<元婚約者>ーリンドウ・クレマチスー
これでバカ王子に対する見方が少しでも変わればいいなぁと思います。
あれです、殿下は頭の回転ははやいけど日常生活では馬鹿なタイプです。
私は正直、あの時全く気乗りしていなかった。
婚約者候補との面会、どうせまた面倒臭いご令嬢と下卑た笑みを浮かべたその両親が媚びを売りに来るのだろう。
甲高い声で騒がれるとついイラついてしまうのだ。
表面上には出さないよう努めているが…
「はぁ、こんなことをしている暇があったらあの本を読み進めてたい…」
私は憂鬱な気分で庭園へと向かった。
ーー庭園、そこにいたのは正しく天使だった。
光をうけ、何色にも輝く白金の髪。
まるで宝石をはめ込んだような薔薇色の瞳。
全てが、神の依怙贔屓を疑う程整った少女だったのだ。
危うく見とれそうになったが、すぐに目を逸らす。
いくら容姿が良くても、いつもキツイ匂いを纏わせ男に媚びを売るような女性だったら意味が無い。
なんと言っても、自分は王太子。
私の婚約者になるということは将来は国母となる人だ、容姿だけでは選べない。
だが、その少女…ダリアに関われば関わる程私は惹かれていった。
奥ゆかしくはあるが自分の意見はハッキリ言い、容姿に劣らぬ能力も持っている。
私は阿呆は嫌いだ。
彼女程私に見合う人間はいない!
父親であるルピナス公爵、オダマキ・ルピナスと言ったか…の下卑た目は気に入らなかったが、それよりももうダリアを手に入れたくて仕方がなかったため両親に婚約をしてもらうよう頼んだ。
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あぁ、ダリアが婚約者で本当に良かった。
彼女は喚きもしないし面倒臭くもない。
彼女が隣にいるだけで私の心は安らぐ。
…だが、如何せん私に興味が無さすぎる気がする…
自分でいっては何だが私は王族という名に 恥じない整った容姿も能力も持っていると思うのだが…
私は彼女に興味を持って欲しい、私が彼女を愛する分、ほんの少しでもいいから私の事も愛して欲しいと思った。
だが彼女は私が何をしても振り向かない。
史上最年少でこの国の歴史に対する論文で賞をとっても、騎士団の練習に必死で食らいつきわずか13歳で騎士団長のお墨付きを貰っても。
彼女は少し首を傾げ、微笑みながらただ「おめでとうございます」と言うだけだった。
口調も性格も出来るだけ彼女の好みに近づけよう、と心がけた。
一人称も「私」から「俺」に変えてみたり…まぁ結局彼女の好みは分からなかったが。
ある日、母方の親戚であるご令嬢と話していると、リアとばったり鉢合わせた。
するといつもは感情を見せない彼女が「…彼女は、何方でしょう。」と不快気にいったのだ。
驚いた。
彼女が微笑みを絶やすだけでなく自身が名乗るより先に相手にきくだなんて失態をするとは。
「完璧令嬢」の素の顔が見えた気がした。
もしかして嫉妬、してくれたのだろうか。
だとしたらなんて嬉しいことだろうか!
彼女が私のために感情を露わにするだなんて感動だ。
これだ、そう思った。
それからの私の行動は早かった。
流石によく知りもしないご令嬢と仲良くするふりをして、既成事実だ何だとか言われても困る。
容姿が整っており、口が堅い裏稼業の者に金を払いリアが見ている前でだけ近づいてくるようしむけた。
勿論リアが見ていない所では全くもって触れ合っていないし、一線を超えたこともない。
チャンスだと勘違いして寄ってきた本当のご令嬢方にはキッパリ断った。
途中からリアの目は嫉妬ではなく、呆れを表していると気づいた。
だが、向けられるものなど何でもいい。何でもいいからこっちを向いて欲しい。
彼女から向けられたものなら何でも愛おしいのだから。
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「もうっ陛下!本当にお認めになってよろしかったのですか?リンがこれからどうするか…」
「んー、まぁあの馬鹿息子はねぇ…今恋の病にかかってるとはいえ本来とんでもなく賢い子だ。バカな振りをしてるのが本当に勿体ないくらい。だからこの婚約解消も全部仕向けたんだと思うよ?」
「仕向けた…ですか?一体なんで」
「あはは、だって『恋に障害はつきもの』っていうじゃない。」
「あらあら婚約の解消を障害代わりだなんてあの子もやりますね。」
「まぁ私もマーガレットを一方的に愛してた時期もあったし、婚約が解消になりそうなこともあったけど今はこの通りだ。」
「あの子のこういう所は完全に陛下似ですねぇ。」
「うん、だからダリア嬢はきっと逃げられないだろうね。君もそれを身をもって実感してるだろ?」
「んもうっ陛下ったら!」
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殿下は容姿も能力も全てにおいて優れていたのでご令嬢は勝手に寄ってくるものだと思ってて、いざアプローチするとなるとどうすればいいか分からなくなっちゃったんです。
陛下からは『(せっかく賢いのに婚約者に対する対応が)バカ息子』ってことで呼ばれてます