第75話 シリアスを貫けない。それがエクリュ関係者クオリティ。
【注意&ネタバレ】
未遂ですが残酷描写(?)あります。苦手な人は読まぬよーに。
お久しぶりです。更新が相変わらず亀の歩みな島田です。
お忘れの方のための前回までのあらすじ。
私、アリエス! ジャクリーン平民学校の一年生。
もうちょっとで体育祭でドキドキワクワクしてたのに、なんかとんでもねー奴に目をつけられたっぽい…。
でもどんな困難だって、大好きなルイ君と一緒なら乗り越えられるよね!
今日も元気に学校にいっくぞー♪
ってな感じです。
ではでは、今回もー……よろしくどうぞ( ・∇・)ノ
ふとした瞬間に、あの子のことが目に入る。
なんで私と同じように親に捨てられたのに、幸せそうなの?
なんでそんな風に笑ってられるの?
『狡いよなぁ? 君と違って両親に捨てられてる癖にさ? 自分だけ、こんなにも幸福ですって言わんばかりに笑ってて。君はこんなにも苦しんでいるっていうのにな?』
あぁ……狡いずるいズルいズルイ。
私だって幸せになりたい。
『でも、その幸せって〝誰〟がアイツに与えてるモノ?』
あぁ……そういえば、あの子は言っていた。
〝…………私が幸せなのは全部ぜんぶ、ルイ君のおかげ。ルイ君に幸せにしてもらってるから、私は幸せになっただけなの。だから……そんなこと言われても、困るよ〟
『つまりアイツが幸せなのは、アイツと一緒にいるルイとかいう男の人のお陰なんだ?』
その通りなのかもしれない。ううん、きっとそう。
彼がいるから、あの子は幸せなんだ。
『なら、アイツがいなくなったら』
いなく、なる?
『その立場を奪ってやったら』
うば、う?
『彼の隣に君が立てれば、君も幸せになれるんじゃない?』
彼がいれば私も幸せになれるのーー……?
『多分ね?』
なら、あの子を。消さなくちゃ。
×さなきゃ。
『あっは! チョロ〜。いつもこれぐらい楽だといーんだけど……まぁ、頑張ってよ? お間抜けさん♪』
クスクスと笑う囁きの最後の言葉は……私の耳には届かなかった。
*****
前日と同じ。女子だけの体育祭練習中ーー……。
それは、なんの前触れもなく起こった。
ーーバチィィィィン!!
「…………え?」
念の為と用意してくれていたルイ君の魔道具ーー《使い切り版防御結界》が発動して、私は驚きに目を見開く。
振り返った私の背後で、尻餅をついていたはあの……自称・〝自分は不幸で仕方ないの!〟のメディア。
彼女は何度か目を瞬かせると……側に落ちていたナイフを握り締めて、勢いよく私に向かって突進しようとしてきた。
『ピィッ!?!?』
「させないよ」
教室で練習が終わるまで待っていてくれたルイ君が、転移で私とメディアの間に現れる。
彼は守るように私を腕の中に抱き上げながら……彼女を反射的に、殺そうとしたのが、分かった。
「ルイ君っ!」
でも、こんなところで。私のためとはいえ、ルイ君に子供を殺させるなんて……させられないでしょ?
私の悲鳴に近い叫びから、想いを汲み取ってくれたらしい。ルイ君は舌打ちを零して、渋々といった様子でメディアを遠くへと弾き飛ばした。
「ぎゃあっ!?!?」
ゴロゴロゴロッと、メディアが地面を転がっていく。
周りにいた女子生徒達が悲鳴をあげて逃げて行って。ターニャ達がギョッとしながら私の周りを固めるように集まる。
『ピィッピィィッ!』
私の頭の上に居座るひよこが、異様に慌てていた。まるで思いもよらないことが起きたと言わんばかりに。
険しい顔をしたルイ君はひよこと通じ合えるからか……「分かってる。大丈夫、落ち着け」とひよこを落ち着かせながらも、警戒対象から一切、目を離さなかった。
「…………で? どういうつもり? なんでアリエスのこと……殺そうとした?」
ルイ君が静かに、けれど徐々に圧を強めながら問いかける。
でも……当の本人は、その質問の意図が理解できないと言わんばかりの表情で。彼女は心底不思議そうに、首を傾げていた。
「…………なんで……? ……なんで、私の……。私の邪魔を……するの?」
…………は????
