第37話 精霊王付属系ヤンデレは伝染するようです。
ネロ→アリエス目線。
おやっ……アリエスの様子が……?
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何度も繰り返すけれど、わたくしはわたくしの家族が大っ嫌いだわ。
だって、今の今まで散々文句を言って来たのに……トゥーザ侯爵家から正式に婚約の申し込みがきたら、簡単に手の平を返したんだもの。
「まぁまぁまぁ! 次期精霊術師団の団長と名高いサイラス様からネロに婚約を申し込まれるなんて……なんて誇らしいことかしら!」
夕食の席。
豪奢な真紅のドレスを纏った金髪碧眼の母が、今までにないくらい上機嫌に微笑む。
その隣に座ったわたくしとよく似たお父様は……口元をナプキンで拭きながら、質問してきた。
「一体、どこで縁があったのだ?」
わたくしは口に含んだステーキを食べ終えてから、大人しく答える。
どうやら軍部に用事があって来た時に一目惚れしたらしいと。
すると、お母様似の兄達がニヤニヤと愉悦に滲んだ笑みを隠さずにわたくしに告げたわ。
「なら、お前は軍部を辞めるんだな」
「婚姻するんだ、当然だろう」
「わたくし、軍部を辞めるつもりはありませんわ」
「「「「は?」」」」
流石に予想外だったのか、兄二人だけでなく両親も呆然としたわ。
一番最初に我に返ったのはお父様。
「何を言っているんだ! 家庭に入るのならば、仕事など辞めるのが普通だろう! ただでさえ行き遅れと言っても過言ではないのにっ……!」
わたくしの年齢は二十一歳。
この国では、大体は十四歳(成人)〜十九歳(学園卒業後一年ほど)が結婚適齢期になる。
つまり、わたくしは立派な行き遅れ。
でも、サイラスは約束してくれたの。
「サイラス様は軍人を続けてくださって構わないと言ってくれたわ。だから、辞めないわ」
「女のクセに生意気だぞっ!」
「ふざけるな、ネロ!」
あぁ、煩わしいったらありゃしない。
妹の方が優れているからって、妬まないで欲しいわ。
でも、残念だったわね、お兄様方。目障りなわたくしが、軍部から消えなくて。
いいえ、簡単に消えてなんかやらないわ。
わたくしは、今の仕事を気に入っているんだもの。
「サイラスがいない状況で、この話をしても無意味だわ。どうせ、婚約の顔合わせがあるのでしょう? その時に話し合いましょうよ」
食事を終えたわたくしはナプキンで口元を拭ってから、食後の祈りをする。
そして、「先に失礼させていただきますわ」と告げてから、食堂を後にする。
後ろから待つように声がかけられたけれど、わたくしはそれを無視して足を進める。
でも……この時、わたくしは一度でも振り返るべきだったのかもしれない。
そうすれば……この後に起こる悲劇を、回避できたかもしれなかったのだから。
*****
雲一つない空は絶好のお出かけ日和。
最近お気に入りの薄桃色のワンピースを着た私は、ルイ君に抱っこされながら……休日の王都(カフェとかお洒落なお店が並ぶエリア)を散策していた。
………デートですかって? まぁ、デートと言っても過言ではないですヨ。えぇ、はい。
「アリエス? ぼーっとしてどうしたの?」
私を片手で抱き上げたルイ君は、心配そうな顔をしながら顔を覗き込んでくる。
艶々とした漆黒の髪に、陽の光を受けて輝く真紅の瞳。
すれ違う人達が振り向くほどに綺麗な顔をしたルイ君をジッと見つめて、私は首を横に振った。
「ううん、なんでもない」
「本当に? 無理しちゃ駄目だよ? 帰る?」
「いや、ほんとーに大丈夫だから! かえらない!」
折角のお出かけだもん。直ぐに帰るのは勿体無さすぎる。
ルイ君は私の気持ちを分かってくれたからか、「具合が悪くなったら直ぐに言ってね」と言って再度歩き出す。
今日は休日だからか、出かけている人が多い。
本当は自分の足で歩きたいんだけど……私、小ちゃいし。人が多すぎてルイ君と速攻離れちゃう(……はい。実際にはぐれかけました)から、人が多い時は抱っこスタイルがデフォになりました。まぁ、慣れたよね。
あぁ、ついでに……ルイ君の顔の良さで集まる視線にも慣れた。後、私の頭上。ひよこへの視線。
よく『ぴっぴよぴよぴよ〜』って歌ってるから、周りの人達が〝ひよこ!? 何故、ひよこ……!?〟って視線も集まるんだよね……。
ぶっちゃけ頭に乗るのが当たり前になりすぎて、存在忘れる……。
という訳で。ひよこを乗せた幼女を片手抱っこするイケメン。
これが注目されないはずがないんだわ〜。
でも……今日はそんなことはないみたい。
「「……………」」
行き交う人達の大体の男の人達が前屈みになってて。女の人達は顔を真っ赤にして逃げ出すように走っているか、とんでもなく険しい顔して歩いている(※なお、その後を顔面蒼白になった男の人が追いかけてる)。
「「……………」」
私とルイ君は顔を見合わせる。
こういう時の嫌な予感って無駄に当たっちゃうんだよね……うん。
『ぴよ!』
頭に乗ったひよこが〝ねぇ、あそこ!〟と言わんばかりにぴよぴよ鳴く。
嫌々顔を動かせば……視線の先にあったのは、テラス席のあるカフェ。
そのテラスの一角でとんでもない色気を醸し出しているカップルが一組。
「………」
「………」
まだ微妙に距離があるから会話は聞き取れないけれど、隣同士で座っているカップルからは楽しげな様子が……うん、嘘です。カフェに似合わない妖しい感じのムードが出来上がってやがる。
ピンクじゃなくて、パープルな感じね。
……成る程。男の人達の前屈みの理由は、コレカナ? ……ウン、コレダネ。
陽の光を受けて輝くストロベリーブロンドと妖しい光を宿した真紅の瞳。
露出の少ないネイビーのワンピースドレスだと言うのに、十三歳にして既に豊満になっている胸元が隠し切れてない!
