プロローグ
赤い雲から茶色い雨が降り始める。
しばらくして天候は嵐という言葉が相応しくなり、周辺の視野を狭め始めた。
この雨では宇宙港に着陸する船も、上空で雲が切れるのを待っているはずである。
フルフェイス型のマスクにヘルメット、そして耐水機能の高い兵士服を着ていても警備兵たちにとって雨は忌ま忌ましいものだった。
「──こちら警備室。今から宇宙港の警備システムを最高レベルに上げる。雨が止むまで所定の場所で待機せよ」
隊長からの通信に、彼らは見回りを切り上げて雨よけのための簡易警備室へ向かう。
見通しの悪い状態では、警備兵がいたところであまり役には立たないからだ。
宇宙にその名を轟かすディドメン帝国は優れた科学技術を保有し、次々と別の惑星を傘下に収めた。
その反面、自然界のバランスは崩れ始める。いつしかこの星の空に赤い雲が現れ茶色い雨が降るようになる。
それらを無くすことは未だ出来ないが、科学技術によって押さえ込むことは出来た。
帝国はますます繁栄する。
ただ、この星の大地が何かを生み出し育むことは難しくなっていった。
雨音が響く。
警備室では宇宙港の防犯カメラが、茶色い雨の降る様子を映していた。
その中の一つが、警備兵とは思われない人影を捕らえる。
「侵入者だ!」
警備隊長が叫ぶ。
「駄目です。警備システムが作動しません!」
降雨時には停泊している宇宙船を傷つけない範囲で機械による狙撃が行われる。その守備範囲はかなり広いのだが、システムが作動しなければただの飾りでしかない。
部下の報告に、彼は急いで警備兵たちに侵入者の存在を知らせる。
その途端、今度は警備システムが作動したのだ。
こうなると一応警備兵は狙わないように組まれてはいるが、そうなると侵入者への狙撃が難しくなる。
その機能を無効にしようものなら、こんどは警備兵たちも蜂の巣にしてしまう。
そして警備室にいる部下と外にいる部下から同じことが警備隊長に報告された。
「セルレイン号が動きました!」
それはディドメン帝国皇帝ヴォルガが特別に作らせた宇宙船だった。
「誰が乗り込んでいるんだ」
だが、理由を探るよりも彼らにはやらなくてはならない。
今まさに発進しようとしている船を止めること。
優美な姿のセルレイン号は、ゆっくりと上昇する。
戦闘機がそれを止めようと出動したが、どのような攻撃も防御シールドに守られた宇宙船にはかすり傷一つ付けられない。
そして彼らの元に、帝都から連絡が来た。
王族の一人である姫君の行方が分からなくなったというものだった。