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炎 4

 詳しい話を聞くはずだった部屋は水浸しになり、使用することが出来ない。

 そして健也の方はというと、風呂を借りる羽目になった。

(なんでこうなるんだ……)

 道場の脇にある風呂場は、家庭用のよりは少しばかり広い。

 健也は湯をすくいながら、自分の手をじっと見る。

(やはりイグニサスは俺の中にあるのか……)

 それでは自分の中で何かが変わったのかと考えたが、どうにもそういう実感が沸かない。

 だが、風呂から上がれば、また理解しにくい話の続きを聞くことになるのは分かった。


 彼が何度目かのため息をついた時、風呂場の引き戸が勢いよく開く。

「健也。意識はあるか!」

 蒼馬が様子を見に来たのだ。

 あまりの事に、健也の方が驚いた。

「いきなり開けるな!」

「そうはいかない。お前が倒れているんじゃないかと先生が気にし始めた。

早く出ろ」

 長湯をしているわけではないが、そういわれると健也も急いで風呂から出なくてはならない。

「分かった」

「着替えはこちらで勝手に用意した。それを使え」

 そう言って蒼馬は風呂場から立ち去る。

 健也は覚悟を決めて風呂場を出た。

 脱衣所には下着とTシャツと布地の厚い作務衣が用意されている。

(えっ……)

 慣れない着物に健也はどうしたらいいのか、一瞬戸惑ったのだった。


 道場では旗地の前に三人の門下生が神妙な面持ちで座していた。

 彼らの胴着には名が書かれており、旗地よりも年上に見えるのが大路おおじ、少しやせ型で目つきが鋭いのが緑川、温厚そうで小太りなのが眞部まなべとあった。

「荒賀くんは詳しいことをまだ知らないのだ。先走った事は言うな」

 旗地の言葉に大路が驚きの声を上げる。

「しかし、先生。イグニサスを手にした者がゴーレム退治をしなくては、この世界は終わりです」

 一瞬の沈黙の後、今度は眞部が口を開いた。

「大路さん。最初から、その荒賀というひとが逃げ出すと思っているのですか?

会ってもいない人物を最初から決めつけていたら、まとまる話もまとまりませんよ」

「……」

 大路は眞部の方を睨むように見たが、眞部の方は平然としている。

「イグニサスがその人を選んだ以上、我々は逆立ちしても太刀打ちは出来ませんよ。

それよりも蒼馬の言う通りなら、敵が視察ロボットを寄越すということの方が問題……」

「来たようだ」

 緑川の言葉に、旗地たちは道場の入り口の方を見る。

 そこには蒼馬と作務衣に着替えた健也が立っていた。 


「色々とご迷惑をおかけしました」

 健也は大路の威圧的な雰囲気を感じながら、旗地に対して頭を下げた。

「いや、荒賀くんが無事で何よりだ。それよりも先程の話の続きをしても構わないか?」

 全員の視線が健也に集中する。

 こうなると彼としては了承せざるを得ない。

 だが、旗地はほっとした表情で、

「ありがとう」

と言ったのだった。


「先程も話したように、戦国時代の頃から旗地家ではゴーレムとの戦い続けていた。

 しかし、当時の人間に出来ることは、ゴーレムを出現場所から出さないようにすることだけだった」

 とにかくその場に立つと力が抜けてしまうのだ。普通の人には、それ以上のことは無理だったのである。

「しかし、昭和の初めごろに宇宙から"彼"がやって来たのだ」

「……」

 旗地は健也の様子を見ながら、慎重に話を続けた。

「白い人の名は"ミネラード"。ここから遥か彼方にある惑星ソーサリアスの最後の生き残りだそうだ」

 健也は息をのんだが、先程のようにいきなり倒れることはなかった。

「実は、ミネラードとは最初から会話が成立したわけではない。

 昭和の頃は夢などの手段で、たまに断片的に情報が入ってきただけなのだ」

 実際に言葉を交わせるようになったのは、平成に入ってからだと旗地は言う。

「そして地球の言葉を覚えた彼から、我々は恐るべき話を知らされた。

 今の地球には異星人の作った12本のエネルギー吸引装置が打ち込まれており、近いうちに地球はエネルギーを全て吸い尽くされてしまうというのだ」

 一瞬、健也は話の内容に戸惑った。

 そしてようやっと理解し、驚きの声をあげたのである。

「えぇっ」

「我々は彼の言葉を信じた。この話はこちらの方でも半分推測されていた事だったのだ」

 あまりの事に健也は思わず尋ねた。

「その装置を壊すことは出来ないのですか!」

 しかし、旗地は目を伏せがちに答える。

「あらゆる金属、特に鉄が朽ちてしまう場所だ。そもそも穴を掘ることが出来ない。

爆弾を使うという手段も考えられたが、その刺激でゴーレムたちが複数体で暴れる可能性があった。

なんでもミネラードの星では、それによってかなりの犠牲が出たそうだ」

 地球自身と忌まわしき装置の埋め込まれた場所で生きる者たちを盾に、異星人たちは地球からエネルギーを吸い取っている。

 健也はこの恐ろしい話に、激しい怒りを感じた。

「あの……、旗地さん」

 彼は先程からずっと聞きたかった事を尋ねる。

「何かね?」

「白い人、いいえミネラードさんには会えますか?」

 小さいころ自分を助けてくれた恩人である。会ってお礼を言い他のだが、旗地は困ったような顔をした。

「……それが、最近は姿を見ていないのだよ。何かあったのか、それともどこかで穏やかに過ごしているのか。こちらにはさっぱり分からないのだ」

 とにかく向こうから来てくれないと、今までイグニサスを使っていた旗地にもミネラードについては分からないということだった。

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