。今日はアルナイル君を帝国へ送る具体的な内容だ。帝国は現在、魔法使いの人員の強化を図っている。帝国に魔法使いとして採用されるには、大まかに二通りある。これは前にも話したな」
「年に一回実施される採用試験に合格するか、帝国運営の学園を卒業する事でしたよね?」
「その通り。現在は採用試験は既に終えており、次の試験まではもう一年待つ事になる」
「って事は学園に通う事になるのか?だがあそこは入学から卒業まで最長で六年は掛かるぞ?」
「それならもう一年待った方が早いんじゃない?」
「ファンとヒンギルの言い分ももっともだ。だが今回ベナトを呼んだ理由はそこにあるんだ」
ダンの言葉にベナト以外の三人がベナトに目を向かて。
「ベナト、お前は確かその学園で魔法の指導員として数年間働いていたな?」
「え?そうなのかい??」
「そいつは俺も初耳だな」
「・・・傭兵を引退した年から三年間だけだけどねぇ」
アルナイルも初めて聞いた情報に驚きを隠せなかった。
だが昔から帝国の魔法に関する情報に、やたらと詳しかった理由が判明して少しだけすっきりした。
「まだ学園との伝は残ってる筈だ。ソレを使ってアルナイルを編入させる事は可能か?」
「学園長が変わってなけりゃ出来ると思うよ。あいつには一つ貸しがあるからねぇ」
「その点は心配ない」
「では私はその学園に編入し、卒業して帝国の魔法使いとして採用されればいいんですか?」
「それも一つの手ではある。だが卒業までに一年以上掛かってしまうようであれば、一年後の採用試験を待つのとそう変わらない」
ダンはアルナイルに告げる。
「アルナイル、前にも伝えたが帝国は実力主義でね。ソレは学園でも例外ではない、年齢も性別もだ」
「・・・一年以内に実力で成り上がれって事ですか?」
「その通り」
「嬢ちゃんの腕次第って事だな」
そう言われたアルナイルは少し表情を強張らせたが、それを見てファンが口を開いた。
「心配しなくてもいいさ、アルナイル君以外にも帝国には既に何人か諜報員を送ってるんだ。アルナイル君は保険だと思ってくれても大丈夫だよ」
「そうだな、わざわざ自分から情報を探るような事はしなくていいぜ」
「それを聞いて安心したよ。アルに無茶をさせたりはしないでおくれよねぇ」
三人の言葉で少しだけ身体が軽くなった気がしたが、やはりと一人気を引き締めるアルナイルであった。




