第1話 名前をもらいました。
本日はここまで〜。
明日も更新するよ〜。
ルイ君が私を連れて帰った場所は……それはもう大きなお屋敷でした。
…………え?
「どうしたの?」
ルイ君はこてんっと首を傾げるけど、いや、あの、ね?
だって、さっきは森にいたじゃん?
なのに瞬きしたらこの大きなお屋敷の前よ?
何ここ、どこですか。どうやったんですか。どこのお屋敷ですか。
西洋ですか、お家にしては大きくないっすかねっっっ!?
「…………えっと……ちょっと意思疎通が面倒くさいから、心を読んでもいい?」
「あうあうあー(心を読む)?」
「そう。精霊術で」
………せいれいじゅつってなんだろ……。
よく分からないけど、意思疎通がもっと上手くいくなら……いいかな?
「だう(いいよ)」
「ありがとう」
返事をすると、ルイ君と私がパァッ……って柔らかい光に包まれる。
えっ、何これ!? 凄く綺麗!
「うん……これで大丈夫。君が読まれたくないって強く思ってたら読めなくしたから……いつでも心を読む訳じゃないよ。プライバシー……だっけ? それは守られたかな」
…………え?
この世界にもプライバシーなる概念があるんですか?
「あぁ、義姉様に教えてもらったんだ。これから会えるよ」
どうやら本当に私の心を呼んでるみたい。
ルイ君はスタスタと屋敷の中に入って行って、私が興味を示した絵画とか見たことがない花とかの説明をしてくれる。
そして辿り着いた豪奢な扉の前。
ルイ君はトントントンッと扉をノックした。
「兄様、いる?」
『いるよ。入っておいで』
中から声がして、ルイ君はガチャッと扉を開けて中に入る。
そこにいたのは……それはもう凄かった。
いや、ルイ君も凄く顔がキラキラしてるんだけど……中にいる人達の顔も凄い。
ルイ君によく似た黒髪赤目の魔性美青年さんと……ストロベリーブロンドって言うのかな? 葡萄酒色と翡翠のオッドアイのこれまた美少女さん。
あんまりにも美しいもんだから、言葉が失くなるよね。
ソファに隣り合って座ってるだけで名画みたいだよ!
絵にもかけない美しさってコレだよ!
「どうした……ん…………」
「…………あら……」
二人はルイ君に抱っこされた私を見て目を見開く。
そして、凍えるような冷たい目をルイ君に向けました。
こっっわっっっ!?
「ルイ。どこの令嬢に手を出したんだ? 拉致監禁してないだろうな? ちゃんと同意の上でしているだろうな?」
「ルイ君。流石に結婚もしていないのに子供を作るのは駄目だと思うのよ。監禁してたの?」
「兄様も義姉様もボクをなんだと思ってんの?」
「「ヤンデレ好きとヤンデレの息子。ヤンデレ予備軍」」
「流石にまだしてないよ」
…………えっと……これはツッコミを入れていい感じですか?
まず会話の前提がルイ君が何かやらかす前提っすね。
つーか、拉致監禁って……ヤンデレって……。
えっ? こんなに優しいルイ君ってヤンデレなの?
好きな女の子を拉致監禁しちゃうタイプなの?
怖くね? つーか、〝まだしてないよ〟ってどゆことっっっ!?
「……ほら……この子にも勘違いされちゃったじゃん。止めてよ、子供(?)の教育に悪いよ」
ルイ君はムスッとした様子でお兄さん達を睨む。
すると、二人はまた驚いたように目を見開いた。
「もう自我があるの? 生まれたての赤子にしか見えないんだが?」
「あら……ちょっと視せて頂戴ね?」
キラキラ美少女さんが立ち上がって私の前に来る。
そして、ふわりとおでこに触るとルイ君が見せてくれた光みたいなのが私を包み込んだ。
「あら……貴女も転生者なのね」
「っっっ!?」
私は息を飲む。
だって、今、貴女もって言った!
ってことは……。
「初めまして。私の名前はシエラ。貴女と同じ転生者よ」
「……………」
だばーーーーっ!
再度、私のお目々が大・洪・水!
だって、まさか同じ境遇の人にこんな直ぐに会えるなんて思わなかったんだもん!
ルイ君、本気でありがとうございます!
貴方は私の救世主です!
「うん、どう致しまして。取り敢えず、座らない?」
あ、どうぞどうぞ!
座ってください!
シエラさんは元の位置に戻って、ルイ君は向かい合うように反対側のソファに座る。
そんな私はルイ君のお膝の上。
シエラさんは私を見て優しく微笑んだ。
「改めまして。私の名前はシエラ・エクリュ。隣にいるルインの妻よ」
「俺の名前はルイン・エクリュ。軍人でもあるけど、元侯爵でもあるんだ。ルイとは兄弟の関係だよ」
…………こうしゃく……侯爵?
つまり……貴族っっ!?
「それで、貴女のお名前は?」
…………あっ……。
シエラさん(……様の方がいいのかな?)に聞かれたけど、私は答えられない。
だって……私は名前を与えられる前に……。
ふわりと柔らかな手が私の頭を撫でる。
ちょっと首を上げると……優しい顔をしたルイ君が慰めるように頭を撫でてくれていた。
「実はこの子、親に捨てられたみたいなんだ」
「「っっっ!?」」
「それも見て分かるように、この子はエルフだ」
………えるふ?
キョトンとしたのが分かったのか、ルイ君は私の前でくるりっと円を描く。
すると、目の前に光が集まって、ポンッと小気味いい音と共に鏡が現れた。
「だぁうっ……(うわっ……)!?」
鏡に映った私の姿。
それはまるで、物語に出てくるエルフそのもの。
赤ちゃんだから顔立ちはぷくぷくしているけれど、整った顔立ち。
とんがった耳に、キラキラと輝くコバルトグリーン色の瞳。
そして……僅かに生えた薄水色の髪。
まさにファンタジー。まさにエルフ。
本当に、異世界で生まれ変わったんだ……!
