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依頼の警護を終えたアルナイル達は達成報告をする為、傭兵ギルドに足を運んでいた。
今回の依頼は他国からの輸入品を港から王都まで運ぶ道程の護衛だ。
港から王都までは距離がある。
普通に歩いても八時間以上かかるので、護衛をしながらだと半日は掛かる。アルナイルを含む傭兵達なら装備を着けた状態で走っても三時間程の距離だが、護衛対象の荷物を運ぶのは馬だ。
流石に馬を走らせれば置いて行かれるし荷物の護衛も出来ない。仕方の無い事だ。
アルナイルは傭兵ギルドで報告を済ませた後、そのまま家に帰る事にした。
「アルナイル、今日も訓練所によるのー?」
今日の護衛依頼も一緒にこなした顔なじみの女性の傭兵から声を掛けられた。
「いえ、今日は時間が少し遅いですし依頼で歩きっぱなしだったのでそのまま帰ります」
「まぁそうだよねー。王都から港までの護衛だったら帰りは走って帰れるからいいんだけどさ。今回の依頼みたいに港から王都までの依頼はなんか疲れるんだよねー」
そうだろうか?移動距離は変わらないしなんなら依頼が達成したらすぐ傭兵ギルドに報告出来る今回の依頼の法が楽なのでは?
そんな事を思ったアルナイルだったが口には出さない。人には人の考え方があるのだ。
「それに今日から広場も賑やかになるからねー。家でゆっくりしたいなら早めに帰っ方がいいもんねー」
(広場が賑やかに?何かあったっけ?)
少し疑問に思ったがまぁいいかと聞き返す事はしなかった。そのまま別れの挨拶をしアルナイルはギルドを出た。
帰り道の途中、先程の言葉が気になったアルナイルは家の方角を向いている足の向きを変え広場に寄ってみる事にした。
広場に着いたアルナイルは驚いた。向かっている途中から何時もより人が多いなとは思っていたが広場はさらに人混みで賑わっていた。
広場の中心にある噴水には子供達が集まっており広場の至る所に屋台が立ち並んでいる。
屋台は少し先に進んだ場所にある市場まで続いている様だ。
ふと、近くの屋台から漂ってくる匂いに気付く。
護衛時の休憩以来、何も口にしていなかったアルナイルの食欲をそそるには十分なそれに自然に足が向かっていく。
その屋台は串焼きを売っており肉の焼ける匂いとタレの焦げる匂いは近くで嗅ぐとより一層、食欲を刺激される。
買わない選択肢は無いなと、流れるように串焼きを購入した。
ついでに今日の広場が賑わっている理由を聞いてみた。
情報料なら串焼きの料金に含まれているだろう、多分。
「お客さん、今日が何の日か知らないのか?今日はケイン殿下の誕生祭だ。今日から三日間はこの賑やかさが続くだろうよ」
店主の言葉を聞いてアルナイルは思い出し納得した。
ケイン殿下、正式名所はアル・スハイル・ケイン
アル・スハイル家は王家であり、ケイン殿下は現国王の長男で次期国王にもっとも近いとされている人物だ。
「教えてくれて有難うございます」
「いいって事よ、お客さんも楽しんでな。いろんな見世物なんかも出てるからな」
再度礼を言い屋台か離れる。彼方此方から聞こえてくる賑やかな声を聞きながら去年の誕生祭を思い出す。
去年はベナトと二人で色んな屋台を回って祭りを楽しんだものだ。
だが今年は今までより少し忙しい年だった事もありすっかり忘れていた。
月日の流れの速さを感じながらアルナイルは屋台で買った串焼きが冷めない内にと、少し早足で家に向かう。
家の前に着くと窓から明かりが漏れていた。
基本的にベナトは家にいるが外出する時は家の明かりは消している。
ベナトが家にいる事を確信したアルナイルは扉を開けながら傭兵から只のアルナイルに戻る為の言葉を放つ。
「ただいま帰りました」
すると家の中から返事が返ってくる。
「お帰り、アル」
返事の主であるベナトの姿を確認して扉を閉めながら、一日の疲れと緊張から解放されたアルナイルは、今日あった出来事を話し始めるのであった。
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翌朝
何時もの様に傭兵ギルドに向かい仕事を貰う為、受付に向かって歩きだす。受付に向かうと此方に気付いた受付の人が私に声を掛けてきた。
「あっ!アルナイルさ~ん、お待ちしておりました~」
どうやら私を待っていた様だ。
「実はアルナイルさんが来たら応接室に通すようにとギルド長から連絡がありまして~」
「ギルド長から?」
「そうなんですよ~。アルナイルさん、何かやらかしたんですか?」
「そんな記憶は無いんですが・・・」
「とりあえず連絡はお伝えしたので応接室に向かってくださいね~」
大まかな内容も伝えられない急な呼び出しというのは良い話である事の方が少ない。
