第7.5話 モブ転生した少女の話
本日は短め!
よろしくねっ☆
私が前世の記憶を思い出したのは……ベビーベッドでスヤスヤ眠る赤ちゃんを、紹介された瞬間だった。
「イリス。こちらがわたし達が仕えるノートン伯爵家のご子息……アトム様だ。いつかお前が仕える主人になる方だぞ」
お父さんに連れて来られた大きなお屋敷。
両親が、どっかの貴族に仕える使用人だってのは知ってた。
いつか私も、二人と同じように使用人になるんだろうなぁってのも分かってた。
そして……今、私は衝撃のあまり動けなくなっている。
目の前でスヤスヤと眠る、可愛らしい赤ちゃん。
ちょろっと生えたふわふわとした金髪に、アトム・ノートンという名前。
そして……いつかこの子の侍女になるであろう私、イリス・バレス(五歳)。
うん、間違いない。
絶対この子、《精霊と乙女と愛のワルツ4》っていう十八禁乙女ゲームの攻略対象である〝わんこ学生〟君(乳児期ver)とそのルートに出てくるモブ侍女(名前だけ出てくる)だわ。
………………マジかっっっ!
《精霊と乙女と愛のワルツ4》。
それは、言ってしまえば十八禁の乙女ゲーム(PC)だ。
ちなみに、グロ系ではなく……エロ系の十八禁ね。
このゲームの主人公は《精霊姫》候補に選ばれた平民の少女で……ある日、強力な精霊術が使えることが分かった彼女は王都にある学園に通うことになる。
現時点では《精霊姫》候補であるため、学園に通いながら……もう一人の候補者(こちらが悪役令嬢)と競いながら、《精霊姫》を目指すことに。
そして、ヒロインは《精霊姫》の守護者となる候補者達と出会い、彼らと共に巷で起こる様々な事件を解決したり、交流をしたり。
恋やR-18なこともしつつ……最終的に世界を滅ぼそうと暗躍していた《邪神兵団》(ちなみに、彼らが世界を壊したい理由は……精霊術が使えない所為で迫害を受けた人とか、知能が低い下位精霊の所為で大切な人を亡くしたとか、生きることに絶望した者による世界を巻き込んだ心中とか、精霊王に対する恨みとか……多種多様なソコソコ重い理由があった)とラスボスである邪神を愛の力で倒す……というのが、大まかなストーリーだ。
もう分かってるだろうけど、この守護者候補達が攻略対象達ね。
ちなみに攻略対象は、六人いて……詳細は以下の通り。
一人目は、〝俺様第二王子〟ことグリード・エン・エディタ。
優秀な王太子への劣等感で、学園では俺様(つまり、構ってちゃん)キャラとして乱暴な振る舞いをしているが……ヒロインとの交流で徐々に改心する。
そして、最後は兄とのわだかまりを解消し、ヒロインの騎士となることを誓う。
二人目は〝チャラ男騎士〟……メルヴィン・フェルー。
お色気担当でチャラ男、沢山の女性との浮き名を流しているが……騎士としての実力は折り紙つき。
ヒロインとの交流で徐々に彼女だけを愛するようになるのだが……時に当て馬キャラの登場ですれ違うこともある。だが、最後はヒロインを選ぶ。
三人目、〝真面目学生〟ザカライア・キャンド。
人でありながらエルフに負けない高度な精霊術を使う学生。精霊術師団に入りたいと思っているが、そこはエルフ達の差別が強いため……人である自分ではと、微妙に卑屈になっている。
だが、ヒロインとの関わりで、何にも負けない志を持つ。
四人目が〝ほんわか精霊術師団副団長〟サイラス・トゥーザ。
精霊術師団の団長を父に持つエルフで……エルフ内では珍しい穏健派。
かつて人間の婚約者を病気で亡くしたため、大切な人を作るまいとしてきたが……ヒロインと関わることで、彼女に惹かれるようになり……葛藤する。
しかし、最後はヒロインの手を取る決心をする。
五人目……〝わんこ学生〟アトム・ノートン。
歴史あるノートン伯爵家の息子で、《騎神》とあだ名される軍人の血を引く。
だけど、当の本人は気弱でわんこ。自分に自信がなくて、いつも下を向いている。
しかし、ヒロインとの関わりで……徐々に好きな人を守れるようになりたいと、男として成長していく。
そして最後……〝ヤンデレ軍人〟ルイ・エクリュ。
軍部所属の軍人で、最初は一定の距離感を保つが……それがどんどん保護的になり、過保護になり、溺愛へと変わり、ヤンデレへと至る。
それでも相手を傷つけようとするヤンデレではなく、理解があるヤンデレ(?)なので……そこまで酷いことにはならない。
ぶっちゃけ、ほぼ溺愛一直線。
……って感じかな。
最後のルイルートはどこがヤンデレ? って思うかもだけど……このルートの真髄はハッピーエンドじゃなくて、バッドエンドにある。
でも、その話は機会があったらってことで。
閑話休題。
まぁ、とにかく。
そんなこんなで前世の記憶(とは言っても、個人情報系は靄がかかってる。前の世界への未練を持たないようにかな?)を思い出した私は、五歳だというのに自意識が無駄にはっきりしていた理由に納得した。
はっきりと前世の記憶があるのは思い出してなかったけど……前世の私が無自覚にいたんだろうなぁ。
…………本当は、知識チートとかやって、アトム様のお手伝いをするべきなのかもだけど。
モブが出しゃばって破滅する系の小説、いっぱい読んだことあるし……下手にモブが介入して、世界滅亡待った無しになったら笑えない。
私は話に名前が出てくるだけのモブだ。
なんの力もなくて、乙女ゲームに直に関わることすらない。
いや……自分が仕える主人の濡れ場なんて、ちょっと無理だから……逆に関わることがないモブに転生してよかったのかな?
とにかく言えることは……。
(頑張れ、アトム様……貴方達の肩に、この世界の命運がかかってるぞ……!)
ちょっと世界滅亡とか笑えないんで、ヒロインとなんとか世界を救ってください。