隣に座った男性は、濃紫色の髪と瞳。一般的なワイシャツとズボンという格好なのに……こちらも無駄に色気が隠し切れてねぇ!!
色気キャラと色気キャラが合わさるとただのエロテロだわ!!
でも……それはあくまで見た目だけの話であって。
「あっ、気づかれた……」
ルイ君の嫌そうな呟きと共に、二人の視線がゆっくりとこちらを向く。
大きく見開かれる真紅の瞳。そして、次の瞬間ーー。
「アリエスちゃぁぁぁぁんっっ!!」
残念美少女ことシェリー様がめっちゃ良い笑顔で駆け寄ってきた。
「させるか!」
「んぐっ!?」
ーーガシッ!!
シェリー様の頭にアイアンクローを決めたルイ君は、そのまま流れるようにポイっと投げ返す。
その先にいるのは慣れた様子で待機していた濃紫色の髪の男性……そうシェリー様の婚約者であるメルヴィン・フェルー様。
メルヴィン様は飛んできたシェリー様をお姫様キャッチすると、色気全開の笑みを浮かべて会釈した。
「こんにちは、ルイ様。アリエス様。いつもシェリーがすみません」
色気ムンムンなのに無駄に腰が低くて、丁寧な謝罪。
……相変わらずこのギャップの凄さは何回見ても慣れないわ〜。
見た目お色気なのに、性格は真面目とか……ねぇ?
なんかこう、言葉で表現できないくらい慣れない。
「こんにちは、メルヴィン。いつものことだからきにしなくていい。というか、君が一緒にいる時は君に丸投げできるから助かってるぐらいだよ?」
うん。ルイ君ったら、サラッと酷いこと言ってるな?
まぁ、確かに……残念美少女であるシェリー様のことはメルヴィン様に任せると凄い楽だって、この五年でよぉ〜く学んだけど。
あ、取り敢えず挨拶。
「こんにちは、メルヴィン様。デートの邪魔しちゃってごめんなさい」
「いえいえ、大丈夫ですよ。シェリーのアリエス様好きは今に始まった話ではありませんし」
「あはは……」
「…………」
ーーひやりっ。
無言のルイ君の、瞳孔開き切った目がシェリー様を捉える。
……私に向けられた訳じゃないのに、めっちゃ背筋がヒンヤリとする。
彼の真っ赤な目を覗き込めば、そこには一ミリも自惚れではなく。本気で〝渡す気はない〟と言わんばかりの敵意が浮かんでいて。
……うん……最近、こういう執着心、隠さなくなってきたな? いや、まぁ……。うん。こんなルイ君に慣れてしまった私がいる訳で……。
まぁ、取り敢えず……。
「ルイ君」
「ん? なーに?」
「私、ルイ君といるよ? しんぱいしなくて、いいよ?」
にっこりと笑って彼の首に腕を回せば、纏っていた冷気が和らぐ。シェリー様もそれに同意するように頷いて……。
「そうよ、心配しなくていいの! わたくしがアリエスちゃんを取る訳ないでしょう!? わたくしの最愛はメルヴィンだけだもの!」
「…………シェリー……あぁっ……! シェリー! 愛しい人っ……!」
「メルヴィンっ……!」
…………なんか、向こうでは超ムーディーな空気が流れ始めてるね……。
まだ昼間なのに、シェリー様達の周りだけ夜みたいなんだけど……。
それを見たルイ君は、流石のシェリー様も私を取る気がないと理解したのか苦笑を零す。そして、私に甘えるように頭を擦り寄せてきた。
「あんしんした?」
「……アリエスは可愛いから。シェリーじゃなくても、いつ誰に取られちゃうか分からなくて不安なのは変わらないよ」
「…………」
…………いや、そんなこと言われても……私、ルイ君から離れるつもりなんて一切考えないんだけど……?
というか、ルイ君自体が私を離す気ないじゃん。
この五年で、どろっどろに甘やかされて。甘やかされまくって。ルイ君無しでは生きられないようにさせられちゃった気がするんだけどな?
………まぁ、いっか。
「………ちょーき的かいけつを、期待ってことで」
「………?」
「なんでもないよ?」
私は彼の首に腕を回して抱きつく。
ルイ君と一緒にいたから、ちょっとずつその性質が移っちゃったみたい。
こんな風に私のことで不安になればなるほど、ずーっと……私のこと、考えていてくれるよね。……なんて、思うようになっちゃった私も、相当毒されてる。
私は、ルイ君に顔が見られないのをいいことに悪〜い顔で、笑うのだった。




