第38話 流れで一緒にお茶することになりました。
不定期更新が〜続く〜よ〜!
という訳で……お久しぶりです。皆さま。
お元気してますか? 島田はまた微妙に体調崩しております。安定しない天気が身体に悪影響を及ぼしております……。
まぁ、そんなこんなで。
今度も不定期更新ですが、頑張りたいと思います。気長にお付き合いくださいませ〜。
それでは〜今後とも〜よろしくどうぞ!!
(・ω・)ノ
「はい、あーん♡」
うっとりとした笑みを浮かべながら、ケーキを刺したフォークを婚約者に向けるシェリー様。
メルヴィン様は優しい(ぶっちゃけ、傍目から見ると何故かエロい)笑みを浮かべて、それをパクリっと口にする。
だけど、クリームがた〜っぷり乗っていたからか、口の横に白いクリームが付いてしまう。
シェリー様は「あっ」と目を瞬かせた。
「口の端に付いちゃってるわ」
「おっと」
メルヴィン様は、ぺろりっと唇の横を舐める。赤い舌がチラリと見える様は、無駄に艶かしい。
しかし、それだけでもクリームは完全には拭いきれなくて。まだ残ったクリームをシェリー様は指ですくって、自身の口に含んだ。
「んっ。甘いわね」
〝はふっ〟と甘い吐息を零した彼女を見て、メルヴィン様はクスッと笑う。
そして、耳元にそっと顔を近づけて……意地悪そうに笑いながら、囁いた。
「……多分、シェリーの方が甘いよ?」
「……っ! もう……メルヴィンったら」
「「『……………………』」」
…………。
……………………。
目の前で行われるイチャコラ(※エロさを添えて)に、私は砂糖吐きそうな気分になってゲンナリする。
……うん。いや、ね?
なんか流れで一緒にお茶することになったけどね?
今、めっちゃ後悔してる。ぶっちゃけ、今すぐこの場から去りたい。
だって……テラス席でこんなことしてるからさ?
行き交う人達が顔真っ赤にして走り去って行くんだよ? 若干数、前屈みいるからね?
よくこんなエロテロ起こしてて、カフェから追い出されないね?
本人達はそんな気がないんだろうけど、空気が昼間じゃなくて深夜帯のソレなんだよなぁ……。
まだ十代だった気がするんだけどな、シェリー様……。
この人達、外でのデートは絶対駄目だよ。
…………いや、室内デートする方がもっとヤバそうかも……? 人目がないから理性の箍が外れちゃう的な感じで。
「アリエス。大丈夫?」
思わず遠い目をしていた私の顔を上から覗き込むのは、私のことをお膝抱っこしているルイ君。
チラリと前を見てイチャイチャしてる二人を見た彼は大きな溜息を吐くと……私の身体をくるりっと回転させて、向き合うように体勢を変えた。
「えぅ?」
「二人を見てるのが嫌なんでしょう? なら、ボクだけを見てて?」
ーーにっこり。
ルイ君はどこか仄暗さを感じさせる笑顔で、そう告げる。その赤い瞳に揺れるのは……不安?
私はジッと、彼の瞳を見つめ続ける。
……なんか。最近、ルイ君がこうなるの、多い気がする。
……何が不安なんだろ?
「ボクだけ、ボクだけを……見てて」
「………私、ルイ君しかみてないと思うよ?」
「……うん。ずっと、ボクだけ見ててね。ずっと、ずっとね」
むぎゅう……。
……苦しくないけど、絶対に離さないと言わんばかりの強さで抱き締めてくる。
私は、ルイ君の背中に腕を回しながら考える。
……うん。やっぱり、変なんだよね……。
ヤンデレなのはもう分かってるし、この五年間でそれっぽい発言が徐々に増してて……でも、彼は私を害そうとするんじゃなくて、逆にでっろでろに甘やかしてくるから、普通に受け入れるようになっちゃって。
もうルイ君なしじゃ生きれなくなっちゃってる同然だから、不安に思う必要なんてないんだけどなぁ?
