02 異世界転生、その先で
誤字などありましたらご指摘お願いします。
(……?)
目を覚ますと周囲は森だった。高く深く木々が立ち並び、広めの池がある。
ぼやけた目をこすろうと手を見ると……なんですかこれ。慌てて池を覗き込む。
(ねずみ……いや、『ラット』という感じでしょうか)
身体のあちこちを確認してみる。短い手足、毛におおわれた小さな体、ひょろりと伸びた尻尾。どうやら本当に魔物になってしまったみたいですね。
とりあえずはステータスの確認…が必要ですかね?転生ならではですから。
「ーー~~っ!?」
ステータスと言おうとした、はずでした。聞こえたのはガラスをひっかくような
キィキィとした音。鳴き声と言った方がいいのでしょうか?
喋れないのは少し不便な気がします。
(……ステータス、確認)
今度は念じてみる。自分の事が知りたいと、強く祈る。
-個人ステータス閲覧、承認-
違和感が頭の中に流れると同時に、目の前にゲームのようなウィンドウが現れた。
■――ステータス――■
名前:ヒイロ (スモールラット) ジョブ:-- Lv:01
種族:魔獣(最下級種) サイズ:極小型
【HP】8 【MP】4
【生】3【力】2【硬】2【速】3
【魔】2【精】3【知】5【運】2
■所持スキル
【鑑定:最下級】
■特殊
『異世界からの転生者』
【四次元袋:最下級】の素養
※この項目は本人しか見ることはできません
〈神様の手紙を所持しています〉
■―――――――――■
スモールラット、がこの身体である魔物の名前なんですね。
【知】が少し高めの値なのは、異世界転生者だからでしょうか。
(……神様の手紙?これは?)
文字に触れてみると、並んでいた文字が手紙に変わっていく。えーと……?
〈これを読んでいるならば目が覚めたのじゃろうな。種族はどれでもいいと言っておったし、悩んだ末にルーレットで決めてしもうたが……まあ、許しとくれ。他の者には転生時説明したんじゃが、うっかりおまいさんへの説明を忘れっておったので手紙として記しておく。まず最初に、おまいさんの世界の物語に出てくるように『ステータス』を確認したことじゃろう。
【生】は生命力、その数だけ【HP】にプラスされておる。
【力】はそのまま攻撃力じゃな。高ければそれだけ大きいダメージとなる。
【硬】は守備力じゃ。相手の【硬】が自分の【力】の倍以上あるとダメージは小さくなってしまうので注意が必要じゃぞ。
【速】はそのまま素早く動ける値じゃ。相手より速ければ先手を打てる。
【魔】は魔法の威力となる値じゃな。その数の倍が【MP】の値となるぞ。
【精】は精神力、魔力制御の値じゃな。魔力操作を高めれば余計な魔力を使わん。
【知】が高ければ魔法を覚えやすくなる。人によっては頭の回転の良さにもなっておるので、まあ高くて損は無いじゃろうて。
【運】は魔物のアイテムドロップやダンジョンの罠から宝箱、状態異常といった『確率』に関係する値じゃな。なかなかに上がりにくい値なんであまり期待はせんように。
魔物じゃてあまり意味は無いかもしれんが、人間の一般知識も書いておくぞ。
主要都市としては王都であるエルドランド、古都のマカティアの2か所さえ知っておればよいじゃろう。通貨単位はガルド。銅貨、銀貨、金貨、白金貨の4種類。
銅貨1枚10ガルドじゃ。銅貨10枚で銀貨1枚、銀貨100枚で金貨1枚、金貨1000枚で白金貨1枚の値じゃな。紙幣は無いんで財布の管理はしっかりのぅ。
ゲームなどで言う冒険者もいる。ギルドに所属した者達じゃ。階級は低いものから【銅】【鉄】【鋼】【銀】【金】【白金】【宝鉄】【神鉄】の8種。
宝鉄と神鉄はそうそうおらん。伝説の英雄というやつじゃな。
ちなみに味噌や醤油、米などについてはちゃんとあるぞ、名は違うがの。
スキルや魔法、その他色々あるじゃろうが…まあ【鑑定】を使っていけば、おいおい分かっていくじゃろう。さすがにこれ以上は過保護というもんじゃしのぅ。
転生した先がどんな場所になったかはワシにもわからん。もし危険な場所になってすぐ死んでしもうたら、魂を加工して天使にしてやるから許してくれい。ダメかの?まあ、おまいさんに関して魔王を倒してくれとは言わんので無理せず生きとくれ。ちなみに想い人についてじゃが、その世界での名くらいは最後に記しておこうかの。名はアピス、あとはワシは何も言わんでおこう。 ヴァイシュ・クルス〉
長い割にゲームの知識があれば基本的に分かることしか書いていませんね。
でも、少し不謹慎ですがワクワクしてきました。チートはありませんが…異世界で冒険なんて、物語でしかなかったものを自分で体験するなんて!
