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片我  作者: 空音
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 頭がぼんやりとした。そして倦怠感。

 血圧が僅かながらに上がっていくのが分かる。覚醒しつつある意識の中で、俺が置かれた状況をゆっくりと遡っていく。

 初めに視界に捉えたのは、見慣れた真っ白な天井とLEDライトだ。


「…俺の……家か?」


 体を起こした。体が猛烈に熱い。まるで限界までサウナの中にいたみたいだ。

 状況を確認する。どうやらリビングのソファで寝ていたようだった。


 ゆっくりと昨日のあの出来事を思い出していく。迷い込んだトンネルと、屋敷、そして座敷牢のような小部屋。考えを巡らせる度、鈍い頭痛が走った。


「あ、良かったー。稔、起きたんだ。今日はバイト無いみたいだったから起こさなかったけど。…えっと、…大丈夫?」


 俺に話しかけてきたのは一つ年下の妹の香耶(かや)だった。心配そうに俺の顔を覗く。


「……ちょっとクラクラするが。あのさ、香耶。昨日、俺はどうやってここに帰ってきた?」

「市ノ瀬とかいうチャラ男に連れられて帰ってきたよ。10時過ぎだったかな?父さんも母さんも心配してたよ。仕事から帰って来たら、ちゃんと説明した方が良いんじゃないかな?」

「ちょっと待って…。市ノ瀬さんが、連れて帰ってきた?」

「うん。…お酒でも飲みすぎちゃったのかな?」


 スマホをつける。今はお昼の二時過ぎだった。そのついでにシフト表を確認する。市ノ瀬さんと圷さんは今日は午前からシフトが入っているようだった。バイトが上がる時間は2時半。あと少しだ。そのタイミングで連絡を取る事にしよう。


「ねえねえ、何か食べる?……あれ?ちょっと!?どこに行くの?」

「ごめん、ちょっと確かめたいことがある」


 食欲は全くなかった。

 俺は立ち上がり、自分の部屋へ向かった。酷い立ちくらみがしたものの、気にしない。実際計っていないが多分熱がある。それも39℃近い熱だ。


 まずは昨日の出来事だ。思い出すだけで体が震え上がってしまう圷依里の豹変。きっと何か理由があるはず。


 自分のPCを起動させる。あのトンネルの先にある屋敷と小部屋のことを、早く明らかにさせたかった。

 だが、地名が分からない。そこで本来の目的地であった展望台の正式名称を探す。

 元から小さな田舎町だ。それらしき名前は直ぐに見つかった。


猿沼(さるぬま)展望台…ね」


 どうやら、あの地名は“猿沼”というらしい。

 胸騒ぎがする。これも本で読んだ知識だが、地名に動物の名前が付く場所は“やばい”と聞く。どう“やばい”のかは、今そこで想像したことがそのままであろう。過去に災害や怪異を抱えた、曰く付きという線が濃い。

 猿沼展望台に近しい道をロードマップで見ていく。カーソルを当て、山の麓から国道に沿っていく。だが、ない。やはり存在しない。異様なバリケード構える手掘りのトンネルと、廃集落はない。


「なんで無いのだ?」


 見落としているのか?

 確かに、大きな山の中にあるあのちっぽけな屋敷を見つけるなんて、砂漠に落としたビーズを拾うぐらい難しいことであろう。だが、何かヒントがあっても良いはずだ。


 そこで俺は検索方法を変える。

 画面を見る度に吐き気が増していた。それでも、解決の糸口を見出すまでベッドに潜ることはしたくなかった。


 仮説ではあるが、トンネルや廃集落は10年以上前のものだ。あの屋敷と小部屋はそこまで古びたものに窺えなかったが、周りの倒壊状況からはそう推測できてもおかしくない。


 大学図書館のホームページを開け、猿沼の過去について記された図書・論文を探していく。


「…嘘?あった?」


『猿沼集落にて崇められていた新興宗教について/神月(こうづき)慶一郎(けいいちろう)


 論文だ。この著者にフォーカスを当てる。

 神月慶一郎という男は神道系の大学の非常勤講師をやってるらしい。正式に教授ではないみたいだが、この他に本も出していることから、先生というより専門家の人だろう。

 とりあえずメモをしておこうとメモ帳を取り出した時だった。

 PCに繋いで充電をしていた俺のスマホが鳴った。通話をしてきた相手の名前を見て、俺は直ぐに反応する。


「市ノ瀬さん…!?まだ仕事じゃ?」

『あー、聞こえるか?訳ありでバイト早く上がれることになってな。寒河江、お前体調は?』

「かなりダルいけど立てるので一応は大丈夫です。…昨日は気を失ったみたいで。すみません。ただでさえ大変だったのに…。更に迷惑掛けてしまったみたいで」

『気にするな。それよりもちょいと(まず)いことになった』

「拙いこと?」

『あいつ…、――――圷がいなくなった』


 身体中の汗が引いていく。圷依里の様子がおかしかったのはずっとであったが、その存在が見失われてしまうのは盲点だった。


『朝からバイトに来なくてな。昨日のあのことがあったし、体調が良くないのかなって思ってさ、店長には誤魔化しといたんだよ。で、さっきの休憩で名簿漁ってさ、あいつの実家の番号にかけたんだ。そしたら圷の姉が出てね。“昨日、帰ってきてからまた出て行った”って』

「市ノ瀬さんは圷さんを家まで送ったんですよね?」

『ああ。送った。人が変わったみたいで気持ち悪かったけど、あの女は元から変なやつだからそこまで気にしなかった』

「いや、変じゃ済まないでしょう!?」

『本当にその件は申し訳ないと思ってる…。でさ、それだけじゃなくて、圷の姉がバイト先にまで訪ねてきたんだよ』

「圷さんの姉?」


 市ノ瀬さんの言葉を反芻する。

 そう言えばその存在を仄めかしていた。確か地学系統の学科に所属している学生だとか。エモいトンネルを卒研にしてるとか言っていた気がしないでもない。


『じゃあ、ちょっとお前と話したいみたいだから』と市ノ瀬さんが言い、通話の相手が分かる。


『あんたが寒河江稔?』

「……圷さんのお姉さんですか?」

『まあそんなところよ』


 気の強そうな人だった。姉と問われてそんなところと答えるのは親類としてどうなんだろう。

 だが、圷姉は俺には構わず、一方的に話し続ける。


『……単刀直入に聞くわ。昨日、あそこで何を見た?』

「何って…?」

『そのままの意味。あんたがあの場所で“何”を見たのか知りたいってこと。あ、言っておくけど、屋敷とか祭壇の話はもうこの男から聞いてるから』

「…?えっと……、子供…。子供を見ました」

『子供?何歳ぐらい?』

「多分ですけど、5歳か6歳か。…小学生には満たない、それぐらいの歳です」

『大きいわね。困ったわ』

「…大きい?」

『詳しい話は後。市ノ瀬と一緒にあんたの家に向かってるから。そしたら車の中で話す。…もうじき着くわ』


 丁度、下の階からインターホンが鳴った。妹の「はーい」という応答が聞こえる。

 俺はPCをスリープにし、重たい体に耐えながら、壁に手を付いて、再びリビングの方へ向かう。


「えっと、どちら様…かな?」妹が首を傾げていた。俺は「ごめん、香耶は下がってて良いよ」と謝り、その中に入る。

 そして、目の前に立つ女性に言葉を失う。


「圷さんの姉……、―――――え……?」


 思わず口篭った。話すことよりも、その顔に釘付けになる。それは、圷依里本人かと目を疑うぐらいに似ていたからだ。

 だが、良く見てみると、異様なほど似ているだけであった。圷依里と違って、化粧は質素だし、服装も煌びやかなものではなく、グレーのパーカーにジーンズだ。それでも、似ている点は髪質と顔のパーツ、身長、スタイルと上げだしたらキリがない。