……まぁ。不安になってるとそれだけで、私のコトで頭いっぱいになるだろうから、一概に悪いって言えないんだけど。
でも、それでもルイ君には不安になって欲しくないという気持ちもある訳で。
私は「うーん」と唸りながら、首を傾げる。
すると……二人の世界に入ってたシェリー様が、困ってる私に気づいて声をかけてきた。
「……どうしたの、アリエスちゃん? 首を傾げて……すっごい可愛いけど、何か困りごと?」
「ルイ君が、へんだから」
「……んん? あぁ……それね。多分、あの子達がアリエスちゃんの側仕えになりたいって言ってるからじゃないかしら?」
「……あの子たち?」
「セルとメイサ、オリーの三人よ」
ーーぞわりっ!!
ルイ君から放たれる薄ら寒い威圧。
シェリー様達のエロエロ空気なんて一気に霧散するほどに濃密な怒り。
その場の空気が凍りついた気がした。
というか……本当に霜が降り始めてる。
私は困った顔をしながら、ルイ君を強く抱き締める。そしてーー……。
「ごめんなさい……誰でしたっけ?」
真面目に誰だか分からなかったから、普通に聞き返していた。
ーーずるりっ。
ルイ君が驚きのあまり椅子から落ちそうになる。けど、私を膝の上に乗せてるからかなんとか堪えて、なんとも言えない顔で私を見てくる。
ちょ、なぁに!? その阿呆な子を見るような目!
「えぇぇ……? なんで……なんで当事者だったアリエスの方が覚えてないの……? 五年前に操られて、アリエスを誘拐した子達だよ……?」
「んん? んー……? あっ……。傀儡師があやつってた子、そんな名前だったっけ?」
『ぴ〜よぴよぴよ。ぴっぴよ〜』
……ひよこぉ……なんでこのタイミングで、馬鹿にしてるように鳴くの……。
頭の上に乗ったひよこを掴もうとして逃げられる私を見たシェリー様は、苦笑を零す。
「……アリエスちゃんは、名前を覚えてなかった感じなのね?」
その質問に、私は頷く。
いや、だって……。
「ぶっちゃけ、あやつられてた人よりもあやつってた側の衝撃が強すぎて……」
……。
…………。
「あぁ……確かに……」
私の言葉に納得するルイ君と、会ったことがないから「そうなのねぇ」と呟くシェリー様。あ、「へぇ〜」って頷いてるメルヴィン様も私が誘拐されたのご存知なんですね。
「君はシェリーとわたしを結んでくれたヒトだから、色々と話を聞いているんだ。何か恩返しができるようにってね」
ーーちらりっと振り返ってみれば、艶やかに笑っているメルヴィン様。
…………読・心・術っ!!
普通に人の心読んできやがった、この人!! 待って!? 今の私、ルイ君と向き合ってるから顔も見せてなかったんだと思うんだけど!?
「読心術じゃないよ? そんな感じかなって言葉に出しただけ」
「流石だわ、メルヴィン!」
「君の婚約者として相応しいように、頑張ってるだけだよ」
そう言ってキャキャウフフし始める二人。
……いや、ね?
充分、読心術だよ!! それはっっ!!
まぁ……チート一家のご令嬢の婚約者だもんね。もうそういうもんだって諦めた方が良いんだろうな……。
「という訳で……恩人のためならば一肌でも二肌でも脱ぎますので。わたしに協力できることがあったら、なんでも言ってくださいね。ルイ様」
「アリエスに気がなければ協力してもらうよ」
「わたしの最愛はシェリーだけなので、問題ありませんよ」
「きゃっ……♡ メルヴィンったら! わたくしの最愛も貴方だけよ!」
「ありがとう、シェリー……愛しているよ」
手を取り合って笑い合うお色気系美少女と美少年(?)。うわぁー。一瞬でゲロ甘ワールドぉ……。
………まぁ、何はともかく。
私、本当にあの三人のことを忘れてたなぁ……。
セル、メイサ、オリー。エクリュ侯爵家の使用人の子供。
実際に操られていたのはオリーだけだったけど……彼に扇動されて、セルとメイサっていう子達も私の誘拐に加担した。
専属侍女だったセリナは、セルのお姉ちゃんだったから……責任を取って専属を離れることになって。
あれから五年ーー。
あの三人にも接触禁止令が出てたみたいだけど……なんで今更そんな話が?
