出会い 1
空全体が光を強めたり弱めたりする。
その現象は周囲の人々にも気づかれた。
だが、たいていの人は「雷?」の一言で終わっていた。
しかし、螺仙窟に関わる人たちには異常事態の発生だと判断する。
「やっぱり何かが起こっているのよ!」
奥崎渓谷入り口にやって来た郁美は、森へ入ろうとする。
それを早田が慌てて止めた。
「駄目だって! 郁美ちゃんは先に道場に戻りなさい」
なんと彼女は救援として呼ばれた人たちを言いくるめて、ここへやって来たのである。
ただ、彼女としては旗地に伝えなきゃいけないことがあった。それを正当な理由にして救援部隊と共にやって来たのだ。
何しろ状況によっては、全ての通信機器が使えなくなっていることもあり得る。
最後は人から人への報告が最終手段となる環境なのだ。
「それならこっちで聞きます。先生への報告というのは何ですか」
早田に詰め寄られて、郁美は返事に窮した。
ここで内容を言ってしまえば、早田は本気で自分を道場に送り返すつもりである。
しかし、沈黙していてはただの足手まといに過ぎない。
「……警察から連絡があったの。どうも奥崎渓谷付近に国際的な窃盗団の一味が入り込んだらしいって。ただ、確認が取れていないから、注意だけはしてくれって言っていた」
このとき早田は先ほど聞こえてきた銃声の意味に気がつく。
(窃盗団の奴らが撃った銃声か……)
この場合、誰に対しての発砲でも面倒なこととなる。発破者が暴れ回っているのだ。自力で動けなくなった者を助けることは不可能となる。
これは奥崎渓谷から千業峡にかけての一帯は国家レベルでの危険地域のため、人が迷ったらそれっきり。
誰も救助に行くことは許されないという厳しい地区なのである。
しかし、しばらくして黒づくめの男たちが次々と不審者を担いだり引きずったりして戻ってきた。
鬼把番たちである。
だが、その中に旗地の姿はない。
郁美は不安げに千業峡のある方角を見つめたのだった。
☆☆☆
光の残像は一直線に健也を目的のものへ導く。
「健也! 不用意に奥へ行くな」
蒼馬は周囲に気を配りながら、彼の後を追った。今のところ突破者は出てきてはいないが、あのような現象を見れば奴らはこちらへとやってくるだろう。
(……)
蒼馬の脳裏に、過去の忌まわしい記憶が蘇る。
あの時、手を伸ばそうとしたが、奴らに邪魔をされて助けることができなかった。
この出来事は絶対に忘れてはいけない。
(兄さん……)
自分の思考に気を取られて、一瞬、健也の姿を見失う。
しかし、その直後、健也の方で何かあったのか、大声をあげてくれたので場所の特定が簡単に出来た。
(今は余計なことを考えるな!)
蒼馬は自分を捜しているのかキョロキョロしている健也に駆け寄った。
「何だ、これは……」
健也は目の前にあるものに驚く。
あとから来た蒼馬も目を見張る。
深い森の中の奇妙な光景。
そこにあったのは木々が自らの身体をくねらせて、大きな光の玉を受け止めているかのような姿だった。
「まさか、空間が歪んでいるのか?」
それは時々プラズマのようなものを放出している。どう考えても近づくのは躊躇う代物だった。
「こういうことって、今まであったのか?」
何もわからない健也としては、蒼馬の持つ情報が頼りである。
だが、頼みの綱の友人は首を横に振る。
「こんなことは聞いたことがない」
「ということは、これが初めてってわけか……」
悩んでいる時間はないのだが、悩まずにはいられない。
そういう矛盾した状況は、招かれざる存在によって終わりを告げた。




