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それぞれの気持ち

--- コンコン ---


「失礼します。睦月さんをお連れ致しました」


女性警察官に連れられ、睦月は数分後現れた。

少し疲れた雰囲気が感じ取られ、若干やつれている様にも見受けられた。

女性警察官は、睦月を俺達の向いの席に座らせると部屋の隅に置かれた机に向かい座り込んだ。

どうやら退席はしてくれないらしく、部屋の隅で会話の内容は記録される様だ。


そうなると、あまり具体的な会話はし辛くなる。

話の内容が分かる奴には分かるような言い回しではないと、計画を妨害される可能性も出て来てしまう。

言葉選びを慎重に、それでいて睦月には伝わる様な言い回しで会話を始めた。


「よう、元気か? やっぱり睦月もこっちに来ていたんだな」

「あんまり元気ではないわね。こっちに来て直ぐにこんな所に連れて来られちゃったしね……」

「ヒーラーなんだから自分で回復したらいいだろ」

「そういう事じゃないわよ。精神的にね」

「そうか、大変そうだな」

「ここの人達にヒーリングの話をいくら説明した所で理解してくれないのよ……」

「まぁ俺もコウタに教えた時は苦労したさ。ところで、リオナールの事なんだがな」

「リオ君がどうしたの?」

「リオナールもこっちに同時に来ていたんだが、更にもう一度向こうに戻ってまたこっちに帰って来たよ」

「え? どういう事? 自由に行き来出来る様になったの?」

「自由にとまでは行かないが、行き来する方法は分かった」

「そうなの。けんじろう君も一旦向こうに戻ったのではなく、リオ君だけなの?」

「ああ。向こうからこちらに来るきっかけはギガコマだ」

「やっぱりそうなのね。それでこちらから向こうへ行く方法は?」

「それが問題なんだ」

「どういう事?」


ここまではなんとか具体的なワードを避け、抽象的に話を進められたと思う。

問題はここから具体的な説明をしないといけないという事になるのだがどうしたものか……

ゲームというワードで誤魔化して見るか。


「なあ、睦月はピノコ狩りってやった事あるか?」

「あの酒場とかに置いてあるゲームよね?割と楽しいわよね。それがどうしたの?」

「ああ。あのゲームの中のピノコを狩る狩人って俺達がゲームしてない時何してるんだろな」

「何よ突然。ゲームなんだから何をしてるも何もないでしょ」

「俺達ゲームをする側はそう考えるさ」

「何が言いたいの?」

「ピノコを狩る狩人側の視点になって考えてみてくれ」

「ん?」

「あの狩人がな、実は俺達で、ゲームをしている側が天羽だったり茉莉華だったりするんだよ」

「ちょっと何を言ってるかわからないわ」


やはり具体的なワードを避けた説明ってのは難しいな。

あの女性警察官をどうにかしないと説明がうまい事出来そうにない。

ここは困った時のコウタ君だな。

コウタに女性警察官の気を引かせてる間に睦月に説明をする作戦で行こう。

5分もあればいけるだろう。


俺は、コウタに耳打ちをし、5分程女性警察官の気を引く様に指示を出した。

コウタは、さっそく行動をし始めた。


「おねーさん暇じゃないですか? 僕とお話しましょうー!」

「いえ、私は勤務中でありますからお気遣いなく」

「そう固い事言わずに!」


女性警察官は困惑した表情をしながらも、コウタは署長殿の甥っ子で邪険に出来ない相手でもあり対応に困っている様子であった。

コウタが作ってくれた好機を逃さんとばかりに、俺は具体的な説明を睦月にしていった。


「俺達の世界、グランビューデルはな、ゲーム内の世界で、この世界はそのゲームで遊んでいる人達の世界だったんだよ」

「え? 何を言ってるの?」

「リオナールはな……」


