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第八話 常に警戒しておこう

「もう武器に慣れたろう? 少し場所を移動しないか?」


 二、三分ほど駅周辺でドゥームを狩った後、ダイゴが提案した。


 現在三人がいるこの場所は駅舎からほど近く、イチヤ達以外にもドゥーム狩りをしているプレイヤーは多い。いざという時に安全な転移拠点である駅に逃げ込めるという利点は大きいのだろう。


 しかしそれにしても人が多すぎる。ここでは出現したドゥームは早い者勝ちで狩られるルールらしく、せっかく見つけたドゥームが他の人にさっさと倒されてしまうことも多い。


 もう少し人の少ない場所に行かなければ効率のいいドゥーム狩りはできないだろう。


 そして何より、ここにはリベンジの対象であるゴリラが見当たらない。

 イチヤも狩場を移すことには大賛成だった。


「じゃあ適当にそこら辺を移動しながら――……あ、そういえばイチヤは何かやりたいことがあるっつってたな。大学を見物しようとしたんだっけか?」

「はい、そうです」


 正確に言うと、駅から大学へ行く道の下見だ。


「じゃあ今回はイチヤ君の目的に付き合うことにしよう。俺達は特に行きたいところもないし」

「いいんですか? ありがとうございます」


 二人が協力してくれるならば心強い。二人ともゲーム慣れしているだけでなく、この辺りの地理にも詳しそうだ。


「じゃあ大学に向かって――」

「いえ、その前に」


 歩き出そうとするジンを止める。下見の前に、まず最初にやらなければならないことがある。


「ん? どうした?」

「まずは前ゴリラにやられた場所に行きませんか? そこでリベンジをするところから始めましょう」

「お! いいねぇ、そういうの好きだぜ!」

「はは、燃えるな! よし、道案内は任せてくれ!」


 こうしてパーティの方針が決定した。

 ダイゴを先頭に、【トランスポーター】で移動する。


 目的地には二分も掛からずに到着できた。


「よーし、着いた。確かこの辺りだったよな」

「……こんなに近かったんですね」


 散々迷って辿りついた覚えがあるのだが、まっすぐ来るとこんなものだったのか。

 辺りを見回すと、ゴリラに殴り飛ばされた際に激突して少し砕けたビルがある。間違いなくあの時の場所だ。

 しかしゴリラの姿は見えない。そういえばここに来るまでの間に見かけることもなかった。


「いねぇな。ゴリラ」

「まぁ、犬の方を倒してればその内出てくるんじゃないか。ゴリラはいきなり襲って来るから、奇襲は常に警戒しておこう」


 ゴリラは確認できないが、ドギー・ドゥームならば周囲に沢山いる。あの時よりも数が多い。パーティを組んだら出現数が増える仕様なのだろうか。


 周囲を警戒しながらドギー・ドゥームを狩っていく。

 三人ともアイテム自動取得を持っているため非常にスムーズな狩りだ。




 三人での立ち回りに少しずつ慣れてきた、その時だった。


「……お?」


 ジンが手を止め、空を見上げる。

 釣られてダイゴもそちらに目を向ける。


 視線の先、東の空からは少しだけ太陽が顔を覗かせていた。

 そういえばいつの間にか周囲が随分と明るくなっている。


「おお、日の出だ……!」

「ゲームとしてはまさに初日の出だな」


 ジンとダイゴがその眩さに目を細めながらしみじみと呟く。

 そんな中、日の出になど目もくれずに周囲を見回していたイチヤが、ハッと顔を上げた。


 そして鋭く声を上げる。


「出ました!! 上から来ますッ!! 気をつけ――」

「ゴァ■■アアア■アッ!!!」


 直後、ドゥームの咆哮が(こだま)した。


「何っ!?」

「上!? どこだ!?」


