26
時刻は午前五時、まだ日が昇り切っておらず空を見上げれば未だ星が瞬いて見える。
王都の住民達も殆どがまだ寝静まっているであろう暗闇の中、城内の広場には明かりが灯り人が集まっていた。
複数の列になり姿勢を正して並ぶ彼らの立ち姿から、よく訓練された者達だと分かる。
そんな彼らの視線は、広場の中心に立っている星騎士長であるダンに注がれていた。
「全員集まったな。ではこれより作戦内容を伝える」
広場全体に響き渡る声量で集まった者達に向け、ダンが話し始めた。
「今回の作戦は、王家が所有する地下遺跡での魔物の掃討、及び侵入経路の確認と封鎖である。本来ならば多くの人員を要する作戦だが、今回はそれが出来ない場所である。したがって此処に居る者達だけでの作戦となる」
ダンがそう告げると、皆の表情が引き締まる。
特定の魔物の討伐ならば、人手はあまり必要のない事が殆どだ。
しかし、掃討となれば話は別である。
文字通り全ての魔物を排除しなくてはならず、一匹たりとも見逃してはならない。
その為掃討作戦の場合、多くの人員を投入した人海戦術を用いるのが一般的な方法である。
だが、今回集められた者達の人数は四十人程であり、それも魔物の掃討だけでは無く地下遺跡を隅々まで調査し、魔物が何処から来たのかを突き止めなくてはならないのだ。
「地下遺跡へと繋がっている洞窟は東と西の二か所だ。効率的に調査する為、これから隊を二つに分ける。私から見て右半分の列の者達は、私と共に東の洞窟から地下遺跡へ向かう。左半分は西の洞窟からなのだが・・・ヒンギル」
「おう」
左側の列の先頭に立っていたヒンギルが名前を呼ばれ、列を抜けダンの隣に並び立つ。
「左の列の者達はヒンギルの指揮の元、西の洞窟から地下遺跡へと向かってもらう」
「よろしく」
隊を分けたダンは最後に一つ忠告する。
「今回の任務場所である地下遺跡は極秘の場所である。他言は一切禁止、これを破れば厳罰に値する。さらに今回の任務に失敗の二文字は許されない、絶対にだ。理解したかね」
ダンの忠告を聞いた広場に居る者達は皆等しく、覚悟を持った表情をしていた。
「よろしい。ヒンギルと私で連絡を取り合い、細かな指示は現地で行うものとする。では時間も惜しい、早速出発だ」
ダンの言葉を合図に皆一斉に移動を初める。
最後に移動した者により灯されていた明かりが一つずつ消され、広場は夜の闇へと徐々に一体化していくのであった
______________________________
ヒンギルを先頭に列を成し、西の洞窟へ進行を開始する者達の中にアルナイルは居た。
広場での隊分けの結果、ヒンギルの隊になったアルナイルは列の最後尾を歩いている。
最初に移動を始める際、ヒンギルからそう指示されアルナイルは特に疑問も無くその指示に従った。
魔法使いが後方に配置される事は一般的な事だからだ。
だが、指示に従い後方に移動したアルナイルはヒンギルの意図を理解した。
隊の列は二列になっており、二名ずつ横並びになって移動するのだが、アルナイルと同じく後方に配置された者の顔に見覚えがあったからである。
「どうしたんだいアルナイル君?そんなしかめっ面なんかしないで楽に楽しく行こうじゃないか、まさかこの期に及んでこの任務への参加拒否でもしたくなったのかい??勘弁してよー」
「勘弁してほしいのはこっちの方なんですが?どうしてファンさんが私と同じ後方に居るんですか??ファンさんは前衛に居た方が良いんじゃないですか???」
「アルナイル君の事を気遣っての配慮なのに酷いこと言うな~。僕とヒンギル、それにここに居る騎士達全員はお互い顔見知りなんだけどアルナイル君は違うよね?だからこれは僕とヒンギルによる心遣いなんだよ」
「私にファンさんを押し付けようというヒンギルさんの思惑を感じます」
「おいおいよしてよ、僕はこれでも傭兵ギルドのギルド長だよ?騎士達にちょっかいなんか掛けないって、心外だな~」
「ダンさんもヒンギルさんに言っていましたよ?ヒンギルの隊にファンを入れるから後は任せたぞ、って」
「何それ傷つく~」
こうしてアルナイルはファンを隣に列に並び、それを確認したヒンギルの合図により一行は西の洞窟へと進行を開始した。
進行を開始しておよそ三十分程経過した頃、ヒンギルから西の洞窟へ間もなく到着すると告げられる。
隊の皆が気を引き締め直す様子を見て、アルナイルも同様に気を引き締めていた時、ファンから声を掛けられた。
「そういえばアルナイル君、聞きたい事があるんだけど今日の集合時間前にダン長と手合わせしたってのは本当かい?」
「はい、訓練場に行ったら鍛錬をしていたダンさんから声を掛けられて」
「どうだった?ダン長は強かったかい??」
「完敗でした、手も足も出ませんでしたよ。魔法は出せましたがそれも軽くあしらわれました」
「まぁそれはそうだよね、ダン長ってば傭兵やってた頃から魔物でも対人でも負け知らずで有名だったんだよ」
「そうなんですか?」
「公式戦でも無敗だよ?アルナイル君には初めから勝ち目のない手合わせだったって事さ。でもよかったじゃない、無敗の星騎士長に一対一でぼこぼこにされるなんて滅多に無い経験が出来たんだからね」
「私もそれについては同感ですね、とても良い経験が出来ました」
「ぼこぼこにされた事が?」
「星騎士長と一対一で手合わせが出来た事がです!」
そんなやり取りをしている内に西の洞窟に到着し、ヒンギルが隊に向けて指示を出す。
「これから洞窟を進んで行くが通路が狭くなっている。俺を先頭に一列になり、前と後ろは十分な間隔をあけて進むように。では行くぞ」
洞窟の入り口は見上げる程の大きな崖下にある岩の隙間だった。
入り口は狭く、体格のあるヒンギルは身体を横にして洞窟へと入っていく。
それに続き騎士も洞窟へと入っていき、残るはアルナイルとファンのみとなった。
「お先にどうぞ」
「いやいや、どう考えても僕が最後尾の方がいいでしょ」
「そう言ってくれて安心しましたよ」
こうしてアルナイルを含むヒンギルの隊は、西の洞窟から地下遺跡を目指して進んで行くのであった。




