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第10話 寝坊と無意識と先行投資


よろしくねっ☆


   







 優しく、頭を撫でられていた。




 まるで甘やかすみたいに。

 可愛がるみたいに。

 とっても……慈しんでくれてるってのが伝わるみたいで、勝手に頬が緩んだ。


 沈んでいた意識がゆっくりと浮上して、重たい瞼が微かに開く。

 だけど、寝起き特有の霞んだ視界では……頭を撫でてくれる人を認識できない。

 でも、その人は悪い人じゃない。

 それどころか……私を守ってくれる人だって、安堵するくらいで。

 …………だからなのかな。

 心地よい眠気(安堵)に負けて、また瞼が落ちていく。

 そしてーー。



「行ってくるね、アリエス」




 額に優しく何かが触れたのを感じながら……私は再度、眠りの淵へと落ちていった……。






 *****







「起きてください〜。アリエス様〜」

「…………んにゃっ?」




 ぱちりっ。

 優しい揺れと共に目覚めた私は何度か瞬きを繰り返して、そのまま固まる。

 ……………左側を見れば、バルコニーに繋がるガラス扉から眩しいほどの光が差し込んでいて。

 右側を振り向けば、私を揺すり起こしたらしいセリナの姿。

 私は寝起き特有の鈍い頭をなんとか働かせて……挨拶をした。


「おはよー、ございます……?」

「はい、おはようございます〜。起こしてしまって、ごめんなさい〜。ですが、流石にこれ以上寝ると夜に眠れなくなってしまうかと思いまして〜」

「……………いま、何時ですか?」

「正午を過ぎたくらいですね〜」


 …………。

 …………………うん。



 完全に寝坊したっっっ!



「ご、ごめんなさいっ……! ねぼーっ……」


 それに気づいた私は、慌てて飛び起きる。

 い、居候の身で寝坊とかっ……寝坊とかっ!

 どんだけ偉い身分なんだ、私はっっ!

 だけど、セリナは慌てて首を横に振った。


「あぁ〜……寝坊は全然問題ないですぅ〜。昨日は色々とありましたし、お風呂を上がったら直ぐに寝てしまうほどお疲れのようでしたし〜。ルイ様も、本日はアリエス様を休ませるようにと仰ってましたし〜」


 …………ハッ!


「ルイ君は!?」

「ルイ様はお仕事に行かれましたよ〜?」


 ガーーーーンッ……!

 ぱたりっ……私は思わずベッドの上で、四つん這いになった。

 …………ぶっちゃけると、今の私はショックを受けていた。

 ……いや、ルイ君が私のためを思って起こしてくれなかったのは分かってるけど……起こして欲しかったって、お見送りしたかったっていうのと。

 …………今、()()()()ルイ君がいないことへのショック。

 ………………うん。



 勝手(というか無意識?)に今日もルイ君が一緒にいてくれるんだと思ってたなんてっ……恥ずかしすぎて死にそうっ……!



「ふぐぅぅぅ……!」

「…………(なんか、凄い顔真っ赤で転がってますぅ〜)」


 羞恥心が爆発した私はベッドの上をゴロゴロと転がる。

 だけど、いつまでも転がってる訳にはいかないので、ある程度落ち着いてから……私は大人しくベッドから降りた。


「……………おまたせしました……」

「いいえ〜。もうよろしいのですか〜?」

「……だいじょーぶです」


 転がってるのを見守られてるのも中々に恥ずかしいので。





 その後ーー。

 私はセリナが用意してくれた薄黄色のワンピースに、パジャマ(頭からすぽんっと被れるから、こっちもワンピースタイプ)から着替えて……。

 昨日の食堂……ではなく、日当たりのいいガラス窓の大きな部屋に連れて行かれた。

 そこにいらしたのは、豪奢なソファに座って刺繍をするシエラ様。

 シエラ様のストロベリーブロンドの髪が陽の光に照らされて、キラキラとしていて……まるで絵画みたいで見惚れてしまった。


「シエラ様、お連れしました〜」

「……あぁ、ありがとう」


 セリナの声でこちらに向いたシエラ様は、柔らかな笑みが浮かべる。

 そして、手に持っていたものを紅茶などが置かれたテーブルの上に置くと……私の前まで来て、しゃがみ込んで視線を合わせてくれた。


「おはよう、アリエスさん」

「…………おはよー、ございます……」


 …………朝(もう昼だけど)から、美女の御顔をご拝観とか……めっちゃ眩しい……。


「ふふっ……よく眠れたみたいね?」

「は、はい……ねぼーして、すみません……」

「あら、いいのよ? そもそも転生初日に、赤ちゃんから五歳児姿になって。それだけじゃなくて精霊王にまで呼ばれてしまったのでしょう? 疲れて寝坊してしまうのは当然だわ」


 …………そんな優しい言葉に、私は思わず泣きそうになる。

 …………なんか、転生してからの方が優しい人達に会ってる気がするんですが……?


