第8話 過保護(?)加速中
ここまで書いてるのに、まだ一日目www
すっごい進まないwww
まぁ、よろしくね〜。
ルイ君目線です!
あぁ、そういうことかーー。
アリエスが狙われる理由が分かったボクは、心の中で溜息を零した。
曲がりなりにも、父様は一応この世界の管理者だ。
この世界の生命は、基本的に父様を殺すことはできない。
つまり……手っ取り早い父様の殺し方は、異なる世界から父様を殺せる存在……邪神(精霊王を殺せる存在だから、そう呼んでるんだろうね)を召喚すること。
そして……偶然にも、ここに異世界のモノすら呼べる召喚師がいる。
だから、ゲームでは奴らはアリエスを教育して……精霊王を殺させるために、邪神を召喚させたんだろう。
これじゃあ、《邪神兵団》がちょっとやそっとでアリエスを諦めるはずがないか。
きっと、なんとしてでもアリエスを手に入れようとするはずだ。
なんて傍迷惑な連中なんだろうね?
「話をまとめると……父様が伝えたかったのは、アリエスが今後も《邪神兵団》に狙われるから気をつけなさいってことでいい?」
『…………まぁ、言ってしまえばそうだな』
「ふぅん。りょーかい」
手っ取り早く〝アリエスが狙われる〟って情報を寄越すだけでもよかったのに。
まぁ、乙女ゲームなるモノにボクら二人が関わってるなら……必要な情報だったか。
結局……情報をもらっても、ボクがやることはとてもシンプルだ。
アリエスを守る。
ただ、これだけ。
《邪神兵団》だろうがなんだろうが関係ない。
この子はボクが拾った。
だから、最後まで……責任を持つ。
アリエスを狙う奴がいるなら、徹底的に叩きのめそう。
アリエスが幸せになれるなら、どんなことでもしてあげよう。
アリエスを甘やかして、可愛がって、閉じ込めーーーー。
「…………おっと」
ボクはそこで、無理やり思考を止める。
……………危ない……アリエスのことになると、ちょっと暴走気味になるなぁ……。
「…………ルイ君?」
『ど、どうした? 大丈夫か……?』
目の前にいるアリエスが、心配そうな顔で見つめてくる。
正座してる父様も心配そうだ。
…………だけど、ボクは父様をスルーしてアリエスにだけ微笑みかけた。
「…………ごめんね? ちょっと色々と考えてただけだよ」
「…………その……ムリしないでね?」
アリエスは、本心からそう思っているようで……心配している顔を隠そうとしない。
その事実に、ボクの頬は自然に緩む。
ふふっ……誰かに心配されるのって、結構嬉しいもんだね。
「うん、ありがとう。アリエス。本当に大丈夫だよ」
「なら、よかった」
ふわりと笑うアリエスは、とても可愛い。
その笑顔で完全に調子を取り戻したボクは、さっきまで考えていたことを思い出そうと黙り込み……そして、ふと気になったことを質問した。
「そうだ。一つ教えてよ、父様」
『………お、おぉ。なんだ?』
「(………なんか父様の様子が変だな……? まぁ、いっか)えーっと……あぁ、そうだ。なんで、アリエス……召喚師の存在を、そいつらは分かったの?」
ボクがふと気になったのはコレだった。
乙女ゲームのアリエスは《邪神兵団》に拾われたみたいだけど……あの森は人の気配なんて全然なかった。
ボクだって、なんとなくであの森に行かなければ……この子に出会えなかったはずだ。
なのに、なんで奴らはアリエスを拾えたのかが……分からない。
父様も答えを知ってるかは微妙だったけど……運良く、その理由を知っていたみたいだった。
『あー……それは簡単だ。《邪神兵団》には様々な、固有能力持ちが多く所属している……つまり、予知者がいる』
「予知者、だって?」
『そうだ。予知と言っても、数多の未来の可能性の一つを予知できるという能力らしいがな』
…………あぁ、そういうこと。
固有能力持ちとはその名の通り……特別な力を持つ人達のこと。
分かりやすいのだと……魔術を使う魔族達かな?
