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ここは異世界?

 気がつくと、俺は異世界に居た。

 なんでここが異世界だと分かったかというと目の前で技名を叫んでいる魔法使いが居たからだ。


「【ファイヤーボール】!」


 魔法使いが前に掲げた杖の先端に付いている宝玉のようなものが光り、空中に魔法陣らしきものが展開され、そこから火の玉が飛び出した。

 火の玉は一直線に前へと飛んでいき、うっすい水色のぽよぽよしたやつ──たぶんスライム──にぶち当たった。

 じゅおー、と音を立ててスライムが萎んでいき、やがて残った何かを魔法使いは拾い上げた。


 なんでか知らんけど俺は、森と草原の狭間で起こったその様子を、少し手前から眺めていて……ほっぺたを抓った。痛い。


 そうしている内に魔法使いは歩き出していた。


 夢じゃない。その事実に戦慄しながらも、ただ一人残される不安から、気付けば俺は魔法使いの方へ駆け出していた。




「あ、あの!」


「……ん? なんだい?」


「すみません。俺このへん詳しくなくて、道に迷ってしまったんですが、近くに街とかありませんか?」


「あぁ、それなら、すぐそこの道を北に十分ほど歩くと、王都があるよ」


「なるほど、ありがとうございます」


「気にしないで。見たところ武器を持っていないようだし、この辺は弱いとはいえモンスターも出るから、気をつけてね」


「はい、お気遣いありがとうございます……あの、俺王都行ったことないんですけど、お金って掛かりますか? 今ちょっと手持ちがないもので……」


「いや、そんなことはなかったはず……街の境に門があるんだけど、身分証を提示して、犯罪歴がなければ、すぐ通れるよ」


 え? 身分証なんて持ってないよ? パスポート風の何かが流通してた場合……これ俺もしかして不法入国?


「というより、君王都に知り合いでもいるの?」


 魔法使いは心配そうに聞いてきた。


「いえ、いませんけど……」


「だったら、手持ちがないってことだけど、何か当てはあるの?」


「いや、それも困ってて……」


「だったらまず王都についたら、中央の広場に向かうといい。そこの東側に大きな掲示板があって、色々日雇いの求人情報が出てるから」


「っ! そうなんですか! 中央広場東側の掲示板ですね、ありがとうございます。助かります」


 思わぬ有力情報ゲットだ。とりあえず王都にさえ入れれば、日銭を稼ぐ目処はあるってことだな。


「うん、じゃあ頑張ってね。あっ、そうだ。僕は冒険者ギルドのシルバーって言うんだ。何か困ったことがあったら冒険者ギルドを訪ねてくるといい」


 シルバーさん、めっちゃいい人や……


「俺は……現人(あきと)って言います。本当にありがとうございました」


「アキトくんだね、覚えたよ。じゃあまた、縁があったら」


「はい、シルバーさん」


 シルバーさんはにっこりと笑って立ち去っていった。




 とりあえず、身分証もってないけど王都を目指すことにした。

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