第14話 異なる世界の結末は(1)
それでは一言。
とーとつにシリアス始まったな……⁉︎
とまぁ、そんな感じで。暫くシリアス話が続きます。
それでは皆様、よろしくねっ☆
アリエスに見送られて、王宮敷地前まで転移して……軍部拠点である黒水晶宮に向かって歩き出しながら、さっきまでのエクリュ侯爵家の様子を思い出す。
…………アリエス、ボクの態度に凄く驚いてたなぁ……。
そんなボクらを見る皆も、生温い目をしてたし。
まぁ、そんな目をされる理由は分かってるんだけど。
多分というか……ほぼ、ボクの態度が原因だと思う。
ボクでも驚くくらい、アリエスに対して甘々対応してた気がするもん。
兄様と義姉様が精霊術で『視線とか態度がなんか甘い。たった一晩で何があった?』とか、『まさか、たった一晩でアリエスさんに十八禁なことしたんじゃないでしょうね?』って圧かけてきたぐらいだ(健全な添い寝しかしてないのに、信じてもらえなかった……)。
でも、こんな風になっちゃったのは仕方ないんだ。
今のボクには、ボク以外のモノが混じっているから。
ボクがこんな風になった理由……。
昨夜のことを思い出しながら、息を吐いた。
*****
夜の帳が下りて、誰もが寝静まった頃ーー。
すやすやと腕の中で眠るアリエスの前髪を指で避けながら、ボクは退勤時のことを思い出す。
『充分苦しんだからね』
頭の中に響いた誰かの声。
思い返せば、その声はアリエスを見つけた時にも聞こえていた。
最初の……囁く程度の小さな声であれば、ボクも気づかなかったはずだ。
今日の声を聞くまで、ボク自身……その声を意識できていなかったんだから。
でも、アリエスに会うために転移しようとした瞬間ーー。
明瞭に、その呟きを聞き取ってしまった。
ボクがその声を意識するには、充分だった。
それから、考えられることはただ一つ。
ボクは目を閉じて、自分の中身を探る。
「…………ぁ……見つけた」
そうして見つけたのは、ボクの身体の中に存在する違和感。
或いは、常人であれば気づかれないような……ほんの僅かに残された力の残滓。
ボクはその力の細い繋がりを辿って、精神体を飛ばす。
深く、深く……意識の奥底に潜り込んで……。
その先を目指して……。
そして……。
ボクは、境界線を越えたーーーー。
『…………うわっ。あんなほぼ存在しないも同然の残り滓を辿ってここまで来ちゃったよ』
上も下も、右も左も存在しないような真っ暗な世界。
だというのに、その場で片膝を立てて座った男は……ボクを見て、苦笑を零す。
腰まで伸びた黒髪に、真紅の瞳。
ボロボロになった服と……白い肌に蠢く、黒い模様。
ボクもまた……その男を見て、同じ顔で苦笑を零した。
「それぐらいできるって、誰よりも君が分かってるんじゃないの?」
『あははっ! 自分で言うのもなんだけど……ボク、地味に天才って部類だもんね? それぐらい、できちゃうか』
「そういうこと」
ボクは彼の前まで歩み寄って、しゃがみ込む。
目の前にはボクと同じようで、どこか違う顔。
けれど、確かに同じ存在に向かって笑いかけた。
「やぁ、初めまして。もう一人のボク。君に聞きたいことがあって、こんな場所まで来たんだ」
『あぁ、初めまして。もう一人のボク。折角、こんな場所まで来たんだ。なんでも聞いてよ』
そう……目の前にいる男は、ボクでありボクじゃない。
言うなれば〝異なる世界のルイ〟だ。
ボクは早速、質問することにした。
「じゃあ早速聞くんだけど……ここってどこ?」
『ここかぁ〜……って、おい! 知らずに来たの!? 普通、場所の安全を確認するんじゃないのっ!? なんて無鉄砲っ!?』
……仕方ないだろ。
ボクの中に残ってた残滓を辿ったらここに辿り着いたんだから……。
でも、なんだろう?