睦月がこちらの世界に飛ばされ、今までの間に起きた事を順を追って説明していく。

睦月の困惑は表情に出る程分かりやすく、明らかに動揺していた。

それはそうだろう、俺も今でも信じ難い。

だが、リオナールの一件で信じざるを得ない事実となりつつある。

リオナールに変化も出ていて、実際に戻って来ている指示を出したのは俺だ。

間接的にリオナールの行動を俺が操作していたのだ。


「まぁ、そういった方法であれば戻る事は出来るが、リスクはないとは言い切れない」

「そうね……」

「睦月は中の人と会って1からやり直してでも元の世界に戻りたいと思うか?」

「うーん……」

「ごめん、上杉! 限界!!」

「お、そうか。ご苦労だったなコウタ」

「おうよー!」


コウタの女性警察官気をそらせ作戦は何とか成功し、制限時間いっぱいまでにはあらかた説明は出来た。

あとは睦月の回答を待つだけだ。

睦月は考え込み直ぐには答えを出せないでいる様子であった。


「今すぐ答えを出さなくてもいい。答えが出るまでの間、また中野県に行ってくるさ」

「そう。もこもこちゃんの?」

「ああ。あいつの中の人だけが未だ分かっていないからな」

「わかったわ。答えが出来次第また面会希望を出して伝えて貰う様にするね」

「ああ、頼む」


やつれた睦月の顔に更に影が差す様に、悩み事が増えた睦月は女性警察官と共に部屋を出て行った。

用件も終わり、コウタとはそこで別れを告げ、天羽宅へ帰宅後次は問題児もこもこの番である

思えばもこもこには今まで一度もこちらの世界についての説明を一切全くこれと言ってしなかった。

あいつの頭の中は1+1=よん?となる知能指数しか持ち合わせていないはずだ。

難しい話を説明して今まで理解してくれた試しなどない。

中の人と俺達の思考、性格がリンクしているのなら、もこもこの中の人はどういう頭の構造しているだろうか。

中野県で会って話して説明をするのが若干面倒臭い。

何はともあれ、まずはもこもこに意思を確認せねばなるまい。


---


天羽宅へ帰宅した所、もこもこの姿が見当たらない。

どうやら天羽が学校へ行っている間もこもこを1人家に置いておく訳にも行かず、天羽母宅へ行って貰っているというのだ。

天羽が休みの間は、もこもこをまた家に連れ帰り1日中愛でるという。

恐ろしいルーティン。

睦月だけではなく、もこもこもやつれてしまっているのではないか……


明日はどうやら天羽は休みらしく、もこもこをこれから迎えに行くのだという。

面倒を見てくれるのはいいが、引っ張りまわされるもこもこはどういう心境なのだろうか。

どちらにせよ、もこもこには事の事情とまでは言わないものの気持ち位は確認しておかねばなるまい。

戻って来るのを待っているのも面倒だった為、俺も天羽母宅に付いて行きその場でもこもこと話を付けることにした。

丁度天羽母がいれば意見も聞ける事だしな。


---


天羽母宅に着くと、いつもの如くショコラが玄関先まで迎え出る。

天羽がショコラを愛でている横をスルリと抜け、天羽母の元へと向かった。


天羽母は、またいつもの如くお茶を用意して出してくれていた。

が、もこもこの姿が見えない。


「もこもこはどこだ?」

「あー、もこもこちゃん? 最近ちょっと元気ないのよね。どうしたのかしら?」

「なんとなく理由は察するが、今どこに?」

「なんか布団を被って震えてるのよねぇ」

「そ、そうか……」


精神的にやられ始めているのか。

ギガコマ討伐クエストの前日、ギルド会話ででも「あんなやつめっためたにゃー!」とか言っていた怖いもの知らずのあいつが。

そこまで精神的に追い詰められるとは……

睦月の中の人とその子供の二段構え。

中々に来るものがあるのだろうな。

相手がもこもことはいえ少し同情をしてしまうな。


