第4話 遭遇! 走る問題源、暴走娘!
よろよろ〜
※シェリーの年齢、変更しました。
ルイ君に手を引かれて連れて行かれたのは、かなりシンプルな部屋でした。
お家の大きさが凄かったから、部屋も豪華と思ってたけど……ベッド、ソファ、テーブル、クローゼットしかない。
華美な装飾品もないし、色もシンプルなベージュ色。
私の中の貴族イメージだと大きな部屋で絢爛豪華って感じだと思ってたけど……部屋の大きさもイメージより大きくない。
ここ、どこ? 的な気持ちでルイ君を見たら……彼はにっこりと笑った。
「ボクが兄様に借りてる部屋だよ」
「シンプル、だね?」
「まぁね。客間は侯爵家相応ぐらいの大きさだけどね。兄様達の部屋も、子供達の部屋も、使用人の部屋も皆、このサイズだ」
…………そうなんだ……。
「兄様も義姉様もそんなに派手なのは好きじゃないから……必然的に身内全員にシンプルな部屋を与えて、各自、好きなように飾り付けなさいって感じなんだよね」
あぁー……。
でも、華美な装飾を勝手にされて趣味に合わないよりは、自分好みの装飾で自分好みの部屋を作る方がいい。
身の丈に合わないと逆に疲れちゃいそうだしね。
「流石に夫婦の時間を邪魔するのは、馬に蹴られそうだからね。アリエスの部屋の準備が終わるまでは、ここで待ってよう?」
「うん」
ルイ君はそう言うと、私の手を引いてソファに座らせる。
そして、何もない空間からティーセットを取り出して、紅茶の準備をし始めた。
「えっと……取り敢えず、さっきは概要みたいモノのみを説明したけど……これから詳しい説明をしていこうと思う」
確かにさっきのシエラ様の説明は、この世界の分かりやすい説明だけだった。
乙女ゲームの世界(または類似世界)で、魔法(精霊術と呼ばれてるんだっけ?)があって……精霊王とか精霊が存在して、精霊王がヤンデレ好き。
この国のこととか、情勢とか、精霊の詳しいこととかは教えてもらってないよね。
「この国のこととかの説明はボクにもできるから、保護者としてちゃんと教えろってことなんだろうけど……転生者に異世界の説明をしろなんて言われても、この世界で暮らしてるボクからしたら難しい。だから、義姉様がそれだけ代わりに説明してくれたんだと思う。未だにボクはオトメゲーム? というのがなんだか把握してないからね」
…………そりゃそうだよ。
私からしたら異世界だけど、ルイ君からしたらこの世界が現実だもん。
異世界転生です、乙女ゲームの世界ですなんて、簡単に説明できる訳ないよね……。
「じゃあ、説明を始めるよ。分からないことがあったら聞いてね」
それから、私はルイ君からこの世界の詳しい説明を受けた。
まずは基礎基本となる精霊の話から。
精霊王を始めとする精霊は、この世界を管理する存在。
精霊王自体がこの世界を管理する神のようなモノで……大精霊は精霊王の補佐係的なポジションらしい。
世界の管理って言うのは、本当にそのまんまの意味。
精霊術を介して、人々から精霊力(……多分、魔力かな?)をもらう。
精霊はそれを利用して、世界の調整(整備)を行う。
だから、精霊力をもらうお礼に超常現象(精霊術、魔法)を発動してあげるんだって。
持ちつ持たれつの関係性みたいだね。
だからか……精霊術が廃れると、精霊力も不足して、土地などが強制的に廃れてしまうらしい……。
普通の人は精霊を見れないけど……勿論見える人もいる。
特段に精霊の姿が見えて、声が聞こえて、強い精霊術を使える(沢山、精霊力を持ってる)人は……《精霊姫》と呼ばれるとか。
その人がいると土地が豊穣(その分だけ、沢山整備されるから)になるから、《精霊姫》と呼ばれる人はとーっても敬われるし、特別扱いされるらしい。
ちなみに、精霊王達はその仕事をしやすいように《精霊の花園》という特別な空間で暮らしているんだとか。
ただ、そこは時間の流れが違うから……あっちで暮らすと、こっちの時間の流れがとんでもないことになるんだって。
一応、精霊達がこちらの世界に過干渉することは禁止されているらしい。
「……これが精霊に関する基礎知識かな。ここまでの説明で分からないことはあった?」
「…………大丈夫だけど……これいじょうはキャパオーバーかな……」
よ、予想以上に複雑な関係性だった……。
…………ただでさえ異世界転生なんて非現実が起きてるのに、これ以上難しい話をされたら疲れちゃう。
というか、国の話とかこれよりもっと面倒そうだよね?
