第四二話 その後
「さぁ、ポラリスに戻りましょう」
そう言ってイチヤが走り始める。
「あっ! 待ってください先輩!」
その後をツバメが続く。
そしてジンも慌てて二人を追いかけ始めた。
「なぁイチヤ!! せめて先に今回の戦利品の確認だけでも――」
「いえ、急ぎましょう。オービットに時間を取られ過ぎました。今は一分一秒が惜しいです」
「うっ……!! 確かにそれも言ったけどさぁ……!!」
三人がわぁわぁ言い合いながら去っていく。
それを呆然と見るプレイヤー達に、ダイゴが振り向いて声をかける。
「……どうやら俺も行かなくてはいけないようだ。じゃあな、皆。今日は集まってくれて助かった」
そしてイチヤ達を追いかけて走り出す。
「おーい、三人とも!! オービットからのドロップアイテムはポラリスに置いとくんだぞ!! 万が一デスペナ食らったらなくなりかねんからな!!」
そんなことを大声で言いながら、ダイゴも遠ざかっていく。
「忙しないなー、あいつら」
それを見送りながら、或が呟いた。
「ほんじゃ俺らもポラリスに戻るか。俺らはロビーでのんびりドロップアイテムでも確認しとこうぜ?」
そして集まったプレイヤー達も、ゆっくりと駅に向かって歩き始めた。
◇
その後、イチヤ達は県内を中心にダンジョンを探して回ったが、結局それらしいものは見つからなかった。
今まで発見されたダンジョンの傾向から、神社や仏閣、洞窟や湖――。そういった特別な場所が怪しいと睨んで、思いつく場所を次から次へと巡ってみた。
しかし何かが見つかることはなかった。
そのため、以前ダイゴが行きたいと言っていた秋芳洞の水晶洞窟ダンジョンの攻略を最後の〆として、一行はポラリスへと帰還した。
そしてその後。
いつもならこのまま解散となるところだが、今日はもう少しだけ続けようという話になっている。
もっとも続けるとは言っても、ただ集まって駄弁るだけだ。
完全にたまり場と化したイチヤの部屋で、ジンが明るい声を上げた。
「いやー、楽しかったな! 観光弾丸ツアー!!」
「よく言うよ、最初はあんなに渋ってたのに……。結局お前が一番はしゃいでたじゃないか」
ダイゴが苦笑する。
「まぁ確かに出る前は億劫だったが、いざ行ってみると意外と楽しめるモンだな!」
「はい!! 是非またやりましょう!!」
ツバメが目を輝かせながら力強く言う。確かに県内の要所巡りでは、ツバメもジンに負けず劣らずはしゃいでいた。
しかし浮かれていたのはダイゴだって同じであった。
「じゃあ……お待ちかねの戦利品確認タイムと行こうか!」
「フゥ! 待ってました!」
その時のテンションを少し残したまま、本日の成果を確認していく。
「なんたってHNDだからな、これは期待できるぞ!」
「だな!」
「楽しみです!」
そして四人がウィンドウを開く。
確認する報酬は三つ。
まずは最後に行ったばかりのダンジョン、水晶洞窟のボスからのドロップアイテム。しかし特別な敵ではなかったため、これについてはあまり期待できないだろう。言うなればただの前座だ。
本命はその次の二つ。
ダンジョン初攻略者報酬と、オービットからのドロップアイテムだ。
特に後者の方は史上初めて討伐されたHNDだ。期待値は非常に高い。
「じゃあまずはさっきの奴からのドロップな! せーので見るぞ!」
ジンが表情を緩ませながら皆の様子を見る。
先ほどの水晶洞窟で出現したボスは、『ジェリーフィッシュ・ドゥーム』という敵であった。ふよふよと空中に浮かぶ珍しいドゥームだったが、特に強力な相手ではなかった。
そして倒す際、ドロップアイテムについては後で一斉に見ようと示し合わせているため、まだ誰も見ていない。
全員がウィンドウを開いたのを確認し、ジンが号令をかける。
「せーの!」
そして全員でアイテムを確認する。
しかしイチヤ以外の三人が肩を落とした。
「あー、ハズレ……ランク一だ」
「同じく……。まぁ分かってはいたが」