「だって、私は幸せになろうとしただけなのに。幸せになろうとするのがそんなに悪いの?」
「…………いやいやいや。幸せになろうとするのは悪くないけどさ? それとこれーー私を殺そうとするのは話が違くない?」
「……はぁっ!? 違くないわっ! 合ってるわよっ! だって、あんたが死んだらルイ様は私を幸せにしてくるもの! 何も間違ってないでしょぉ!?」
……。
………………。
なんかヤバいこと言ってるぅぅぅぅぅぅぅ!?!?!?
えっ!? どゆこと!?
何がどーして私を殺したらルイ君が幸せにしてくるなんて思った!? 間違いだらけだよ!! というか、私に手ぇ出したら逆に惨殺されるよ!?!? ルイ君に!!
「…………お前……何言ってんの……?」
流石のルイ君もこれにはドン引き顔だ。勿論、ターニャ達もドン引きしてる。
それでもメディアの謎自論(?)は、止まらなかった。
「だって! だって! あんたが言ったんじゃんじゃない! 〝あんたの幸せはルイ様のおかげ〟だって!」
「…………え、うん。言ったけど……」
…………えっ。いやいやいや、ちょっと待って??
ま、まさか……。
「なら、あんたがいなくなったら! 私が代わりにルイ様に幸せにしてもらえるでしょ!? だから、あんたを消そうとしたの! ほらっ、何も間違ってなんかないじゃないっ!」
ーーぱっかぁぁぁぁん……。
多分、そんな効果音が響いたと思う。それぐらい、開いた方が塞がらなかった。
だってさ? 私が幸せなのはルイ君のおかげだって知ったからって、私を殺してまで幸せになろうとするとか……本当にヤバすぎじゃない?
どんだけ幸せに飢えてるの? それだけ過去が忘れられないって訳? 今の生活だって決して、悪いものではないはずなのに。
…………この子、本当に大丈夫?
「アリエス……やっぱ、殺しちゃ駄目かな……? コイツを生かしたままにしとくのは、世のためにならない気がする」
「……ひ、否定しづらいけど……一応止めとこうか。外面が悪いから」
「コイツ、一体どういう思考回路して……うっわ……。流石にこれは盲点だった……」
その時ーールイ君が苦虫を噛み潰したような顔をしながら、呻いた。
〝どうしての?〟と首を傾げると、彼はチラリッと私の頭の上ーーひよこを見る。ひよこが『ピィ?(何?)』と鳴くと、ルイ君は再び、メディアの方に向いた。
「昔……屋敷の子供達が《邪神兵団》に操られたことがあったじゃん? だから、今回も干渉されてる可能性があるからって思って……今、精霊術と邪神の力で、アイツの思考を盗み見してみたんだけど」
「うん」
「全くもって、あの子本人の意思でアリエスを殺そうとしたみたいでね? ついでに言うと悪意がない……つまり、本気でアリエスを殺すことが悪いことだと思ってない、正しいことだって思ってる、何も間違ってないって考えているってことも分かりまして」
なんですとぅ??
「ひよこってアリエスに向けられた悪意を察知するだろう? でも、メディアが何も悪いことをしていると思ってないから……今回の攻撃を、ひよこが察知できなかったみたいだね」
『ピッピッピッヨォォォォォォォ!?!?』
そんな馬鹿なぁぁぁぁぁぁぁあ!?!?
多分、ひよこの叫びはこういう意味だったと思う。私も同じ気持ちです。
私はげんなりしながら、ルイ君に聞いた。
「そんなんあり……?」
「現にそれでアリエスに攻撃通りかけたからね……。念の為の魔道具、持たせといて良かったよ……」
頭が痛くなったよね。
先の凶行、まさかの悪意なし。これには彼女のことを、心配せずにはいられなかった。
だってさぁ……自分のためなら悪いとも思わずに人を殺せちゃうってことでしょ? この子。
言い方悪いけど……その、サイコパスだよね。
今回は対象が私だったから無事だった訳で、他の人だったら死んでたよね。
でも、今後はそうとは限らない訳じゃん? 自分にとって正しいと思ったら、自分のためなら何人でも殺せちゃうってことじゃん?
…………これ、このまま野放しにできなくない?