 ジンとダイゴが慌てて敵の姿を探す。しかしすぐに見つけることは出来ない。


 二人が完全に出遅れてしまった。このままではまずい。


 狼狽する二人の襟首を掴み、強引に引き倒す。

 そして西の空、二人が背を向けていた方をきつく睨み、強く握り締めた拳を大きく振りかぶる。


「あああああッ!!」

「ゴォオ■■■アアアア■■!!!」


 どこからか降ってきたゴリラ型ドゥームの拳と、イチヤの拳が激突する。


 ステータスは以前よりも上がっている。武器だってイチヤにとって使いやすいものに変わっている。

 しかし、それでも力負けをしてしまう。


「ぐっ……!」


 腕が弾き飛ばされ、ヨロヨロと数歩たたらを踏む。右腕全体が痺れて力が入らない。HPも少し削られている。


「ゴ、オオオ……■■■」


 しかしこちらにも手応えはあった。敵のHPも減少している。


「すまないイチヤ君! 自分で言っておきながら油断してしまった!」

「すまねぇ助かった!! 腕、大丈夫か!?」


 ジンとダイゴがイチヤをかばうように前に出て、武器を構える。


 イチヤは痺れを払おうと右腕を振る。そのおかげかどうかは分からないが、再び腕に力が入るようになってきた。


「大丈夫です。問題ありません」


 改めてイチヤも構える。


 さぁ、リベンジといこうじゃないか。


「ゴォオオオ■■アアアア■■■ッ!!」


 向こうも腕の痺れが取れたらしい。雄叫びを上げながら太い腕で殴りかかってくる。


「任せろ! 俺が受け止める!」


 ダイゴが盾を掲げる。


「ゴォ■アッ!!」

「ふんっ!!」


 全身に力を入れ、ドゥームの拳を受け止める。

 しかしゴリラ型ドゥームは体格の良いダイゴと比較しても一回り以上大きい。拳を受けたダイゴが押し戻される。


「ダイゴさん!」

「いや、ダメージはほとんどない。これなら大丈夫だ。いけるぞ!」

「よぉし、次は俺の出番だぁ!」


 ジンが槍の長いリーチを利用して攻撃を仕掛ける。

 ドゥームも攻撃を返そうとそちらを向くが、間にダイゴが割り込む。

 二人は声を掛け合うこともなく、お互いを庇いあうように細かく位置取りを変えながら戦い始めた。


 さすがに場慣れしている。自分も負けてはいられない。


 イチヤも攻撃に加わろうと、側面に回りこんで思い切り拳を打ち込む。もちろん相手からの反撃を警戒することも忘れない。


「ゴォアア■■■ア!」

「!」


 うるさい蚊を払うかのような攻撃がイチヤに飛んでくる。しかしそれは想定済みだ。両腕の手甲でがっちりと受け止める。


 その時ゴリラに生じた隙をジンは見逃さなかった。


「隙アリだぁ! ゴリラ野郎!!」


 槍がドゥームの喉元に深々と突き立つ。


「へへっ、どうだ!」

「ゴ、オ、■■■……」


 ジンが槍を引き抜くと、ゴリラはヨロヨロと力なく後ずさった。


「今だ! 全員で畳みかけ――」

「ゴォオオオオオオオ■■■■■アアアア■■アア!!!」


 弱っていたはずのドゥームが突然両腕で胸を叩き、大きな咆哮を上げる。

 HPが規定値を割ったことによる、行動パターンの変化が発生する。




 咆哮を終えたドゥームは腰を沈め、長い両腕をゆっくりと下ろし始める。軽く握られた拳が地面に近づいてゆく。


 その構えは、まるで相撲のぶちかましのような――。


「来るぞ、避けろッ!!」


 ダイゴが鋭く叫ぶ。

 拳が地面に着くと同時に、ゴリラが弾かれたように突進を開始した。


「うおおおおっ!!」

「くっ……!」


 それを何とか横っ飛びで回避する。

 遠くの方へと走り去ったゴリラはサッと身を翻すと、また腰を沈めて先ほどと同じモーションをなぞり始めた。


「もう一度来るぞ!」