「私はランク二ですが、武器なのであんまりですね……。先輩は?」
ツバメが振り向く。
唯一落胆した様子のなかったイチヤだが、首を振って答えた。
「ランク一。ハズレだ」
「全滅か。まぁ仕方ない。次からが本番だ! 次は初攻略者報酬……、確か運営からのプレゼントという形だったな」
ダイゴがウィンドウを操作する。すると手元に小さな箱が現れた。
続いて、他の三人も同様に小さな箱を出現させる。
「いくぞ、せーの!」
ダイゴが号令をかける。
それと同時に四人がリボンを解く。
「ん? んー……」
「あー……」
「うーん……」
そしてイチヤ以外の三人が難しい顔をする。
「ランク三……。正直ちょっと期待外れだな……」
「前回は全員ランク四だったのになぁ…」
「ですね……先輩は?」
ツバメが振り向く。
唯一表情を変えることのなかったイチヤだが、手に持っているのは皆と同じ色のアイテムカードである。それをウィンドウに放り込みながら答える。
「ランク三、皆と同じだ。……ん?」
そしてそのアイテム詳細を見て、少しだけ眉根を寄せる。
「スキルでしたか? それとも武器でした?」
「……いや、消費アイテムだが、これは……」
「消費アイテム?」
ツバメが首を傾げる。
このゲームで消費アイテムというと、『SPチャージャーver○○』というSP回復アイテムが最も多くドロップする。○○の部分はアイテムランクによって変わり、もちろんランクが高いほど回復量が増える。
次いで『○○ブースター』という一時的にステータスを上げるアイテム。こちらは○○の部分には『STR』や『DEF』などの基本ステータスや、珍しいものだと『ジャンプ力』や『エンカウント率』などもあると聞く。
イチヤはSPを消費するスキルを使うことは少ないし、ステータスアップ系の効果とは相性が悪い。戦闘中にアイテムを使うのはそれなりのテクニックも求められるため、イチヤはこれまであまり使ったことはない。
「どんなアイテムだったんですか?」
「『HPチャージャー』……。HPの回復アイテムだ」
「え!?」
ツバメが目を丸くする。
HP回復アイテム。
おそらくほとんど全てのゲームに存在する消費アイテムである。しかしこのゲームでは、HP回復アイテムは滅多に見かけるものではない。ドロップ率が異常に低く設定されているようで、よっぽど運がよくないと手に入らないのである。
それにアイテムランクごとに『ver1.00』・『ver1.01』など名称と回復量が細かく刻まれているSPチャージャーと違い、HPチャージャーは全てランク三で、効果も全回復という最上位のものだ。
HP回復アイテムは、このゲームでは明らかに特別扱いされていた。
「す、すごいです!! そんなレアアイテムが――」
「あれ? 俺たちもだ」
興奮するツバメの後ろで、ジンとダイゴが声を上げる。
なんと二人が手に入れたアイテムも、イチヤと同じくHPチャージャーであったらしい。
まさかを思ってツバメも確認してみる。
「わ、私もHPチャージャーです……。え、これはどういうことなんでしょう?」
そう言ってダイゴを見る。
ここまで来るとさすがに偶然とは考えられない。
「イベントで復活したダンジョンだからじゃねーか?」
ジンが片手でウィンドウを弄りながらポリポリと頭をかく。
「だから報酬も通常とは違ったもんになってて、一律同じアイテムとか……。あ! やっぱりそうだ! 報告がたくさん上がってる!」
ジンがウィンドウでSNSを閲覧しながら大きな声を出す。
どうやらギルド実装記念イベントとやらで復活したダンジョンの初クリア報酬は全てHPチャージャーになっているらしい。
「うーん、もしかしてHPチャージャーって配布用アイテムなのか?」
ダイゴが顎をさすりながら呟く。
極低確率でドロップもするが、さすがにドロップ率が低すぎると思ってはいたのだ。運営から配布される記念品的側面の強いアイテムだと考えると辻褄が合う気がする。
