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星が照らす行先は  作者: 健健
一章 アルナイル
1/41


この日は国全体に活気が溢れていた。

次期国王の誕生祭が開かれているからであり、王都の至る所では催し物が開かれ賑わっていた。


城下町の広場もがやがやと賑わい、何時もよりも多くの人で溢れかえっている。

太陽は完全に沈んでいる時刻だがそれに負けじと、いつも以上に明かりが灯され多くの屋台が立ち並んでいた。


その広場の人混みの中、アルナイルは歩いていた。

肩まで伸びた黒髪を後ろに纏め、何やら香ばしい匂いを放つ袋を抱えている彼女の服装はすれ違う人達とは違う。


アルナイルは傭兵であり、今は任務を終えたばかりで装備を身に着けたままだからだ。

だがそんなアルナイルの格好を見ても、道行く人々は気に留める事もなくすれ違っていく。

この国で暮らす人々にとって傭兵とは身近な職業の一つであり珍しいモノでは無いのだ。


そんなアルナイルの足取りは軽く、迷いは無い。


アルナイルは目的地が目に入ると一瞬足を止め、先程よりも力強い足取りで再び歩き出す。


「ベナトばあちゃん、ただいま帰りました」


目的地はアルナイルの住む家だった。

また無事に家に帰れたことを喜びながら、アルナイルはそう言葉を放つ。


「お帰り、アル」


そう返したのはアルナイルと一緒に住んでいるベナトだ。

アルナイルはベナトばあちゃんと呼んでいるが、実際は母親の様に想っている。

ベナトの年齢もまだまだ壮齢期を過ぎてはいないのだが、アルナイルからベナトばあちゃんと呼ばれる事に対してはむしろ嬉しく思っている。


 行く当てもなく彷徨っていた幼いアルナイルを拾い育ててくれた、アルナイルの唯一家族と呼べる人物である。


「朝から変わらず元気そうだね」

「はい、元気ですよ。あ、今日はお土産がありますよ」


そう言って抱きかかえていた袋の中身を見せる。中には屋台で買った肉の串焼きが入っており、その内の一本をアルナイルが取り出すと部屋に香ばしい匂いが広がる。


「ありがとよ。これ、買ったのは屋台かい?外が騒がしいと思ってたけどもうあの時期がきたのかい。早いものだねぇ」

「そうですねベナトばあちゃん、もうすぐケイン殿下の誕生祭なので街は何時もより賑やかで屋台も沢山ありましたね」


二人は何気ない会話を楽しみながら、今日一日の疲れを癒すのであった。



___________________________


 アル・スハイル王国



周りを海に囲まれているこの国は海を隔てている国同士の貿易、中間貿易を生業として発展し領土はさほど広くないながら国は繁栄している。

更に武力にも長けておりここ三百年は他国の侵略を許していない。


この世界の力、魔法。

その源である魔力がこのアル・スハイル王国の大地は他の場所より濃いのである。


そのせいか力ある魔法使いが多く国の兵力も強いのだ。

 しかし弊害もあり、豊富な魔力につられて色々な魔物がこの国に侵入してくる。

それらを対応するのは、国の兵士ではなく傭兵である。


国の正規の兵士になれなかった者

もともと国の領土も狭く仕事にあぶれた者


 そういった者達が傭兵ギルドを通して、国の依頼を受けて魔物を倒し報酬を貰う。

過去には国の兵力として一時的に雇った事もあり、大事な国の戦力として国からの援助もある。



 アルナイルもその傭兵の一人である。


まだ10歳かそこらの頃、一人で夜中に出て好きな星空を眺めていた。母が心配する前にと、村に戻ると村が燃えていた。


何人も人が倒れ血が流れていた。

村は大勢の武器を持った者たちに襲われていた。

不幸中の幸いか夜の闇に紛れてアルナイルは賊からは逃れる事は出来た。


逃げた

ひたすら逃げた


村長の叫び声も、隣の家の子供の泣き声も、母の声も__

何もかも無視して逃げた


 力の限り走り、王都に続く道に出て意識を失い倒れたところをベナトに拾われた。

取り合えず家に連れ帰り看病しアルナイルが目を覚まして事情を聴いた。


 ベナトは今現在のアルナイルの置かれた状況、心境を考えしばらく面倒を見ることにした。

最初のうちは昼はふさぎ込み、夜はひたすら家族達の事を考えて泣く生活をしていた。


その間、ベナトはアルナイルに出来るだけ寄り添った。


 一週間もすると落ち着き、ベナトへの感謝の気持ちと、これからは自分の力で生きていかなければならない、という思いからアルナイルはベナトの身の回りの世話や手伝いを率先して手伝った。


ベナトは最初、アルナイルが無理をしていないか心配したが


「自分の今の状況は理解しています。母の事は悲しいですが悲しむだけでは何も生まない事は、父を亡くした時に母に言い聞かされていました。なので今は、私を助けてくれたベナトさんに何か恩返しをしたいのです」


 そう言われベナトは感心し、もうしばらくは家においてもいいかと思い自分の仕事の手伝いをお願いする事にした。


 ベナトの仕事は、今は昔の本や魔導書、文献等を翻訳して新しく書き写すものだ。


一人で生きるにしても何にせよ、文字の読み書きが出来れば仕事の幅は大いに増える。


(一から教えるとしたら大変だねぇ)

そう思いアルナイルに文字の理解について聞いてみた。


 幸いアルナイルは文字の読み書きが出来たが、昔の文字や言い回し等はわからずそこから教えることにした。


 今まで人に教える事も無く大変だったが、アルナイルの一生懸命に学ぶ姿勢や飲み込みの速さ、更に今まで独り身だった事も相まって退屈だった家での時間が、久しく感じる事の無かった暖かな時だと喜んでいる自分を自覚し、戸惑いはしたが悪くない気分だった。






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