第19話 這い寄る悪意と嗤う傀儡(3)
【注意】シリアス続きまーす。
今回、ルイさんが「え?あんた、そんなこと言います?」って思うような台詞を言ってますが……ルイさんはヤンデレだよ! そして、世間からズレてるよ‼︎
そこら辺を覚えていてねっ☆
それでは〜よろしくどうぞっ!
『緊急連絡よ。アリエスさんがいなくなったわ』
軍部の日課でもある対人訓練の最中ーー。
義姉様から届いた精霊術にボクは、動揺した。
「ーーーーは?」
動揺のあまり力加減を間違えて、模擬戦の相手をしてくれていた同僚を刃を潰した模擬剣で吹き飛ばす。
周りの人達が騒いでいたけれど、ボクはそれを無視して……その場で義姉様に返事をした。
「どういうこと? なんでいなくなったの? セリナは何をしていたの?」
『分からないわ。図書室で一人で本を読みたいと言ったらしくて……セリナはアリエスさんから離れていたの。だけど、デイブがお茶を持っていったら、図書室からいなくなっていることが分かって。皆で屋敷中を探したけれど、どこにもいないのよ』
セリナはアリエスの精神が大人だと知っている。
だから、ずっと見守っているのも彼女の負担になるだろうと判断して……目を離したのかもしれない。
屋敷から出なければ安全だしね。
でも、屋敷にいないんだったら……アリエスは安全とは言い切れなくなる。
そんな時ーー。
ただでさえ心配から苛立つボクに……義姉様は更なる追い討ちをかけてきた。
『…………連れ去られた可能性も考慮した方がいいかもしれないわ』
「…………は? 何を言ってるの?」
エクリュ侯爵家は兄様と義姉様の精霊術による防御結界が展開されている。
だけど、それはあくまでも精霊術由来。
精霊術の効かない固有能力持ちに対しては無意味だ。
だから、ボクの新たに増えた力……邪神の力(まだ、完全には使い切れていないんだけどね)を用いたモノで結界を張っていた。
だから、アリエスが連れ去られる可能性なんて低いはずなんだけど……。
「いや、今はそれどころじゃないな」
考えることなんて後でいくらでもできる。
今すべきことはアリエスを探すことだ。
ボクは王都全域に探索の精霊術を走らせる。
アリエスは固有能力持ちだから、精霊術の探索にかからない。
だけど、探索にかからないがゆえの微妙な違和感ぐらいなら分かる。
しかし……帰ってきた探索反応に、ボクは目を見開いた。
「なっ……なんでこんなに!?」
帰ってきた反応は、王都全域に違和感が発生していたというもの。
つまり、現在の王都には固有能力持ち、或いは固有能力が発動している可能性があるということだった。
「これはっ……」
『ルイ君も探索したわね? 私も調べたのだけど、違和感の発生が多くて……彼女本人を見つけられないの。私が言いたいこと、分かるわよね?』
あぁ……だから、〝連れ去られた可能性〟なんて言ったのか。
今回の件ーーーー《邪神兵団》が関わっている可能性があるってことなんだね。
『私は王都の北側から違和感の発生源の確認に向かってるわ。ルインにも南から頼んである。ルイ君はーー』
「いや、アリエスはボクが見つける。兄様達にはその発生源の確認、或いは制圧を任せるよ」
『ちょっ、ルイくーーーー!?』
ブツンッッ!
ボクは義姉様との精霊術を切って、自身の胸元に手を添える。
そして……ボク自身へと語りかけた。
さぁ、邪神。
ボクと完全同化してしまった神。
君の大切なアリエスのピンチだ。
力を使い切れていないなんて状況じゃないよ。
今こそーー。
ボクと完全同化した真価を発揮する時じゃないかな。
「ーーーーアリエスのために、力を貸せ」
ゴゥッッッッ!