家からギルドに向かうまでとは数段重い足取りで応接室に向かう事になった。
応接室の前に着いたアルナイルは気を引き締めて扉を開いた。
「失礼します」
「お、ようやく来たねアルナイル君。待っていたよ、というより待ちくたびれたよ。今日は随分とギルドに来るのが遅かったようだね」
「・・・何時もより十分程しか遅れてませんよ」
私を呼び出した本人であるギルド長、ファンさんとの会話は何時も疲れる。
これからファンさんと二人で話す事を考えるだけで憂鬱になりそうな私の心境は、しかし予想外の人物によって打ち消された。
「よう嬢ちゃん、随分と久しぶりだな。元気そうでなによりだ」
「ヒンギルさん!」
私に光魔法を教え、誇張無しに私の未来を変えた人物の一人であるヒンギルさんだった。
「丁度一年振りくらいか。どうだ?傭兵生活にはもう慣れたか?」
「今年で二年目ですからね、傭兵生活にも馴染んできたところですよ」
光魔法を教えて貰ったあの日以来、初めこそヒンギルとの交流は続いていたがここ一年は全くであった。
アルナイルは思わぬ再会に驚きと嬉しさが込み上げてきたが、それと同時に何故ここにヒンギルが居るのかと疑問も沸いた。
「なんで俺が此処に居るのかって顔をしてるな」
「はい」
「ファン」
「僕から説明するよ。その為に君を呼び出した訳だしね」
ヒンギルさんが呼ぶと待ってましたとばかりにファンさんが今回の呼び出しの理由を説明しだした。
「実はこの国の王家の血を引く人間は成人を迎えるまでの間、誕生日を迎える度に王家の地下遺跡に赴いて儀式を受ける伝統があるんだ。で、昨日から誕生祭で祝われているケイン殿下も例外なく儀式を受ける。今年でケイン殿下は十五歳になって成人を迎えるから今回が最後の儀式になるわけだ。話を戻して、実はその地下遺跡に魔物が住み着いたらしいんだ。魔物の種類から推測すると魔物は地上や地中からではなく海から侵入したと思われる。というのも地下遺跡の底は海水で満たされているんだよ。何処かで海と繋がっているって事だろ?でも今まで魔物に侵入された記録は無いから、遺跡の何処かに魔物が通れるような穴が空いてしまったと予想される」
長々と言い切ったファンさんは話を止めて私に問いかけた。
「ここまで言えば今回、君を呼んだ理由も分かるだろう?」
「地下遺跡の魔物の掃討ですか?」
「その通り。分からないって言われたらどうしようかと思ったよ」
そんな事を言いながら笑うファンを横目に、アルナイルは疑問をヒンギルに質問した。
「でも何で私なんですか?私以外にも適任者は沢山いると思うんですけど・・・」
「あぁそれはだな、今回の仕事は実力以上に信頼と秘密を守れる事が大事なんだ」
「信頼と秘密ですか?」
私の疑問に対し、今度はヒンギルさんが説明してくれた。
「まずは地下遺跡の魔物の掃討だが俺も同行する事になった」
「ヒンギルさんが?」
「あぁ。今は王家に仕えているが元は傭兵だろ?だから適任って事で志願した」
「なるほど」
「それで信頼の話だがな、嬢ちゃんは俺とも面識があるし俺とファン、つまりギルド長の元パーティーメンバーの娘だろ?身元の保証は十分だ。それに傭兵としての評価も調べたが二年間、同じ傭兵達とも依頼人とも敵をつくる事無くしっかりやれている。信頼としちゃ十分な評価だろ」
「なるほど」
信頼に値すると言われ、内心嬉しいアルナイルは口元が緩まないよう堪えていた。
「それに今回一番重要なのは秘密を守れる事だ。嬢ちゃん、俺との約束をこの二年間守ってるいるだろ?」
ヒンギルさんに光魔法を教えて貰った後、ヒンギルさんに光魔法をやたらめったら使わない事、人に見せない事を約束されたのだ。
「はい」
「それに俺とファン、ベナトの関係性も言いふらしたりしてない」
「そうかもしれないですね」
「そうなんだよ。それもふまえて嬢ちゃんは、秘密を守れる口が堅い奴と判断したんだ」
「なるほど・・・」
自分が思ったよりも評価されていると知った私は素直に嬉しくなっていた。
期待に応えるのは悪い事ではないと、この話を受けようと決めた矢先。
何やらファンさんがニヤニヤしながら話し掛けてきた。
「アルナイル君、ちなみに僕がさっき説明した王家の地下遺跡について今まで耳にした事はあるかい?」
「ありません」
「王家の儀式についても?」
「ありません」
「そりゃそうだよね。王家の人でも知らない人がいる程の王家の秘密だからね」
「・・・」
「知っている人はごく一部しかいない機密事項だからね」
「・・・・」
「秘密を知ったからにはそれ相応の働きをしないとね」
「・・・・・」
無言でヒンギルさんの方を向く。
「悪いな嬢ちゃん。そういう事だ」
ファンさんと同じくニヤニヤ笑っていた。
初めから私に拒否権等は無かったらしい。




