第31話 面倒ごとは闇深案件でした。
【注意】タイトル通り、ヤベェ闇深新キャラが出てきます。
苦手な人は逃げよーう!
それでは、今後ともよろしくどうぞっ!
本日は二話更新!
ぼく、メルト・モルプが仕事をしていた最中ーー急に頭の中に声が響いた。
『やぁ、モルプ将軍。ルイン・エクリュだよ。話があるんだけど、ちょっといい?』
精霊術による念話に、ぼくは目を瞬かせる。
あらら。
とうとうきちゃったかな?
『来れるようなら第三応接室に来てくれる?』
「はいはい〜。行っきまーす」
来てくれる? なんて言ってるけど、実質来いって言ってるよーなもんだよね。
まぁ、でも……今回は仕方ないかなぁ。
ぼくは執務室にいた他の子達にちょっと応接室に行くことを告げて、軽やかな足取りで廊下を進む。
この先にいるであろう……ぼくと同じ、化物の元へ。
*****
…………なんか、とんでもなく微妙な(気不味い?)空気が流れていた。
流石にあのまま訓練場にはいれなかった(私が恥ずかしくていられなかったとも言う)から、応接室に移動した。だけど、密室になっちゃったから逃げ道がなくなっちゃって。
……訓練場にいる時よりも、空気がヤバいよ……。
こちらのソファには私を膝に乗せて、私の髪を弄りながらニコニコと笑うルイ君。
その隣には苦笑を零すルイン様。
長テーブルを挟んだ向こうのソファには、未だに泣き続けるメルンダさんとその後ろでビクビクと震えるメイドさん。
うん、混沌。
思わず遠い目をしちゃう私は悪くないはず。
というかよ?
…………こんな空気にした当事者が、マイペース過ぎてちょっとアレなんっすけど……!?
「ア〜リ〜エ〜ス?」
「ふみゅっ」
ぷにっと頬を掴まれて、無理がない強さで上を向かせられる。
視界いっぱいに広がるニコニコ笑顔のルイ君の姿。
……至近距離からのイケメンに、ちょっとドキッとしたよね。
「アリエスが他の人に意識向けちゃ駄目って言ったんだから、アリエスもボク以外に意識向けちゃ駄目だよ?」
「むゅむゅ!?」
いや、意識とか向けてないよ!?
って……え!? 人以外もアウトですかっ!?
ギョッとする私の頬をルイ君は優しく撫でる。
そして……濁った赤い瞳で私を見つめながら、和やかに告げた。
「ねぇ? アリエス? ボク以外見ちゃ駄目だよ?」
……ドロっとした熱を帯びた声に、ごきゅっと喉が鳴った。身体が無意識に震える。
これは怖いから?
ううん……違う……。
これはーー……。
「こんにちは〜! 呼ばれてやって来たよ、メルトさんだよ〜!」
『!?!?』
何かに気付きかけたのに、トンチキな声と共に勢いよく扉が開いたことで思考が止まる。
驚いて振り返れば、そこには焦茶色の髪を持つチャラそうな男性がいて。
彼は部屋を見渡すと、ボロボロと泣いていたメルンダさんを見て「やっぱりか〜」と肩を竦めた。
「とうとう見限られた感じ? というか、逆鱗触れた?」
「見限られたも何も……初めからルイは相手にしてなかったよ」
「だろうね〜!」
メルトさんと言った彼は下座に置かれている一人用ソファに座る。
そして、クスクスと笑いながら口を開いた。
「まぁ、元々期待してなかったし。成功したらラッキーぐらいの気持ちだったし。仕方ないよね〜。んで? ぼくにどうして欲しい? エクリュ二等兵が望むならコレ、殺してもいいよ? しつこくアプローチされてたんでしょ?」
「はっ!?!?」
「お、お父様っ……!?」
「旦那様っ……!?」
その発言に私(思わず声が出ちゃったよ!?)だけじゃなくて、メルンダさんとメイドさんも驚く。
というか、待て!? 今、お父様って言った!?
えっ……!? この人、実の娘を殺していいって言ったの!?
ただルイ君にしつこく(人によってはソレがめっちゃ不快かもしれないけど)アプローチしただけで!?
愕然とする女性陣に反して、エクリュ兄弟はいつも通り落ち着いていて。
ルイン様は大きな溜息を零して、肘掛に凭れかかった。
「随分と簡単に言うんだね?」
「あははっ、そりゃそーですよ。だって、ソレ、ぼくの娘じゃないもーん」
「……………え?」
涙が止まったメルンダさんの目が限界まで見開かれる。
その顔は驚愕に染まっていて……徐々に蒼白へと変わっていく。
かくいう私も驚いていた。だって……他所様のお家事情とはいえ、内容が内容すぎるよ……!?
