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ヴィレット帝国
我が国、アル・スハイル王国が島国ならば、ヴィレット帝国は大陸国と呼ぶに相応しいだろう。我が国最大の貿易相手でもあるヴィレット帝国はこの国から一番近い場所に位置するという事もあり、古くから交流が盛んだ。
広大な土地を持っているという事は資源が豊富であり、それは国の経済を潤わせた。帝国はその大半を国の軍事力拡大に当てている。そうして様々な兵器や技術が生み出されていったが、その中には公には出来ないモノも幾つか存在する。
その中の一つに人間の魔物化、及び使役する技術が存在する。今回、地下遺跡に出現した貪欲獣は恐らく、何者かが地下遺跡に侵入してから貪欲獣と化したモノと思われる。
この人間を魔物化するという技術は帝国内においても禁忌とされる非人道的なモノであり、国家機密の最上位に位置する機密である。
「何か質問はあるかね?」
ダンから聞かされた情報の事の重大さに思考が定まりらない中、アルナイルはふと浮かんだ疑問を問いかけた。
「帝国の最高機密の情報をダンさん達が知っているんです?」
「それに関しては答えるつもりは無い」
「わかりました、聞きません」
「よろしい」
他には特に質問したい事は思い浮かばず、アルナイルは地下遺跡での件について聞く事にした。
「帝国は地下遺跡の存在を知っていたって事ですか?」
「地下遺跡の情報は他国に漏れないよう、最高機密に属しているが今回の件を見るにそう考えるのが妥当だろう、だが目的が不明だ。四人の騎士を殺害したのも貪欲獣同様、帝国の手のモノによる犯行だろう」
ヒンギルがダンに質問した。
「それに関しての調査はどうなってるんだ?」
「現在、地下遺跡周辺の探索、及び港の警備を強化し検問を設置している」
「まだこの国から出ていないといいんだけどね」
「俺の魔法と同じ様な使い手がいない限り、まだこの国にいる筈だ」
「君の魔法が使える人間が何人もいる訳ないじゃん」
それから暫く情報を話し合った後、ダンがアルナイルに質問した。
「アルナイル、最後に一つ確認したい事があるのだがいいかね?」
「はい、なんでしょうか?」
ダンは力強い目でアルナイルを捉えて問いかけた。
「ヒンギルとファンの二人から聞いたのだが・・・貪欲獣を君がほぼ一人で倒したというのは事実なのか?」
「最初から最後まで私一人で戦った訳ではありませんが、最後に貪欲獣を倒し切ったのは私一人です」
「ふむ・・・」
ダンは手を顎に触れて何やら考えている様だ。
「アルナイル、君の傭兵等級は何等級だ?」
「三等級です」
「それは本当か?ファン、どういう事だ?」
「僕はちゃんと仕事してるよ?傭兵ギルドのアルナイル君に対する評価は三等級だよ、僕もソレに関しては適当な評価だと思っているよ」
アルナイルは最近になって三等級の評価を傭兵ギルドから受けていた。傭兵二年目にしてのこの評価は相当なモノである。だがダンは、この評価に不満がある様だ。
「アルナイル君が貪欲獣を倒せたのは光魔法を使ったのが一番大きい理由でしょ?普段傭兵として任務をこなしているアルナイル君は光魔法を使わない様にヒンギルに言われていらしいからね。確かにアルナイル君の光魔法は貪欲獣を単身で倒せる程に強力な魔法だと実戦で証明された。けど光魔法を使わない傭兵としてのアルナイル君の実力は三等級と評価しざるを得ないよね」
「傭兵の任務中は光魔法は使わないのか?」
「はい、ヒンギルさんとそう約束しているんです」
ダンはヒンギルに視線を向ける。ソレを受けたヒンギルがダンに理由を話した。
「嬢ちゃんの意志を尊重しての事だ、俺も昔は苦労したからな」
「そういえば、前にその様な事を言っていたな。わかった、この話はいったん頭の隅に置いておこう」
ダンはそう言い放ち、今日の所は解散する事になった。
「何かあればあれば此方から連絡する。今日は色々あって大変だったろう、存分に身体を休めてくれ。ヒンギルはもう少しだけ残ってくれ。今日の事は決して口外しない様に、では解散」
ヒンギルとダンを残し、アルナイルとファンは部屋を後にした。
時刻は十六時過ぎ。任務中、軽く携帯食料を口にしただけだと思い出すと、たちまちの内にアルナイルは空腹感に襲われた。
「ファンさん、私でも城内の食堂を利用しても大丈夫なんですかね?」
「なに?アルナイル君、お腹空いたの??まったくアルナイル君は食いしん坊さんだねー」
キレそうだった、というかキレた。
言葉遣いからはまだ冷静さが伺えるが、前にアルナイルの腹の音に一人だけ反応した事を思い出す。
「いたぁっ!?」
アルナイルは無言でファンの背中に拳を叩きつけていた。革鎧を装備していたので遠慮なく全力で。
「これはベナトばあちゃんの恨みです」
「今のは絶対ベナトとは関係ない個人によるモノだよねぇ!?結構痛かったんだけど!」
「それはよかったです、殴ったかいがありました。ベナトばあちゃんもきっと喜んでいますよ」
「確かに喜びそうではあるけどさぁ!」
「そんな事より、食堂は利用できるんですか?」
「利用は出来るけどこの時間に食事を出してくれるかは保証はしないよ。まったく、僕君の上司なんだけど?」
「悲しきかな、しかしこれまた私の乗り越えるべき試練・・・」
「そこまで言う?まぁ思い当たる節は沢山あるけどさ」
アルナイルは取り合えず城の食堂に向かう事にした。
ファンはこの傭兵ギルドに戻らないといけないらしく、一足先に城を後にしアルナイルは一人場内を歩く。
食堂に到着し調理場でお皿を洗っている人に声を掛ける。
「すいません、食事をしたいんですけど大丈夫ですか?」
声を掛けられた人物は手を止めてアルナイルの方を見た。
「この時間からか?まぁ今日は食堂を利用する奴らが少なくてな、昼食分が余ってるからいいけどよ。普段はこの時間は何も無いからな、次からはもっと早く来るか夕食の時間まで我慢するんだな」
「ありがとうございます、次からはそうします」
テーブルで待っていると先程会話した彼がテーブルまで料理を運んできてくれた。
「ありがとうございます」
「君一人しかいないからな、別にこの位は手間でもない」
野菜がたっぷり入ったシチューとパンをアルナイルの前に置き、そのまま彼は中断していた皿洗いをしに調理場へと戻って行った。
空腹も相まってかシチューは非常に美味しく、あっという間に食べ終えたアルナイルは空になったお皿を運びながら彼にお礼を言った。
「ご馳走様でした、美味しかったです」
「早いな、もう食べ終えたのか。ありがとよ、今度は早い時間に来てゆっくり味わいな」
それからアルナイルは食後の運動にと訓練場に向かった。
だが思う様に身体が動かずすぐに訓練場を後にし、真っ直ぐ家に帰りそのまま泥の様に眠りに就いた。




