第27話 世間話してると、新事実とか知ることあるよね。
移動回。
またの名を、ひよこ合・流・回・☆
それでは、ぴよっ☆っとよろしくどうぞっ!
それは激怒していた。
まぁ、寝坊したのは自分が悪いと理解している。
だが、置いていくのはどうかと思う。
自分は彼女の守り人ならぬ守り鳥なのだ。
置いていかれたら意味がない!
という訳で……。
それは自身の持つ能力をフルで発揮し……。
大きな空へと飛び立った。
*****
エディタ王国の王宮敷地内には、王宮を中心に三角形の位置関係になるようにを各部署の建物が存在するらしい。
近衛騎士団の《白亜宮》。
王宮精霊術師団の《翡翠宮》。
軍部の《黒水晶宮》。
そんな名前になったのは、建物の色合い(翡翠宮は植物に覆われているから)が由来なんだとか。
そして……近くには貴族の子息令嬢が通う学園がある、と。
…………うん。この位置感……なんか、ゲームのご都合主義って感じがするね。
というか……。
「馬車でいどーしなきゃいけないぐらい広いとは……」
ガタゴトと揺れる高級そうな馬車の中で……私はルイ君のお膝の上に座りながら、思わず真顔で呟く。
向かい側に座ったルイン様も「本当、面倒だよね」と窓から外を見ながら、口を開いた。
「昔は転移が使えたんだけど……今は安全上の都合で王宮敷地内は転移禁止になっちゃったんだ。おかげで基本は馬車か徒歩。でも、今回はアリエスがいるからって陛下に馬車を貸してもらえてラッキーだったね」
「まぁ、ボクが抱っこして連れてっても良かったけどね」
………どうやら。ルイ君兄弟は普段は敷地外に出た瞬間に転移で帰るから、王宮敷地内では基本徒歩移動なんだとか。
ぶっちゃけ、転移以外の精霊術は禁止されてないから、精霊術を使って移動した方が馬車より早いらしい。
ということは……私がいるから馬車に乗ることになったようなもんってことですね?
「…………なんか……私のせいでごめんなさい?」
ぺこりっと頭を下げて謝れば、ルイン様は肩を竦めながら首を横に振った。
「あぁ……謝らなくていいよ。陛下の好意を無下にもできなかったから、結局乗ることになっただろうしね」
「そうそう。アリエスが謝ることじゃないよ」
ルイ君にもそう言われて、私は大人しく頷く。
あんまりしつこくても失礼だからね。
謝らなくていいって言うなら、そういうことで。
………あ。そういえば……。
「………素朴なぎもんなんだけど……かいぎにいたサリュ様? しりあい、なの?」
自己紹介してもらってないから当然なんだけど、サリュ様がルイ君達の知り合いかどうなのか聞いてなかったんだよね……。
今度お話ししようねと言われて、思わず〝はい!〟って返事しちゃったけど……大丈夫だったのかな?
そんな私の疑問に、ルイ君は「あぁ」と頷く。
「サリュ君は知り合いだよ。正確には、ルーク君の友達(多分)だけど」
「(たぶん)!?」
えっ!? 友達に多分も何もあるの!?
「あははっ。今でもルークと時々連絡取ってるみたいだから、友達でいいんじゃないかな? サリュはルーク時代の乙女ゲーム事件に関わってたんだよ。攻略対象、ってやつだね」
確か……ルイン様の息子のルーク様(現在、領地で奥様と暮らし中)の時にも乙女ゲーム関連の事件が起きたってシエラ様から教えてもらったっけ?
攻略対象……。
あぁ……凄い中性的美人さんだったから、納得かも……。
だけど、それで終わりかけた話に……ルイ君がサラッと爆弾を投下した。
「そう言えば……サリュ君って、アリエスと同じ転生者だったっけ?」
…………えっ!? 転生者!?
