第72話 過去のヤラカシが追ってきた(?)未来《いま》
みなさま、お久しぶりです。
約一年半も更新しなくて申し訳ありません……。
気長にお待ちくださったみなさまに、多大なる感謝を。
それでは簡単なあらすじ。
【あらすじ】
アリエス達は平民学校に入りました。
未来の二代目with愉快な仲間達を巻き込むことにしました(笑)
今話に続く。
とゆー訳で〜……
今回もどうぞよろしくお願いします!
周囲からの音を遮断ーー逆を返せば私達の会話が外に漏れないようにして始まった、ルイ君の巻き込み事故(?)。
全てを打ち明ける訳ではなく、私が悪い人達に狙われていることと、ルイ君が軍人であること。ついでに、私達がエクリュ侯爵家の関係者であるということしか話さなかったけど……。
ある程度は踏み込んだ話を終えると、ターニャさんとカルセ君は、それはまぁ異なる反応を返していた。
勿論、ターニャさんはキリッとした真剣な表情で……カルセ君は顔面蒼白、になっていた。
「なんと……アリエスさんは裏組織に狙われているのか……」
「そうなの。この世界で唯一、精霊王を殺せる存在だから」
「成る程。ルイさんが入学したのは、アリエスさんの護衛としてーーということでもあるのだな?」
「まぁ、そういう一面もあるね」
「ふむふむ」
ターニャさんは納得したように頷いているが、カルセ君はそれどころではない。
顔面蒼白通り越して、泡吹きそうになっている。というか、また逃げようとしてガット君に捕まってる。
ジタバタとさっきとは比べようにならない本気度で暴れるカルセ君。
でも、ガット君の方が力が強いからか……逃げられなくて、とうとう大声で叫び出した。
「離せよぉ! 僕、お家帰るぅ!」
「離さん! ルイさんが巻き込むって言ったから、巻き込まれんだよ! ってか、おれだけじゃ荷が重いから一蓮托生しようぜ!?」
「嫌だぁぁぁぁぁあっ! だってっ……だってぇ! コレ、完全にとんでもない案件じゃん! 子供の手に負えないヤツだよぉ!?」
「知ってるわ!」
「なら、なんで手ェ引かないんだよぉ!? 馬鹿なの? 馬鹿なんでしょ、馬鹿だね!! ただでさえエクリュ関連なのにっ……精霊王を殺そうとしてる奴らがいるって話だけでもヤバ過ぎだよぉっ!! そんなのに巻き込まれたら僕らも危ないじゃんかぁ!」
…………あっ、確かに。
いや、ルイ君という最強の味方がいるおかげで危機感が薄れちゃってたけど……カルセ君の反応が、普通なんだよね。
精霊王は、言ってしまえばこの世界の神様だもん。そんな神殺しを出来てしまう存在が目の前にいて、神を殺したい人達が私を狙ってる……となれば、私の近くにいる人達の命が危険に晒されるのは当然のこと。
……なんで、そんな当たり前のことに気づかなかったんだろう?
しょぼんと落ち込んでいると、カルセ君は「ヒィッ」と悲鳴をあげた。
「ちょ、そ、そんなっ……睨まないでよぉ!!」
「アリエスを落ち込ませたんだから、そりゃあ睨むよね」
「ヒィッ……!!」
慌てて顔を上げると、そこには極寒零度のように冷たい目でカルセ君を睨むルイ君の姿。
ぶっちゃけ、大人が子供に向けていい顔じゃない。殺意が滲みまくってる。
「ルイ君」
「…………なぁに」
「カルセ君は間違ったこと言ってないから、怒らないの」
「…………チッ」
ルイ君は彼に「優しいアリエスに感謝するといいよ」と嫌そうに告げて、私を抱き締める。
私は彼の腕の中でもぞもぞと動いて向き合うと、ギュウっとその首に腕を回した。
「分かってるよ。ルイ君は私のために怒ってくれたんだよね。ありがとう、大好き」
「ボクも大好きだよ、アリエス」
そんな風に慰め合い(?)を兼ねてイチャイチャしている間ーーガット君はぴるぴると震えて怯えるカルセ君を探るような目で見ていた。
ターニャさんが「どうした?」と問う。それに彼は「あのよぉ……」と、断言するかのように告げた。
「確かに、精霊王を殺そうとしているヤバい奴らにビビってんのも嘘じゃなさそーだけど。お前が本当に関わり合いたくないって思ってるの……エクリュ侯爵家に、だろ」
ーービクリッ。
その指摘に、彼は分かりやすく動揺する。
〝どういうこと?〟と首を傾げると……カルセ君はめっちゃくちゃ怪しい動揺っぷりを見せながら、目を逸らした。
「なななななっ、何を言ってるのかな? よくわわわわ分からないよ」
「何をそんなに動揺してるんだ? お前」
「阿呆か。そんなに動揺してんのが答えだろ」
不思議そうなターニャさんと、呆れ顔のガット君。
でも、まぁ……確かに。こんなに動揺されたら、それが真実だって分かるよね。
なんとも言えない空気になっていたら、ルイ君がそこら辺の宙を見ながら首を傾げた。
「…………うん? あの子、自分の祖先がエクリュ侯爵家に没落されたとか思ってるの?」
「「「は?」」」
「ピッ!?」
急に変なこと言い出したルイ君に……あっ。精霊情報局(※シエラ様命名)からの情報提供か!