 直後、その言葉通りにドゥームが突進を始めた。

 拳を使った四足歩行、ナックルウォークと呼ばれる特徴的な動き方だ。


「おぉい!! 手が着いてるじゃないか! あれ相撲なら負けだぞ!!」


 ダイゴが憤る。


「相撲なら、な!!」


 三人ともに転がりながら避ける。

 確かに速いことは速いが、回避に専念すれば避けられないことはない。



 しかし、それでで精一杯だ。すれ違い様に反撃をするような余裕はない。

 そして三人には、ドゥームが走り去った先まで届くような遠距離攻撃の手段もない。


「なぁ、どうする? ここまで速いと反撃のしようがねぇぜ」

「いや、そうでもないさ」


 ジンが小声で呟く。ダイゴがニヤリと笑う。


「二人とも、少し離れた所で構えてくれ」

「……? 離れる……?」

「了解! イチヤ、狙われた奴だけ必死に避けて、それ以外はすれ違い様に攻撃だ!」


 そういうことか、なるほど。それならば安全かつ確実だ。

 それにしても二人とも作戦の立案と理解が早い。やはり場慣れしている。


「ゴ■■アッ!!!」


 三人が間隔をあけて並んだ直後、ドゥームが走り出した。

 狙いは右端にいるイチヤだ。


 しかしこの突進にもそろそろ体が慣れてきた。敵が今までよりも遅く感じる。これならば避けるのは容易い。


 タイミングを見計らい、真横に飛ぶ。


 その真後ろをドゥームが通過してゆく――ことはなかった。


「なっ!?」


 直前で急停止したドゥームと視線が交差する。


「何ぃ!? 止まりやがった!!」

「おいおい、アリかよ!」


 ドゥームの拳がイチヤに迫る。しかし空中に身を投げ出してしまっている以上、避けることができない。


 まともに拳を受け、大きく弾き飛ばされてしまう。


「ゴオオオ■■■■!!!」


 間をおかず。ドゥームは追撃の突進をし始めた。


「逃げろ! イチヤ君!!」


 地面を転がりながらダイゴの声を聞く。

 まずい、HPに余裕がない。絶対にアレを食らうわけにはいかない――!


 無理やり体を起こし、敵から離れようと後方へ走り出す。


「イチヤ! そっちはダメだ!!」

「っ!!」


 しかし、目の前には巨大な壁――ビルが立ち塞がっていた。


 しまった、敵にしか目が向いていなかった。いつの間にか端に追い詰められていたのか……!


「ゴア■ッ!!」


 敵の突進が迫る。


 逃げる場所がない。HPも少ない。壁とドゥームに押し潰されるように突進を食らえば、デスペナは避けられないだろう。


「くっ……!」


 横に避けるのは最早不可能。道は一つしか残されていない。イチヤはスピードを緩めず、目の前を塞ぐビルに向けて走り始めた。


 その背後からドゥームが迫る。


「来てるぞ!!」

「危ない!!」


 その突進を背に受ける直前、イチヤは壁に足を掛けた(・・・・・・・)

 それをトリガーに、スキルが発動する。



 自動発動(オート)スキル、【ウォールラン】。


 重力の向きが90°変わる。イチヤはバランスを崩しながらも、地面を走るようにそのまま壁面を駆け上がった。


 ドゥームには突如イチヤが消え、目の前に壁が現れたように見えたことだろう。そのまま真正面から壁に衝突する。


「ゴォオアア■■アッ!?」


 瓦礫を撒き散らして怯んでいる。


 隙だらけだ。


「【解除】」


 振り向きながら【ウォール・ラン】を解除する。重力の向きが元に戻り、イチヤの体を地面に落としていく。


 ドゥームはイチヤの姿を完全に見失っている。全体重を乗せて振り下ろしたイチヤの拳は、敵の無防備な頭部を痛烈に打ち抜いた。

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