「あぁ、そうだよ。他にも転生者がいたんだけど……その子達は普通の人間だったから、寿命で死んじゃってね。今生きてて、俺が把握している転生者は……シエラとサリュ、俺の長女と……アリエスぐらいかな?」
「ふへっ!?!? ちょ、ちょーじょさんもてんせーしゃなんですか!?!?」
思わぬ新事実に叫んだよね、うん。
まさかの未だにお会いしてない長女さんが転生者とは……驚き以外の何物でもないよ!
「そうだよ。俺の娘も転生者。まぁ、長女は乙女ゲーム関係なかったんだけど……ある国に拉致されて大変だったなぁ……」
「…………はい!?」
昔を思い出すようにサラッと告げられましたが。
乙女ゲームよりもそっちの方が大問題だと思われるのですがっ!?
「でも、そのおかげで運命の人に会えたらしいから〝終わり良ければ全て良し〟ってヤツなんじゃないの?」
「そうかもね。たまには会いに行ってやろうかなぁ、シエラと一緒に」
…………えっ。
なんか色々とお話聞きたい。なんか凄い濃厚なお話が待ってる気がする……。
え? エクリュ侯爵家に長女さんに纏わるお話の本があるの?(←ルイ君情報)
本になってるの!? 本になるような大事件が起きたの!? 帰ったら、読んでみよう……。
閑話休題。
ーーカタンッ。
『《黒水晶宮》に到着いたしました』
丁度話が終わったタイミングで馬車も止まり、外から声がかけられる。
そして、御者さんが扉開けてくれて……ルイン様、ルイ君、私の順番で降りていく。
まぁ……私はルイ君に抱っこされてるんだけど。
外に出た私は、御者さん(ピシッとしたお爺さん)に向かって頭を下げた。
「ありがとーございました!」
小さな子供からお礼を言われると思ってなかったのか、御者さんは目を瞬かせる。
けれど、その顔に優しい笑みを浮かべると……できる執事みたいな雰囲気の優雅なお礼をしてくれた。
「過分なお言葉、ありがとうございます。では、失礼致しますね」
「ご苦労様。ありがとうね」
「ありがとうございました」
馬車を見送ってから、ルイ君達は《黒水晶宮》に向かって歩き出す。
塀で覆われた黒い石でできた、歴史を感じさせる建物。
軍部の拠点って言う通り……確かに厳つい感じがするね。
思わず口を開けたまま建物を見上げる。
すると……見上げたついでに、空を飛ぶ黒い何かを見つけてしまった。
「………………ぴ〜………」
………ん? 何あれ……?
「ぴぃ〜……」
…………こっちに飛んで……き……。
「ひよこぉ!?」
「ぴよっっ!」
グサリッ!(←ルイ君の額にひよこの嘴が刺さる!?)
「痛っ……」
すっごい痛そうな音がしたのに、ルイ君は地味に淡々とした反応をしながら……私を抱っこする反対の手でひよこを掴む。
むぎゅうっと掴まれたひよこは、彼に抗議するように鳴いた。
「ぴーよっ、ぴよぴよ!」
「え? なんで置いてったんだ? 鳥が寝てたからでしょ?」
「ぴっぴよっー! ぴっよーっ!」
「はぁ? 起きなかったお前が悪いよ。責任転嫁は止めてくれる? 文句言うなら、ちゃんと起きなよ」
…………。
なんで、話が通じてんのかな……?
思わずスンッ。としながら、ルイ君とひよこの言い合い(?)を見守る(?)。
けれど……ある程度話が纏まったのか、ルイ君は大きな溜息を零すと……私の頭の上にひよこを乗っけた。
………えっ!?
「それ、護衛役をやりたいんだって。多分、邪魔はしないだろうから好きにさせてやって」
「ぴよ!」
「えっ……!? あ、はい……」
多分、断れないんだろうな。
なんか頭の上にいるひよこから、〝離れねぇぜ!〟ってオーラが放たれてるもん。
「…………ひよこが……護衛……」
…………ちょっと謎すぎて、遠い目をしちゃったのでしたとさ。