えっと……とにかく。ルイ君が零した爆弾発言に、私達は驚きの声をあげる。
その爆弾を落とした当の本人は「……意味分からない」と呟いていて……やっぱり宙を見つめながら口を開いた。
「兄様、なんかエクリュ侯爵家に没落させられたらしい家の子がいるんだけど。それって本当?」
『*** ****』
「グライツ、って名前の家らしいんだけど」
『******* ****** *** ***** *******』
ーーシュンッ。
そんな効果音と共に現れたのは、勿論我らがヤンデレ代表ルイン様。
彼が現れたことでガット君とターニャさんはガバッと顎が外れるぐらいに驚いて目を見開き、カルセ君に至っては「ピャァァァァァァァァアッッ!!」って思いだから泣き叫んでいた。煩っ。
「兄様」
「話は精霊経由で聞いた。確かにエクリュ侯爵家はどいつもこいつも我が道を往くしてるけど……流石に没落させるまでの非道なコトはしたことないはずだよ? 少なくとも俺の記憶にはない。ルーク」
『**********』
「息子もそんなことしてないってさ。他の子供達は?」
『*****』
『****、******。********』
「あぁ、大丈夫。ルシェラ達はこの国で暮らしていないから例外、例外。ありがとう、身体に気をつけてーー……。という訳でルイ。確認したけど、没落させたのは正確にはエクリュ侯爵家じゃないってさ」
うわぁ〜……これが本当のエクリュ侯爵家特有のリアルタイム精霊通信。
ルイ君がシエラ様とかルイン様とかと連絡を取ってるのは見たことあったけど、複数名で一気に連絡取り合うところは初めて見た。コレ、情報戦なんかじゃ最強なんでは?
「んで。没落させてはいないんだけど、〝グライツ〟という名前自体は覚えがあるんだよね。実のところ」
『エッッ』
思わずルイン様の方を向く私達。
ルイン様は「どういうことをしたら、こんなにも長い影響を出せるのかな……アイツは……」と、遠い目をしながら呟いた。
「えーっと……君らは《ハイエナ》って知ってるかい?」
「……あの、三大偉人の一人である、《ハイエナ》のことですか?」
「偉人……? いや、三大危険人物のことだけど?」
「…………え??」
首を傾げるルイン様と、困惑したガット君。
暫く沈黙が流れていたけれど、ルイ君が口を開いたことでそれは遮られた。
「兄様。今は三大偉人だよ」
「…………あっ、そうだった。危険人物だと外聞が悪いから、偉人なんて言うようになったんだっけ?」
「そうだよ」
「はぁ〜……ついつい昔のように呼んでたよ。俺も歳かなぁ〜……」
とか言いながら、自身の顎を撫でる見た目ピッチピチなルイン様の発言に女性陣(私とターニャさん)の目が皿のようになる。
だって……ねぇ? こんなに肌艶良い癖に歳とか、何言ってんのって感じじゃん。女の敵発言ですよ……?
「まぁ、とにかく。その《ハイエナ》の奥さんの元婚約者の家の名前がグライツなんだよね」
『はぁ??』
なんですとぉ??
