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第四十話 弊害

『ぐぉおおおおおっ……!!』


 全身をオービットに組み付かれながら、首領グリコが唸り声を上げる。


 装甲がガリガリと削られ、それと同時にHPが減少していく。しかし身動きが取れない。【セレスティアル・カイザー】を収納すれば拘束から抜けられるが、それと同時に上からオービットが降ってきてしまう。【セレスティアル・カイザー】を喚び出していない時、首領グリコの耐久力は下の下。間違いなく一瞬で死んでしまうだろう。


「【アームズ・リペア】……! 【アームズ・リペア】……!!」


 そして巨大ロボットの足元では、首領グリコが連れてきたパーティメンバーのロイが泣きそうな顔でスキルを繰り返し使用している。武器修復スキルだ。

 そのおかけで装甲が削り切られることはなく、砕かれた脚も修復されている。


 しかしダメージが回復するわけではない。

 いくら装備が元通りになっても、HPがすでに危険域(レッドゾーン)に突入していることに変わりはない。そしてそのHPは今もじわじわと減り続けている。


『くっ……!』


 それでもなんとか耐えることができているのは、この状態になってからステータスが目に見えて上がったためだ。

 ツバメのtr.Actスキルによるステータス強化である。オービットを抑えつけていた時にプレイヤー全体に移し変えた強化を、再び首領グリコ一人に戻したのだ。

 首領グリコはそのツバメの能力を知らない。そのため、『三十余名の中の誰か』としてツバメに感謝の念を送る。


『ぐぅぅぅ……!』


 オービットの攻撃に耐えながら、その三十余名の様子をチラリと伺う。


 皆うろたえた様子で、一応武器だけ構えているようだ。おそらくどうすればいいのか分からない――いや、もうどうしようもないのだろう。


 オービットと【セレスティアル・カイザー】の様子を見て、じりじりと後退している者もいる。思考が『どうやって勝つか』ではなく『どうやって逃げるか』にシフトしつつあるのだろう。


 無理もない。首領グリコにもここから逆転するビジョンなど浮かばない。自分のデスペナルティも確定だろう。



 しかしそんな中、誰かが一人だけこちらに向かってまっすぐ走って来ている。


 そのプレイヤーをまじまじと見る。


 首領グリコが最近出会った変わり者。

 今までダメージらしいダメージを負ったことのなかったランク六状態の【セレスティアル・カイザー】を真正面から砕き、かと思ったら写真を撮って送ってくれた不思議な有名プレイヤー。


