炎 5
「……荒賀君。正直言えば我々は君に協力をして欲しいと思っている。しかし、この戦いで一番危険に晒されるのは、他でもない君自身だ。そして今まで暮らしていた平穏な時間もまた失われる。
だが、イグニサスの力なくして我々は戦に参加することは出来ないのだ」
あまり時間は与えられないが、すぐに決断するのも無理だろう。
そう言われて、健也は『次にゴーレム騒ぎが起きるまで』に結論を出すことになった。
結局、健也は作務衣を借りたまま旗地家の車で、大伯父の家まで送ってもらった。
大伯父たちは病院からまだ戻っていないのは良かったが、彼は重大な事実に突き当たる。あまりにも慌てていて着替えをほとんど持たずにここへ来たのだ。何もかも投げ出したくなるような気持ちを感じながら、彼は居間で寝ころんだ。そして天井を眺める。
服については実家から送ってもらう事も考えたが、ボロボロになった理由をどう説明するべきか。
(言えるわけないな)
何より正直に言ったところで、内容が人の想像を超えていた。適当に嘘を言った方が話が早いくらいである。
(旗地さんたちに協力したら、大学とかどうなるんだ?)
家族や友人に今回の出来事を相談するというのは出来そうに無い。あまりにも状況がぶっ飛んでいる。
(一人で考えないと駄目というのは、しんどいな)
地球を守りたい。その気持ちを行動で示すには、いくつも超えなくてはならないハードルがある。それは命懸けの覚悟を必要とするのだ。
(イグニサスが俺の身体の中に入っている……)
あの白い人は、自分のことを覚えているのだろうか?
「そういえば、帰りは蒼馬に会わなかったな」
健也は急に眠気を感じた。とにかく考え続けても答えが出そうになかった。
しばらくして、携帯電話の呼び出し音が健也の傍で鳴る。
彼は半分寝ぼけながら、電話に出た。
「はい。荒賀です」
「荒賀君、早田だ。蒼馬はそちらにいるか?」
相手の声に彼の思考は一瞬止まる。誰なのか分からなかったからだ。しかし、すぐに思い出す。
「いいえ、居ません。蒼馬がどうかしたのですか?」
連絡先を教えてくれといわれたので旗地に携帯電話の番号を教えたが、まさかすぐに使われるとは思わなかった。しかも、早田の背後で人の声が聞こえる。何を言っているのかは分からないが……。
「いや、居ないのならいい。すまなかった」
そう言って電話は切られた。健也も電話を切ったが、何か嫌な予感がする。
(あいつ、どこかに出かけたのか?)
勝手に帰ったという話なら、早田たちもわざわざこちらに電話をしてはこないだろう。蒼馬は携帯電話を持っているのだから。
そのとき、玄関のドアが開いて、仙一郎と妙子が病院から戻ってきた。手にはお土産らしく菓子パンの入った袋を持っている。
二人は健也が見覚えの無い作務衣を着ていることに驚いたが、服にペンキをベッタリと付けられたという出まかせに納得したらしく、それ以上は聞かないでくれた。
「それなら健ちゃん、こっちに着替えなさい。作務衣は洗って返せるようにしておくわ」
そう言って彼女がタンスから出したのは、ジャージだった。
「ばあちゃん。これは?」
「おじいさんの知り合いがくれたのだけど、サイズが大きくてね。健ちゃんなら着れると思って取っておいたの」
健也は祖母の心遣いをありがたく思いながら着替える。ジャージのサイズはちょうどよかった。
そして彼は「暗くならないうちに戻る」といって外へ飛び出す。
蒼馬の行く先に心当たりは全然ないが、とにかく家で悶々としている方が彼にとっては苦痛だった。