「取り敢えず、お腹が空いたでしょう。朝と兼用になってしまうけれど、昼食にしましょう?」

「あっ、はい……!」


 シエラ様はセリナに指示を出してから、刺繍をしていた布をテーブルからソファの隅に置かれていたカゴに移して、私に隣に来るように促す。

 よじ登るようにソファに上がった私は、初めて座るふわふわ感に驚愕。

 …………これ、絶対、高級品だよ。

 だけど、そんなソファへの興味はシエラ様から告げられた言葉でぶっ飛んだ。


「そう言えば……昨日の夕食の席で観察してて分かったのだけど。アリエスさんは、召喚術という固有能力の代償に大食らいになっているみたいね」

「…………えっ?」


 ピシッと動きが止まる。

 …………いや、確かに? 昨日は我を忘れるぐらいに食べてたし……なんか、無駄にお腹減るなぁとは思ってたけど。

 召喚術の、代償っ……!?


「……どうやら、召喚術というのは使わなくてもエネルギー消費が激しいみたいだわ。大食らいなのは、そのエネルギー不足を補うためみたい」

「…………だから、あんなに食べたんですね……」

「えぇ。ごめんなさいね、今頃伝えて。昨日、伝え忘れちゃったの」


 私も昨日はなんだかんだと、いっぱいいっぱいだったから……聞き忘れたなぁ……。

 でも、納得だわ……。

 多分、前世の私はそんなに大食らいじゃなかったと思うし。

 あ、でもでも? それって今世では、食費がとんでもないことになるってことだよね……?

 食費を払ってくれてるのって……。


「あの……シエラさま」

「ん? どうしたの?」

「私、お金もってなくて……しょくひ……」

「あらあら。お金のことは、気にしなくていいわ。ここ最近、大きな出費がなくて貯め込むばかりだったから……ここらで使っておかないといけなかったしね」

「でもっ……!」


 私のためにお金を使わせるのはちょっとね!?

 ただでさえご迷惑をおかけしてる身としては、心が痛くなるというかっ……!


「お金を使うのも貴族の務めだから、本当に気にしなくていいのよ?」

「きぞくの、務め?」

「そう。お金を貯め込んでしまったら、経済は回らないわ。寄付というカタチでも消費しているけれど、エクリュ侯爵家は歴史があるからそれでも沢山お金があるの。だから、適度に使うのがベストなのよ」


 ……シエラ様の言いたいことも分かる。

 お金は回るもの。

 使わなきゃ腐っていくだけで、適度に使うのが一番いいんだってどこかで聞いたことがある。

 それでもっ……!


「そうねぇ……こう言っても納得できないなら……これは、貴女への投資という扱いにしましょう」

「……………へ?」


 だけど、シエラ様は私がまだ渋っていることに気づいて……そう提案してくれた。


「いつか我が家にちゃんと金銭として返してくれてもいいし、何か成果を持ってきてくれるのでも構わない。後は……貴女がされたことを、次の誰かのためにしてあげるのでもいいわ」

「……………」

「ゲームの知識が正しければ、アリエスさんは精霊王すら殺せる凄まじい召喚術師になるのよ? 力の使い方を間違えなければ、貴女はとても優秀な人材になるはずだわ。そんな貴女に先行投資すれば……回り回って私達にも利益が出るでしょう。それでも、嫌かしら?」


 ぱちりとウィンクしながら、シエラ様はそう告げる。

 …………投資。いつか、返すモノ。

 うん……。元々、貰うだけにするつもりはなかったけど……そうまで言ってくれてゴネるは、失礼だよね。

 私は大人しく頭を下げて、お礼をした。


「ありがとうございます、シエラさま」

「いいえ、どう致しまして。理解が早くて助かるわ」

「……これでも、前世では大人だったので」

「あら……そうだったわね?」

「ひどいです!」

「冗談よ」


 私とシエラ様はクスクスと笑いながら、軽口を叩き合う。

 そんな中ーー丁度いいタイミングで、セリナがカートを押して戻ってきた。


「シエラ様、アリエス様。お待たせしました〜」


 彼女が押してきたカートには、沢山のサンドウィッチが乗っている。

 …………うわぁ……カートの下の段にも、サンドウィッチが乗ってるぅ……。

 そして、ペロリと食べれてしまいそうな私の胃袋が怖いぃ……。


「ありがとう、セリナ」

「ありがとうございます」

「いえいえ〜」

「普通は別々に食事を摂るらしいけれど、我が家では使用人も一緒にご飯を食べるの。アリエスさんもそれは知っておいて頂戴ね」

「はい」


 あっ、やっぱりイメージ通り……普通は一緒に食べないんだ。

 まぁ、私はそれに抵抗ある訳じゃないから全然オッケーです。

 セリナはテーブルの上にサンドウィッチが乗ったお皿を並べて、紅茶の準備を終えて……「失礼します〜」と声をかけて、私を挟むようにして隣に座る。

 そして、三人で手を合わせて……。


「「「いただきます」」」


 と、サンドウィッチに手を伸ばして、楽しいランチタイムを過ごしたのでした。





 ……………ちなみに、ほぼ昼食は私の胃袋に消えました。

 私の胃袋、改めて凄いって実感したよ……うん。











その時のルイーー。


「……今、アリエスが小動物(食べ物を口に含んで頬を膨らませる状態)になってる気がする」


真顔でそう呟いていたとかいないとか(笑)


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