「一代目の妻だった女性は今も続いているロータル侯爵家の令嬢でね。彼女の元婚約者はグライツ公爵家の嫡男だったんだ。婚約者がいる身にも関わらず、辺境伯の令嬢を妊娠させた最低な男だったよ。加えて、当時の公爵家は国の金を横領をしていてね」
『…………』
ルイン様以外の視線が、カルセ君に向く。
カルセ君は〝そんなの、聞いてない!!〟と言わんばかりに首を横に振りまくっていた。
「それを理由にロータル侯爵家の令嬢が婚約解消を叩きつけるや否や、令嬢が他の人に言ってしまう前にと口封じのため暗殺者を送り込んで、彼女を始末しようとしたんだ。だけど、俺がその暗殺者達をフルボッコにして暗殺を阻止して……。結局その後、横領やら暗殺未遂やらが明らかになったことでグライツ公爵家は取り潰しになったんだ。でも確か……横領に関わってなかった者などは身分を剥奪されて、平民になったんだったかな」
えーっと、つまり?
カルセ君のエクリュ侯爵家に祖先が没落させられたってのは思い込みで。本当は祖先が横領したから、自業自得で没落したってこと?
んで。やっちゃった罪が重過ぎたから、関わってない人達も道連れなされちゃったって訳?
えっ、待って。色々と業が深くないですか?? その元婚約者さんとグライツ公爵家さん。
「だからね? 俺は確かにその暗殺を止めはしたけど……没落したのはグライツ公爵家の悪行が公になったからなんだよ」
「あ、ぅ……」
しゃがみ込んだルイン様は、真っ直ぐカルセ君の目を見て告げる。
彼の目はグルグルと……いや、本当にグルグル回ってるな?
聞いてなかったらしい真実を明らかにされて、処理落ち状態になっているみたいだね。
でも、ここで終わらないのがエクリュ侯爵家クオリティ……。
ルイン様はそっと目を逸らし、どこか遠くを見つめながらボソボソと呟いた。
「…………って、真実はそういう感じなんだけどね……? でも、君がそんなにウチを恐れてる理由って……多分、その《ハイエナ》が平民堕ちしたグライツの者達が逆恨みとかしないように脅しかけた可能性が高いから、なんだよね……。もしかしなくてもエクリュ侯爵家の名前を出して脅しまくったんじゃないかと、想像できるっていうか……。ほら、アイツ……石橋は叩き壊して、自分で絶対に崩壊しないって自信のある設計図引いて、これまた自分が信頼できる奴に建築させてから渡るような性格してるからさ」
ルイン様、ルイン様。
その石橋云々の例え、逆に分かりづらいのですが??
「まぁ、危険人物だからなぁ……。上司だろうが国王だろうが使えるモノは何でも使うのがモットーな男だったから……自分の嫁が狙われないようにエクリュ侯爵家を隠れ蓑にしたりするだろうなぁ……アイツなら……」
『…………………』
「あれから既に百年以上経っているはずなんだけど……未だに残り続ける恐怖って……アイツ、何をどうしたらこうなるんだろうな……本当……?」
ルイン様の言葉に、私達の目が、死んでしまう。
上司どころか王様すら利用するって、いう時点でヤバいなぁ……とは思ったけれど。
百年経っても残り続ける恐怖を受け付けるって方のが恐いわっっ!! そりゃあ三大危険人物だなんて言われるよっっ!!
「……うん。まぁ、そんな感じで。まだエクリュ侯爵家に対して思うところとかある?」
「…………」
ーーと、ルイン様が聞くけれど返事がない。
〝ん?〟って感じで皆の視線がカルセ君に向かうと……。
「………………(チーンッ……)」
カルセ君は、口から魂をにょろっと出しながら……意識を飛ばしていました。
「カルセーーッ!?!?」
ーーバタァァァン!!
ガット君の悲鳴が響くと同時に、カルセ君の身体が後ろに倒れる。
一瞬で混沌と化した状況に、私もアワアワしてしまう。
でも、流石は無駄に場慣れ(?)しているルイン様。彼は「落ち着いて、落ち着いて」と言いながら、カルセ君の様子を診察した。
「あぁ、うん。単に真実が受け入れられなくて現実逃避で意識を飛ばしたらしいよ。体調が悪い訳じゃないから、そこは大丈夫」
「なんだと? 軟弱な!」
診察の結果を聞いたターニャさんは、目を吊り上げながらカルセ君を睨みつける。
こんな時も武士っぽいっすね、ターニャさん。
でも、流石に今回ばっかりは仕方ないと思うので……ちょっとは優しくしてあげて欲しいっす……。
えっと……取り敢えず、今日の学び。
エクリュ侯爵家のヤバい噂の一つって、過去の《ハイエナ》がやってる可能性が高いっぽいなってっ思う今日この頃なのでした。




