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星が照らす行先は  作者: 健健
一章 アルナイル
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魔法の訓練三日目の朝


「本当にあの光魔法を使えるようになったのかい?」


 姿朝早くからを見せず先に朝食を済ませた矢先、なにやら慌ただしく家に帰ってきたと思えば、急に光魔法を習得したと言い出した。

ベナトは聞き返さずにはいられなかった。


「本当です!」


そう返事をしたアルナイルの手に何やら見覚えのある本がある事にベナトは気付いた。


「アル、その本はもしかして・・・」


あっ、と小さく声を上げアルナイルが謝る。


「ごめんなさい。光魔法が気になってしまって勝手に持ち出してしまいました・・・」

「やっぱりあの本だったかい。だけどアル、その本は光魔法の歴史書の様なモンで光魔法を習得出来る様になるモンじゃないはずだよ、いったいどうやって光魔法を習得したんだい?」

「ヒンギルさんに教えて貰いました!」

「ヒンギルに!?」

「はい!」


驚いているベナトにアルナイルは事の経緯を説明した。


                              

「そんな事がねぇ。まさかヒンギルの奴が光魔法を使えたとは驚きだよ」

「え?ヒンギルさんが光魔法を使えた事知らなかったんですか?」

「そりゃそうさ。傭兵時代、パーティーを組んでた時はヒンギルは光魔法どころか普通の魔法すらも使えなかったんだ。この本を依頼された時から不思議には思ってたんだけどそれがまさかねぇ」

「そうだったんですか」


意外な事実を聞かされアルナイルは驚いた。


(「瞬間移動」の光魔法が使えるヒンギルさんが元々魔法使いじゃなかったなんて・・・)


そんな事を考えているとベナトが声を掛けた。


「ところでアル、朝ご飯は食べたのかい?まだだったら私が作っといたモンがあるよ」


今日は何時もより早起きして何も食べていなかったのを思い出したアルナイルはお腹に手を当てながら言った。


「いただきます」



______________________________


魔法の訓練三十日目、最終日



 ヒンギルから光魔法を教わったあの日から、アルナイルの運命は確かに変わったのかも知れない。


だがそれでも、日々の日常が何か劇的に変わる訳でもなく、あれからもアルナイルの魔法の訓練の日々は過ぎていった。



何時もより早めに訓練を切り上げ、アルナイルは家に着いた。

ベナトも今日は仕事を休んで二人でまったり過ごす事にしていた。


少し早めの夕食の準備をしながら、二人はこれまでの事とこれからの事に想いを馳せながら会話を楽しんでいた。


「いよいよ明日からは傭兵ギルドで働く事になるねぇ。アル、覚悟は出来てるかい?」

「勿論です。この一か月、魔法の訓練以外にも沢山勉強しましたから」


 国からの支援があるとはいえ傭兵は危険な仕事だ。

アルナイルはこの一か月、魔法の訓練に加え傭兵ギルドに通い、傭兵の仕事や仕組み、国からの支援内容について初めにギルド長から説明された時よりも更に詳しく学んでいた。


夕食を作り終えテーブルで向かい合い、頂きますと手を合わせる。

他愛のない話をしながら楽しく食事を続けていると、ベナトが少し声の調子を落としてアルに声を掛ける。


「アルナイル」


何時もの愛称呼びではない声掛けに、アルナイルは思わず背筋を伸ばす。

ベナトがアルナイルを名前で呼ぶ時は、叱る時か真面目な話をする時に限られていたからだ。

流石に今回は後者だろうと思いながら話を聴く。


「なんですか?」

「この島の傭兵は他の国とは違う事はもう知ってるだろう?」

「はい。有事の際の第二戦力として、傭兵ギルドは国からの支援を受けていて、生活の保障、兵士への起用がある事とかですよね?」


「確かに国からの支援がある傭兵ギルドはこの島ぐらいだろうさ。だけどね、一番の違いはそこじゃないんだよ」


少しぬるくなったスープに口を付けた後、ベナトの言葉の意味を考えている様子のアルナイルにベナトが答える。


「この島の傭兵は兵士達と同じ心構えと覚悟が求められるのさ」

「兵士達とですか?」


「そうだよ。他所の国の傭兵ギルドは仕事を傭兵達に回しはすれどそっから先は、仕事を受けるも受けないも傭兵達の自由さ。だけどここの傭兵ギルドに依頼される仕事は基本的に国からの依頼だからね、必ず受けなきゃならない。まぁ、金さえ払えば個人的な依頼も出来やするがね」

「はぁ」


つまりどういう事だ?と良く分からないアルナイルを見ながらベナトが続ける。


「この島の傭兵達はギルドから依頼された仕事は必ず受けなきゃいけないし失敗は絶対に許されない。国からの依頼だからね。これは理解できるね?」

「はい・・・でも受けた仕事の失敗が許されないのは他の国の傭兵も同じじゃないですか?」


「確かにそうだけどね、他所の国の傭兵達は依頼が失敗した時、その責任は依頼を受けた個人、或いはパーティーに留まるだけさ。だけどね?この国の傭兵ギルドに依頼される仕事の殆どは魔物から、或いは他国の脅威からこの島の住民を護る為の国からの依頼なんだ。傭兵ギルドに所属する傭兵達は兵士と同じく、国防機関の一つとしてみなされているのさ」