「似てるだろ?オレも驚いたよ」

「市ノ瀬さん…」

「簡潔に自己紹介するわ。(あくつ)瑠依(るい)。大学4年、22歳。依里の双子の姉よ」

「双子…?」

「そう。難しく言うと一卵性双生児。どう?生き写しみたいでしょ?」


「姉か」と質問した俺に「そんなところ」と答えたことを思い出す。正直双子だったら、どちらが姉であるか妹であるか、関係ない気もしないでもない。


「嫌な予感がして依里のスマホに電話かけまくったんだけど、無駄だったみたいね…。あの時引き留めていたらと思っても…、後悔しても仕方ないわ。それに、あんたの体、かなりしんどいみたい?」

「…はい。立ってるのもきついぐらいです」

「霊障かしら?とりあえず、やることやってから依里を探しに行く。自分のケツは自分で拭いてもらうわよ。来なさい」


 強引に誘導され、俺は車に乗せられる。

 運転席には市ノ瀬さんではなく、圷姉が座った。


「行くって何処まで行くんですか?」

「あたしが来るまでに猿沼のことは調べた?」

「…え、……ええ。本当に軽くですが」


 質問に別の質問をぶつけられて戸惑う。それでも彼女の口から『猿沼』の2文字が出たことにより、俺は心の中で信頼を置こうとしていた。この女は俺たちの知らないことを少なからず知っているみたいだ。


「なら優秀ね。玲弥は調べることさえもしなかったから」

「仕方ないだろ?朝からバイトだったんだからさぁ。帰ってからやろうと思ったんだよ」

「小学生みたいな言い訳するなら黙ってなさい。あと、あんた…稔だったかしら?。敬語はやめて。あたし、堅苦しいことは嫌いなの」

「…でも貴方、俺から見たら歳上ですよ?」

「いいの。大学3年でしょ?年齢なんて、1歳しか変わらないじゃない。タメ口。じゃなきゃ教えないわ」

「……ああ。分かった。だから、教えてくれ」

「ええ。もちろん。それに素直な男は好きよ」


 にっこりと口角を上げて微笑み、そして圷瑠依は語り出す。


「あたしね、見える側の人間なのよ」

「見える?」

「あんたが廃集落で見たやつ。…あたしも見たわ。高校生の時、バイクの免許取り立ての時ね。友達とツーリングに行った時あたしもアレを見た。いや、アレに魅せられた」

「おいおい待てよ?二人ともオレを置いて話を続けないでくれ」

「ねえ、一応聞いておくけど、玲弥は全く見えないのよね?」

「……悪いがな。寒河江の言ってることは1ミリも理解出来なかった」

「なるほどね。分かったわ」


 俺は圷瑠依に質問しようとする。「で、えっと…」


「瑠依で良いわ」

「瑠依……さんは、その、そこでアレを見たんだよな?…あそこは一体何なんだ?」

「呪いの温床みたいなものね。小部屋に、御神体である短刀と木箱を納めて、集落の中で崇拝していた、言わば神のようなもの」

「座敷牢で良いんだよな?……何だかよく分からないが、あの場所は、本当にやばいと思う」

「そう。あそこは座敷牢で正解。よく分かったわね。あの土地は呪われた土地。踏み入れた者を蝕んでいく。無数に散らばる御札たちを見たら分かったでしょう。ただの座敷牢じゃないもの。禍々しい者を閉じ込めておく部屋なんだから」


 でもそれが何のために作られたのか、その真相が分からない。何故あの集落の人々は、座敷牢を作り、その中に木箱と短刀―――御神体を納めたのか。そして異様なぐらいの御札を張り巡らせたのか。

 そこでひとつの仮説が浮かぶ。神月慶一郎という学者が書いた論文だったか。そのタイトルに含まれていた『宗教』の文字。集落の人々は、独自の信仰を持っていた?でもなぜ?疑問が泡のように次々と浮かんでくる。


「で、今から行くところは、過去にあたしたちを助けてくれた人がいる場所」

「助けてくれた?瑠依さんが過去に?」

「ええ。あたしはアレに連れていかれた。そうね、今の依里みたいに。アレの声を聞いたなら、もう終わり。専門家に対処してもらうしかない。稔や玲弥はアレの声を聞いていないのよね?」


 俺と市ノ瀬さんは「ああ」「一応な」とそれぞれ頷く。それを聞くと、安堵して「ならまだ大丈夫かしら」と息を吐く。


「着いた。ここがあたしの命の恩人、神月慶一郎さんの務める場所よ」


 車が留まる。見上げると大きな神社だった。その大きさの割に、参拝者の数は少ない。駐車場にある車を数えるだけでも、俺たちのを入れて3つしかない。場所が田舎町の更に奥地ということもあるのだろうか。

 そしてこの女は何と言ったか。神月慶一郎?ポケットに入れていたメモ帳に書いたことを思い出す。それってつまり、あの論文の――――


「ようこそ」


 袴を着た初老の男性が、俺の腰掛けている後部座席のドアを開ける。その男性は不思議と人を惹き付けるような魅力があった。俺は彼のその言葉にし難いオーラに圧倒される。


「あなたは…?」

「私の名前は神月慶一郎。職業は…、呪いのスペシャリスト、とでも呼んでくれたら良いかな?なんちゃって」


 神月と名乗った男はお茶目な顔をして笑った。


「久しぶりだね。瑠依ちゃん」

「ご無沙汰してるわ。メールは読んでくれたかしら?」

「もちろん。君の双子の片割れを助ける。…その前にこの子たちをどうにかして欲しいと」

「そういうことだわ。忙しい中悪いわね。…本当に話が早くて助かるわ」

「そりゃあ私の仕事だからね」


 親しげに話す神月という男と圷瑠依。命の恩人と言っていたが、それよりも友達のような親しげな関係にも見える。

 神月さんは俺の方に顔を向ける。


「君、名前は?」

「寒河江…。寒河江稔です」

「そう。稔くんね。…背中にいるやつ、かなり辛そうだね」

「背中……?」


 振り返る。またあの感覚が走る。

 背筋が凍るような、名状しがたいぐらいの寒気。


 俺の後ろに立つ女と目が合った。深淵のように虚ろな黒い瞳と長い髪、白いの肌。現実であれば美しい女性の魅力であるはずなのに、俺は、背後に張り付くこの女の全てに嫌悪感を催す。


