炎 2
客間の上座に座らせられた健也は、さっそく旗地から弟子の不始末についての謝罪を受けた。
イグニサスの継承者を倒すために、敵は非常に精密なゴーレムを送り込んだらしい。
その姿に早田はあっさりと騙されたのである。
「今回のことは私の教え方の未熟さが招いたもの。荒賀くんには本当に申し訳ないことをした」
師範が頭を下げたことにより、彼の背後にいた早田と蒼馬も一緒に頭を下げる。
しかし健也としては、何が何だか分からないというのが正直な話だった。
「旗地さん。とにかく分かるように説明してください。俺の身になにが起こっているのですか?」
正当な質問をしたはずなのだが、健也自身は相手の様子に何か嫌な予感がしてならなかった。
「最初から話すとなると戦国時代まで遡るが、とにかく最後まで聞いてほしい」
そう言って、旗地は懐から紙を取り出し座卓に広げた。
紙こそ新しいが、描かれていたのは古めかしい地図である。
「……」
「これは私の先祖が記した、この土地の地図の複製品だ。そしてここに妖魔の出現する谷がある」
旗地の断言に、健也は妖魔と呼ばれる物の正体に気がついた。
(もしかして、あの土で出来た化け物の事か……)
驚く健也を見て、旗地は頷く。
「とにかく話を続けよう」
彼の背後では、蒼馬と早田が静かに座っていた。
昔から妖魔が姿を見せると言われる千業峡。
旗地家の先祖である、旗地 慎左衛門がこの地にやって来たのは、妖魔退治の為だった。
だが、最初の頃は妖魔の姿を見ることすら出来ず、険しい渓谷を彼は歩き続けた。
とにかく千業峡へやって来たのは殿様の命令なので、居なかったでは済まされない。
逆に逃げ帰ってきたと、剣術仲間や藩の人間たちに言われかねなかったからだ。
そして十日ほど山をうろついていると、彼は奇妙な場所を見つけた。
千業峡の一角に草木の生えていない場所があるのだが、その場に立つと何故か全身の力が抜けてしまうのだ。
慎左衛門が不審に思い、その日野宿をしてみると土の中から現れたのは……。
「殿様に妖魔退治を勧めた家老だったそうだ」
その現場を見た慎左衛門の驚きようが、健也には想像がついた。
とにかく彼は、すぐさま家老が妖魔に食われたかして姿を写し取られたのだと察した。
そして一撃の元に妖魔を討ち果たしたのである。
彼は城に戻ると、殿様に報告をした。既に妖魔が何人かの家臣と入れ代わっている可能性があったからだ。
「殿様は聡明な方だったので、引き続き慎左衛門に妖魔退治を命じた。記録によれば五名の家臣が妖魔とすり変わっていたそうだ。どうやら家老がわざと何人かに妖魔退治を命じていたらしい」
そして妖魔に倒され、姿を写し取られていたのだ。
「……それは色々な意味で凄いですが、なにか見分ける特徴があったのですか?」
「記録によると、妖魔といわれたゴーレムたちを切り付けたり、向こうが刀を持つと何故か刀がすぐに朽ちてしまうそうだ。
武士の時代である以上、刀を一度も持たずに日々を過ごす藩士はいない。それで分かったそうだ」
その答えに健也は沈黙した。確かに今現在では使うことの出来ない無茶な方法だからだ。
「とにかく旗地家は代々ゴーレム退治をしてきたのだが、時代を経て情報が色々と集まってくると、どうも似たような土地が日本各地にあることが分かってきた」
話の内容が急に大きくなり、健也の心臓は大きく脈打った。
「そして昭和の初めに、健也君の言う“白い人”が宇宙からこの地にやって来たのだ」
話が飛んだというべきか、不意打ちのような展開に彼は胸を抑える。
心臓もドキドキするが、身体がとにかく熱いのだ。
「荒賀君!」
旗地は立ち上がると健也の身体を支える。
「身体の中のイグニサスが敵に反応しているのだ。
蒼馬、他の者とこの周辺を見張れ! 早田は水をバケツに汲んでこい」
旗地の命令に蒼馬たちは分かりましたと答える。
健也はその言葉を遠くに感じた。




