秘密 5
宇宙船セルレイン号の船内では、緊急事態を告げるランプがチカチカと点滅をしていた。
『姫、どうもラセンへのアクセスが何者かによって妨害されております。これは由々しき問題です』
ソーベーからの連絡にカレンは表情を硬くする。
「では、直接プログラムを読み込ませないとならないのですね」
彼女は身につけているネックレスを握った。
「……今からラセンに行きます。爺は私を地上に下ろしてください」
惑星ディドメンを出たときから、一番最悪のことは既に覚悟をしていた。唯一の幸運は、惑星777は彼女が宇宙船の外へ出ても大丈夫な惑星だったことである。
これが猛毒とも言える大気だったりしたら、彼女は慣れない防護服を来て作業をしなくてはならない。
『しかし、これはどうも変です。それにラセンから防衛兵器が動いております』
ソーベーはカレンに、原住民たちに見つかる危険性を告げた。
しかし、彼女は行くと言う。
「でも、このまま何もせずにいたら、時間だけが過ぎてしまいます。間に合わなかったら意味がありません」
『……』
「一応、武器は持っていきます」
彼女は管制室の一角にある収納箱から金属のブレスレットを取り出す。
『しかし……』
「これしか方法がないのなら、私は行きます」
彼女はブレスレットをはめると管制室を出た。
空中に浮かぶセルレイン号から外へ出る場合、転送室を使わなくてはならない。
『姫……』
このとき惑星777の住民からカレンを転送中のセルレイン号が何かしらの攻撃を受ければ、彼女は転送先以外の所へ飛ばされてしまう。下手をすれば転送室で彼女は異空間に消えてしまうかもしれない。
この緊迫した状況は、どっちにしても命懸けであった。
一方、健也たちは少し傾斜のある山道を、奥へ奥へと移動していた。
奥崎の山は人の手がほとんど入っていないのか、獣すら通らなそうな道である。
それもあって健也の方はというと、さっさと先に行く蒼馬に追いつくのが精一杯だった。
「蒼馬……、こんな深い森で旗地さんをどうやって見つけるんだ?」
周囲を見回しても木々ばかり。そして自分たちは人を探すための準備など、まるでやってはいない。
しかも残念なことに、この付近は螺仙窟に近づけば近づくほど通信機などの信憑性はゼロになっていく。機械という機械が狂い始めるのだ。
「……先生たちのことは後回しだ。まずは螺仙窟に行く」
「えっ?」
「俺と健也は螺仙窟で何が起こっているのか見に行く。それが先生から言われた最優先事項だ」
「でも……」
「行くぞ! 先生たちは俺たちを行かせるために囮になってくれているんだ」
そうしなければ、イグニサスの若き継承者を守ることは出来ない。しかし、彼を育てるための時間がないのである。
「先生はこの山を熟知している。そして敵に襲われようとも、お前が螺仙窟に向かうことを知っているんだ。先生もまた無事なら螺仙窟を目指して動かれる」
健也としては、「それでいいのか?」と思わないことも無いが、戦闘経験は向こうの方が断然上である。蒼馬の言う通り、自分たちは螺仙窟を目指すべきだろう。
正直言えば、その螺仙窟に無事にたどり着けるのだろうかと不安を感じていたが、弱音を吐くことは許されない。
「わかった」
彼は精一杯の強気で答える。
「それと、さっき銃声が聞こえたということは、この山に招かれざる客が入り込んだということだ。健也は俺から離れるな」
「……えっ?」
「突破者に一般的な銃など効かない。だから我々は持たない。味方を傷つけるだけだからな」
しかし、山に銃声は響いた。誰かが入り込んだのである。
猟師なのか、犯罪者なのかは分からないが……。
「つまり、そいつと出会う可能性があるということか?」
「鬼把番の人たちが排除してくれているとは思うが、警戒はしておくべきだろう」
まだ一度も会っていない為、健也の中の鬼把番像は既に忍者そのものになっていた。
そして彼らは再び螺仙窟へと向かったのだが、途中で見晴台のような開けた場所に出たとき急に空が明るくなった。
何度か空全体が点滅を繰り返す。健也はその時、光の玉みたいなものが近くに落ちたのを見た。
悲鳴のような声も聞いた。
「今のは何だ!」
蒼馬が驚いて立ち止まる。
しかし、健也の方は悲鳴の主を確認するために、既に光の玉の落下地点を目指して走り出していた。




