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明かされた真実

コウタからの返信はまだない。

返信はないが、送信は可能だった為前回と同じ世界にいる可能性はある。


確信を得る為、俺は天羽宅に向かっていた。

歩き慣れた道を天羽宅へと向かうと、同じ場所に天羽宅は存在し表札もしっかり記載されている。

間違いなく天羽宅であろうドアのインターフォンを押した。


----- ピンポーン、ピンポーン、ピピピンポーン -----


「はいはいはい、なんだい騒々しいね。どなた?」

「え? あれ……ここ天羽さんのお宅では……?」

「天羽さんのお宅ですよ。睦月の生徒さんだね、ちょっと待ってね」


びっくりした。

見知らぬおばさんが出て来やがった。

本当に似た様な別の世界に飛ばされてしまったのかと思ってしまった。


暫く待っていると、部屋の奥から天羽の作られた猫なで声が聞こえて来た。

生徒が来たと言われ声色を作っているのだろう。


「はーい♪ ちょっと待ってねー♪ ……お待たせー♪ って何よ……また戻ってきたの?」

「そのようだな」

「はぁ……とりあえず中に入って。お母さんはいるけど気にしないで」

「母親なのか、あの人」


そう言われるとどことなく天羽に似ている気がしないでもない。


久しぶりの天羽宅は、やはり汚れているのかと思いきや、母親が来ているからか綺麗な状態になっていた。

いつもの定位置に座ると、いつもではありえないお茶が出されるという珍事が発生した。

母親の来襲はこの家にとても良い刺激になっている様だ。


「それで? 何でまた戻って来たの?」

「いや、俺にも分からない。前回と同じくクエストモンスターを討伐して全滅したらいつもの公園に飛んでたんだ」

「うーん……学習能力ないわね、あなたたち」

「討伐禁止令が解除されたって聞いたんだよ」

「危ない目に一度遭ってるんだから警戒しなさいよ」

「そんな事言われても、もう飛ばされてしまった後なんだし仕方ない」

「まぁ、そうだけどさ」


天羽は相変わらずのツンデレ具合だ。

なんだかんだといいつつ、家に招き入れ事情を聞いてくれるのである。


狭い天羽宅では、俺達の会話は天羽母に筒抜けである。

会話の内容に疑問を持った天羽母が質問を投げ付けて来た。


「あんた達、さっきから何の話してるのよ」

「この子、賢二郎っていうんだけどね、なんと驚きの異世界の子なのよ」

「異世界? 何言ってるのよ」

「最初は皆そう思うのよ。でもこの子、魔法使えるのよ」

「魔法? どんな」

「どんな?」

「俺の場合は魔術師だから火・土・水・風・雷・氷属性の攻撃魔法になる」

「だってさ」

「あんた、この子の魔法見た事あるの?」

「あるわよ。私も水魔法教えてもらったもの。ほら」


そう言いながら、天羽は俺に教わった掌を湿らす魔法を使って見せていた。

コウタと違い、魔法の練習などはしていない様で、教わった時とさほど変わらない湿り具合だった。


「それ魔法なの? ただの手汗じゃない」

「魔法よ! ちょっと賢二郎、何か見せてあげないさいよ」

「この部屋の中でか? そうだな……」

「水とか出せないの? ほら、このコップの中に軽くさ」

「それくらいなら出来なくはないな。ちょっと待ってろ」


俺は、手渡されたコップに水を入れる為、指先に軽く魔力を込めていった。

指先の先端に現れた水の球体は、コップの中へと落ちて行きコップの中身になみなみと水を満たして行く。

程なくして、コップには1杯の水が注がれた。

天羽母は目を丸くしてコップに注がれた水を凝視していた。


「手品みたいね……」

「これが魔法なのよ。私は雷を落とす所とか火で木を燃やしてる所もみたわ」

「信じられないけど信じるしかないみたいね……」


天羽母は暫く考え込むような仕草をしていたが、何かを思い付いた様に更に俺へ質問をして来た。


「さっき異世界から来たって言ってたけど、その異世界でこの魔法を習ったの?」

「ああ、生まれついての素質などはあるみたいだが、基本的な所はまず親から習うな」

「基本的ではない部分は?」

「魔術師やクレリックを目指す者は、それぞれのギルドに所属してそこで実践的な魔法を習うな」

「そうなのね、じゃあそういう魔法を使える人がいっぱいいる世界から来たのね」

「ああ、グランビューテルという場所だ」

「グランビューテル? って言った?」

「ああ、そうだが?」

「あなた名前賢二郎君って言ったわよね?」

「ああ、上杉賢二郎だ」

「上杉……さっきクエストモンスター討伐中に飛ばされたとか言ってたわよね?」

「ああ、よく覚えてるな」

「そのモンスターってもしかしてギガンテスコマーノっていう名前じゃない?」

「よくわかったな。俺名前言ったか?」

「いえ……聞いてないわ」


天羽母は、ギガンテスコマーノの名前を出した途端黙り込んでしまった。

先程、魔法を目の前で見せた時よりも更に驚愕とした表情を浮かばせていた。


暫くの沈黙に耐え切れなかったのか、天羽娘の方が口火を切った。


「どうしたの? お母さん。何か気になる事でもあるの?」

「ううん、知ってる物と少し似てる感じだっただけよ」

「気になるなら聞いちゃえばいいじゃない」

「答えられる事なら答えるぞ?」

「そうね……じゃあ、あなたのお仲間に睦月 ショコラっていう名前のクレリックはいるかしら?」

「ん? ああいるぞ。天羽も会った事あるはずだが」

「ええ、あのちょっと大人っぽい優しそうなクレリックの人よね。覚えてるわ。私と同じ名前だったもの」

「そうなの……やっぱり……」

「なんなのよ? 何か知ってるの?」