ボクを中心に黒炎が渦巻く。
邪神の力ーーそれは〝無から有を生み出す〟という、正に神に相応しき力。
ボクはそれを使って……アリエスを見つけるための道具を生み出す。
「《創造せよ、顕現せよ、降臨せよ》!」
「ピィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィッッッ!!!」
耳を劈くような鳴き声と共に炎が集まって、すらりとした黒鳥へと変化する。
だが、その大きさは人と変わらぬサイズの巨大鳥だ。
周りの悲鳴が鬱陶しいけれど……ボクはそれを無視して、その鳥の背へと飛び乗った。
「行け!」
鳥はボクの命令に従って、一直線に飛び立つ。
この鳥の能力は、(アリエス限定)探知特化能力だ。
つまり……アリエスだけを探すことに特化したからこそ、必ず見つけ出すことができる。
そして、その能力通りにーー鳥はほぼ一瞬でアリエス達がいるであろう場所の上空まで飛行した。
「鳥、良くやった」
「ピィ!」
ボクは鳥の背から飛び降りて、眼下にいるその光景に視線を向ける。
アリエスに手を伸ばそうとするローブを着た奴と、アリエスの腕を掴む子供。
その側でしゃがみ込んだ子供が二人。
……………子供達の方はどっかで見たことがある気が……?
まぁ、いいや。取り敢えず、あのローブを始末してから考えよう。
「…………ルイ、君……」
かなりの高度があるというのに、神経が研ぎ澄まさっているからか……ボクの耳に聞こえた、アリエスの声。
「…………たすけてっ……!」
君がボクに助けを求めるなら、それに答えない理由はないよ。
「ーーーーいいよ」
そう告げたボクは、手にしていた訓練用の模擬剣を思いっきり振り下ろしたーー。
*****
ガギィィィィィインッッ!
金属と金属がぶつかるような音と吹き抜ける風に、私は更に強く目を閉じた。
それと同時に「ひぃっ……!?」なんて間抜けな悲鳴と、ザッッと何かが降り立つ音もする。
私はそこでやっと、恐る恐ると瞼を上げて……目に入った光景に息を飲んだ。
「っっ……!?」
尻餅をつくように後ずさったローブの人と剣を片手に半身を引いた………私の保護者の姿。
私は……小さな声で、彼の名前を呼んだ。
「…………ルイ、君……」
「遅くなってごめんね。怪我はしてない?」
視線を僅かにこちらに向け、ルイ君は優しく笑う。
だけど、直ぐにその視線に嫌そうな色を滲ませると……「鳥」と呟いた。
「ぴよっ!」
ぶわりっ……!
ドッシーン!
「うわぁっ!?」
「きゃぁっ!?」
凄まじい風が吹くと同時に、私の手を掴んでいた感覚が消えて……何かがぶつかった音とセル達の悲鳴が聞こえてくる。
私もちょっとバランスを崩しかけたけど……優しく背中を風で押されて、倒れずに済んだ。
「鳥」
「ぴよ!」
ルイ君が再度そう呟くと……テケテケテケテッ! と間抜けな足音と共に、私の隣に黒いひよこ(?)がドォーンッと立つ。
私は隣に立ったソレを、思わず真顔で見つめてしまった。
…………何故、シリアスっぽいシーンにひよこ(……というか、本当にひよこで合ってる……?)……?