(やはりまず……どんな感じか使ってみましょうか。『鑑定』!)
池のそばに咲いていた花にスキルを使ってみると、あの違和感が流れる。
-ヒイロの【鑑定(最下級)】!-
■――鑑定結果――■
名前:アデルフラワー レアリティ:レア 種類:植物
説明:?????? ????? ??????
【鑑定(最下級)】では全ての情報を閲覧できません
■――――――――■
まるで立ちくらみのような感覚に脳がぐらりと揺れた気がした。
突然侵入してきた情報の流れに、脳がショックを受けたようです。
やはり長年放ってあったスキル、わかったのは名称とレアリティのみですか。
せめて薬になるとか…毒を持っているとか分かればよかったけれど…。
えっと、この項目…鑑定できるみたいですが……?
-スキル【鑑定(最下級)】使用-
■――鑑定結果――■
【レアリティ】とは、アイテムや武器防具などの希少価値。
コモン:1番価値が低い。量産の物などのどんな場所でもよく見られる物。
ノーマル:ごく一般的な物。量産の中でも質の良い物はこのレアリティ。
レア:少し珍しい物。効果にも期待ができるだろう。
ユニーク:なかなかに珍しい物。価値は高く素晴らしい一品。
シークレット:とても珍しいとされる秘宝。
レジェンド:伝説とされる遺物。これを見つけられる者こそ希少だろう。
■――――――――■
……となるとこの花は、珍しいものということになる。どんな効果かは分からないかもしれないけれど、この辺りの物は鑑定して行った方がいいかもしれませんね。
当面の目標はやっぱり食料の確保とレベルの強化になりそうかな。
あとはステータスに書いてあった【四次元袋】…でしょうか? 予想はある程度つきますがこれも調べておきましょう。
■――鑑定結果――■
スキル【四次元袋】は、特殊な亜空間にアイテムを保存できる袋を出す
ことができるスキルです。生物以外ならどんなアイテムでもほぼ無限に
入りますが、【袋】では6種類までのアイテムしか入れることができません。
スキルのレベルが上がっていくと入れられる物の種類も増えていきます。
【袋】の最下級から【箱】【鞄】【棚】【倉庫】【空間】となっていき、
神代級である【四次元空間】では、何万種類でも入れることが可能です。
■――――――――■
なるほど、やはりよくある『インベントリ』や『アイテムボックス』と似たようなものですか。6種類という制限付きの劣化スキルではありますけど、アイテム収集するなら早めに修得したいところですね。
一旦落ち着くために池の水を少し飲む。喉を潤おしてゆっくりと周囲を見渡す。
ただの勘でしかないけれど、特に何かの気配はしない。生温かい風が地面の草花をなでる音が耳に届く。何か他の魔物に出会う前に、食料と避難場所くらいは見つけないとですね……。
―それからおよそ30分後…
■――鑑定結果――■
名前:アシッドスパイダー Lv:12
種族:魔蟲(一般種) サイズ:小型
【HP】???? 【MP】????
【生】????【力】????【硬】????【速】????
【魔】????【精】????【知】????【運】????