「気づいていなかったのかい?……これは良くないね」


 神月さんは俺の手を力強く引く。

 女の顔は、昨日見た赤い着物の子供と驚くくらい似ていた。ただ、年齢が違う。どう見ても目の合った女は『少女』と呼ぶ年齢ではない。妹・香耶より少し下か、同い年ぐらいであろう。少なくとも20はある。


「教えてください…!あ、あれは…、あれは何ですか!?」

「一言で表すならば良くないもの。思いの力によって成長をする。子供の霊なんてそんなものだよ」


 足に力が入らず膝から倒れる。体力的な面でも限界だった。

 襲ってくるのは強烈な目眩。頭の中をミキサーにかけたみたいに、自分が立っているのか、それとも座っているのかも分からなくなる。


「さ、寒河江。…オレはちっとも役には立てないけど。お前を支えることなら出来るぜ?」

「すみません…」


 肩を借りて立ち上がろうとするものの、足に力が入らない。

 息は上がったままで、冷や汗までもが出てきてしまっていた。オマケに変なモノと目を合わせることになったし、気分は最悪の最低だ。


「背中を貸して。振り向いちゃ駄目だからね?」


 神月さんはその場に俺を座らせると、塩のようなものを懐から取り出した。右肩、左肩と順に盛り、最後に背中を優しく摩っていく。それと同時に祝詞のようなものを吐く。何を言っているのかは全く聞き取れないが、心做しか、目眩が治まってきた。


「気分はどうだい?」

「さっきよりはマシです」


 でも辛いことには変わりない。実際に今も頭痛と吐き気で、体の内側から破壊されそうだ。

 自らの体を蝕む症状は、風邪なんかでは無いことを改めて感じる。


「…一応は離れた。けどね、君は気に入られちゃってるみたいだ」

「どうして…、ですか?」

「君、子供が好きだろう?」


 子供?どういうことだ?

 好きか嫌いかで言ったら子供は好きだ。でなきゃ、教職に就こうなんで思わない。こんなんでも、教育学部に所属している学生の1人だ。

 ともあれ、昨日見た大量の子供の手と、少女の姿が脳裏を過ぎる。


「…急ぐべきかしら?」

「そうだね、状況は一刻を争うだろう」


 二人が顔を見合わせる。その表情は深刻そうだ。


「詳細は車の中で話そう。…君たちの身に何が起きているのか、あの場所は何なのか、をね」


 *


 車は市ノ瀬さんのものだった。体調が優れない俺は真っ先に乗り込み、ぼんやりとシートに体を預ける。神月さんと、圷姉が何やら道具をトランクに運び込んでいた。それもスーツケースでだ。中に何が入っているのか、ほんの少しだけ気になった。

 運転席には神月さんが座ることになり、助手席に圷姉、後部座席に俺と市ノ瀬さんという座席順に変更になった。


「これから私たちは猿沼集落に向かおうと思ってる」


 俺らが聞くまもなく、神月さんは口を開いた。

 猿沼集落と聞いて息が詰まりそうになる。この物語の発端、謎の行き着く終着点は、始まりに起因するということなのだろう。


「おいおい…。またあの場所に行くのかよ」

「恐らくそこに、圷依里ちゃんはいるだろうね」

「……なら行くしかないのか」


 不機嫌オーラ全開で語るものの、それを聞いて口を噤む。俺の横で市ノ瀬さんが溜息をついた。だがしかし、眉を顰める。何かが引っかかっているのだ。


「いや待てよ?あそこって行けるのか?地図になんて載って無いんだぜ?」


 そうだ。俺も瑠依さんに呼び出される前に調べた。

 カーナビに載っていなかったのも、もちろんのことであるのだが、Googleマップでは猿沼集落らしき場所と、気味の悪いトンネルらしきものは載っていなかった。


「あそこは呪われた場所だから」と瑠依さんがぽつりと零す。

「なあ、あの場所は何なんだ?儀式とか宗教…だったか?さっぱり分からないんだが?」

「かたはれ時って分かるかい?」

「かたはれ時……?」オウム返しをする。だが、市ノ瀬さんは心当たりがあったのか、「あ…!?」と相槌を打った。


「あれか、昼と夜の間みたいなやつか?オレ知ってるぜ。結構前だが、オレが見た映画でも、そのかたはれ時ってのが出てきてた」

「ご名答。逢魔ヶ刻とも言うかな。夜明け、宵の間との意味もあるけど、言葉なんて一人が使い出したら、それが正解になってしまう。だからね、ここではかたわれ時だ。昼でも夜でも朝でもない、空疎な時間のことだよ」

「そのかたはれ時がどうしたんですか?」

「君たちがあそこに迷い込んだ時のことを、よく思い出してみなさい」

「……分かったぞ。そういう事か。オレたちが迷い込んだ時、昼でも夜でもない、喧しい蝉の音に囲まれた…赤い夕暮れに満ちた時間帯だった。…ということは?」

「そう。君の想像通りだよ、玲弥くん。あの時間に、あちら側の扉は開く。瑠依ちゃんの時もそうだっただろう?」

「ええ。もう二度と思い出したくないけどね。……確かにそうだったわ」


 ひぐらしの鳴き声と、雑木林が囲む先の、バリケードで構えられた異質なトンネル。俺たちがあの時に踏み入った先は、既にこちら側では無かったということなのであろう。あちら側とは即ちこの世の住人の住処では無い場所。


「ここで問題だ。かたはれ時。漢字で書くと?」神月さんがミラー越しに俺を見る。


「急に何ですか。…片方が割れるに『片割れ』じゃないですか?」

「この意味は?」

「そのまま、片方…とか」


 そう言って止まる。俺は上手く説明出来ずにインターネットで調べる。

「2人組…、二対の一方…、と書いてあります」

「それも正解。メジャーな方だと『黄昏』・『()(かれ)』の対義語、『()(たれ)』とも書くみたいだけど。暗くて相手の顔が見えない事に由来してるらしい。日本人は本当に掛詞が好きだからね。私は言霊は存在するって思うよ。かたはれ時に出来る異世界への扉、そこに迷い込み、誘われる条件がある」