 イチヤだ。



 その姿を見て、ジンとダイゴが顔を綻ばせる。


「来たかイチヤ――ってなんだその武器!?」


 イチヤの腕には、ジンの見覚えのない装備が付いている。

 それを見てダイゴがごくりと喉を鳴らす。


「まさか――」

「はい。これから試してみます」


 イチヤが顔色も変えずにそう言う。

 そして【セレスティアル・カイザー】に絡みつくオービットに殴りかかる。


「やめとけって!! 腕なくなるぞ!!」


 近くにいたプレイヤーが止めようとする。


「大丈夫ですよ」


 しかしイチヤは躊躇(ためら)うことなく拳を打ち付けた。


「……ッ!」

「■■■■■ォォオオ!!」


 オービットの体の回りを高速回転する棘と、イチヤの拳が激しくぶつかり合って火花を飛ばす。

 しかし【セレスティアル・カイザー】同様、イチヤの装備が砕けることはなかった。


「おおっ!!」


 プレイヤー達が喝采を上げる。


「よし!」

「さすがランク六!」


 ダイゴとジンも顔を明るくする。


 しかし、すぐに全員が違和感を覚え始めた。


「……ん?」

「……なんか」

「……長くね?」


 イチヤとオービットの拮抗が終わらない。


 オービットは今も高速回転しており、イチヤの拳には棘が凄まじい勢いで次々にぶつけられている。

 【セレスティアル・カイザー】の拳でも弾き返されたというのに、それより遥かに小さいイチヤがその場に留まり続けている。


 装備の強度が高いだけでは説明できない現象だ。


「…………ッ!!」

「■■■■オッ!?」


 そして回転する棘が何度もイチヤの拳に当たり、攻撃カウントがみるみるうちに増えていく。


 そのカウントが百を超え、ツバメのtr.Actスキルと相まって強化倍率が二万%を超えた時。


 イチヤの小さな拳が、巨大なオービットを【セレスティアル・カイザー】ごと押し飛ばした。


「おおおおおッ!!」


 ステータスにモノを言わせ、強引に拳を振りぬく。


「■■■■■■■ォォオオオオ!?」

『ぬおおおおお!?』


 オービットの雄叫びと首領グリコの悲鳴が混ざり合う。


 その一瞬後、爆発したような歓声が周囲を包んだ。


「うおおおおおおおおっ!!」


 ジンとダイゴも表情を明るくしながらイチヤを見る。


「今のがイチヤの武器の特殊能力ってやつか!?」

「どうやらそのようだな……!」



 その二人の視線の先。


「……はぁ、……はぁ」


 イチヤは肩で息をしながら、チラリと自分の右手に目を落とした。


 ランク六の【手甲】武器、【マッド・ペネトレイター】。


 装備はランク六以上になると、特殊能力が付与されるようになる。当然この【マッド・ペネトレイター】にも、通常の武器にはない特殊能力が付けられている。


 しかし、イチヤ達はこれまでその能力を知ることはできなかった。性能についての具体的な詳細は、装備制限を満たさないと見ることすらできないのだ。

 イチヤがレベル五十の制限を満たしたのはついさっき。武器をセットしてすぐに飛び出したため、イチヤもどういった特殊能力なのかは知らない。


 しかし、先ほどの攻撃である程度掴んだ。



 『スーパーアーマー』とかいう、その特殊能力を。



 拳が敵に接触すると同時に、視界にはそういう文字が出現した。おそらく発動のトリガーは攻撃を受けることだろう。そしてその効果が発動している間、敵の攻撃で仰け反ったり弾き飛ばされたりといったことがなくなる。

 自分の行動が、敵に阻害されなくなるのだ。


「……」


 しかし、ダメージがなくなるわけではない。現にHPはすでに三割を下回り、右手の【マッド・ペネトレイター】もボロボロになっている。


 装備の消耗が【セレスティアル・カイザー】よりも明らかに早い。

 この辺りはtr.Actスキルの性能の差だ。首領グリコのスキルと違い、イチヤのスキルは装備には効果が乗らない。


 この損耗具合を見るに、もう一度攻撃すれば砕け散ってしまうだろう。


「……右腕はもう使えないか」


 呟いて、【セレスティアル・カイザー】を見上げる。


「グリコ、三つ数える。ゼロと同時に装備を解除しろ」

『……! わ、分かった!』

「三」


 オービットに巻きつかれた首領グリコを助けるには、解除と同時にオービットを大きく弾き飛ばす必要がある。攻撃するなら体の中央付近がいいだろう。


「二」


 体が長すぎて分かりづらいが、おそらくあの辺りだろう。

 イチヤが目標を定めながら、ゆっくりと腰を落とす。


「一」


 そう呟き、鋭くオービットを睨みながら思い切り地面を蹴りつける。


 イチヤの体が射ち出されたように跳び上がり、一直線にオービットに近づく。


 その拳が届く直前。


「ゼロ」

『うぉおおおおお!!」


 【セレスティアル・カイザー】が消え失せた。


 それと同時にイチヤの左拳がオービットを捉える。

 その瞬間、【スーパーアーマー】が発動し、イチヤが弾き飛ばされることがなくなった。


「おお……ッ!!」


 力任せに腕を振りぬく。


「■■■■■ォォォオオオオ……!!」


 オービットの長い体が遠くへと弾き飛ばされていく。


 イチヤが落下しながら、下に目を向けた。

 そして武装を解除した首領グリコと目を合わせて呟く。


「後は任せてくれ」


「後は任せてくれ」


 首領グリコにそう言った後、吹き飛んだオービットに目を向ける。

 これまでの戦いで敵も消耗している。オービットのHPはかなり削れており、残りは四割といったところだ。


 しかしイチヤも限界は近い。今の攻撃でHPも同じく三割を下回っている。さらに右腕は使えず、左腕だって後何回使えるか分からない。


 そして攻撃カウントは一一六回。倍率は約四万%。こちらもそろそろ限界(・・)だ。


 イチヤのtr.Actスキル【天に届く一片】。ステータスを強化するスキルで、強化倍率の上限は未だに不明。過去には一二四四()%という、文字通り桁外れの数値を叩き出したこともある。


