再戦、そして……
俺達は元の世界へ帰還した。
マスター召集という何とも締まりの無い帰還であった。
俺のやってきた事が無駄だったという訳ではないだろうが、何となく後味の悪い突然の帰還となった。
帰還は出来たものの、何故あの世界に飛ばされていたのかはわかっていない。
何はともあれ、無事帰還出来た事もあり、久しぶりの元の世界でまずやる事と言ったらリベンジだ。
転移の元凶となった、件のクエストモンスター<ギガンテスコマーノ>の討伐である。
まいぷーさんの情報によると、冒険者管理組合より安全性への危惧から討伐の一時禁止令が発せられていたと言う。
中には、そんな禁止令を無視した冒険者達が、討伐に出掛け帰らぬままとなっているという話も聞く。
俺達が討伐に出掛けたのはその禁止令が出る前だったのだ。
今現在は、安全性も確認され禁止令も解除されているらしい。
そんな話を聞けば、リベンジに出掛けざるを得ない。
今回は作戦をしっかり練った上で討伐を開始する事にした。
前回の敗因は、もこもこのエクストリームデストロイと俺の極限魔法の同時着弾の失敗によるヘイト崩壊にあった。
もこもこは大雑把な距離でちょろちょろと動き回って戦う癖がある。
そのせいで前回はエクストリームデストロイが届かず不発になったのだ。
今回はエクストリームゲージが貯まったら、『撃つ前に近付く』を徹底させよう。
合図はリオナールにやらせればいいだろう。
次に、睦月に大回復を控えさせる。
リオナール以外が死んだ所で立て直しは可能なのである。
リオナールを生かし、自分も生きる様に動いてもらう。
アタッカー2名は間に合わなかった場合、最悪蘇生で立て直す事とする。
後は全力を尽くすのみ。
作戦が決まった所で、今回は全滅の可能性を考え、近くの村へリターンポイントの設定を全員にさせた。
全員のリターンポイントの設定が終わった所で、キーとなるもこもこに視線を送った。
本日のもこもこもまた奇抜な服装である。
「またそんな服装してんのか。ていうかそれ、あっちの世界の女子高生の制服じゃないか?」
「そうにゃ! まりにゃんに仕入れてもらったにゃ! 今日は失敗できないから気合の入ったお気に入りの服にしてみたのにゃ!」
「見た目に気合入れなくていいから火力あげろよ」
「ファッションに力を入れると火力もあがるにゃ!」
「気持ちの問題じゃなく、物理的に上げろってんだよ」
「気持ちはじゅうようにゃ!」
「お前に言っても仕方ないか……」
「失礼なやつにゃ!」
変な所に気合の入ったもこもこを引き連れ、ギガンテスコマーノの沸く場所へと移動をした。
現地には、忌々しいギガンテスコマーノがいつもの様に徘徊している。
いつも不思議に思うのだが、このギガンテスコマーノは数々の冒険者に討伐されている。
討伐はしているのに、10~15分も経つとまた沸いて出る。
あれはどういう仕組みになっているのだろうか……
まぁ何はともあれ、体制も整った所でリベンジの幕開けだ。
いつも通りの陣形に、いつも通りのリオナールによるファーストタッチからの戦闘開始である。
リオナールの安定したヘイト管理でふら付きもなく順調に削られて行く。
睦月は暇そうにぼーっとしているが、ヒーラーが暇なのはパーティにとって良い事である。
暫く削りを続けて、エクストリームゲージが貯まるのを待ちながらエクストリームデストロイと極限魔法の同時着弾で削り切れる位まで敵のHPを削って行く。
削り続けてはいるが、どうにもいつもより削りの速度が遅い。
俺が手を抜いていないのであれば、手を抜いているのはもこもこである。
動き的には問題はなさそうではある為、問題は装備だろう。
気合が入っているという噂の装備は、いつも以上にヒラヒラと動きに合わせて揺らめいている。
むしろそのヒラヒラを揺らめかせたいが為、わざとうろちょろしているのではないかと思われる位である。
お洒落を重視したそれらは、あちらの世界製という事もあり防御力など皆無である。
勿論、火力ステータスの類など付与されているはずもない。
今のもこもこの火力を支えているのは、武器、アクセサリー、食事補助、睦月の火力アップバフのみである。
言うなれば、レベルが15~20程下の者が参加している様なものである。
野良パーティに参加していたのであれば、完全に晒し者になるであろう。
だからもこもこは身内のパーティでしかクエストを進められない。
故に今俺達はここにいるという事だ……
傍迷惑なお嬢様の子守りパーティは、時間はかかっていたものの順調に事が進んでいた。
削りもある程度の頃合いを見せたタイミングで、システムアナウンスが流れる。
『エクストリームゲージが溜まりました。』
「よし、じゃあ合わせて一気に削っていくぞ!」
「もこもこ! 今度は距離を測り間違えるなよ」
「おーけーにゃ!」
「いけー!」
『リオナール スラッシュバイトのオールキャンセルが発動しました。』
『もこもこ にくうまのエクストリームデストロイが発動準備に入りました。』
『賢二郎 上杉がオーバーデスハイリミテンダーの詠唱を開始しました。』
それぞれのキャストは30秒。
オールキャンセルもしっかり発動している。
『ギガンテスコマーノの薙ぎ払いが発動しました。』
「させるか!」
今回は、リオナールも上手く反応し敵のスタン技を回避している。
いける!