「そう。あたしか、依里みたいな双子が鍵なのよ。だから、声に誘われ、あそこに行き、呪いを受けることになる」

「ダメだ、さっぱり分かんねぇ!時間帯が原因なのは分かった。でもさぁ、何で双子がそこで出てくるんだよ!?」

「……もしかしてそこで宗教か」


 俺が呟くと、またしても神月さんは「ご名答」と頷く。


「稔くんは私の書いた論文を読んでくれたかな?」

「残念ながら時間がなくて全部は読んでないです。…でもどういうことです?双子に関する信仰、それも呪いに酷似したことが、あの集落で行われていたってことですか?」

「いい線いってるね。ほぼ正解だよ。あそこではね、双子が生まれたら片方――――片割れを殺したんだ」

「片割れを殺した?」

「そうだ。被差別部落のことは授業でやったかい?…ああ、大学生だっけ?」

「…子供扱いしないでくださいよ。一応は成人してるんですから」


 俺が不服気に言うと、神月さんは「仕事柄子供と付き合うことが多くてね、悪いね」苦笑いをする。


「やりましたよ。俗に言う、穢多とか非人とか呼ばれている人達のことでしょう?」

「うん。彼らは立場上、外でお見合いは出来ないから、自分の集落で子孫を残す。それはおいといて。不思議なことがあってね。多胎児は遺伝するんだ」

「遺伝…?双子がですか?」


 俺は瑠依さんの方を見ると、「これは意外とよくある話ね。あたしの父さんは双子の家系だから。依里とあたしは片割れ同士なのかも」と返ってきた。


「続けるよ。集落の人々は、今とは違って国から補助金は出ない。とても貧しかったんだ。だから、双子の片割れを出生時に殺した。短刀でブスリと。とても育てられる環境じゃないからね」

「殺した…?子供を……?胎児だったらセーフだが、赤子を殺すのって…、それって犯罪じゃ…?」

「戦前の被差別部落だよ。無法地帯だ。それにこんな山奥。法律なんて及ばないさ」

「そんな惨いこと…」

「するしかない。赤子を食べさせていけるほど裕福じゃないからね。…メインの話はこれからだ」


 唾をゴクリと飲み込む。


「人々は、罪の自覚があったのだろうね。集落の長の家―――君たちが侵入したあの屋敷だね、あそこの屋根裏に、小さな座敷牢を作り、死体をそこへ納めた。そして村の守り神として崇め始めたんだ」

「それが、宗教ですか」

「ああ。独自の信仰だね。赤子を神とし、村の象徴とするんだ。でも、そのやり方がおかしいんだよ」

「おかしい?どういう風に?」

「御神体は赤子の臍の緒、そして赤子を殺す時の短刀だ。それを〝神〟として崇めるなら良い。ただ、これらは、あの部屋をどう見ても、〝神〟への贄としか見えないんだ」

「贄?つまり神様として祀られているのは」

「――――殺した赤子が神ではなく、別の生き物だ」

「…もしかして赤い着物の女」


「ああ」と神月さんは首を縦に振る。

「長の娘が双子だった。だが、片方しか育てられない。両親共々片割れを殺すことを躊躇った。そこで、だ。不平等だと他の村人から言われないために、こっそりと小部屋で匿うことにしたんだ。それが小部屋が祭壇ではなく座敷牢と呼ばれる要因だろうね」

「…?座敷牢には死体を納めていたんですよね?その場に乳児を匿い育てるのは無理があるんじゃ…?」

「外から泣き声が聞こえても村人は自らが殺めた片割れが泣いてるって思うよ。供養も火葬も出来ないし、何より村の神みたいに思っていたから。ただ、奇妙だと思うのは、中で育てられている少女だ。恐らく、君が指摘しているのはそれだろう?」

「はい。…そんな死体だらけの環境下で子供は育てられないと思います」

「そうだ。それにまともな食事を与えることもできない。だから長く生きられなかった」

「それで、どうなったんですか?」

「自分以外の赤子の死体に囲まれて死んだ。おまけに死体は名の無い神への贄だ。…分かるかい?」

「……呪いよ。赤子の怨嗟を取り込んだ、未知なる怪物へと変わるのよ」俺たちの会話を黙って聞いていた瑠依さんが口を挟む。


「つまり、俺が見た女は」

「異世界の主にして、神、そして集落の呪いの根源って訳ね」

「…何だか現実味を帯ないが、分かったことにしておこう」


 幽霊やら化物やら、現実離れしすぎている。今の俺に、神月さんの話した昔話を信じろと言われても、理解するのにかなりの時間を必要としそうだ。

 俺は疼痛に苛まれる頭を抱えた。


「君は怖い話は好きかい?」

「いや…、そういうのは苦手です」

「そっちの長身の…、玲弥くんだっけ。君は好きかい?」

「オレも苦手っすよ。ホラー映画とかマジ無理です。あんなの見るのはマゾヒストじゃないか?」

「そうか。残念だなぁ。ひとつ話を紹介しようと思ってたんだけどね」

 神月さんは俺たちの反応に、悲しげに眉を下げ、

「コトリバコ。知ってるかい?」


 言われて俺らは顔を見合わせる。聞いた事はある話だ。生まれたての赤子や胎児の臓物を詰めて、呪いたい家に置くのだ。そうすることで、赤子の憎悪がその一家を蝕み破滅へ追い込む、恐ろしい代物―――のような話であったはず。

 その俺の表情を読み取ったのか、神月さんは話す。


「あの座敷牢は大きなコトリバコだよ」


 壁に貼られた御札。俺たちはそれを捲らなかったが、もしかしたらそれを剥がしたら、乾涸びた臓物が納られていたのかもしれない。そう思うと、ぞっとした。気持ちが悪い。


「コトリバコは殺した赤子の数で呪いが増すんだ。つまり、あの屋敷、あのトンネルの向こう側は、大量の多胎児の殺戮によって作られた、恐ろしい空間なんだよ」


 景色は雑木林のままで、夕焼けが満ち、ひぐらしが鳴き始める。


「――――開くよ。この世とあの世を繋ぐ門が」


 俺は絶句した。

 前方には昨日見た、手掘りのトンネルが佇んでいた。不規則に並んだトタン板やベニヤ板が、俺たちをこの先に通すまいと、不思議とそんな意志を感じた。


「な、何でだよ……?」


 市ノ瀬さんの額から汗が滴る。

 車は停車し、俺たちはそれから降りた。その途端に、土砂降りのようにひぐらしの鳴き声が降り注ぐ。頭痛を更に増していくような、蝉の声が騒がしく鳴る。


「オレが朝来た時、ここには着かなかった…。だからオレは夢だと思ったんだよ。…でも…、夢じゃないんだ」

「え?市ノ瀬さん来たんですか!?ここに!?」

「だって気になるだろ!?昨日あんなことがあったんだぜ!?自分の目を疑いたくなる気持ち、分かってくれよ!?……でもその後にバイトに圷は来なかった。それどころかいなくなった。…嘘でも夢でもない。悲しいことにこれがオレにとっての現実なんだ」