「ソレ、ぼくの妻が他所の男と作った子供でね? 容姿が自分似だから、妻は誤魔化せると思ってぼくの娘だとか言ったみたいだけど……可哀想なことに妻って馬鹿だからさぁ。子を妊娠しただろう時期にぼくが長期遠征に行ってたこと、忘れてんの」
『…………』
「まぁ、妻とは政略結婚だし。ソレにも興味がなくて放置してたんだけど……ソレがエクリュ二等兵に執着し始めたからさ? 運よくエクリュ二等兵とそーいう関係になって、エクリュ侯爵家と関係が持てたらラッキーかなって思って、ソレがしてることを黙認してたんだけど……やっぱそう上手くいかないかぁ〜。メルトさん、ショック〜」
『……………………』
「という訳で〜。ぼく的にはエクリュ侯爵家との関係が拗れたら嫌なので、そちらの望む通りに対応するよ〜。放置してたとはいえ、モルプの名を名乗らせるのを許してたし、エクリュ二等兵の機嫌を損ねるのは最悪だしね。どうする? 修道院? 追放? 殺す? 好きなのを選んでね〜」
…………。
メルンダさんが現れた時、なんか面倒な予感がしてたけどさ?
…………闇が深すぎないかな……?
え……? この世界では、コレが普通なの? 違うよね?
私、この人が怖すぎて震えが止まんないんだけど……?
なんで笑顔で殺すという選択肢が出てくるのかな……?
「…………相変わらずの非人道っぷりだなぁ、《狂気の将軍》君」
「あははっ〜。そうじゃなきゃそんな渾名、付けられないって〜!」
ルイン様が呆れたように呟き、メルトさんが笑顔で同意する。
……は!? 《狂気の将軍》!? 渾名がめっちゃ物騒なんですけど!?
「…………あぁ。あんたが《狂気の将軍》だったんだ?」
ずっとマイペースに私の髪を弄ってたルイ君が手を止めて、納得したような顔でメルトさんを見る。
彼はその視線に目を僅かに見開いて、ニカッと笑った。
「そうだよ〜! 《狂気の将軍》、《非人道の策略家》、《イかれ侯爵》ことメルト・モルプさんだよ! よろしくねっ!」
「ごめんね。人のこと、覚えるの苦手なんだ。直ぐに忘れるかも」
「あはははっ、手厳し〜! でも、ぼくも似た感じだから文句は言えないかなぁ〜!」
………えぇぇ……。
他の渾名も物騒すぎるし、ルイ君との会話は成り立って……いや。冷静に考えたらメルトさん、普通に会話できてるね? 内容はヤバいけど。
「んで。話は戻るんだけど、どうする?」
メルトさんはニコニコと笑いながら、ルイ君に問う。
彼の選択次第では……メルンダさんは死ぬことになる。
……ルイ君の機嫌を損ねた、って理由で。
私は思わず彼を見上げる。
ルイ君はなんの光も宿っていない瞳で、笑い続けるメルトさんと顔面蒼白で震えるメルンダさんを交互に見ていて。
そして……ゆっくりと私の方を向いて、微笑んだ。
「アリエスはどうしたい?」
「…………え?」
急にそんなことを聞かれた私は目を瞬かせる。
だけど、次に告げられた言葉でそう聞かれた理由にちょっと納得する。
「だって、アリエスに理不尽に怒鳴ったから、ボクも怒ったんだもん。なら、ボクじゃなくて被害者であるアリエスが決めるべきだよね」
いや、まぁ。そうね。メルンダさんが何故か私にキレて、それに対してルイ君がキレた訳だけども……。
それでも私に判断させるのはちょっと違うんじゃないかなぁっ!?
「アリエスはどうしたい? ボクは興味ないから、好きにしていいよ」
………うわぁ……。
はっきりと告げられた言葉に、私は恐る恐るメルンダさんの方を見る。
……うん。顔面蒼白で震えてるのに、涙(ついでに鼻水)が再度追加されましたね。そりゃそうなるよね……。
父親に死んでもいいって言われたかと思えば、実は血が繋がってなかったって衝撃事実を知るし。
好きな相手のルイ君からは興味ないと言われるとか……うん。心折れるよね……。
私は考え込む。ぶっちゃけ、頭良くないから、どうすればいいのか分からないよ……。
取り敢えず、一つだけ聞いておこうと私はゆっくりとメルトさんに視線を向ける。そして、恐る恐る質問した。
「…………あの……」
「なぁに?」
「もしも……何もえらばなかったら、メルンダさんはどーなりますか?」
「どうもならないよ〜? だって、処分しようとしたのはエクリュ侯爵家との関係性を拗れさせないためだし。何も選ばなかったら選ばなかったで、今まで通り放置して……必要になったら政略結婚させるだけだよ〜? 血が繋がってないのに利用できるとか、素晴らしいよね!」
うん。やっぱり怖いな、この人。
なんとなくだけど、この人のところにいたら&何も選ばなかったら……メルンダさんには、碌でもない未来が待ってそう。
なら、私が選ぶべきなのはーー……。