そんな疑問を抱いてふにゃふにゃ揺れてたからか……残念美少女だけど、空気も読めるシェリー様がその疑問に答えてくれる。
「あれから五年ーー。あの三人ったら、自分達がアリエスちゃんに酷いことしちゃったから……側仕えになって罪滅ぼしするんだって拗らせちゃってるみたいなのよねぇ」
「こじらせてる」
「シェリーの言う通りだね。普通なら……自分を危険に晒した人を側仕えになんて選ぶはずがないって思い至りそうだけど……なんでそうならないのかな?」
あっ、結構メルヴィン様も毒舌だ。
「……あのガキ……絶対にアリエスに気があるんだよ……五年前もそうだったし……アリエスの側にいたいから。近づきたいから、そう言ってるだけだよ。本当に贖罪するつもりなら、接触しようとしないはずだから」
………おぅ……。
ルイ君の巻きついた腕に込められた力がちょっと増す。まぁ、あんまり苦しくはないけどね。
でも、なるなる。成る程ね。
だから、ルイ君がここ最近おかしかった……と。
「つまり、私のことを好きそうな子が近づきそーだったから、ルイ君は変に……正確に言うと、イライラしてたと」
「…………まぁ、うん」
「それが、さっき(※前話参照)の他のだれかに取られちゃうかもしれないから不安……って話につながると?」
「……そう。アリエスと同年代の子が近くに来たら、アリエスが他の人を好きになっちゃうかもしれないって……。アリエスを取られちゃうかもしれないって不安なんだよ」
私は〝ふっ〟と小さく笑う。
そしてーージト目でルイ君を睨んだ。
「…………ルイ君。私のこと、ここまであまあまデロデロに依存させといて……そんなこという?」
「…………えっ」
私の言葉にルイ君は驚いた顔をする。
いや、何その顔? まるで予想外でしたって言わんばかりのーー。
「あら、やだ。アリエスちゃんったら、叔父様がしてること分かってて受け入れてたのね」
シェリー様にそう言われて、ルイ君はピクッと微かに身体を震わせる。
え? まさか、今まで私は気づかずにいたとでも思ってたの?
いやいやいや。逆にですよ? 分からないはずがないじゃないですか。
「どんかん系ではないからルイ君のしてることが、かな〜り普通じゃないのはわかってたよ? というか、私、みため子供だけど大人だからね? あの一件で、ちょっと死のきょーふにビビって精神ふあんてーになったけど……だとしても、トイレ以外は四六時ちゅう一緒とか……ねぇ? 普通にふつーじゃないよね」
「………分かってて、受け入れてたの?」
「まぁ、うん。だって、実害ないし」
「「「じつがい」」」
「それに……ルイ君に想われるの、〝ここにいて〟って言われてるみたいで安心するから」
「っ!」
ルイ君の目が大きく見開かれる。それを見て思う。
……やっぱり、ルイ君は何か知ってるのかな? って。
…………ここ最近、私という存在が妙にふわふわしてる気がする。
地に足がつかない心地って言うのかな?
まるで、私が私じゃないように思える時もある。
だけど、ルイ君からアリエスに重い感情が向けられる時は。
その想いが重しになるように、ちゃんと私がという存在が安定する。
……なんで話してくれないのって思いもするけど、ルイ君が何も言わないってことは……些事なのか。私に余計な心配をさせないためなのかな。
或いは、どんなことになろうとも変わらないって思ってる?
まぁ……ルイ君はがどう思っていようが、私を大切にしてくれているのは本当だし。この重みに慣れてしまったのも本当だし。
……口に出した気持ちも本当だから、まぁ良いとしよう。うん。
「ルイ君」
「……なぁに」
「私、きっとルイ君といっしょう離れられないよ。というか、離すつもりないでしょ?」
「…………うん。離れようとしたら、監禁する」
ゾッとするほどに冷たい瞳。どこまでも本気の言葉。
私はにっこりと笑って、ぎゅーっ! と抱きついた。
「なら問題ないね。でも、離れないからかんきんは止めてほしいな? さすがに外にでれないのは飽きるから」
「……なら、監禁しないよ」
「ありがとー」
背後から聞こえた「やっだ〜! アリエスちゃんも我が家に染まってるわぁ〜」というシェリー様の声は、取り敢えず無視しといた。
五年も一緒にいれば染まるに決まってるでしょ?