 呆れつつも彼の勇気に乾杯だ。例え、着くことが出来ないことを分かっていても、俺は恐怖で来れないだろう。しかも1人でだ。


「あたしがいるからね。話したでしょ。片割れは呼ばれるのよ」

「でもさ、どうするんだ?呼ばれた後の対処を考えておかなくちゃならないだろ?最悪瑠依さんが…」

「問題ないわ。過去にあたしは帰って来ることが出来たんだもの」


 瑠依さんは微笑み、神月さんを見上げる。その神月さんは「やれやれ」と言った表情をした。


「手を打ってる。でもね、次はないよ。きっと」

「依里を助けられれば何でも良いのよ」

「…えっと、すまない。その対処方法とは何だ?」


 俺は尋ねる。神月さんは荷台から、行く時に積んだスーツケースを取り出した。


「これは…?」


 お祓いの道具を入れるにしてもサイズは大きい。これから海外旅行にでも行くのかと思ってしまうぐらいだ。


「中に入ったら説明する時間もないと思うからね。ここで作戦会議だよ」


 そして神月さんはスーツケースのロックを外す。

 中から出てきたのは、思いもよらないものだった。


「…ぬいぐるみ?なぜです?」


 大きなくまのぬいぐるみだった。クリスマスに子供が貰うようなかなりのビッグサイズだ。だが、プレゼント用とは明らかに違う点がある。そのぬいぐるみは腹部が縦に裂けて、中から腸のように米粒が溢れ出していた。


「私から君たちに頼み事だ」

「…な、なんですか。急に改まって」

「君たちの2人のうち、どちらかがこのぬいぐるみの中に髪の毛と爪を献上して欲しい」

「それだけで良いのか?…何か裏があるんだろ…?」


 市ノ瀬さんがそう言うと、瑠依さんが目を逸らした。ずっと感じていた違和感。それの正体に俺は確信する。


「なあ、瑠依さん。昔、神月さんに助けて貰ったって言ってたよな?」

「そうよ」彼女は短く答える。

「その時、もう1人いたって言ってたよな。それってもしかして―――」

神月(こうづき)一花(いちか)。神月さんの孫であたしの友達。神月さんに出会ったのはその繋がりね。高校の時、一花と偶然ここに迷い込んだ。それであたしはかたはれの呪いにあった。今の依里と同じように」

「…?おい、寒河江。話が見えねぇよ。それでその一花はどうなったんだ?」

「十分見えてるじゃないですか。そこですよ。〝助けて貰った〟という割に何の代償もない。変な話じゃないですか?」

「…ああ。…?言われてみればそうだな」


 相手は呪いだ。この世のものではない。それに対して何の対価も無しに助かる。そんなことがあっても良いだろうか。


「――――一花はあたしのために犠牲になった」


「やっぱりか」と俺は言う。


「でも勘違いしないで。死んではいない。この土地に住むことが出来なくなっただけ」

「そう。ここの呪いは土着信仰だからね。これからやることは呪いに呪いを重ねて、擬似的にもう1人の自分を作る。それを犠牲にすることで依里ちゃんの帰れる道を作るんだ。1番良いのが私が引き受けることなんだろうけど、私の片割れをこっちに残したら将来的に近づけなくなるからね。人助けするのが役目だから」

「それがぬいぐるみなのか?」

「ひとりかくれんぼって知ってるかい?ぬいぐるみの腹を割いて米粒と自分の髪の毛、爪を入れる。それに包丁を突き立てて隠れんぼをするんだ。一時期インターネット上で流行って2ちゃんねらーやらYouTuberやらが真似しだしたけどね。あれは自分自身を呪う術。想像しているよりずっと恐ろしいものだよ。それを応用する」

「呪いに対抗するのは呪いって訳だな。……なあ、寒河江」


 俺の隣に立つ青年が小さく挙手をする。


「今回の発端はオレが原因だ。それにまあ、この土地を離れたとしても、卒業まで半年ぐらいだし何とかなる。…だからオレにやらせてくれ」

「驚きました。以外と男らしい一面もあるんですね。でも、ありがとうございます。…本当に良いんですか?」

「良いってことよ」と彼は笑い、「〝以外と〟は余計だぞ…?」と付け加える。


「これで良いのか?」


 市ノ瀬が髪と爪を雑に毟る。それを腹の裂けたぬいぐるみに入れる。そして神月さんがソーイングセットでその腹を縫う。


「うん。これで良いよ。準備が整ったところで作戦会議だ。瑠依ちゃんは中には入れないからね、外で私と待機。その間に青年2人はあの座敷牢へ行って依里ちゃんを救いに行く」

「あたしはただの〝鍵〟だから。依里を救いたいのは山々なんだけど、貴方たちにしか助けられないの。お願い」

「つまり市ノ瀬さんがくまのぬいぐるみを置いて、俺がその隙に圷さん―――妹の方を助け出せば良いんですよね?」

「そういうことだよ。それに加えて、君の背中のモノも何とかしなくちゃね。まあ、そっちは私の仕事だから。稔くんは何の心配もしなくて良いよ」


 それでも。再び寒気がした。トンネルのバリケード前、そこにあの赤い着物の女がいた。

 女が口を開く。何かを話している。だが、俺にはその言葉は聞こえない。何を訴えようとしているのか、気付くことが出来ない。


「……いつまでも悠長にしていられないね」


 神月さんが睨み付けるとその女は消えた。ふと思う。〝呼ばれる〟。俺は今、あの女に〝呼ばれている〟のだ。


「行こう」


 俺たちは神月さんの後に続き、トンネルの先の異空間へと歩む。


 *



 トンネルの先にある集落は、昨日と見たままの同じ光景であった。真っ赤な彼岸花が空疎に咲き乱れ、その隙間を埋めるように、倒壊した家屋がある。そしてその中心に佇む、異様な雰囲気を、纏う1軒の屋敷。


 神月さんは残りの道具が入ったスーツケースを開き、お祓いに使うのであろう道具をセッティングしていく。


「瑠依ちゃんはここで私とお留守番だ。という訳で、重要な任務は男性諸君に任せてるよ?」

「神月さんも男性だろって言いたいけどな。ここまで来たんだ。圷のために戦うぜ、オレは」

「……任せたわよ」


 泣きそうな声で瑠依さんが呟く。そして涙が零れそうな目を隠すためか、その目線を下にする。


「大丈夫だ。市ノ瀬さんもいるし。それに、瑠依さんだって過去にその方法で助けられたんじゃないのか?」

「そうだけど。…あたしは何の力にもなれないことが嫌なのよ」

「ここまで来れたことが十分力じゃないのかなぁ?まあ、何にも見えないし感じることが出来ないオレが1番無力だろうけど」


 笑い飛ばす市ノ瀬さんもその目は笑っていなかった。

 怖い。皆怖いのだ。この世のものではないモノと戦う、その曖昧さが怖い。


「そうだ。稔くん」

「どうかしましたか?」

「これを持っていきなさい。君の背中のにも有効なはずだよ」


 神月さんが俺の手を強引に引き、握らせる。紙の小袋に何かが入っていた。


「これは?」

「私が丹精込めて作った魔除けのお守りだよ。中を見たら駄目だからね。何かあったらこれに祈りなさい。良いね?」


 俺は頷く。貰ったものをズボンのポケットに入れた。

 恐怖を飲み込んで俺たちはそのままあの家へと向かう。


 表札の無い屋敷。ドアは噛み合わずに空いたままになっている。そのドアノブに手をかけ、中へ入ることを試みる。スマホの明かりで先を照らすと、昨日見たものと全く同じ光景が広がっていた。靴を脱がずにそのまま上がり、廊下を渡っていく。