いずれにせよ、そう数が手に入らない貴重なアイテムだ。使いどころは慎重に選ばなくてはならない。
「じゃあ最後のドロップアイテム……いきますか」
ツバメが緊張した面持ちで三人を見回す。
最後は大本命、オービットからのドロップだ。
アイテムはカードの色でランクが分かってしまう。そのため四人はオービットを倒してからここまで、そのアイテムをチラリとでも目に入れないように細心の注意を払っている。
ぎゅっと目を瞑ってウィンドウを操作しながら、ツバメが口を開く。
「じゃあ準備はいいですか? いきますよー、……せーのっ!」
そして四人同時に、ドロップアイテムを確認する。
『おぉ!?』
イチヤ以外の三人が顔を輝かせる。
「よっしゃあああ!! ランク五!!」
「俺もランク五だ!!」
「わぁ……! 私もです!」
三人が喜びながらそのアイテムの詳細を見る。
「それで……先輩は?」
ツバメが振り向く。
唯一無言でノーリアクションを貫いていたイチヤだが、一つ頷きながら答えた。
「ランク六です」
ツバメ・ジン・ダイゴの三人が一斉に振り返る。
「うぇ!?」
「何ぃ!?」
「ランク六だと!?」
そしてバタバタとイチヤのウィンドウを覗き込む。
「はい。これです」
そのアイテムの詳細を開く。
イチヤが手に入れたのはステータスアップ系の 常時発動スキルであった。残念ながらこのタイプのスキルは、通常であればイチヤのtr.Actスキルとは相性が良くない。
しかし、イチヤが手に入れたランク六のスキルは、【HPゲインⅥ】というものであった。その効果はHPを五十%上げるというもの。
「これはいいな!」
ダイゴが頬を緩める。
普通のステータスアップ系スキルはイチヤのtr.Actと相性が良くないが、HPだけは別だ。
イチヤのステータス強化の対象は、STR・SPC・DEF・RES・AGIの五つ。HPとSPは含まれない。
そのためカウントが増えてステータスが上がっても効果が陳腐化することはないし、SPのように持て余すようなものでもない。
決して面白味のある効果ではないだろう。地味なスキルであることは否めない。
しかし誰が使っても確実に有用なスキルである。特にほとんどのスキルと相性の悪いイチヤにとっては、これ以上ないほどの大当たりと言えるスキルであった。
「……よし」
小さく呟いて、早速そのスキルをセットしておく。
そして次に、他の三人が一つずつ手に入れたスキルを確認していく。
まずはジンからだ。
ジンが手に入れたのはランク五の攻撃系任意発動スキル、【スパイラル・ディスチャージ】だ。これは高威力の突きを放つ、槍専用のスキルである。レベル六十未満のドゥーム、もしくはランク六未満の装備への攻撃時、DEFの数値を無視してダメージを与えることができる。
強力な分クールタイムは長めであるが、使い勝手は良さそうだ。
「よっしゃ!! こりゃあいい!! 攻撃力のなさがネックだったんだよなぁ!」
ジンが立ち上がって喜ぶ。
その様子に期待値が上がったらしいダイゴが、ワクワクと表情を綻ばせた。
「じゃあ次は俺か!」
そう言ってウィンドウに目を落とす。
そこに表示されていたのは、ランク五の防御系任意発動スキル【スパイク・アーマー】であった。全身の装甲から棘を生やしてDEFを上げ、相手の武器とHPに反射ダメージを与えるカウンタースキルである。クールタイムもかなり短く設定されているため、積極的に使っていけそうだ。
しかし、そのカウンターが発動している時間はたったの〇・二秒間。積極的に狙うのはいいが、相手の動きはしっかりと見極めなければならない。
「ふむ、便利なスキルだな。しかしさすがにボイスコマンドでは間に合わないだろうな。よし、後で簡単なジェスチャーで発動できるようにしておこう」
ダイゴが微笑みながらウィンドウを閉じた。
「最後は私ですか」
そして緊張した面持ちのツバメが、ウィンドウに手を伸ばした。