「国防機関・・・」


ベナトは改めてアルナイルを見つめ直して問い掛ける。


「アルナイル、あんたは自分の命を懸けて他人の命を護る覚悟はあるかい?」


それはこの島で傭兵を生業とする以上、必ず肝に銘じて置かなければならない覚悟だ。


「依頼の内容も様々だけど仕事柄、命の選別を強いられる事が絶対に起こる。見捨てるのか助けるのか。そんな状況の時は自分の命を含め、より多くの数の命が助かる選択をしなくちゃいけない」


アルナイルは何も言わずに静かにベナトの話を聴いている。


「なにも自分の命を蔑ろにしろと言っている訳じゃないんだよ。この島で傭兵と生きるのなら、自分の命を第一に考えて行動し、傭兵としての仕事を放棄する様な事は許されないって事さ」

「・・・・」


 長々と話して乾いた口を、最早完全に冷たくなってしまったスープで湿らせながらベナトはアルネイルを見つめる。

食事を始めた頃から明らかに口数が減っているアルナイルを気に掛ける。


傭兵としての覚悟はなるべく早く持っていた方が良い。自身の傭兵生活の経験からも絶対的な確信だ。

だがしかし、、、


(・・・やっぱり傭兵生活にある程度慣れた頃にでも話せばよかったかねぇ)


「ベナトばあちゃん」


ベナトが心の中で反省しているとアルナイルが口を開いた。


「何だい?」

「私がベナトばあちゃんに拾われた時、何歳だった覚えていますか?」

「覚えているよ。十歳だったね」

「そうです。あの頃の私は自分の事を命以外全てを奪われ何もない憐れな子供だと思っていました」

「・・・そうだったかねぇ」

「ですが二十一歳になった今の私は、何一つ不自由なく幸せに生活していると思っています」


アルナイルの話を、今度はベナトが静かに聴く。


「あの日から今までの十一年間、母の死を乗り越えて、ベナトばあちゃんと二人で暮らして、王都で働いて、魔法を習って___色々な出来事が重なって今の幸せがあると私は断言出来ます。ベナトばあちゃんには話しましたが、全てはあの日あの夜、母が命を懸けて私を助けてくれたからです。初めは母を護る力を得てあの日に戻りたいと本気で思っていました。けれど、ベナトばあちゃんと過ごす内にその思いは薄れていきましたが、力が欲しい気持ちは変わりませんでした。だから私は意を決してベナトばあちゃんに魔法を習いたいと伝えました。当時の私にとって魔法とは力の象徴だったからです」


ぴくっと、ベナトが僅かにアルナイルの言葉に反応する。


アルナイルは力によって村と母を失った、魔法という力を得たいと思うのは至極当然の事だろう。

しかし・・・


「運よく私は魔法の才がありました。ベナトばあちゃんや他の師匠達にも注意され気を付けていましたが、知らず知らずの内に天狗になっていたのだと思います」


ベナトはアルナイルの言葉に内心険しい顔をした。

力を求めて魔法を覚えようとする者は自身の才に溺れやすい傾向にある。

ベナトを含め魔法の師達が懸念していた事が起きていた事実にもっとアルナイルを見ていればと後悔する。


「ですが今日、朝早く抜け出した先の訓練所でヒンギルさんにあって私は思い出したんです。なぜ魔法を覚えようとしたのかを」

「ヒンギルに?」


「はい。光魔法を教えてくれた過程で私の強く想っている事を聞かれたんです。私は母を護る為に力が欲しかった事を思い出しました。それと同時に私自身の想いの答えも得たんです」


アルナイルはベナトの瞳を強く見ながら口を開く。


「時間は戻らないし母はもう居ません。ですが母の命と引き換えに得た人生を無意味なモノにしたく無い。母が私を助けてくれた事に意味を見出したい。だから私は他者を護る為に自分の力を奮います。先程ベナトばあちゃんは私に、傭兵として生きていく覚悟はあるかと聞きましたね?傭兵としての覚悟、上等です。自己犠牲の精神、望む所です。私はこの島で傭兵として生きて力を奮う覚悟はあります」


 力強く口にするその言葉にベナトは安心した。

自身が確認するまでもなくアルナイルは覚悟を決めていた。それどころか生きる目標も持っている。


少し思うところもあるがアルナイルはこの小さな島の世界しかしらない。それでこれなら十分じゃないか。


アルナイルはまだ若い。先の人生の助言は先輩である私が少しずつしていけば良い。

それから先はアルナイル次第だ。


「アルナイル、あんたの覚悟は伝わったよ。明日からの生活が楽しみだよ」

「ありがとうございます」

「後悔の無い様に生きるんだよ」

「はい」


それから二人は食事を終えて早々に寝床に向かった。


期待と不安、両方を胸に明日からの生活を想像しながらアルナイルは次第に重くなっていく瞼に逆らう事無く眠りについた。



翌朝____


新たな道への一日目にしては、目が眩むほどの快晴だった。

こうしてアルナイルの傭兵としての生活が始まった。


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