■所持スキル
???? ???? ????
名前:アシッドスパイダー Lv:25
種族:魔蟲(一般種) サイズ:小型
【HP】???? 【MP】????
【生】????【力】????【硬】????【速】????
【魔】????【精】????【知】????【運】????
■所持スキル
???? ???? ????
■名前:アシッドタランテラ Lv:14
種族:魔蟲(一般進化種) サイズ:中型
【HP】???? 【MP】????
【生】????【力】????【硬】????【速】????
【魔】????【精】????【知】????【運】????
■所持スキル
???? ???? ????
………
…………
………………
■所持スキル
???? ???? ????
レベルエラー:【鑑定(最下級)】では全ての情報を閲覧できません
■――――――――■
岩影の隙間に身を潜めながら、鑑定を使い魔物の群れを確認していく。
どうしましょう、明らかに危険だろう魔物が数十匹……。ぼ、僕のステータスじゃ勝てそうにないですよこれは。先頭の進化種なんて一瞬で殺される可能性が―――
ふっ、と目の前をウサギのような動物が横切って行った。次の瞬間、ウサギの動きがピタリと空中で止まる。僕には見えてないけれど、おそらくはあの蜘蛛達の糸が張ってあったんでしょう。蜘蛛達がウサギに群がっている間に、僕は一目散にその場から逃げ出した。
初めて見る魔物。それは、もうワクワクなんて微塵も感じられなくなっているほど圧倒的なレベル差。情報すら見られないほど遠いであろうステータス差。進化種という未知数の脅威。
…恐い。身体の震えが止まらない。たった一瞬、気を抜いた瞬間死が訪れる恐怖。
(どうやら、とんでもない場所に生まれ落ちてしまったようですね)
震える手を抱きしめながら、はぁはぁと息をつく。高い木の影に隠れ、警戒しながら辺りを見渡していく。何もいない…ですよね?
「キシィ…キシッ…」
(っ…!? しまった、木の上!?)
-魔物の奇襲! アシッドスパイダーの【酸液】!-
-…回避失敗! 4点の中ダメージ! -
頭の中に流れ込む文字を理解するより先に、素早く前へ跳んだけれど少し遅かったみたいだ。蜘蛛の吐いた液が右脚をかすめて、飛び散った場所からシュゥシュゥと嫌な音が鳴っている。
(ぁ、ぐ……脚が……っ!)
太ももの辺りを焼けるようにヒリついた痛みが襲う。ドロドロにまで溶かすような強い酸じゃなくてよかったけど、そう何度も当たるわけにはいきません。
逃げるにしても、この脚では追いつかれてしまうでしょう……。
(もうここまでの状況になったなら、戦うしかないですよね……)
震える腕を握りしめて、蜘蛛と距離を取りつつ向かい合う。ああもう、何てツイてないんだまったく。産まれる場所はランダムらしいですけど、こんな強敵達のいる森にだなんて。恨みますよ神様。まだまだ死ねないっていうのに。
(どうやら蜘蛛の方も、僕の行動をうかがっているみたいですね。まるで威嚇するように鳴いてます。それなら今の内に…【鑑定】!)
-ヒイロの【鑑定】! 相手のステータスを開示する!-
■――鑑定結果――■
名前:アシッドスパイダー Lv:08
種族:魔蟲(一般種) サイズ:小型
【HP】38(45) 【MP】20
【生】????【力】????【硬】????【速】????
【魔】????【精】????【知】????【運】????
■所持スキル
【酸液:????】【粘糸生成:????】 ????
レベルエラー:【鑑定(最下級)】では全ての情報を閲覧できません
■――――――――■
さっき見た『糸』や『酸』は、情報として反映されているみたいですね。
45っていうのは…最大体力でしょうか。つまりこの蜘蛛は多少だけれど手負い?
いや、油断はできませんね。手負いなのはこっちも変わりませんし、あと少しでもあの酸を受けたら死んでしまいます。せめてもう少し、何か魔物との戦闘に役立つものがあれば……。何か…何でもいい、何かあれば……。