「…………ひっ、ひひっ……」
思考が逸れ始めた私は、引き攣ったような笑い声にハッと我に返って……ゆっくりと立ち上がったローブの人を見て、警戒する。
ルイ君も鋭い視線を前に向けながら……私の前に立った。
「………防御の魔道具持ってて良かったぁ……。というか、空から墜ちてきて、そのまま剣を振るってくるとか……頭おかしいんじゃないの?」
ローブのそいつはこちらを……探るような雰囲気でルイ君を見る。
ルイ君は淡々とした声で、それに返事をする。
「それはこちらの台詞だけどね。ボクのアリエスに何するつもりだったのかな?」
「…………ボクの? んん? あー……君かぁ! 僕らの召喚師ちゃんを横から掻っ攫ったのは!」
「あははっ。アリエスは君らのモノじゃないよ?」
ルイ君の冷たい声で、その場の空気が急激に下がる気がした。
ぶるりっと身体を震わせると、隣にいたひよこ(?)が暖を分けるように足元にくっ付いてくる。
………ごめん。手の平サイズのひよこ(?)にくっつかれても、そこだけしか暖かくないよ……。
「さて。君は《邪神兵団》で間違いないかな?」
再度思考が逸れかけた私は、ルイ君の確認するかのような声でハッと我に返って前を見る。
すると、ローブの人はニヤリと口元を歪めて頷いた。
「そーいや、自己紹介忘れてた〜。僕は《邪神兵団》の〝傀儡師〟クンだよぉ。よろしくねぇ?」
「………傀儡師、傀儡師ねぇ……。まぁ、よろしくはしないかな。君はここで消えるんだし」
「うはぁっ、おっかなぁ〜い♪」
ローブ……傀儡師を名乗ったそいつは、クスクスと嗤う。
そして、余裕そうな笑みを浮かべながら、首を傾げた。
「でもさぁ? ここで僕が消えるって言っても、僕には精霊術が効かないから無理だと思うよぅ?」
「ふぅん? 固有能力持ちか」
「そーゆうこと。だから、大人しく召喚師ちゃんを僕に渡した方が得策だと思うなぁ……じゃないと」
傀儡師はゆったりとした動作で指を指す。
その先にあるのは私でもルイ君でもなくて……その後ろにいるーー。
「後ろの子達を殺しちゃうよぅ?」
「ひぃっ!?」
「助けてぇっ!」
その声に驚きながら振り返れば、見たことがない大人二人が……笑いながらセルとメイサの首にナイフを突き立てていた。
オリーに至っては、手に持ったナイフを自分の首に当てている。
私はその光景に目を見開いて……思わず後ずさった。
だけど、ルイ君だけは動揺せずに冷静に呟く。
「なるほど。道理で王都に違和感が沢山ある訳だ。君、かなりの数の人達を傀儡に……操ってるね?」
「せいかーいっ!」
傀儡……人を操ってる?
あの男の人達も、オリーも……傀儡師に操られてる?
「ねぇねぇ、召喚師ちゃん? 君の所為で人が死ぬなんて嫌だろう? なら、大人しく《邪神兵団》においで?」
猫を招くように手招きをする傀儡師に、私は恐怖を覚える。
なんで、こんな簡単に人の命を人質にできるの?
なんで、そんなに……楽しげに嗤ってるの?
なんでーー。
「殺したければ、殺せば?」
「……………え?」
だけど、そんな私の思考は……ルイ君から発せられた言葉で、完全に停止した。
「……ルイ、君?」
「ボクが優先するのはアリエスだからね。アリエスを危険に晒した奴らなんて、どうなろうと構わないよ」
なんの感情も乗ってない声に、私は愕然とする。
た、確かに……この子達が私を連れ出したから、こうなったんだけど!
でもっ、だからってそんな言い方っ……!
「…………なぁに? あんたはその子達が死んでもいいって言うのぉ?」
「うん」
「っ……!?」
傀儡師はそんな返答を予測してなかったのか、驚いたように息を飲む。
そして……胡乱な雰囲気を放ちながら、呟いた。
「…………即答かよぉ……あんた、こっち側じゃない?」
「ふふっ……あはははっ! まさか」
ルイ君も笑う。
ゾッとするほどに場違いな……軽やかな声で、告げる。
「ボクはそっち側でもこっち側でもないよ。ボクはただ、アリエス以外がどうなろうと構わないだけ。アリエスを守るためだけに存在するんだ」
…………私を、守るため?
「だからねーー」
……私を、守るためだけに……周りの人達を……見捨てるの?
「時間稼ぎはこれくらいにさせてもらうよ、傀儡師クン」
ドスドスドスッ……!
呆然とした私の耳に入ったのは、地面に何かが倒れる音だった……。




