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第54話 お説教の裏側にて


お久しぶりです〜。

急にお休みしてすみません! なんか色々と忙しかったのです!

という訳で〜久しぶりの更新。


セル目線→???(今回、名前判明)目線で行きます。では、よろしくどうぞ〜!


 






 ゆっくりと瞼を持ち上げる。そこは見慣れた自分の部屋の天井。

 瞬きを数度繰り返して数十秒。第一に思ったのは……。



 ーーーー〝オレ、何してんのカナ?〟だった。





「………おぉぉぉぉおう……」


 オレはベッドに横たわったまま呻き声を漏らす。

 いや、だって本当に何してんの!? オレ!?

 なんで()()()()アリエス()が好き()()()!? おかしくない!?

 いっそ記憶が失くなってて欲しかった!! すっごくハッキリ覚えてるけど!!



 五年前ーー。

 オレはオリーに唆されてアリエス様を誘拐してしまった。

 そんなオレに彼女を好きでいる資格はない。なのに……なのに、なんで……異常なくらいにアリエス様を好きでいたんだろう……?



 まるで、アリエス様への想いを操られていたかのようなーー……。



「セル……?」


 ふと聞こえた声に、オレは視線を動かす。

 廊下に繋がる扉が開いていて、そこには姉ちゃんが大きく目を見開いてこちらを見ていた。

 いつの間に入ってきたんだろう? 全然、気づかなかった。

 オレは姉ちゃんに声をかけようとする。

 だけどーー……実際に声に出る前に、ドスッと腹に一撃喰らわせられてそれどころではなくなってしまった。

 ぐふっ!? 暴力反対!!


「心配かけさせるんじゃないですよぅ、馬鹿セルぅ……!」


 姉ちゃんはポロポロと涙を零しながら、顔を歪める。

 何が起きてるのか分かっているようで分かっていなかったオレは、姉ちゃんから語られた事実に……顔面蒼白にならざるをえなかった。


「………幽霊に、取り憑かれて……た……?」

「そうですぅ……幽霊がアリエス様を好いていて、セルの身体を徐々に乗っ取っていたらしいですぅ……それを、ひよこ様がハリセン(?)で除霊して下さったんだとかぁ……」


 ……。

 …………。

 ………………オレはそれを聞いて納得した。

 気を失う(除霊)前のオレは、すっごいアリエス様が好きだった。でも、(除霊後)のオレはアリエス様に対して()()()()()()()()()()

 アリエス様への感情がその、幽霊の気持ちだったーーってんなら、辻褄が合う。

 というか……。


「………オレ……その、幽霊に乗っ取られてたら……死んで、た……?」

「……………」


 無言で頷く姉ちゃんに、オレはガクガクと震える。

 というか……どうしよう? 幽霊に殺されかけてたってのも恐いけど……それよりも恐いモンがある。



 ーーーールイ様だ。



 ……どう考えなくても、分かる。

 ルイ様とアリエス様ってその……その……そういう、関係? だよな?

 年齢とか大丈夫? 犯罪になんない? って思わなくもなくにもないけど……雰囲気的に、相思相愛? ってヤツだと思う。

 で……ルイ様は……エクリュ侯爵家らしく……ヤン、デレ……で……。オレは……横恋慕した立場……。



 ……………あっ。オレ、死ぬかもしれない……。

 ……そう思うには充分だった。



「とにかく……後でひよこ様に感謝するんですよぅ。貴方を救って下さったんですから」

「…………はい……」


 オレの返事が震えていたからか、どうやら何を考えているのか悟ったらしい。

 姉ちゃんはスンッと鼻を鳴らしながら、さっきとは打って変わって……優しい手つきで頭を撫でてきた。


「……アリエス様への横恋慕は幽霊が原因なので、不問にするそうです……」

「……………本当、に……?」

「でも、謝るのは謝るんですよぅ」

「………それは……勿論……」



 あぁ……時間が巻き戻るなら……。

 昔のオレに声をかけられるなら、是非とも一声言ってやりたい。

 まぁ、幽霊(?)に操られてたらしいんじゃ無意味かもしれないけどーー。





 今すぐアリエス()に関わるのヤメとけ。

 無駄に心に傷を負うだけだからーーと……。





 *****





「……………あー、クソッ! 傀儡化が解けたぁっ!!」





 薄暗い地下に存在する、地下神殿。


 聖堂に並んだ椅子に横たわっていた傀儡師は勢いよく起き上がると、前の席の背を蹴りつけた。


 ーーガァァンッ!