あぁ、でも……魔族は種族として固有能力を持つから、少し特殊な例かも。
ずぅっと昔は固有能力持ちなんていなかったらしいけど……生命の多様性、あるいは生命の進化の結果というヤツらしい。
だから、普通は種族とか関係なしで……突然変異のように固有能力を持つことになるんだとか。
だけど……一つだけ、確実に分かっていることがある。
…………固有能力持ちはその能力の代償に……精霊術が使えない。
義姉様の説明を借りるなら、本来なら自動的に精霊術の適性にスキルポイントを振り分けられるはずなのに……精霊術じゃなくて他の適性(固有能力)に、不任意でポイントが振られてるんじゃないかってことらしい。
つまり、望んでもいないのに固有能力を持つことになって……その所為で精霊術が使えなくなってるってこと。
魔術という固有能力は精霊術に負けず劣らずの利便さを持つと聞くけれど……他の固有能力が魔術と似たようなモノとは限らない。
それこそ使えない能力の可能性もあるし。
精霊術の恩恵を大きく受けているこの世界じゃ……固有能力持ちは生きづらいだろうね。
だからこそ……《邪神兵団》は、自分達を受け入れない全部を壊したいのかな?
……まぁ、とにかく。
向こうにその予知者という奴がいるなら、その力を使ってアリエスを手に入れることができるタイミングを狙ってくるってことか。
ついでに、固有能力持ちは精霊術の適性がないがゆえに精霊達も探知することができない。
こっちから打って出て、早急に《邪神兵団》を壊滅させるのは無理か……。
…………。
…………あれ? ちょっと、おかしいな?
固有能力持ちは、精霊術が使えないし……精霊術にかからないはずなのに……アリエスは、精霊術を使った読心とか記憶読みとか成功してるよね?
………普通に《精霊の花園》に来れてるし。
召喚術は固有能力の一つのはず。
なのに……なんで?
(多分、精霊術の扱いに長けているエルフという種族であり……加えて、転生者だからだと思うぞ? 転生者は少し、特殊だからな! 後で色々と検証しておいた方がいいぞ!)
急に頭の中に父様の念話が響いて、ボクは僅かに目を見開く。
チラリと視線を向けると、父様は(まぁ、ぶっちゃけこの推測が合ってるか分からないけどっ☆)と念話しつつ、舌をテヘッと出しながらウィンクしていた。
………………勝手に人の心を読んどいてその顔って……ウザいな、父様。
「…………えっと……なんか、ごめんなさい……私のせいで……」
父様に向いていた視線(と微妙な怒り)が、その声で彼女の方に戻る。
そこには、不安げな顔をするアリエスの姿。
ボクはそんな彼女の姿を見たくなくて……。
少しでも安心できるようにと、柔らかく微笑んだ。
「大丈夫だよ、アリエス」
「……………でも……」
アリエスは若干、顔面蒼白になりながら黙り込む。
だけど、まだ解いていない読心の精霊術のおかげで……彼女の心の声がよく分かった。
『…………なんで、狙われなきゃいけないの?』
『……平和に生きたいのに』
『《邪神兵団》とか……私を巻き込まないで欲しい』
『死んでまで……邪神召喚とか、そんなのしたくない』
『……ルイ君に迷惑ばかりかけて、申し訳ない……』
…………アリエスは何も悪くないのに。
《邪神兵団》がアリエスを狙うのは……自分勝手な理由だ。
だから、この子が〝申し訳ない〟なんて思わなくていいのに。
本当、勝手に怨むとしても……他人に迷惑かけないでやって欲しいな。
「アリエス」
「…………ルイ君……?」
不安げな顔をするアリエスを精霊術で浮かせて、ボクの膝の上に座らせる。
キラキラと光る髪を優しく撫でながら。
ボクは彼女を安心させるように、柔らかく言葉を紡いだ。
「安心してよ、アリエス。今の君はボクの庇護下にある。ボクは君の、保護者だ。だから、何も心配しなくていい。ボクが君を守るよ」
「…………ルイ、君……」
「大丈夫。ボクは結構強いからね。そんじょそこらの奴には遅れを取らないよ」
自惚れではない程度には、ボクは強い。
まぁ、精霊王の息子だし……《ドラゴンスレイヤー》である兄様とよく模擬戦してるしね。
でも、アリエスを守るためならボクはもっともっと強くならなきゃ。
この子を最後まで守り切れるように。
不安げな顔をさせないように。
アリエスは、笑っている方が可愛いんだから。
「《邪神兵団》だって何が来たって、君を守るよ。だから、信じて?」
「…………でも、ただでさえ……ルイ君にはめーわくをかけてるのに……これ以上は……」
「…………」
………あー…もう。本当、この子は良い子すぎる。
守るって言われて嬉しくて、安堵してるのに……ボクの迷惑になるんじゃないかって不安になって。
…………ふふふっ、可愛いなぁ。
「ねぇ、アリエス? 迷惑なんて、思うはずないよ。出会いも拾ったのも偶然だけど……それでも、君を守ると決めたのはボクなんだよ。アリエスが死んだら、ボクが悲しいから……守りたいと思ってるの。君を守るのは、ボクが悲しい思いをしないためでもあるんだ。だからね? 迷惑なんかじゃないよ」
「………っ!」
アリエスの目が大きく見開かれて、その可愛らしい顔がくしゃりと歪む。
そして……彼女はボクのお腹に額を擦りつけながら、ぎゅうっと強く抱きついてきた。
「…………うん……ありがとう。でも、私もがんばるよ」
誰かに迷惑をかけることが嫌みたいだけど、こうやって言ってもらえるのは嬉しい。
そして、守ってもらうだけは申し訳ないから……自分にできることを頑張る。
そんな本音が精霊術を介して伝わってくる。
………あぁ、本当に良い子だなぁ……!