天羽母はその後、また暫く黙り込んでしまった。

何かを確信している様ではあるが、どの様に切り出したらいいか迷っている様な感じであった。


---


天羽母が口を噤んでしまってから30分程経過しただろうか。

無くなりかけると追加補充される温かいお茶を啜り続け、お腹がタプタプになって来た頃、ようやく天羽母が口を開いた。


「睦月には言ってなかったんだけどね、母さんインターネットでオンラインゲームやってるの」

「ええ!? それで最近うちに来る時ノートパソコン持参で来てたの?」

「そうよ。あなたが寝た後にログインしてゲームしてたのよ」

「そうなのね……父さんが亡くなってから塞ぎ込んでたのが元気になって来たと思ってたけど、それが理由だったの」

「それだけって訳じゃないけど、それもあるわね。ショコラちゃんも居るしね」

「それで、そのゲームがどうしたの?」

「母さんがやってるゲームね、シーナリーリピートていうゲームなんだけどね」

「うん」

「その中で作ったキャラの名前が睦月 ショコラって名前なの。あなたとショコラちゃんから名前を取って付けたのよ」

「勝手に人の名前で……」

「それもあって、言えなかったんだけどね。そのゲーム内のお友達に賢二郎 上杉って子がいるの」

「え? この子と同じ名前じゃない」

「そうなのよ。そのゲーム内の世界がグランビューテルって名前なの……」

「賢二郎が来た世界と同じ名前ね……」

「そうなのよ。偶然にしては一致しすぎてない?」

「他に友達はいないの?」

「他にはリオナール スラッシュバイト、もこもこ にくうま、蒼海 V、My Pooって子達ね」

「おい、ちょっと待て! それ、俺のギルドメンバー全員の名前だぞ!」

「やっぱりね……この子ゲーム内の子なのよ」

「ゲーム内のキャラが現実世界に飛ばされて来たって事?」

「そうね。状況から考えるとそうなるわね」

「そのお母さんのキャラは今どうなってるの?」

「わからないわ。この間友達と一緒にクエストモンスターを討伐に行って全滅した後、ログイン出来なくなったのよ」

「キャラが違う世界に行ってしまってるからログイン出来ないって事?」

「そうなんじゃないかしら」


天羽母、とんでもない事を言い出した。

俺達がゲーム内のキャラクターで、ゲーム内からゲームを操作している現実世界側へ転移しているというのだ。

俺は実在しているが実在の人物じゃないというのか?

甚だ信じ難い話だ。

だが、天羽母は俺が天羽にも話してない事まで知っていた。

初対面だというのにだ。


元ギルドマスターの名前まで知っているという事は、現在のギルドマスターがリオナールに変わっている事も知っているのだろうか。

俺は、天羽母の言う話の信憑性を高める為、逆に質問をしていく事にした。


「蒼海 Vさんの事も知っているのか?」

「ええ、元ギルドマスターよ。今のマスターはリオ君、リオナール スラッシュバイトね」

「そうだ……俺の世界でもつい先日ギルドマスターがリオナールに変わったばかりだ……」

「だから私がゲームでやってる世界の中の話なのよ」


天羽母の話を信じるしかないのか……

まだ俺がこの世界に来てから数時間しか経っていない。

その間にリオナールがギルドマスターになった話は勿論していないのだ。

これだけの状況証拠が揃ってしまうと、疑う方が難しくなってくる。


話の内容からすると、この天羽母は睦月 ショコラを普段ゲームで操っているゲーム外の人である。

ということは、俺がゲーム内の人であるならば、俺を操作するゲーム外の人もこの世界に存在する事になる。

恐ろしい事ではあるが、確認はしておく必要があるだろう。

天羽母は、こちらの世界の俺を操作している人を知っているのだろうか……


「俺にも……操作をしている人がいるのか?」

「いるわね。連絡先も知ってるわよ」

「どんな奴なんだ?」

「詳しくは分からないわ。リアルの事はお互いに話さないし。でも住んでる場所は近いみたいね」

「他の奴等の操作をしている人の住んでる場所も知っているのか?」

「リオ君も近い所に住んでるみたいね。もこもこちゃんは中野県に住んでるらしいわよ」

「中野県だと!」

「ええ、そう言ってたわね」


何かのピースがカチリとはまる音がした様な気がした。

こちらの世界へ飛ばされた先は、どうやらこちらの世界で操作している側の人が住んでいる場所の近くだったのだ。

もこもこだけが中野県に飛ばされていた理由が、これではっきりとした。


「リオナールやもこもこの操作をしている人の事もわからないのか?」

「もこもこちゃんは分からないわ。リオ君の中の人は女の子よ」

「中の人とは操作してる人の事か?」

「そうよ」

「女の子と言ったが、リオナールは男だぞ?」

「女の子が屈強なイケメンを操作しちゃいけないなんてルールないもの。そういう事もあるわよ」

「そうなのか……その女の子は何処に住んでるか分かるか?」

「この近くに住んでいるって事と、資産家のお嬢様で中学生位って事しか分からないわ」

「そうか」


この辺りで金持ちのお嬢様といったら梅園寺だろう。

あの茉莉華お嬢様がリオナールの中の人とは限らないが、確認はしてみる必要はあるだろう。

リオナールもこの世界に来ているのか、ついでに確認しに行く事が出来るしな。


「ちょっと、出掛けて来る」

「どこいくのよ」

「梅園寺の所にリオナールが来てるか行ってみるよ」

「そう。帰って来るかどうかちゃんと連絡しなさいよね」

「ああ」


俺は事実確認とリオナールの所在を確認する為、梅園寺邸へと向かった。


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