頭がパーンッってしちゃいそう。
ルイ君も「そりゃそうか」と納得してくれて、ティーカップにおかわりの紅茶を注いで、ごくりっと飲む。
私も彼におかわりを注いでもらって……こくりっと飲んだ。
「一日で色んなことが起きて、説明されても疲れるよね。続きの説明はまた後日にしよっか。無理して頭痛くなっても困るし」
「うん」
「それまでにボクもアリエスが理解しやすいように資料とか、義姉様に話を聞いたりして準備しとくよ。まぁ、ゆっくりいこう。時間は無駄にあるし…………はい」
「んぅ?」
ルイ君が差し出したのは、お皿に乗ったジャムクッキーの山。
…………さっきまでティーセットしかなかったのに、いつの間に……。
というか、何もないところからティーセットを出したのはなんなんだ……?
「今更だね? 単なる精霊術だよ。キッチンから転移させただけ」
「そんなのできるんだ……」
「できるよ。まぁ、そこそこ力がある人しか無理だけどね?」
「へぇー……私にもできるかなぁ……?」
「さぁ? それはやってみないと分からないかなぁ。後で精霊術の使い方、教えてあげようか?」
「! うんっ!」
「でも、今は休憩ね」
私はクッキーを齧って、にんまりと笑った。
いやぁ〜……魔ほ……じゃなかった。精霊術なんて異世界っぽいね!
ちょっと胸がドキドキだよ。
「そういえば……」
「んー?」
「異世界転生……なんてもんしたら、もっと動揺すると思うんだけど……なんでそんなにアリエスは冷静なの?」
「あぁ……それをだいざいにした物語がいーっぱいあるからだと思う。テンプレだよ」
「ふぅん? そうなんだ」
そのまま黙り込んで、二人でサクサクとクッキーを齧る。
…………なんか、喋んなくても変に居心地いいなぁ……?
普通は沈黙が漂うと居心地悪くなると思うんだけど……。
「あっ」
だけど、そんな沈黙はルイ君の〝しまった〟と言わんばかりに漏れた声で破られる。
私がどうしたのかを聞こうとした瞬間ーーーーバァァンッ! と勢いよく部屋の扉が開かれた。
「ルイ叔父様っっっ、ヘルプっっっ!」
「ぴゃうっ!?」
思わず驚いて変な声が出る。
そこに立っていたのは、ストロベリーブロンドのボブヘアーに赤い瞳を持つ可愛らしい六〜八歳ぐらいの少女。
ふわふわの薄黄色のワンピースドレスが良く似合っていて、まさに天使という言葉が似合いそうな可愛さだ。
私は驚いてその少女を見つめ……慌てて、ルイ君の方に振り返る。
だけど……ルイ君は超嫌そうな顔をして、答えていた。
「嫌だよ」
「なんでよ! 可愛い姪っ子の頼みで………………あら?」
彼女は、私の姿を見て目を見開く。
そして……瞬間移動の如きタックルでっ、勢いよく抱き着いてきた!
「ふごっ!?」
「アリエスっ!?」
「きゃあ、可愛いわ! キラキラしてるぅ!」
ぎゅうぎゅうと抱き締められるけど、首がっ……首が締まるぅっ……!
腕をタップするが、彼女は離してくれないっ!
思わず噛みついてでも離してもらおうかと思った瞬間ーー首の圧迫感から一瞬で解放されて、その代わりに優しく抱き締められていた。
勿論、私を抱き締めていたのは保護者であるルイ君だ。
「お前は加減を知らないのっ!? 殺す気か!」
「ちょっと、なんで転移させるのよ! 殺すなんて物騒な!」
「物騒なって言ってるお前が首絞めてたからね!?」
し、死ぬかと思った……。
ルイ君が救出してくれたんだね……?
ありがと……う……。
ルイ君は本当に申し訳ない顔になって私の首を撫でる。
ちょっと圧迫感が残っていたのが、彼が触れたところからじんわりと治っていく感じがした。
「ごめん、アリエス。いつもは索敵全開なのに、今日は忘れてた……。その所為で、アリエスが瀕死に……」
…………索敵全開って……身内じゃないの?
それを聞いた少女はムスッとした顔で叫ぶ。
「なにそれっ!? だからここ最近見つからなかったの!? 酷いわよ! 後、その子抱っこさせなさい!」
「ふざけんなっ! 毎回毎回巻き込まれる方にもなれよ! 後、お前はまたアリエスの首を絞めるかもしれないから抱かせない! 絶対、離さないからな!」
ルイ君が声を荒らげて反論してくれる。
うぅ……何気に出会ってから初めてこんなに声を荒らげてるの見たぁ……。
また首絞められたくないから、離さないで……。
この子、怖いよぅ……。
というか……この子、誰だよぅ……。
「…………シェリー・エクリュ。兄様達の娘だよ」
「え〝?」
私はそれを聞いて言葉を失う。
いや……確かに顔は綺麗だけど……え〝?
性格、似てないよね?
「こいつの性格は精霊王に似てるんだよ。つまり、走る問題源。爆走娘だ」
「暴走娘って何よ、叔父様の馬鹿!」
いや、ごめん。
ルイ君の言葉、言い得て妙だと思っちゃったよ?
というか……精霊王ってこんな感じなのかよ。