第32話 面倒ごとが様変わりすると、なんかマトモそうな家庭教師になりました。
2話目‼︎
※ルイ君の常識ズレが出てきます。
それでは、本日2話目もよろしくどうぞっ( ^∀^)ノ
わたくしは困惑せずにいられなかった。
だって、ルイ様だけじゃなくてお父様にまで、消すなんて言われたんだもの。
だけど、その後に聞いた話で思わず納得してしまったわ。
お母様の不義。そして、血の繋がっていない娘。
あぁ……信じたくなかった。信じられなかった。
だって、ずっとお父様の子だと思っていたのだもの。
けれど、現実はどうでもいいから放置していたに過ぎなくて。
利用価値があるかもしれないから、何も言わずに家に置いていただけに過ぎなかった。
そして……ルイ様もまた、同じ。
あんなにアプローチしていたのに、ルイ様には何一つ届いてなくて。
……冷静になった今、考えてみれば確かにそうだったのねって理解できる。
ルイ様が冷たかったのは、素直になれなかったからじゃない。
わたくしに興味がなかったから。
なのに、わたくしは恋で盲目になって……自分に都合が良いように解釈してしまっていた。
だから、愚かなわたくしは彼の逆鱗に触れた。
ルイ様が大切にしているのは、アリエス様だけ。
だから、彼女に何かあれば……彼は怒る。誰かを殺すことも躊躇わない。
それほどまでに、アリエス様を愛している……。
本当に、わたくしのことはどうでも良かったのだと見せつけられているようだわ。
なんて……なんてわたくしは、滑稽なのかしら……?
もう……いいわ。
わたくしなんて、簡単に消えていい存在だと言うのなら……大人しく消えましょう。
怖くて、涙が止まらないけれど。
好きだった人に興味がないと言われて悲しいけれど。
もう……どうでもいいわ。
だから、わたくしは泣きながら待つ。
わたくしの辿るであろう未来を。
そしてーー……。
*****
ルイン様とメルトさんが退室した後の応接室ーー。
残された私とルイ君、メルンダさんwithメイドさんは、黙り込んでいた。
どれぐらい沈黙してたかな?
何十分とまではいかなかったと思うけれど……一番初めに沈黙を破ったのは、メルンダさんだった。
「…………何故、わたくしを殺さなかったの……?」
メルンダさんは探るような視線を私に向ける。
まぁ、うん。そうなるよね。
私が要求したのは……〝メルンダさんに私の住み込み家庭教師になってもらう〟ということ。
…………うん。そりゃあ予想外だろうね……。
でも、あのままにできないじゃん? モルプ侯爵家にいても、よくなさそうだし。
なら、引き取るしかないじゃないですか(※ルイン様には許可をもらってるし、ある意味はエクリュ侯爵家との繋がりになったからメルトさんもオッケー出た)。
というかですよ……?
「……逆にききますけど、なんであそこで殺すを選ぶとおもったんですか……?」
「だって……お父さ……モルプ侯爵もルイ様もわたくしを……」
「いや、それはかなりとくしゅだから。ふつーは選ばないから。かんがえて? 人の機嫌をうかがうために殺すとか……ふつーにないでしょ? それに、メルンダさんはべつに死にたいってわけじゃないでしょう?」
「………死にたい……? そう……ね。わたくし……死んだ方がいいのかしら……もう、どうでもいい、わ……」
……絶望顔をするメルンダさんを見て、私は頬を引き攣らせる。
完全に心が折れてるじゃん。自暴自棄になってるよ……。
でも、ちょっとその言葉は受け入れられないかな。自分で聞いといてだけど。
「あのですねぇ」
「…………えぇ」
「世のなか、いろいろと理不尽があります」
「…………」
急な話の振り方に彼女は、目を丸くする。
「親にすてられて、こじになった子がいます。生まれたときから親がいない子も……いろいろいます。あなたよりおさない子が親からぼうりょくを振るわれたり、死ねといわれたりします。だから、あなただけじゃないです」
「…………そう、なの……?」
「そうですよ。えらそーに言えるみぶんじゃありませんけどね」
「いや。アリエスだって捨てられてるじゃん。それも、赤ちゃんの時に獣に喰べられそうになってたし」
……。
………。
「…………そうだった!?」
「えっ!?!?」
私の言葉にメルンダさんは驚愕する。はい、忘れるようなことじゃないですね。
でも、ルイ君に言われて(今世の)親に捨てられたって思い出したんだよぅ!
そして、彼に助けられてなかったら死んでたね!?
いや、でも……結局。ルイ君に拾ってもらえて良い暮らしさせてもらってるから、偉いこと言えないかな?