自分に言われると、すっごいムカつく。
『まぁ、いいけど。えっと……ここはね? 言うなれば〝どこでもあって、どこでもない場所〟。普通は繋がらないはずなのに……何故か色んな世界に繋がっているんだ。まぁ、だとしてもその世界に渡ることはできず……無理やり精神体を飛ばすぐらいしかできないんだけどね。一応、亜空間ってボクは呼んでるよ』
「亜空間?」
『そう。まぁ、ぶっちゃけ……その名称が正しいかは分からないけど』
……つまり、ヘンテコな空間ってことか。
まぁ、そういう場所もあるんだろうな。うん。
「で……? なんでボクはここにいるの? どうして、ボクに干渉してきたの?」
スッ……。
もう一人のボクが目を細めて、笑う。
その目には困ったような色が滲んでいた。
『もう……直情的な質問だなぁ』
「回りくどいのは嫌いなんだ」
『だね。ボクも嫌いだ。でも、一から説明しないと全容を理解できないのも然り。という訳で、長話に付き合ってもらうよ?』
「うん」
そうして……ボクは語り始める。
彼の辿った人生を……或いは、ボクが辿るかもしれない未来の話を。
『辿り着く未来が違う世界だったり、ほんのちょっとの過程が違う世界だったり……君は、世界がいくつも存在するのは知ってるかな? ちなみに、ボクの世界は邪神が現れて世界を滅ぼそうとした世界線だよ』
「あぁ……異世界、並行世界のことね」
『知ってるなら、話は早い。どこかの世界線では愛の力とかいうので世界の危機を救ったみたいだけど……ボクがいた世界では、ボクのこの身に邪神を封じたことで……世界を救ったんだ』
…………ボクは、そのゾッとするほどに冷たい笑みを浮かべるボクを見て、目を見開く。
言葉の内容と比例しない、重苦しいほどに怨みを込めたような声。
ひやりと冷たいモノを感じながらも……ボクは敢えて、ふざけた声で質問した。
「……君、そんな自己犠牲精神高めだったっけ?」
『…………』
「えっ、何? 君、闇堕ちしてる感じなの? 兄様みたいに《穢れの王》ってる?」
ピクリッ。
最後の言葉が効いたのか、ボクは身体を震わせる。
そして、両手で顔を覆って数十秒……次に顔を上げた時には、彼はへらりと穏やかな笑みを浮かべていた。
『あははっ! ごめん、ごめん。ちょっと暗黒面が出ちゃった。でも、安心してよ。確かに邪神を封印してるけど、兄様みたいに闇堕ちはしてないから。ぶっちゃけ、邪神とは友達(?)みたいになってるし』
「友達なの?」
『うん。今もめっちゃ煩い』
…………ケラケラと笑うボクを見て、ボクはホッと息を吐く。
いきなり黒くなるとか止めて欲しいんだけど。
……というか。
彼の世界、ボクが聞いてた乙女ゲームの展開と違いすぎないかな……?
『えーっと……まぁ、邪神は取り敢えず置いといて。こいつをボクに封印するまでに至った話をするか』
「あ、うん」
『ある日、クララって言う平民の女の子が《精霊姫》候補として現れた。で、ボクは守護者候補として、選抜された。まぁ、《ドラゴンスレイヤー》である兄様の弟だから当然だよね』
「ふぅん」
『そうして、クララは《精霊姫》を目指して、もう一人の《精霊姫》候補である公爵令嬢と競い合いながら頑張って……《邪神兵団》っていう世界を滅ぼそうとしてる組織が起こす事件をボクらと共に解決したりしてたら、いつの間にかグリード王子と恋仲になった』
…………えっ。王子と恋仲、とか。
《精霊姫》候補であれど、平民なのによく許されたな、それ……?
『《邪神兵団》が事件を起こしていたのは、邪神召喚のための負のエネルギーを集めるため。そうして《邪神兵団》の幹部の一人である召喚師……アリエスが、複数の事件で集めたエネルギーと自らの身に刻まれた穢れと、その命を生贄に邪神を召喚したんだ。と、まぁ……この話は、精霊王から乙女ゲーム云々関連で聞いたよね?』
「………父様から聞いていたのを知ってるんだ?」
『昨日は君に同調して、聞いてたからね。ボクの時は父様から乙女ゲームの説明なんてなかったから、羨ましかったよ。そしたら、もっと違う選択ができただろうから』
そう言ったボクの顔には哀愁が漂っている。
嘆くような、諦めるような。悲しむような。
だけど……ボクは『まぁ、いつまでも悔やんでてもしょうがないよね』と呟いた。
『まぁ、色々と端折って結果を言えば……クララとグリード王子の愛の力は邪神には一切歯が立たず。邪神に立ち向かった者達の中で一番強かったボクが、邪神をこの身に封印することで世界を救うことになった。そして……』
そこで言葉が区切られたけれど、ボクはその言葉の先を悟ってしまう。
ボクの言葉だからこそ、その先が分かってしまった。
『ボクはクララとグリード王子によって、この亜空間へと堕とされました、とさ』