「…………兄様」
唐突に、ルイ君がルイン様のことを呼ぶ。
それと同時にルイン様とネロ様が転移してくる。
「無事ぃ!?」
ついでに誰かが呼んでしたらしい。メノウ校長を筆頭とした教師陣もこの場に現れた。
皆がメディアを囲う。距離を置いて、刺激しすぎないように。
でも、複数人に囲まれるなんて……それだけでも充分刺激してしまったみたい。彼女はビクリッと大きく身体を震わながら、大きな声で叫んだ。
「な、何よ……! なんでそんな目でっ……私を悪者を見るような目で見てくるのっ! 止めてよっ!」
「はぁ!? 逃げてきた生徒から、話は聞いてるの! 他の生徒を殺そうとしておいて、何を言ってるの! 創立以来、こんな事件が起きたのは……初めてよ!?」
「こちらも精霊経由で事情は聞いたよ。子供を相手にするのはあまり気が進まないが……君がしたことは殺人未遂、犯罪だ。軍部特殊部隊ルイン・エクリュ特務の名の下、君を連行させてもらうよ。メディア嬢」
「なっ……!?」
あっ……。やっぱり野放しは危険でしたか。
「ネロ」
「承知しました。メディアさん、大人しくしてくださるわよね?」
子供とはいえ相手は女の子。ルイン様の指示で、ネロ様が彼女を捕らえようと前に出る。
しかし、相手はぶっ飛びメディア。彼女は側にあったナイフを再度手に持って、ネロ様に向かって刃先を突き立てた。
「こ、来ないでよぉっ! わ、私は何も! 悪くないんだから!!」
「まぁ。アリエス様を殺そうとしておいて自分は何も悪くないと? その考え方、頭を疑いますわ」
うっわ。容赦ないお言葉っ!
ネロ様は絶対零度を思わせる微笑を浮かべながら、最終宣告を告げた。
「子供だから優しくされるとお思いで? 生憎とわたくし、子供だろうがなんだろうが犯罪者には優しくするつもりはありませんの。力技という手段に出る前に大人しくお縄につきなさい」
「っ〜!」
メディアが歯軋りをする。憎悪に満ちた顔になる。
その顔は、本当に凶悪で。
ネロ様は大きな溜息を零して、腰につけていた鞭をバチィィインッと叩きつけた。
「反省するつもりはなさそうですわね。よくってよ、そこまで歯向かうというのなら……一息で、終わらせましょう」
えっ、ちょ、待っ。
流石に子供相手に鞭は絵面が悪ーーっ!?
「疾っ!」
ネロ様が鞭を振り回す。それはどんどん速度を増していき……えっ。マジで目で負えないぐらいの鞭捌きなのですが!?
「はぁっ!」
ーーべチィィィィン!
「っ!?」
ーーバタリッ……。
……激しい破裂音がしたと思ったら、メディアの身体が、倒れた。
ひょ、ひょぇっ……。本当に、鞭で、叩いて……?
「いや、叩いてないよ? なんせネロは特級女王様だからね」
「なんて??」
なーんて……私の不安は、そのパワーワードに吹き飛んびましたよね。
待って?? 何その特級女王様って!? 名前からして多分、SM的なヤツだとは思うけどね!? でもめちゃくちゃ意味分からないよっ!?
「ちょ、ちょっとぉ!? ウチの生徒になんちゅーことしてくれてんのぉ!?」
メノウ校長がギョッとしながら叫ぶ。
うん、分かる。絵面が、ヤバかったもん。
でも、ネロ様は余裕の表情。彼女は女王様の貫禄を見せつけながら、堂々と答えた。
「安心なさって? 鞭で直接叩いたりなどしておりませんわ。わたくしは、わたくしの犬しか痛めつけませんもの」
ネロ様の犬=サイラス様ですね……。
「ただ鞭を素早く動かして衝撃波を生じさせ、脳震盪を起こさせただけですわ。外傷は一つもありませんから、危惧することもありませんことよ」
……すっごい匠の技みたいなことしてるなぁ!? これが特級女王様の実力なの!? 精霊術で気絶させるんじゃ駄目だったの!?
え? 私を殺されそうになって実は激おこなルイ君の感情が精霊達に影響して、精霊術だと死んじゃうかもしれなかったから選択肢になかった……?
……そっかー。そんなに愛されちゃうと、照れるね?
かくして……。
シリアスは最後までシリアスになり切らずに。
私の殺人未遂事件は唐突に始まり、唐突に終わるのでした。
…………冷静に考えると中々の大事件だったな? これ。