こんな良い子は、絶対に幸せにならなきゃいけない。
ううん、幸せにしてみせる。
取り敢えず、生贄シナリオなるモノを回避できるように……なるべくアリエスから離れないように行動しよーー。
ーーーーくぅぅぅ……。
「「『……………』」」
そんな決心をした最中ーー。
随分と可愛らしい音が、ボクに張り付いているアリエスから聞こえて、思わず黙り込む。
流石に恥ずかしかったのか……アリエスはさっきよりも強く頭をお腹に擦りつけた。
「…………アリエス?」
「ち、ちがう! もんっ!」
とは言っても、長いお耳が真っ赤なんですが?
「さっき、おかし食べたもん! だから、お腹がすいてる訳じゃないんだもん!」
「ふふっ……ふふふっ」
グリグリと頭を擦りつけながら言い訳をする彼女を見て、ボクは思わず自身の口を押さえながら笑ってしまう。
…………もう……なんなの? この小動物は。
可愛すぎて、どうしてくれよう?
「父様」
『う、うん?』
「他に何か情報ある?」
『い、いや……取り敢えず、伝えたいことは伝え終えたと思うが?』
「そう。なら、ボクらはもう行くね。アリエスにいっぱい、食べさせてあげなきゃ」
アリエスを抱きながら、ガーデンチェアーから立ち上がる。
だけど、ボクの言葉が気に喰わなかったのか……彼女は顔を真っ赤にしながら、ボクの頬をペチペチ叩いた。
「ルイ君! デリカシーない!」
「……………えぇ? 今度はどこら辺が……?」
「そこはスルーするのぉ!」
…………痛くない主張を受けながら、ボクはアリエスの言いたいことを読心する。
……んん? お腹の音が鳴るのは恥ずかしかったから、聞かなかったことにして欲しい?
……いや、無理かな。
アリエスのお腹の音、無駄に可愛かったし。
お腹空かせてるなら、いっぱい食べさせたいし。
…………それに、食べてるアリエスは小動物感マシマシで……見てるこっちまで満足するし。
「…………取り敢えず、帰ってご飯にしよう?」
「ルイ君のばかぁぁぁぁ!」
恥ずかしさが天元突破したのか、アリエスはボクの首に腕を回してむぎゅーっと抱きついて……頭を首筋に埋めてグリグリしてくる。
ふわふわした髪が頬を撫でて、ちょっと擽ったい。
…………うん。やっぱり可愛いや。
「またね、父様」
『ふはっ。あぁ、またな』
何故か楽しげに笑う父様に軽く挨拶をして、ボクは《精霊の花園》からエクリュ侯爵家の、先ほどいた部屋へと転移する。
窓の外を見てみれば、もう既に夜の帳は下りていて。
長くあそこにいたつもりはなかったけど、やっぱり時間が経ってたか。
《精霊の花園》と現実世界……時間の流れが違うってのが、ネックだよね。
でも、時計を見てみれば丁度夕食の時間だった。
「アリエス。いっぱい、夜ご飯食べるんだよ?」
「そ、そんな食いしんぼーじゃないもんっ!」
アリエスは恥ずかしさに涙目になりながら、やっぱりペチペチと頬を叩いてくる。
ボクはクスクス笑いながら……彼女を食堂へと連れて行った。
ちなみに……この後、ボクは彼女の胃袋の凄さを知ることになり……。
この日を境にアリエス用のお菓子とかを隠し持つようになりましたとさ。