「まぁ、私のことはおいといて」
「置いとくことなのかしら……?」
「いいんです、ルイ君に拾ってもらえたいまが幸せなので」
「アリエス……」
頭上からとろりっと甘ったるい声が聞こえたかと思うと、むぎゅうっと後ろから優しく抱き締めてくる。
………ルイ君。今は抱き着くシーンじゃないから。
君が拗れさせた一人だからね?
私はちょっとジトっと睨んでから、話に戻る。
「それにね? 男はルイ君だけじゃありません。振られたぐらいでせかいが終わるわけでもないし、死んだらそこまでなんですよ? つーわけで、じぼうじきは止めなさい。いきろ」
「わたくし……」
メルンダさんはそっと目を伏せて、黙り込む。
本当はもっと良いこと言えたらいいんだろうけど、生憎と私はそこまで頭がよくないから。
立ち直るのは自力で頑張って頂くってことで。
「まぁ、とにかくですよ。これから私のかてーきょうしをしながら、自分のことをかんがえると良いですよ。いろいろと忘れて、ね?」
「…………アリエス様」
「はい?」
「……ごめん、なさい。さっきは……理不尽に怒って」
「…………」
ーーぺこりっ。
頭を深く下げたメルンダさんは、さっきの理不尽なことを言ってた人と同じとは見えなくて。
凄い変わり様に私は目を瞬かせる。ううん、もしかしてだけど……メルンダさんは素は本当はこっちで。あっちは恋に浮かれちゃってた状態だったのかな?
顔を上げた彼女は、憑き物が落ちたかのような苦笑を零した。
「……まだ、立ち直っていないけれど。わたくしは貴女様に命を救ってもらったのだもの。アリエス様に恩返しができるように頑張るわ」
…………おぉう……。
どうしよう……ルイ君とメルトさんが中々にアレだったから、普通の反応した私がメルンダさんの中で聖人認定されてる気がするぅ……。
彼女はルイ君の方を見て少しだけ強張った顔をする。けれど、彼にもしっかり頭を下げて謝罪した。
「ルイ様も、長い間失礼致しました。もう、二度と……貴方に付きまといません」
「……? あんた、ボクに付きまとってたの?」
「っ……!」
「ルイ君っ!」
メルンダさんは傷ついたように息を飲む。
こんな時にズレた発言しないで欲しいなぁっ!? 落ち着きかけたのに、火に油を注がないのっ!
だけど……次の発言で、私達は言葉を失った。
「ボク、精霊寄りな所為か人の顔が認識できないって言うか……覚えられないって言うか。誰が誰とか分からないし、あんたが付きまとってたの知らなかったから、気にしなくていいよ」
「「…………え?」」
ルイ君の言葉に、私達は固まる。
待って……?
「ルイ君……だれがだれって、分からないの?」
「うん。精霊は全が個、個が全だからね。区別する必要なんてなかったから……識別するってのが慣れなくて。あぁ、でも。アリエスはちゃんと分かるよ。安心してね」
「逆に分かるのはだれ!?」
「えーっと……アリエスでしょう? 家族とエクリュ侯爵家関係者、国王と総帥と……サリュ君。後は、隊長と副隊長、ゲイルくらい? 名前は分かっても、顔と一致してるのはそれぐらいかな? まぁ、結局名前も忘れることが多いけど」
「「……………」」
「兄様に〝それも普通とはズレてるからね〟って言われて……あっ。言っとくけど、これでも頑張った方だからね? 最初は父様も兄様も認識できなかったんだから」
……マジかぁ……改めてルイ君のズレ具合を知ったわ……。
父親もルイン様も認識できなかったって、相当だよね?
というかさ。……ルイ君を好きな人はまず認識してもらうところから始めなきゃいけないから、めっちゃ大変じゃん……。
メルンダさんも好き嫌い興味ない以前に、認識してもらえないという事実が衝撃だったのか……思わず真顔になっていた。
「………なんか、驚きすぎて逆に〝これでは仕方ないわね〟と思いますわ」
「……うん。そうなると思うよ……?」
「まだ少し……胸が痛むけれど。ここまで認識されていなかったと知れれば、もう二度とアプローチしようなんて思いませんわ」
「メルンダさん……」
「アリエス様が関わって初めて認識されたんですもの。わたくし自身には望みすらなかったのね」
目尻を拭いながらも……きっぱりと諦めたのか、スッキリとした顔をしたメルンダさん。
ルイ君はよく分からないって顔をしてたけど……今回は彼は無視!
彼女はソファから立ち上がると……深く頭を下げる。
そして……。
「今後はアリエス様の家庭教師として、頑張らせて頂きます。どうぞよろしくお願い致しますわ」
優雅にカーテシーをしながら、そう宣言した。