「…………でも……こんな生まれたばかりの子供を捨てるなんて……」
ルイン様がとても腹立たしそうな顔でポツリと呟く。
そして、すっっごいドスの利いた声で呟いた。
「相っっ変わらずクズだな……エルフは」
………兄弟で同じこと言ってますネ。
なんですか? エルフに恨みでもあるんですか?
「兄様とボクはハーフエルフなんだよ。エルフは閉鎖的で純血を重んじる。ボクの時はそんなんでもなかったけど、兄様なんかエルフに殺されかけたからね」
「まぁ、殺されかけたお陰でシエラに会えたから……少しだけは感謝してるけどね」
「もう……ルインったら」
チュチュッと私と弟君の前だというのに容赦なくイチャつき始める二人。
…………思わず据わった目をしちゃったよね、うん。
「この二人のイチャつきは気にしたら負けだから。どこでもこうだから」
マジかよ。
「まぁ……とにかく。君が捨てられたのも、仕方ないって諦めて」
…………つまり……生まれたばかりの私を捨てるような排他的な理由があったってことだよね……。
…………ハーフだからって迫害されてたルイ君達はそれが分かってるのかな?
だけど、敢えて言わないってことは……私が傷つかないようにって配慮なのかな……。
…………精神が大人だから気づいちゃったけど、優しい人達……なんだろうな。
ルイ君は私をバッと見ると、驚いたように目を見開く。
そして……〝失敗した〟と言わんばかりに顔を歪めた。
「…………ごめん、気づいちゃったか。いや、ボクらの迂闊な発言の所為だ。ごめんね」
あ、心の声……。
「………捨てられた理由、聞きたい?」
…………捨てられた理由、かぁ……。
そう聞かれると返事に困っちゃうかな。
でも、聞かなくていいや。捨てられてしまったものは仕方ない。
その代わりにルイ君に助けてもらえたし。
捨てた親を気にする必要はないよ。向こうが捨てるなら、私も捨てるだけだから。
「悲しくない? 大丈夫?」
悲しむほどの絆もないよ。
産んでもらえたことには感謝してるけど……親となんの記憶もない以上、他人に近しいよ。
「そっか。なら、いいんだ。余りにも悲しい思いをしているようなら、親の存在でも消してあげようかと思ったから」
……………え?
思わず固まる私に、ルイ君はにっこりと笑う。
…………今……なんて言った……?
記憶を、消す?
「ルイ。そういう考えは親父に似てるよ。止めた方がいい」
「うわっ、本当? ごめんごめん、さっきの言葉はなしね」
未だに呆然としたままの私に、ルイ君は変わらぬ笑顔を向けてくれる。
だけど……助けてくれた恩人だけど、私はちょっと恐怖を覚えていた。
だって、簡単に人の記憶を消そうとするんだよ?
怖くない方がおかしいじゃん。
「……怖がらせちゃったかな」
ビクリッ!
身体が震えて、動揺する。
あぁ、そうだった。ルイ君は私の心を読めるんだった……。
「ごめんね。ボクと兄様の父親は精霊王……所謂、神様で。ボク、兄様より父様と長く暮らしてたから……考え方が人外基準って言うのかな? 神様目線になっちゃってるって言うのかな? とにかく、かなり変らしいんだ。今は兄様達と暮らしてて、その考え方の矯正中なんだよ」
…………え?
その爆弾発言に私の頭はフリーズする。
いや、待って。
ちょっと、意味が……かみさま?
…………神様ぁっ!?
「だうっ(嘘っ)!?」
「それが嘘じゃないのよねぇ。ルインとルイ君のお父様は精霊王……この世界を管理している神様なの。そんなお父様の影響でルイ君、時々考え方がぶっ飛んでるのよ」
シエラ様はのほほんっと告げるけど……ルイ君兄弟は半分だけ神様ってことっ!?
そりゃ考え方もぶっ飛ぶかもしれないっすね!?
神様は人の考えが及ばない領域にいるって言うし!
「だから、時々怖がらせちゃうかもだけど……言ってくれれば直すし、本当にするかどうかは別だから。そんなに怖がらないで欲しいな」
ルイ君はちょっと悲しげに言う。
…………まぁ、うん。そんなんじゃ仕方ない、かな?
……自分の適応能力の高さに驚くけど、まぁ、うん。取り敢えず、納得。
ルイ君がぶっ飛んでること言ったら、バンバン指摘しよっと。
「取り敢えず……なんの知識もないみたいだから、ちゃんと最初から全てを説明した方がいいわよね。ルイ君、何か説明はした?」
「いや、何も」
「そう……なら、まずは名前を決めるところからね」
シエラ様に言われてハッとする。
名前がなければ不便だもんね……。
すると、ルイ君が「あのさ……」と恐る恐る声をかけてくる。
私が心の中で〝何?〟って聞くと、ゆっくりと告げた。
「名前……〝アリエス〟はどうかな?」
どくんっ!
その名前を聞いて、何故か私の心臓が高鳴る。
なんだろ……よく分からないけど、その名前は……酷くしっくりくる。
「………………驚いた……ルイの癖にまともな名前だ」
「…………ネーミングセンス皆無なルイ君にしては珍しいわね」
ルイ君、ネーミングセンスないんだね?
なのに、すっごいいい名前だよね。
「だうっ! あーぅあぅ、だうだぁっ(うんっ! 私はアリエスだよっ)!」
ひとまず、私の名前はアリエスに決定した。