流星 4
「明日の9時に迎えに行く」
蒼馬は旗地を迎えの車に乗せ見送ると、そう言ってさっさと帰ってしまう。
久しぶりに再会したわりには、昔話をする隙もない対応だった。
(あそこまで嫌われる様なことをしたか?)
とはいえ、昔から蒼馬と非常に仲がよかったかと考えると、肯定はしにくい。
(確かあいつ、白い人と出会った一件では、人のこと奇人扱いしていたはずだぞ)
蒼馬だけは自分の話を聞いてくれる。
そう思い込んでいたので、当時の彼の対応に健也は人に話さないほうがいいと理解したのである。
結局、その日の山小屋掃除は、服を土で汚しているわりに何もしてはいない。
これについては、
「鍵を落としたと思って周辺を探していたら、持っていくのを忘れたことを思い出した」
と、誤魔化した。
嘘をつくことに後ろめたさを感じないわけではない。
だが、正直に話せば妙子が医者を呼びかねない。
(ばーちゃんは俺が病弱で空想好きの子供だと思い込んでいるからなぁ)
ちなみに健也自身は小中高校では皆勤賞と精勤賞の常連である。
妙子が何故そう思っているのか、彼には謎だった。
その日の夜、健也は奇妙な夢を見た。
手に持っている小さな炎が強い光を放って空へと飛び立った夢。
しかし、空は星も太陽も無い暗い世界だった。
翌朝、彼は朝から緊張していた。
長年気になっていた"白い人"のことが分かるかもしれないのだ。
ただ、旗地の言葉が気になる。
(イグなんとかに認められているって、何だ?)
考えられるのは剣の名前だが、健也自身は学校の授業の一環で剣道をやったくらいである。
剣に選ばれたところで役立てられるわけがない。
しかし、実際にイグニサスは自分が持っている最中に消えてしまった。
(まさか……)
昨夜から考えていたことは、だいたいそこで終わる。
結局は本人と話をしないと、何も分からないからだ。
(蒼馬も連絡くらいよこせ!)
昨日、別れ際に携帯電話の番号を教える。
(あんなにも無茶な動きをしたくせに……)
蒼馬が懐から携帯電話の入った巾着を出したときは、電話機メーカーから特別なものを作ってもらっているんじゃないかと彼は疑ってしまった。
それくらい旗地と蒼馬は、何か非日常的な存在に思える。
(昔は冷静なやつだとは思っていたが、何を考えているのか分からないやつに進化したのか?)
失礼なことを考えながら自分の携帯電話を手に持ったとき、ちょうど電話の呼び出し音が鳴る。
「もしもし。蒼馬か!」
健也が何処にいると尋ねようとしたとき、電話の相手がいきなり怒鳴った。
「健也! 急いで家を出ろ。
迎えの車には乗るな。奴らから逃げろ」
「何言っているんだよ」
「後で説明する。とにかく迎えの車には乗るな」
切羽詰まった様子に、健也は窓に近づいた。
昨日、旗地を迎えに来た車に似た車種が家の前を通りすぎる。
一部しか見えなかったから全然違うかもしれない。
しかし、何かイヤな予感がした。
「とにかく家から……」
そこで電話は切れた。
(蒼馬……だよなぁ)
携帯電話は登録した機種から通信が行われている事は証明してくれるが、相手が所有者本人であるかは証明してはくれない。
いきなりの展開に、健也は一瞬だけ迷ったがすぐに行動を起こした。
妙子が仙一郎を病院へ連れて行ったので、家の鍵は預かっている。
玄関以外の戸締りは終えていたので、彼は手荷物を持つと靴を履き玄関を出た。
道の方から人の声が聞こえる。
健也は鍵をかけると、門から出ずに玄関から死角の場所へと移った。
「……ここら辺のはずだが」
話し声からすると二人で来たらしい。
だが、そのうちの一人が蒼馬というわけではなかった。
(いったい何なんだ)
呼び鈴が鳴らされる。
当たり前だが家からは何の物音もしない。
「もう出掛けたのか」
会話は聞こえるが、健也の方は自分の目で確認が出来ない。
身を隠すものが壁しかないからだ。
彼らが戻ろうという話をしていた時、いきなり健也の携帯電話が鳴ったのだった。




