24
明日の依頼に支障が出てはいけないので、今日の訓練はここまでにアルナイルは訓練場から引き上げる事にした。
城門まで送ってくれたヒンギルに対し、アルナイルは今日一日のお礼を言う。
「ヒンギルさん、今日はありがとうございました。広場の訓練場では土属性の魔法の訓練はまともに出来なかったので助かりました」
「土属性魔法の訓練は後始末が大変だからな。なんだったら嬢ちゃん、これからも城の訓練場を使えばいい」
「いいんですか?」
内心思っていたが遠慮して口にはしなかった事をヒンギルの方から提案される。
「あぁ問題ないぞ。城の訓練場といっても城内の人間だけしか使えない規則なんてのは存在しないんだ。流石に只の一般人に関しては、そもそも城には入れないから利用出来ないが嬢ちゃんはもう違うだろ?」
そういわれアルナイルは自身の立ち位置を思い浮かべる。
傭兵ギルドのギルド長、ボイド・ファンの元パーティーメンバー、ヒンギル・ターチ、ベナト、そしてダン・バルダンの四人。
(ヒンギルさんは私の魔法の師の一人、ベナトばあちゃんは家族、ファンさんは・・・まぁ置いておくとして、ダンさんに関しては元傭兵ギルド長で現星騎士長・・・)
中々普通ではない交友関係だなと思いつつ、でもダンさんとは今日が初めての顔合わせだったからなぁ、と考えていたアルナイルだったが、ヒンギルの次の言葉でそれも払拭される。
「今回の依頼の件で俺とファンが嬢ちゃんを推薦した事で、城の訓練場を自由に使ってもいいぐらいにはダン長からの信頼も得ただろう。もしダン長が許さなくても心配するな、俺が許可する」
ガハハを笑いながらそんな事をいうヒンギル。
それを聞いて、自身を高く評価してくれている人達とその環境に、アルナイルは心の中で深く感謝した。
「それじゃ、これから城の訓練場を使いたい時はこれを門番をしている兵士に見せな」
言いながらヒンギルは、自身の名が彫られた金で出来たプレートをアルナイルに手渡した。
「これは?」
「これは俺の城内での身分を証明するものだ。兵士達には俺から話を通しておくから、何時でも自由に使ってくれ」
「とても有難いんですけど・・・コレって私に渡していい物なんですか?」
「心配すんなって、もう一枚あるから大丈夫だ」
「そっちの心配じゃないんですけど・・・」
それでも、ヒンギルから厚意は有難いし、訓練場が使える様になる事もアルナイルにとっては願ってもない好機だったので、ありがたく受け取り大事にしまった。
「ところで気になったんですけど、ダン長ってダンさんの事ですか?」
「傭兵時代にパーティーを組んでいた時の、俺達が呼んでいたあだ名だ。言いやすいししっくりくるもんで今もそう呼んでいるだけだ」
「なるほど」
そこでふと気が付くと、辺りを見渡せば空は薄暗くなっていた。
「じゃあな、気を付けて帰れよ。もうすぐ完全に日が暮れるぞ」
「大丈夫ですよ。走れば三十分で帰れるので」
「相変わらず朝は走ってるのか?」
「はい」
「傭兵に限らず体力を付けるのは良い事だ、ベナトの奴にも勧めたらどうだ?」
「前に一度一緒に走ろうと誘いましたよ?でも、走る時間があったらその分寝た方が健康には良いんだよ、と言われて断られました」
「いかにもベナトの奴が言いそうな事だな」
それからヒンギルと別れ、アルナイルは言った通り、家までの道程を走って帰って行くのであった。
________________________
アルナイルと別れた後、ヒンギルは城内のとある場所に向かって歩いていた。
城内を進むその足取りに迷いは見られない。ヒンギルは王家に入って十数年目になるが、初めの一年で城内を散策し終え大体の構造と場所は記憶していた。
それに加えて、島の東西南北に置かれた四大貴族の各城の構造もここ数年の訪問で全て記憶してあるのだ。
そんな記憶力の高いヒンギルだが、今向かっている目的地は数年前に初めて知った場所だ。