 鈍い音が聖堂に響き渡り、不快感に眉を顰める。

 離れた場所に座っていたわたくしは、親指の爪を噛んで苛立ちを露わにする傀儡師をチラリと見てから……自身の髪を指先で弄りつつ、溜息を零した。


「役立たずね」

「あぁん!?」


 わたくしの小さな呟きを聞き取った奴は、苛立ちを隠さずにこちらを睨んでくる。

 嫌ね。まるで小物だわ。


「五年もかけて仕込んでいたのに、ここまできて気づかれるなんて……油断したんじゃないの? 隠蔽もマトモに出来ないなんて、()()だわ」

「喧嘩売ってんなら買うぞ、〝()()()〟!!」

「…………」


 ーー〝病原者〟。

 それは数多の……いいえ。無限に近しい病原を保有する固有能力を持つ、わたくしを指し示す渾名。

 わたくしは不快感を隠さずに、顔を歪めながら馬鹿を睨む。


「わたくし、その渾名は好いていないの。その名で呼ぶのは止めて下さる?」

「何度でも言ってやるよぉ!? 病原者ぁ!!」

「…………はぁ。やっぱり、小物ね」

「はぁ!?」


 わたくしは肩を竦めながら、鼻で嗤う。

 本当、こういう態度ばかり取るからコイツとは相性が悪いのよ。


「やぁ。傀儡師、病原者。今日も仲が良いね」


 ふわりと音もなく現れたローブを被った男性ーー団長は、いつの間にか祭壇に腰掛けながら、そう声をかけてくる。

 いつの間にいらっしゃったのかしら?

 軽く頭を下げるわたくしとは反対に、傀儡師は「ケッ!」と顔を歪めて叫んだ。


「どこが! こんな陰湿女となんて仲良くなんてない!」

「そこだけは同意しますわ。コレと仲が良いなんて……死にたくなるわ」

「うっせぇ!!」

「貴方の方が煩いわよ」

「あははっ、そういうとこなんだけど」


 団長は……朗らかに笑っていたかと思えば、一瞬で纏う空気を鋭利なモノへと変える。

 聖堂の空気が一気に冷え込むような感覚。わたくし達は言い合いを止めて、真剣な面持ちで団長の方へと視線を向けた。



「病原者。君の仕掛けた()()()()は失敗したよ」



 少し前ーー。

 わたくしはとある貴族の令息に接触して、固有能力で生み出した〝()〟を渡した。

 それは……時間経過と共に変異する凶悪な病気を発症する、薬。

 わたくしの言葉に惑わされた令息は最も容易く自身の妹ーーもとい、あの召喚師と《竜殺し(ドラゴンスレイヤー)》の身内ーーにそれを飲ませた。

 上手くいっていれば、今頃その妹は死んでいたでしょう。けれど、失敗したということはーー……。


「そうですの。生き残りましたか」

「あははっ、ざまぁねぇ〜! お前の方が役立たずじゃ〜ん!」


 ケラケラと嘲笑う傀儡師を無視して、わたくしは椅子から立ち上がり深く頭を下げる。


「ご期待に添えず、申し訳ございませんわ」

「気にしなくて良いよ。元々、成功率は一割にも満たないって予知を聞いていたからね。嫌がらせ(ちょっかい)ーーになっただけで充分だ」


 そう……予め、失敗する前提だったのですね。なら、必要以上に謝ることもないでしょう。

 わたくしは頭を上げて、静かに座る。

 それを見計らったようにーー団長は今だに笑い続ける傀儡師へと声をかけた。


「君の傀儡化も今回解けたワケだけど……現在維持している傀儡化も解除してくれるかな?」

「…………へ?」


 そう言われた傀儡師はピシッと動きを止める。

 沈黙が流れること数秒。コイツは大きく目を見開きながら……団長の足元へと駆け寄り、叫んだ。


「な、なんで!? どうして!? 僕を見捨てるの……!?」


 傀儡師は少しずつ操った人間(傀儡)を召喚師の周りーー軍部やら王宮やらに仕込んでいた。つまりは、傀儡師の固有能力によって情報収集をしていたと言っても過言ではない。今回の団長の言葉は、それを止めると言っているのも同然。

 そして……団長を崇拝している傀儡師が、団長からそのように言われたとすれば……。



 ーー自分が捨てられる(突飛ない)思考になるのも、ある意味は当然だったわ。



「僕、役立たずになっちゃった!? そうじゃないでしょ!? 今までだって沢山、情報集めてきたじゃん! なんで今更……傀儡化を止めるの!?」

「勿論、君は役立たずじゃないさ。でも……向こうも成長してるからね。今は周りにいる傀儡に気づけるようになった程度だけど……このまま向こうに傀儡を置いておくと、近い将来に君と傀儡の間に繋がってる縁を辿って、こちらが見つけられてしまうんだ。だから、今の内に辿られる縁を切っておこうと思ってね」


 成る程ね。

 今回、傀儡化が解かれたのは傀儡を察知する能力を向こうが手に入れたからなのね。そして……その内、その能力は更に成長してこちらを見つけるほどの能力になるってことなのね。

 だから、そうなる前にーー。


「安心して、傀儡師。君の力は今度は違う用途で使うだけだから。だから、ね? そんな泣きそうな顔をしないんだ」


 足元に縋る傀儡師の頭を撫でながら、団長は笑う。その笑顔はゾッとするほど冷たいモノ。優しい声をかけていながら……実はなんとも思っていないような、モノ。

 わたくしは鳥肌の立った肌を撫でながら、そっと視線を下げた。



「…………さて。また暫くは大人しくしていようか。今は……戦力増強に努めるとしよう」





 どうしてだか、その言葉にわたくしは返事を隠すことが出来なかったわ。







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