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流星 1

 あまり人の通らない深い森を、荒賀健也はひとり登る。

 彼は大伯父である仙一郎の頼みで、山の中にある小屋に向かう所だった。


 事の起こりは、母親からの緊急連絡。

 大伯父が寝込んでいると言うのだ。

 驚いた健也は荷物もそこそこに、すぐさま駆けつける。

 大伯父夫婦が父親の育ての親だと言うことを聞くまで、健也は大伯父たちを実の祖父母だとばかり思っていたくらいなのだ。

 電車を乗り継いで目的地に到着した頃には、夜もとっぷりと更けていた。

 そして緊張しながらやって来た健也は、大伯父の家で予想しなかったものを見てしまう。


「おじいさん! 健ちゃんに嘘をついて呼び出すなんて、恥ずかしいことをしないでください。

今回の怪我だって、山で縄跳びなんてするからやるんです。年齢を考えなさい!」

 がっちりと妻の妙子に怒られて、正座させられている大伯父に健也も脱力せざるを得なかった。

 その後、妙子が健也をもてなす為に台所へ行くと、仙一郎は苦笑いをしながらテーブルの上に一個の鍵を出す。

「健也……。ワシはしばらくは行けないかもしれない。

ばーさんも、もう年だ。小屋の鍵をお前に託す」

 自分も怒ろうかと思ったが、やはり腕や足に包帯を巻いている大伯父を見ていると痛々しい。

 健也は苦笑いしながら鍵を受け取った。


「じーちゃん。何でそんなところで縄跳びをしたの?」

 すると仙一郎は、にやりと笑って答えた。

「それが男のロマンだからだ」


 昨夜の出来事を思い出すと、ため息が出てしまう。

(それで怪我をしたら、ロマンもへったくれも無い気がするが……)

 昔から大伯父の思考は理解しにくいところがある。

 だが、この大伯父を健也は大好きだった。


 彼は立ち止まると、森の木々を見上げた。

 木漏れ日がキラキラと光る。

 小学生の時からこの山を何度も訪れた。

 それでも最初に見たときの光景に再び出会ってはいない。


(やっぱり、あれは夢だったのか……)


 大学生になった今では、あの時の事を人に言うことは無い。

 小学生のときなら許された内容でも、さすがに中学・高校ともなると変人のレッテルを貼られてしまうからだ。

【白い人が光をまといながら、森の中で見たことも無い化け物を仕留めていた】

 その異様な光景に健也は気を失ってしまったのだが、夢だとはとうてい思えなかった。


 それは小学生のときのこと。

 健也は夏休みになると大伯父の家に泊まっていた。

 両親は仕事の関係で後から伺うということで、彼が先に遊びに来ていたのである。

 彼自身は最初、山奥に行くことに戸惑っていた。

 だが、実際には近所に年の近い子が数人いたので、朝から彼らに引っ張り回されながらも一緒に遊びまくっていた。


 その日は、大伯父の家で飼われていた犬のシロを散歩させることも兼ねて、朝から近所の山を登るということになった。

 道は犬が知っているということで、山の小屋にいる大伯父に弁当を届ける役目を受けたのだ。


 ところが山道を歩いていたとき、突然シロがけたたましく吠えたのである。

 何か動物がいるのかと思った健也の前に現れたのは、イノシシの顔に人間の身体をした生き物だった。

 全身にトゲのようなものがあったような気がする。

 当時の彼は恐怖のあまり身動きがとれずにいた。

 しかし、そんな健也の前に現れ異形のものから守ってくれたのが白い人だったのだ。

 その身体から零れる光は森を照らし、攻撃は確実に相手を追い詰める。

 この直後、何か強い光が起こり、彼は意識を失ってしまったのだ。


 次に目が覚めたときは山小屋の中で、大伯父は彼が小屋に到着するなり疲れたから寝ると言ったのでそのまま寝かせたのだと言う。

 とにかく山道で起こったことを話したが、当然信じては貰えない。

 むしろ、昔この山には天狗がいたとか、お化けが出たと言うことで山狩りをしたら駆け落ちした恋人同士だったとか、全長3メートルの狸が出没した事があるなどの話をされてしまった。

 どう聞いても最後の話は作り話の様な気がするが、今度は帰り道で白い人と化け物の出現した場所が分からないのである。

 犬も特に警戒することなく、楽しそうに歩いていた。


 それからというもの、健也は夏になると一度はこの山に登ることにした。

 自分の見たものを確認したいのか、居ないことを確認したいのかは分からない。

 だが、今だに健也は当時の夢を見る。

(あれが幻だったら、逆に怖すぎる……)

 結局、子ども向けの妖怪百科などを見ても、あれが何なのかハッキリとは分からなかった。

 健也は懐かしい道を歩きながら、当時のことを思い出して深呼吸をする。

 鮮烈に覚えている異形のものと白い人の正体を知りたい。

 その気持ちは本当だった。

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