理由は単純、数年前に新しく作られた場所だからである。
存在しないものを記憶する等、どだい無理な話だ。
ヒンギルが向かった先は昼間に、ファンやアルナイル達と話し合いを行った部屋だった。
ヒンギルが部屋の扉をノックすると、中から返事が返ってきた。
「なんの用だ?」
「ダン長、俺だ」
「ヒンギルか?入れ」
許可を得て扉を開け部屋に入る。
部屋の主であるダンは昼間の白銀の鎧姿ではない軽装に着替えていた。
ダンはヒンギルに椅子に座るよう促し、自身も向かいのソファーに座る。
「遅い時間にすまない、だが必要な事なのでな」
「嬢ちゃん、、アルナイルの事だろ?城の訓練場で俺と嬢ちゃんが魔法の訓練をしている時にダン長、あんた観客席の方から暫く見てただろ?嬢ちゃんは気付いてなかったがな」
ダンがヒンギルを呼んだ理由は、アルナイルに関して最終確認する為である。
今回の依頼は王家の依頼、つまり国からの仕事なのだ、それも極秘の場所で。
王家の依頼と言う事も、その内容も、その場所も、口外禁止の依頼なのだ。
星騎士長の立場からしてみれば、余計な部外者は使いたくない。
だが今回の依頼は、魔物の掃討という非常に危険なモノであり、どうしても人手が必要だった。
なので、信頼がおける人物であり、自身の後釜でもあるファンに今回の依頼の同行を要請した。
要請に応えたファンがヒンギルと共に部屋を訪れた時、見知らぬ女性が居る事にバンは内心驚いていた。
「お前達の説明である程度には彼女の事を信頼するが、やはり口に出して確認したい」
「わかった」
「まず初めに、彼女は秘密を守れる人物か?」
「断言できる、嬢ちゃんは軽々しく秘密を口にしたちはしない。ちゃんと実績もある」
「彼女の光魔法の件だな、、、お前を信じよう。次に、彼女は魔法使いなのだろう?だが私が観察した限りでは、彼女の身体に白染化は見受けられなかった。彼女の実力は確か?それとも髪を黒く染めているのか?」
白染化とは、魔力を扱うものに見られる現象であり文字通り、染まっていくように身体の色素が抜け白くなる現象である。
魔法の上達や魔力の塾練度が上がるにつれて、頭髪から徐々に白染化が起こる事が判明しているので、魔法使いの実力を測る主な判断材料となっている。
あえて白くなった髪を染めて実力を隠したり、白髪を嫌がって染める者もおり、一概に判断出来ないが為の質問であった。
「いや、最近ベナトに聞いたんだが、嬢ちゃんはまだ白染化が来ていないらしい」
「ふむ、そうなるとやはり不安が残るな。訓練場でも岩壁を創るのにも手間取っていたからな」
「だがな?俺も今日初めて知って驚いたんだが、嬢ちゃんの水と木属性の魔法をベナトが二等級と認めたそうだ」
「なんだと?彼女は土属性だけでなく水属性と木属性の魔法を使えるのか?」
「ああ」
「それも白染化が来ていない状態で、ベナトが二等級と認めただと?」
「その通りだ、俺やファンが嬢ちゃんを連れてきた理由が分かっただろ?嬢ちゃんは将来化けるぜ?」
「それに加えて光魔法の継承者と、、、」
腕を組みながら暫くして、情報を整理し終えたダンはヒンギルに問い掛けた。
「それで・・・何をして欲しいんだ?彼女を私を合わせたのは今回の依頼だけが理由ではないだろう?」
「流石ダン長、話が早くて助かるぜ。そう難しい事じゃない、嬢ちゃんが継承者である事を王家には秘密にして欲しい。嬢ちゃんは王家入りを望んでいない」
「それだけか?」
「今はそれだけだ十分。先の事は嬢ちゃんが決める事だが、今はまだ若い。ゆっくり決めて欲しいんだよ、俺みたいにな」
「いいだろう、私としても後継者をわざわざ王家に報告する義務は無い。それに、ベナトの娘を悪いようにはするつもりもない。私もかつての教え子に殺されたくはないのでな」
「よろしく頼むぜ」
それから二人は再度、明日の依頼について話し合い、夜も更けたところで話を終えてヒンギルは部屋を後にするのであった。




