炎 1
一般家庭の庭先にいるには、健也の姿は異様の一言に尽きる。
しかし、その姿は長くは続かず、彼の服は部分的に焼け焦げたような感じではあったが元に戻った。
とにかく彼らは早田の車に乗って、隣町にある道場に向かう。
(イグニサスが無い……)
赤い光の粒子となって剣は消えてしまった。
だが、蒼馬も早田もそれを不思議だとは思ってはいない。
健也としては二人に色々と聞きたかったが、とにかく会話をするのも億劫なくらい疲れている。
(これから旗地さんに会うっていうのに……)
グッタリしながら後部座席に身体を投げ出すように座る。
蒼馬が隣に乗り込んだとき、なんとなくほっとしてシートベルトを締め目をつぶった。
──淡い灰色の世界。
赤い光が目の前にある。
その周囲を緑色の光と黄色い光がクルクルと回った。
だが、黄色い光は見ようとすると何故かぼやけてしまう。
(なんだこれは……)
少し離れた場所では青い光が弱く瞬いている。
ところが周辺が暗くなり、4つの光のうち赤以外は輝きが弱くなっていく。
健也は自分を取り巻く闇に何か嫌な感じがした。
『ディド……。これらの武器が……』
断片的に聞こえてきた声に、彼は周囲を見回す。
闇はどんどんと深くなってゆく。
しかし、赤い光だけは尚も輝いていた。
(誰かいるのか!)
不意に誰かに腕をつかまれ、健也は大声を出しそうになった。
驚いて目を開けた時、車は日本家屋の門を潜っている。
健也は何が起こったのか、さっぱり分からなかった。
「やっと起きたか」
蒼馬が不機嫌そうに話しかける。
「俺は寝ていたのか!」
「思いっきり寝ていた」
慌てて彼は自分の格好を見る。
そんな友人の様子に蒼馬は、
「イグニサスを持って戦ったのは夢ではない」
と、冷たく言ったのだった。
車から降りて堂々とした構えの玄関に立つ。
「荒賀君、よく来てくれた」
奥から旗地が現れる。
健也は軽く会釈をした。
「あの……色々とありまして、こんな格好で伺うことになりました」
「いや、君が無事で何よりだ。話は全て蒼馬から電話で聞いている」
旗地は感激した様子で健也に近づく。
「まさか『ルクベスティ』まで発現させるとは凄いことだ」
意味不明なことを言われて、健也は首を傾げる。
「ルク……なんですか?」
「とにかく詳しい話は奥の部屋でしよう。
蒼馬と早田も来るように。突破者の事も聞かねばならん」
旗地の一瞥に、早田はというと深々と頭を下げたのだった。
そのころ、宇宙の片隅では一隻の宇宙船がワープアウトを成功させた。
船には乗組員らしき者たちはおらず、中央管理室に少女が一人だけ座っている。
彼女は設置されているスクリーンが、周辺の宇宙空間を映し出されたのを見て深呼吸をした。
『姫。ワープ移動は成功しました』
スピーカーから聞こえてきた声に彼女は頷く。
「爺や。セルレイン号の状況を教えてください」
『わかりました、姫』
しばらく機械から光のいくつかが激しく点滅した後、声の主は報告をした。
『船は帝国の追跡を振り切りました。
攻撃されなかったので、運行システムなどに損傷はありません。
ですが、これから向かう惑星には、既に帝国が設置した装置が起動しています。
そちらの防衛機能に引っ掛かると危険ですから、このまま迷彩モードにします』
その声が終わったと同時に、船の灯がわずかに暗くなった。
『目的地に到着するまで、エネルギー消費を抑えます』
「わかりました」
少女は自分を固定していた椅子のベルトを外すと、スクリーンに近づいた。
「爺や。惑星777には名前があるのですか?」
再び機械から発せられる光が点滅する。
『惑星777を現地の生命体は“地球”と呼んでいます』
宇宙空間の映像が切り替わり、スクリーンには青い星が現れた。
「これが“地球”なのね」
彼女は悲しげに、その映像を見つめたのだった。




