流星 3
あとに残されたのは石の山。
風が吹くと埃が宙に舞った。
緊張の糸が切れたらしく、血の出ている腕を抑えながら男性は膝をついた。
呆然としていた健也は、それを見て駆け寄ろうと動く。
そのとき、木々の間を何かが動いた。
「先生!」
木刀を持った一人の青年が藪の中から突然現れたのだ。
問題は彼が確実に健也を敵と見なしていたこと。
彼は事態の急展開に反応が遅れる。
人に対して剣を向けることにためらったからだ。
しかし、男性の反応は怪我人とは思えないほど素早かった。
「待て!」
瞬時に青年の木刀を奪い、バランスを崩して大地に伏せさせたのだ。
その行動は、非常に鮮やかだった。
「ソウマ。この方は敵ではない」
青年は健也の方を見る。
健也もまた青年の顔をじっと見た。
「……」
「……」
二人が口を開いたのは、ほとんど同時だった。
「蒼馬!」
「お前は健也か!」
幼友達との久しぶりの再会に、今度は男性の方が驚いて二人を見比べたのだった。
男性は持っていたハンカチで止血をしながら自己紹介をする。
山小屋には怪我の手当てが出来るような道具は無いに等しく、健也たちはそのまま下山することになった。
(もしかして、怪我をすることにに慣れているのか?)
健也がそんなことを考えてしまうくらい、男性の応急処置は素早い。
「蒼馬の友人に助けてもらうとは、これも何かの縁だろう。
私の名は旗地 知久。隣の町で道場の師範をしている。
本当に助かった。ありがとう」
頭を下げられ、健也は慌てた。
「いいえ、貴方が無事で良かった。
えぇっと……荒賀 健也です。蒼馬とは小さい頃に一緒に遊びました。
ところでアレは何なのですか?」
未だに自分の体験が、現実ではなく夢を見ているのかもと思わないことも無い。
その様子を察したのか、旗地もまた困ったような表情をする。
「荒賀くんの質問はもっともだが、アレを宇宙人の作ったゴーレムだと信じてくれないことには話が進まないのだが……」
案の定、健也は沈黙してしまった。
(宇宙人? ゴーレム??)
納得出来そうだが、納得してしまう自分を疑いたくもある。
思わず蒼馬の方を向いたが、幼友達は何も言わない。
「とにかく荒賀くんは明日、私の道場へ来てくれ。
イグニサスが君を認めている。我々には君の力が必要だ」
「えっ?」
全然話の流れが分からず、健也は手に持っている剣を見た。
「先生。明日、俺が健也を連れて行きます」
木刀を木刀袋にしまっていた蒼馬が、急に表情を険しくして返事をした。
怒っているような口ぶりである。
「おい。蒼馬!」
勝手に決められて健也は文句を言いそうになったが、相手の不機嫌さはそれ以上に迫力があった。
「早く戻りましょう。車が到着しているころです」
彼は健也のリュックを持つと、さっさと山道を下っていく。
「荒賀くん。蒼馬の事は気にしないでくれ」
「それは大丈夫です。
ところで旗地さん。この剣には鞘は無いのですか?」
彼としては抜き身で他の人に会いたくない。
しかし、怪我人である旗地に重さのある剣を渡すのは憚られる。
旗地の方はというと受け取ろうとする素振りも見せず、
「鞘は特殊なので、このままで我慢してほしい」
と、答えた。
その言葉が示すかのように、イグニサスはいきなり光の粒子となり消えてしまう。
「!」
彼は驚いて自分の手をじっと見つめる。掌には奇妙な紋様が一瞬現れ、そして消えた。
「イグニサスは強いて言えば、君の中に溶け込んだのだ」
この説明に健也は唖然としてしまった。