 割れた格子戸からひぐらしの声が降り注ぐ。その鳴き声をかき消すように、硝子が散らばる廊下を踏んでいく。


 そして、家の裏に当たる、勝手口横の扉へと、俺たちは行き着く。


「ぬいぐるみ持ったまま階段、キツくないですか?」

「ああ、これか?まあでかいけどな。見た目ほど重くはねぇよ」


「よいしょ」と市ノ瀬さんがくまを背負う。その光景は、圷さんが豹変したあの時と重なるようで、何だか苦しくなった。


 そのまま階段を登り、家紋の薄れた漆塗りの観音扉を開ける。ゆっくりずらす。重たい蝶番の音が悲鳴のように響く。


「圷!?いるか!?」


 市ノ瀬さんが大きな声を出す。だが、返事はない。


 ――――座敷牢には誰もいなかった。


 蔓延る御札も昨日のまま。祭壇に供えられている短刀と木箱も変わらない。


「どういうことだよ…!?圷はここにいるって話じゃ…!?」


 俺は慎重に辺りを見回す。何か、昨日と異なる点は無いか探っていく。


「…ど、どうしたんだよ、寒河江?」

「昨日の圷さん、変じゃなかったですか」

「それがどうしたんだよ!?トンネルを見つけた時から既に変だっただろ!?」

「勿論、そうですけど。ここから逃げる時…、子供に襲われた時ですよ。昏睡した圷さんに何かが乗り移った」

「…?なんだ?知らねぇぞ?」

「あ、市ノ瀬さんは運転に集中してたから知らなくてもおかしくないですよね。…ですけど、あれは絶対に圷さんじゃなかった」


「この体、とっても素敵ね」と言い放った圷依里。少なくとも圷さんはそんなことを言う人柄ではない。圷依里の皮を被った、得体の知れないモノであると断言できる。


「――――誰だったんだ、あいつは?」


「木箱…」徐に市ノ瀬さんが指を指す。

「木箱?…あ、そうか」

「あの木箱に触れてからおかしくなったんだよ。それにお前も臭いがするって…。神月さん、何も言ってなかったよな。あれの中身は何が入っているんだ?」

「……俺が開けます」

「……何言って?」

「圷さんを探さないと俺たちは帰れませんよ。きっとヒントになるって、俺は思います」

「やらなくて後悔するより、やって後悔するってやつか?」

「男のプライドですよ」


 自分でも何を言っているのか分からなかった。だが、何かしら動かないことには圷依里を見つけることは出来ない。ただ、自分の擬似片割れを連れてきた、奴らの餌でしかない。


 俺は震える指先で木箱に触る。大丈夫だ、何も起こらない。

 そう難しくは無い作りのようで、簡単に開いた。その中身を覗く。

 中には―――――


「ミイラ…?だが、体の一部だよな…?」


 干し芋のようなものが20ほど中に入っていた。だが、その形状をまじまじと見詰めることで、俺はそれが何であるのかと把握する。そう脳が認識した時、猛烈な吐き気が襲いかかって来た。迫り上がる胃液を喉の奥に押し込み、嘔吐するのを堪える。


「お、おい…?大丈夫かよ?お前まで駄目になったらオレもう終わるぞ……?」

「…うっ、意識はあるので、大丈夫、です。……それより、これ……臍の緒ですよ」

「臍の緒…?」

「こっちは、指、足、…あと臓物も混じってる。…やばいですよ、これ」

「…神月さんが言ってたコトリバコ、ってやつか?」

「…似てるけどちょっと違いますね。でも、だいたい一緒でしょう。付け加えるなら、…祭壇で信仰されてた〝片割れの神〟。供物は子供、それも多胎児の臓物。それが呪いとなって集落を滅ぼした、その説が正しいんじゃないでしょうか…」

「胎児の指にしては大きいよな…?お、おい?寒河江?しっかりしろよ!?」


 物凄く、今の気分は最悪だった。インフルエンザで寝込んでいる時に乗り物酔いを加えた気分だ。吐き気と頭痛が同時に俺を苛む。

 また目眩が来る。座っていることも辛く、倒れ、床に臥せる形になる。顔の穴という穴から体液が溢れる。


「すみません、市ノ瀬さん。…あ、あれ…?」


 彼ならばついさっきまで俺の隣にいたはずだった。だが、臥せたまま俺が顔を向けても、そこには誰もいない。


 頭痛と吐き気は突発的だったのだろうか。今は自然と治まっている。


「……う、そ……」


 俺のものじゃない声がした。嗄れているけれども女性の声であるとはっきり分かる。鉛のように重い体を起こして、前方に目を向ける。

 大量の御札が貼られた窓のない小部屋。そこにいる人影。市ノ瀬さんではない。その声の主は思いもよらない、でも俺たちがずっと探していた人物だった。


「……ねえ、あなた、寒河江くん…、よね?」

「あ、ああ…、じゃなくて、はい。俺は寒河江稔です。…そういう圷さんこそ、本人ですよね…?」

「ええ。私よ。まるで私の皮を被った偽物でも探るような言い方ね。私は私以外何者でもないわ。…私は私だもの」

「その調子じゃいつもの圷さんですね。……ああ、良かった……」


 圷依里がいた。一晩中泣いたのであろう。瞼を真っ赤に腫らし、祭壇の下に体育座りをして、俺のことを死人でも見るかのように恐る恐る話かける。

 しかし、改めて見ると圷瑠依と気持ち悪いぐらい似ている。市ノ瀬さんの片割れ役をあんな仮初のくまのぬいぐるみに任せて良いのか不安になってきた。


「助けに来てくれたのね。ありがとう。でもね、ここからは出られない。絶対に、逃げられないのよ」

「そんな悲観的にならないでください。入口があるなら出口があるはずですよ。ここに来た時の記憶はないんですか?」

「……声が聞こえていたの。女の子の。あの木箱を触る前からもね。でも、気付いたら私は意識はなくて、ここにいた。ね、何のヒントもないでしょ?…ごめんなさい、私のせいで」


 声。俺の場合は声ではなく姿だけだった。神月さんも瑠依さんも「声を聞いたら駄目」と言っていた気がする。もしかして俺が声さえ聞かなければ勝算はあるのかもしれない。その一縷の望みに賭けてみる。


「声…。姿は見てないんですか?」

「ええ。声だけ。なんて言っているかは分からない。だけど、聞くと頭がふわふわするような感覚になって、衝動的に動いてしまうの」

「それが〝呼ばれる〟ってやつか…」


 俺が白檀のような香りを嗅いだ時と似ている。腑には落ちない。だが、このまま立ち往生していても何も進展しない。

 立ち上がり、座敷牢の入り口の扉を引く。だが―――


「開かない。……なるほどな」


 引いても押しても扉は何も言わなかった。まるで魔法がかかってしまったかのように、頑丈に漆塗りの観音扉は佇んでいる。


「そう。出られない。……お腹が空いたわ」

「お腹が空くということは時間の流れが正常、と考えて良いのでしょうか…?あ、そうだ」


 ズボンの右ポケットに触れる。神月さんから貰った紙の小袋だ。


「それは何?」

「神月さん…、圷さんのお姉さんの恩人だって言う人から貰ったんです」

「瑠依…?神月って一花ちゃん…?ねぇ、あの子は何処にいるの?」

「神月さんは一花って人ではないです。瑠依さんとその人は、ここじゃない外に。2人は過去にここに来たことがあるみたいですよ。心当たりありませんか?高校時代、突然お姉さんが失踪したこと」