 おそらく、上限などないのだろう。しかし、だからといって無限に強化し続けられるわけではない。ステータスの強化には、確かな弊害が存在するのだ。




 イチヤが地面に着地し、オービットに向かって走り出す。


「■■■■ォオオオ!!」


 それを迎撃しようと、オービットが器用に縮こまる。


 まるで蛇腹折りのようだ。頭から突っ込んでくるつもりなのだろう。

 そして頭部の貫通力は【セレスティアル・カイザー】の装甲をも容易く抉る。この突進を食らうわけにはいかない。


「■■■ォオ■■オオ!!」

「……ッ!」


 オービットが突っ込んでくる寸前、その軌道から逸れようと横に跳ぶ。


「ぐっ!」


 しかし勢い余って、瓦礫の山に背中から突っ込んでしまう。


 これがステータスを高くしすぎた弊害だ。


 ステータスが高すぎると、体の制御が利かない。細かい動きができない。ステータスが高くなればなるほど、大雑把な行動しか取れなくなる。


 まともに戦おうと思うと、せいぜい十万%ほどが限界であった。


 tr.Actスキルに上限はないが、イチヤの人間性能に限界があるのだ。

 以前一二四四兆%の状態で攻撃を当てることができたのは、敵が一切動かなかったこともあるが、ほとんど奇跡のようなものだ。


「くそっ……!」


 呟いて、瓦礫の山から這い出る。


「■■■ォオオ!!」


 イチヤの横をすり抜けていったオービットが、胴体をくねらせてイチヤを横から打ち付ける。


 そしてイチヤが両腕を交差させ、それを受け止める。


 その動作により、【クロスアーム・ブロック】が発動する。まさに今のような状況のためにある防御用スキルであるが、イチヤにとってはほとんど意味はないだろう。

 【クロスアーム・ブロック】は『DEF(防御力)を倍にする』というスキルである。しかし、今はイチヤのtr.Actスキルが発動している。


 これが発動している間、他のステータス強化系のスキルは全てパーセントに変換して加算される。


 つまり、【クロスアーム・ブロック】によるDEFの強化は(プラス)一〇〇%というものに変わる。すでに四万%の強化がある今、わずか一〇〇%増えることにどれほどの意味があるだろうか。


 しかしそれでもまだマシな方だ。意味がないわけではないし、低倍率の時には有効である。


 本当に相性が最悪なのは、攻撃スキルである。イチヤのtr.Actスキルによる強化は、攻撃スキルには一切乗らない。スキルによる攻撃でカウント数が増えることもないし、tr.Actスキルが解除されるまでの十秒が更新されることもない。


 イチヤのtr.Actスキルは非常にピーキーなスキルなのだ。相性のいい一般スキルは、今のところほとんど見つかっていない。


 それに比べ、【マッド・ペネトレイター】の特殊能力は非常に使いやすいものであった。


「■■■ォオオオ!!」


 オービットの胴体によってゴリゴリと腕の装甲が削られていく。

 しかしそれによって【スーパーアーマー】が発動し、反撃ができるようになる。


「……おおおおおッ!!」


 オービットの胴体を下からかち上げる。


 イチヤのHPがガクッと減り、危険域(レッドゾーン)へと突入した。そして左腕の装備の損傷も、もう右と変わらない。


 しかしオービットのHPもそろそろレッドゾーンになりそうだ。


「■■ォォオ……!!」


 イチヤに弾き飛ばされ、オービットの全身が高く空中に舞い上がった。

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