第3話 拾った赤ちゃんは光っていた。
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読んでくださってる皆様のおかげです! ありがとうございます!
では、ルイ君目線で参ります〜。
よろしくねっ☆
本当に、偶然だったんだ。
なんとなくで訪れたどこかの森。
適当に転移して来たから、自分がいる場所も分からない。
だけど、不思議とここに来なきゃいけない気がしたし……ボクもそれなりに強いから、たとえ命の危険があろうとなんとかなる気がした。
「何かが起きそうな予感ーーって、こういうことを言うのかな?」
思わず、呟いていた。
だからなのか……。
義姉様の言葉を借りるならーーーー多分、フラグが立った。
「だぁぁぁうぅぅぅぅぅぅぅぅうーーーーっ(ふざけんなぁぁぁぁぁぁぁぁあーーーーっ)!」
「えっ!?」
多分、赤ちゃんの叫び声。
だけど、なんでか人間の声も副音声のように頭に鳴り響く。
精霊王の息子であれど、流石のボクも赤ちゃん語を自動翻訳する能力なんて持ちやしない。
これは完全に何かが起きていると思った時には駆け出していた。
「精霊!」
『こっちだよ、ルイ!』
精霊達に導かれて、ボクは森の中を駆ける。
身体強化をかけて、早く速く、走り抜く。
そして、見つけたのは……大きな木の根元に置かれた籐の籠とそれに歩み寄る狼の魔物の姿。
「ふぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇんっっっ(誰か助けてぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっっっ)!」
「ーーーーいいよ」
ほぼ無意識に、答えていた。
ついでに思いっきり、魔物の身体をどこかに蹴り飛ばしていた。
…………やばっ……本当に弧を描いて飛んでっちゃった……。
多分、即死したと思うけど……下手をしたら、死体が空から降ってきて誰かにぶつかる可能性が……。
……………さっきの魔物は見なかったことにしよう。
ボクは現実逃避をしながら、籠の中からおくるみに包まれた子供を抱き上げる。
そしてーーーー。
ドクリッと、煩いぐらいに心臓が鳴った。
キョトンとしたコバルトグリーン色の瞳にちょろっと生えた水色の髪。
真っ白い肌はぷくぷくしてて、尖った耳は……エルフ特有の耳だ。
だけど、そんなのどうでもよくなるくらいに……心臓が煩かった。
この子を手放しちゃいけないって、頭の中で誰かが呟く。
本当、気を抜いたらーーボクがボクじゃなくなりそうだった。
(…………………落ち着け。精神を安定させろ……このままじゃ、ボクのヤンデレが暴走しちゃう)
ボクは心の中でそう何度も念じて、煩い心臓が収まるように息を吐く。
ここまでほんの数秒ほど。
ひとまず……少し冷静になったボクは、さっきの言葉が、この子が言ったのか確認するために話しかけてみる。
すると、赤ちゃん語に副音声がついたかのように喋り声が聞こえた。
…………あぁ……これ、完全に何かに巻き込まれてる予感。
この子、精神がかなり成熟してるっぽいし……ボクも、ちょっと暴走しかけたし。
…………本当は手放したくないけど、流石に誘拐は問題だし……ボクも冷静になる時間が欲しいから、この子をお家に返してあげなきゃ。
家さえ分かれば、また後で会いに来ることだってできるしね。
だけど、この子が言った言葉は……ボクの予想を遥かに裏切るような、衝撃的な事実だった。
…………は? 捨てられた?
ボクは、直ぐに精霊達に情報を集めさせる。
『その子の言う通り、捨てられたみたい〜』
『髪色がエルフっぽくないから〜』
エルフは基本的に金髪碧眼ばかりだ。
そして、純血を重んじて……とても排他的だ。
少しでもエルフと違えば、ハーフエルフであれば迫害の対象になる。
兄様が若かりし頃に、兄様と義姉様の力によってエルフの里の奴らは大体、大人しくなったらしいんだけど……エルフの集落(エルフにも性格の不一致的なのがあるらしく、個々に暮らしている人もいる)の奴らは未だに昔ながらの頭が固い連中なんだろうね。
流石に少しでも関わってしまった赤子を見捨てて行くのは、問題行動だろう。
多分、そんなことしたら精霊達に兄様達にチクられて、人でなしとか碌でなしとか文句言われるだろうし。
だから、ボクは赤ちゃんを連れて帰ることにした。
……………決して、この子を連れ帰ることができたことに喜んではいないよ……うん。
*****
居候させてもらってるエクリュ侯爵家に帰ってきて、兄様達がいる二人の憩い部屋(多分、兄様が仕事休みだからイチャついてるはず……)に向かいながら、先に念話で捨てられた赤子を拾ったことを報告する。
今からそちらに向かうことを告げたら、快諾された。
そうして、兄様と義姉様に会ったら……驚いた。
まさか、義姉様と同じ転生者だったなんて。
…………ちゃんとこの子の記憶も全部見ちゃえばよかったかな?