「…あるわ。でもまさか。…一度あるってことは二度あるの?……それとも怪異に会うとまた会いやすくなるの?」


 彼女の中で歯車が噛み合っていくようだった。思い出の糸を手繰り寄せるように、圷さんは静かに語っていく。


「瑠依…姉が、バイクの免許を取り立ての時、同じクラスの一花ちゃんと出かけたの。その夜、一花ちゃんだけが帰ってきて…、瑠依がいなくなったって言った」

「…その場でいなくなったんですか?」

「その日私はずっと家にいて姉が帰ってきた記憶はないから、…そうだと思う。父と母は地元の人だから何かを知ってるみたいで、だけど私には一切教えてくれなかった。一花ちゃんの親族は神道の家系らしくてそこで助けて貰ったって聞いたわ」

「ちなみに聞くけどその一花って子は生きてますよね?」

「引越したけど死んでなんかないわよ。…まあ、大体察した。市ノ瀬が名乗り上げたんでしょ。自己犠牲…彼らしいわ」

「飲み込み早いですね。説明の手間が省けました。まあ、そんなところです」

「少し希望が見えてきたわ。ありがとう」


 圷さんの表情から緊張が解れたのが分かる。

 俺は例の小袋を握る。気のせいかもしれないが、さっきよりも熱を帯びている気がする。


「…また頭が痛くなってきた」

「大丈夫ですか?横になっててください」


 圷さんの体を支え、御札で埋め尽くされた床に寝かす。

 その時だ。彼女の瞳孔が大きく開いた。それだけで俺は悟る。


「……誰だ、お前」

「……」


 返事はない。語る必要はないということか。

 女は笑う。目だけは虚無を見据え、口元は大きく歪め、笑う。

 不思議なことに恐怖はなかった。ただ、目の前にいるやつと戦わなければならない、意思だけが芽生える。


「…昨日圷さんの体を乗っ取ったやつか…?いや、俺の後ろにいた女か……?……誰なんだお前?…ッ!!!!」


 圷さんの皮を被った女が俺を襲う。押し倒され、今度は俺が床に寝そべる形になる。

 女が俺の首を強く絞める。抵抗しようとして俺は女の手首を掴み、反対の手で指先を剥がそうとする。だが、その指先に触れて驚いた。力強く締めようとする割に、指の圧に差がある。まるで元から指が5本揃っていないみたいだった。

 ふと閃き、気付き、祭壇の木箱に目を向ける。


「…ッ、……もしかして、お前の指か…?」


 力が緩む。


「……神月さんの話に出てきた座敷牢で匿われただけの子供じゃないよな?…過去にきっと何かがあった…。俺たちの知らない、何かだ」

「………」


 神月さんはこの座敷牢がコトリバコだと言った。祭壇の木箱ではない。俺が閉じ込められているこの部屋そのものがそうだ。

 それに、おかしい点はもうひとつある。殺めた赤子の遺体は御札の外、この木製の壁を剥がした先にあるような発言を仄めかした。一言も木箱の中にあるなんて言っていないのだ。胎児・赤子にしては大きい指先のミイラ。だったらこれの持ち主は目の前の人物にしか当てはまらない。今はその線しか考えられない。


「おい…?俺の声は聞こえているか!?ただの〝片割れ〟の呪いじゃないよな!?!?」


 神月さんの仮説は良くて半分正解だろう。この集落で双子の片割れが人々によって殺され、神として崇めていたら、このような惨事になった。これは紛れもない事実だろう。だが、違和感は俺を許さない。俺がただの子供に好かれやすい体質だからと言うだけで、霊を視認し、呼ばれたなんて安直なことはあるだろうか?


「お前は俺に何を訴えたいんだ!?!?」


 強い憎しみが悲しみに変わった気がした。

 無意識に握ったままにしていた小袋のお守りが先程よりも一層熱を帯びる。圷さんに覆い被さられ、仰向けになったまま俺は、天井を仰いだ。


 電気が通っていない天井。御札が貼られていても木目が見えてそれが木製であることが窺える。

 いや、木目か?暗闇に慣れてきた俺の両目を細める。


 ――――――それは木目でなく人の瞳孔だった。


 昨日屋敷を立ち去った後、トンネル前に佇んでいた少女。その少女と似たような目が俺のことを見ていた。


「天井裏に何かがあるのか……?」


 お守りを掌で強く握る。カイロのように熱い。

 女はもう俺を襲わなかった。俺を押さえつけることをやめて、へたりと座り込んだ圷依里が、その整った顔から雫を滴らせる。


「……戻ったのか…?圷…さん?」

「………悪い霊に同情なんてしちゃいけないわ。そんなのは分かっている。……だけど……」


 そう言ってまた顔を両手で覆う。

 俺は彼女に何も言葉をかけることができなかった。そのまま横たわる姿勢になり、襲いくる目眩に歯を食い縛る。ようやく目眩が治まる兆候を見せた時、


「圷!?寒河江!!!!!?!?」


 場違いなほど大きな声が聞こえた。市ノ瀬さんだ。


「いきなり消えてここに現れてよ!?どうしたんだ!?」

「……見たままですよ」

「なんでそんなに冷静なのかなぁ!?圷は?怪我はしてないか?」

「……あ、戻ってきた…、な……なんで?どうして

 ……?」

「ごめん、市ノ瀬さん。……混乱するのも無理ないです」


 圷依里は何を見たのか、俺は彼女にそれを問わなくても、大方察しが付いていた。木箱に詰められた指、俺が女を視認した時に見た傷だらけの皮膚、そして貧しい集落のはずなのに煌びやかに纏った赤い着物。これが違和感の正体。全ての謎が繋がった今、その結末を見届ける義務が俺たちにはある。