もこもこは、寝室に敷かれた布団の中にに丸まり、布団の外からでも震えている事が分かるくらいブルブルしていた。

ここは容赦なく布団を剥ぎ取りもこもこに声を掛けた。


「ぎにゃ! ちょ、ちょとたいむにゃ!」

「よう、俺だよ」

「け、けんじろーーーー! うにゃーーー!」

「おい、よせ……引っ付くな……」


余程の不安だったのか、いつもなら犬猿の仲とまで言われる俺にもこもこがしがみ付いて来た。

大きなお山2つの感触は悪くないが、相手はもこもこ寒気が走る。

もこもこを強引に引っぺがすとその場に座り込み話をし始めた。


「おい、お前元の世界に帰りたいか?」

「ぜひとも今すぐお願いしたいにゃ!」

「まぁそうだろうな……でも戻った時レベル1になってるかも知れないぞ?」

「なんでにゃ? まぁでもいいにゃ。またがんばるにゃ!」

「そうか。でも必ず戻れるとも限らないぞ? それでもいいのか?」

「ここにいるよりはましにゃ! 早くお願いしたいにゃ!」

「わかったよ。なるべく早く帰れるようにしてやるさ」

「頼むにゃ……」


あっさり快諾。

説明など不要、早く帰りたいって所だろうな。

余計な手間が省けてこちらとしては大助かりだ。


何はともあれもこもこへの承認も得た所で、あとはもこもこの中の人を探すだけだ。

それとなく天羽母にもこもこの中の人がどんな人なのか探りを入れてみよう。


「天羽母はもこもこの中の人とも連絡が取れるんだよな?」

「そうね、メンバーの内まいぷーさん以外とは連絡取れるわよ」

「どんなやつなんだ?」

「そうねぇ……あのまんまよ?」

「あのまんまってどんなやつだよ……」

「いうなら正直なところは分からないの。中の人がどんな人か、男性なのか女性なのか、何歳位なのかっていう情報を一切言わないの」

「リオナールの中の人が女の子だったって言うのと同じ感じか?」

「うーん……少し違うわね。あの子はわたしには自分が中学生だって言うのを教えてくれてたもの」

「そうなのか」

「でももこもこちゃんはいつもあんな感じ。全く教えてもくれないし、そういう話題には乗って来ないの」

「そうか。知られたくない事でもあるのかね」

「そうかもしれないわね」


ますます分からない奴だ。

もこもこを地でいく奴なんて他にいてたまるか。

あいつは冒険者だから生きていける様なもんだ。

あれが普通に学生してたり働いてたりしたら、完全に周りから浮くだろう。

実際、もこもこは竹本城で係りの人と揉めてたしな……

あいつは普通に世の中で生きていけない奴だ。

探すならそういう奴から当たって行けばいいのか?


全く検討も付かないが、住んでいる所は安霧野という場所だという事は把握している。

確定ではないが、今までの経験から恐らく間違いないだろう。

俺達が飛ばされた先は、それぞれの中の人が住んでいる地域の傍にある緑地に飛ばされていた。

もこもこだけが中野県に居たというのはそういう理由だと思われるからだ。


もこもこが発見された安霧野の山の周辺で、社会に溶け込めていないちょっとおかしい奴。

まずそういう奴の中から探して行こう。


とは言っても、1人1人当たっていくのは途方もない作業だ。

情報も乏しい以上、ここは世界の情報を一挙にサーチ出来る、あの梅園寺グループの情報網を使わせて貰おう。

ある程度の絞込み出来る情報を与えれば、それ程時間も掛からず探し出してくれるだろう。


今日は時間も遅くなった為、改めて明日梅園寺家に出向き捜索の算段を付けねばなるまい。

情報共有も兼ねてリオナールとも話して置く必要があるだろう。

もこもこには悪いが、もう少しの間今の状況で我慢してもらうしかないな。

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