『もこもこ にくうまのエクストリームデストロイが発動!ギガンテスコマーノに20341のダメージ!!』
『賢二郎 上杉のオーバーデスハイリミテンダーが発動!ギガンテスコマーノに55042のダメージ!!』
「え?」
「ちょっと待て! 何だそのダメージは!」
「にゃんだとー!」
「あらまぁ……」
敵のHPは削り切れず残ってしまっていた。
もこもこのダメージが想定外に低く削り切れていなかったのだ。
悪夢再び。
敵は大ダメージを与えた俺へとターゲットを変え迫ってくる。
そうなるともはや、リオナールの頑張りも虚しくヘイトを取り戻す事は難しい。
壊滅を回避する為、無残に殴り殺される俺。
睦月も回復をする事も出来ず、ただ殴り殺される俺を見守るのみ。
程なくして俺は死に、次にダメージを出したもこもこへと敵は向かう。
その間も、ヘイトを取り戻す為に必死に頑張っていたリオナールによってもこもこは救われる。
救われはしたものの、貧弱ダメージしか与えられないもこもこの削りのみで押し切る事は難しくジリ貧状態が続く。
時間が掛かれば睦月のMPも底を付く。
こうして一人、また一人と命を奪われやはり最終的には全滅と相成る。
「……」
「もこもこさんや……」
「何だにゃ? けんじろじーさんや」
「何だにゃ、じゃねーんだよ! 何だあのダメージは!」
「ボクもびっくりにゃ」
「びっくりしてんじゃねーよ! あの装備じゃ必然だろ……」
「ボクの気合は届かなかったのにゃ」
「気合じゃダメージは出ないからな」
「次は火力の出るお洒落装備でやろうね。もこもこちゃん」
「そうするにゃ……」
流れは良かったが、結果が変わっていない。
今と同じ流れで、もこもこの装備を整えさせれば結果もかわってくるだろう。
いつもながらに、全滅後のこのぐったりとした喪失感はなんとかならんだろうか。
無言の空間にモンスターの帰巣の足音だけが響く中、死体のまま会話を交わす4人。
「また失敗だなー。」
「火力が足りないんだよ、火力が」
「すまんですにゃー」
「次はいけるよ、がんばろうね!」
「はいにゃー!」
全滅も2度目ともなると、気持ちの切り替えも早いものである。
俺は再戦に向けてメンバーに声を掛けて行った。
「まぁ次は大丈夫さ。ちゃんと装備整えてればな」
「そうだな」
「お洒落に気を使うのは大変ね」
「火力もお洒落もがんばるにゃ!」
「火力だけで十分だ」
「けんじろは分かってないにゃ」
「とりあえず戻るぞ」
一通りのやり取りを終えた後、再戦の為リターンポイントへとそれぞれが戻って行く。
俺も全員が飛び終えた所を見送った後、リターンポイントへと戻った。
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見慣れた風景の場所へと戻って来た。
再戦の為、今一度装備の見直しをして現地へと向かう事とした。
現地へ向かう為顔を上げると、見慣れた風景ではあるが長年見慣れた風景ではなかった。
ここ数ヶ月、見慣れた風景であった。
「またここか……」
初めて飛ばされた時に居た、何度となく魔法練習等で訪れた件の公園であった。
ギガンテスコマーノの討伐禁止令は解除されたのではなかったのか。
冒険者管理組合の調べが甘かったのか定かではないが、実際に俺はまたこの世界に居る。
やっと戻る事が出来たのに、また居るのである。
俺が前回と同じ場所に飛ばされているという事は、他のメンバーも飛ばされている可能性はある。
前回戻れた時は、ギルドマスターによるマスター召集で呼び寄せられ戻る事が出来た。
現在のマスターはあの時のマスターと違い、リオナールがマスターとなっている。
今回もまたリオナールが一緒に飛ばされているのであれば、もう戻る手段がない事になる。
まずは、状況を確認していこう。
見慣れた風景ではあるが、この世界が前回と同じ世界とは限らない。
元の世界とこの世界が存在するのであれば、他にも似たような風景の世界がある可能性は考えられる。
今現状で確認出来る方法といえば、携帯電話でメッセージを送り、ここから近い天羽宅へ向かい天羽が存在しているかを確認する事であろう。
俺は携帯電話でまずはコウタへとメッセージを送り、その後天羽宅へと向かった。