 その時、天井裏から音がした。その異質で大きな音に市ノ瀬さんは肩を震わせて反応する。


「な、なんだ…?もうくまは納めたのに?」


 見たら市ノ瀬さんの片割れは祭壇の下に座り込んでいた。このくまは〝片割れ〟の呪いの方だ。これを納めなければ俺たちは帰ることはできなかっただろう。


「それとは別に呪いがあったんですよ。片割れなんかじゃない、集落が崩壊した大きな因果、それがこの天井裏にいます」

「別の呪い?」

「そうね。呪い。全ては呪いのせいよ。だけど呪いは目に見えない。姉がよく言ってたわ、『呪いは概念』って。だから、今から見るのは元凶の方」


「背中良いかしら?」と圷さんは俺に問う。俺とさほど身長が変わらない圷さんだ。やることは決まっている。

 俺は四つん這いになる。圷さんが靴を脱いでその背中に乗る。彼女の体重が俺の背骨に食いこんで少し痛んだ。


「ご、ごめん?大丈夫?」

「良いですよ。市ノ瀬さんが乗るよりはマシです」

「なんでオレと比べるのかなぁ!?」

「ねえ、寒河江くん。懐中電灯貸してもらえる?スマホの充電切れちゃって」


 市ノ瀬さんを無視する。

 俺は彼女に持ってきた100均の懐中電灯を渡した。

 圷さんはそれを受け取り、御札を払って天井の板を押す。大した力はいらなかったようで、ドンっと音を立てて長方形の木製の板が外れて落ちた。


「何か見えましたか…?」


 息を飲む。

 圷さんは黙ったままだった。そのまま訪れる沈黙。辺りを探っているのだろう、足元をやたらと変えているようだった。

 どれぐらい経っただろうか。ぽつりと彼女は呟いた。


「慰み者、人柱、……西洋風に言うならば異端審問…。そんなところかしら…」


 圷さんは俺から降りる。「俺も見ましょうか?」と問う俺に対して優しく「やめときなさい」と断った。


「結論から言うわ。木箱に入っていたのはあの女の子の指に間違いない」

「どうしてそう言い切れるんだよ」

「―――ミイラがあった。即身仏のような。体育座りをして壁に凭れていたわ。骨格からして女性。それも子供。長年経っているとは言え、周りに体の部位が落ちた形跡は無かった。その子には――――指が無かった」

「…そういうことか」

「加えて、その子は服を着ていなかった。だから体がどんな状態で亡くなったか、とてもよく分かるわ。……腹部が大きく裂けていて…。内蔵を抉り出されているわよ、これ」


 俺たちは黙る。予想はしていたが、それでも衝撃的だった。

「多胎児を殺め過ぎたことによって、この屋敷、特にこの部屋はコトリバコ化。その呪いによって人々は暴徒となって、匿われていた多胎児の片割れ、集落の長の娘を襲った…そんなところでしょうか?」

「襲ったで済めば良いでしょうけど。実際は匿われていた女の子が祟りを引き起こしたとかで拷問にかけられた説もあるわ。禊やらなんやらで適当に理由を付けてね。呪いから、人々は思い込みに囚われ、この集落は廃れた。十分に考えられるわね」

「呪いは概念って言ってもな。目には見えないだけだろ?」

「目に見えないからこそ怖いのよ」


「さて」と圷さんは一息吐き、

「帰りましょう。余り長居はしたくないわ」


 掌に握り続けていた小袋は、黒く煤けていた。役目を終えたのだろう。俺もこんな場所に長居はしなくない。


 座敷牢の入口の扉が鈍い音を立ててゆっくり開く。ちなみに、ここにいる誰も触れていない。目には見えないない何者かが開けたのだ。


 俺は立ち上がる。その時に鼻を擽る白檀の匂い。ただ、あの時とは違って気持ちの悪いものでは無い。柔らかく、どこか懐かしいような香りだった。


「寒河江くん……大丈夫?」


 心配そうに圷さんに顔を覗かれる。

 どうやら俺は涙を流していたようだった。慌てて手の甲で涙を拭う。


「きっと寒河江くんに気付いて欲しかったのよ、あの子は。私に取り憑いたのも構って欲しかっただけ。小さい子なんてそんなもんでしょ」

「でもそれだと過去に圷さんのお姉さんが失踪したのと辻褄が合いませんよ」

「神月さん……だっけ?その人が言ってたのは集落の呪いだけでしょ。あの女の子について深くは語ってない。だから別の事件。私は集落の多胎児の呪いじゃなくて、あの女の子に連れていかれた。こういう考え方も出来るかもしれないわね。それに…」


 圷さんは振り返って、

「白檀の香りには魔よけの効果があるんですって。もしかしたら、寒河江くんのことを、御先祖さまが守ってくれたのかも。なんてね」


 圷さんはそのまま階段を降りていく。俺たちもそのまま続き、来た場所まで戻っていく。


「依里……!!!」


 1階に降りたところで、瑠依さんが声をあげた。そのまま駆け寄り、最愛の妹を抱きしめ、膝から崩れ落ちる。


「良かった…。平気?大丈夫…?」

「ええ。…ありがとう。寒河江くんも市ノ瀬もありがとう。そしてごめんなさい」


 圷さんが頭を下げ謝罪する。俺たちは「助かれば良いんですよ」と笑った。笑えるぐらいまでに心の緊張は解れていることが分かった。

 日はもう暮れていた。漆黒の帳が下ろされ、外界と離れたここは虫1匹の息も聞こえない。


「神月さん」


 俺は紫の袴を着た初老の男性に話かける。


「なんだい?」

「天井裏で、圷さんが見たそうです。…女の子のミイラを。何か知っていませんか?」

「君が見たならそれが真実だ。私はその他には知らないよ」

「…どういうことよ?あなた学者なんでしょう?」


 神月さんは道具を畳んでスーツケースにしまう。そしてそのままトンネルの向こう側へと歩み進んでいく。


「呪いは概念だ。…概念の意味は分かるかい?」


 俺たちが答える間も待たず、そのまま神月さんは続ける。


「例えば〝猫〟といったら私は日本猫を想像するだろう。だけど君たちは日本猫を想像するとは限らない。スコティッシュフォールドかもしれないし、ロシアンブルーかもしれない。でもそれは間違いじゃない、どれも正解だ。呪いも同じ。憑かれていると思ったら憑いてくるし、呪われていると思ったら本当に呪われてしまう。認知なんだよ、全ては人間の。ね?」


 トンネルに入る。湿った空気が俺の頬を撫でていく。


「結局、あれは存在するんですか?…俺たちが出会った――――〝片割れ〟の呪いと、1人の女の子は、…あそこに実在したんですか?」


 神月さんは答えなかった。答えは存在しない。そういうことだろうか。

 圷さんが大きく溜息をつく。それにつられてか、市ノ瀬さんも盛大に息を吐いた。


「不思議だったな。何もかも。…つーか、オレ、引っ越さなきゃいけないのか?」

「そうだね。まあ、そこは私が紹介するよ。君たちに運命を背負わせた大人の仕事だろう」

「もー、子供扱いしないでくださいよ。助かるんで有難く頂戴するけどさぁ」


 トンネルを抜けた。抜けた先も真っ暗な世界が広がっていた。でも、あちら側とは違う。秋の始まりを告げる虫の声が、辺り一面に鳴り響いていた。

 俺はバリケードの先を振り返る。歪んだ半円状の手掘りのトンネル。あの女の子は俺に何を伝えて欲しかったのだろう。考えても、やっぱり分からなかった。


「寒河江くん、早く。神月さんが大オマケで最後にお祓いしてくれるらしいわ。それに、手の中の小袋。お焚き上げしなきゃ駄目みたい」


 すっかり元気になった圷さんが、車窓から身を乗り出し、俺に声をかける。


「分かりました。今行きます」


 駆け足で市ノ瀬さんの車へと向かう。そのまま俺たちはその場を後にする。


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