流石に何も調べずに連れてくるのは不用心だぞって兄様に念話で怒られてしまった。
…………まぁ。若干、この子を連れ帰れて浮かれてたのかも。
今度からはちゃんと気をつけるよ。
普通に会話をしながら、兄様達と念話でも会話をする。
普通の奴じゃこんな高度な精霊術は使えないけど、ボクらには問題ない。
『この子、容姿が理由で捨てられたみたい。だけど、敢えて伝えないでおくよ』
『その方がいいだろう。精神が大人でも、自分が捨てられた理由をはっきり教えられたら傷つくだろうし』
でも、見た目の所為で若干忘れかけたけど……この子は頭が良かった。
いや、精神が大人なら当たり前だよね。
今はもうなんでもない過去だからサラッと兄様が迫害されてたことを話しただけで……ボクらが捨てられた理由を隠そうとしたことに、自分にエルフにとって排他的な要因があることに気づいてしまった。
だけど、この子は捨てられた理由は聞かなくていいって。
必要なら親という存在の記憶ごと消してあげようと思って……悲しくないかって聞いても、大丈夫だって答えた。
まぁ、ボクの父様似のぶっ飛び思考でちょっと怖がらせちゃったけど……。
凄いと思った、純粋に。
ボクだったら、転生して早々に捨てられたら逆にヤり返しちゃいそうだよ。
こんなに簡単に割り切れないと思う。
そんなボクと違って、この子は冷静に今の現状でどうするかを考えてる。
まぁ、赤ちゃんだからボク達の助けを取るしかないだろうけど。
そうして、転生者ではあるけれど……この世界のことを何も知らなくて、ある意味生まれたばかりに違いない彼女……アリエスは、拾った責任ということでボクが保護することになった。
うん、多分だけど……今後、もしボクがこの子を見捨てようとしたら同郷のよしみで義姉様に殺されそう。
というか、義姉様の敵になったら必然的に兄様にも殺される。
アリエスをあそこに放置して、精霊にそれをチクられて後から始末されるなんて事態にならなくてよかった……。
まぁ、放置するという選択肢は最初っからなかったようなもんだけど。
ついでに彼女の自尊心のために、身体を成長させることにした。
だって、ボクが他の人にトイレの始末とかお風呂とかお世話されたら精神が抉られると思ったから。
んで……兄様達協力のもと、アリエスを成長させたら……。
髪と目が、ぴかぴかしてた。
慌てて兄様達を見ると、兄様達も目を見開いて固まってる。
ぴかぴかって表現はちょっとアホっぽいか。
いや、でも間違いじゃないんだ。
キラキラと……淡い光を放ってるんだよ。
『兄様、光ってる?』
『光ってるね』
『光ってるわね』
よかった、目の錯覚じゃなかった……。
だけど、これ、絶対なんかあるよね?
『精霊王がその子のこと調べるから、待っててだって〜』
…………急にそんなことを伝えてきた精霊達にボクはどうやらこれから起こる事件(?)の当事者(関係者?)になったと直感した。
あんまりにも悟りきった顔をしてたのか、兄様達が噴き出しかけて、慌てて冷静を装って会話を再開する。
けど……兄様達、肩が震えてるんだけど。
ついでに、頬、微妙に引き攣ってるんだけど。
ボクが兄様を睨んでいたら……急にアリエスが見上げてきて、少し驚いてしまう。
キラキラとした水色のセミロングの髪に、コバルトブルーの瞳。
嬉しそうな笑顔……。
「ルイ君もありがとう! たすけてくれたし、私のことを思ってせいちょうもさせてくれたし! ほんとーにかんしゃしてるよ!」
ボクは大きく目を見開く。
………あぁ……最悪。
なんでか分からないけど、その感謝の言葉で唐突に理解してしまった。
ボクがどうしてだか、あの森へ行ってしまった理由。
ボクがこの子の赤ちゃん語を自動翻訳できた理由。
そして……煩いぐらいに高鳴る心臓と、この子を手放したくないと思う理由。
きっとボクはーーーー。
「……あははっ、どう致しまして。拾ったからには、最後まで責任取るよ」
この子に出会うためにーーー。
あぁ、もう……仕方ないね。
どうしてだか口元が笑ってしまう。
本能が……頭の中で誰かが囁いている。
〝もう逃げられないから諦めろ〟って。
何が逃げられないんだか。逃げる気なんて、更々ないよ。
きっとこれから、忙しい日々が始まる気がした。