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とある日常

時を遡る事数時間。

ここは日本のとある県。

一人の青年が仕事を終え帰宅した。

青年の仕事は忙しく、ろくに家に帰る事もままならないでいた。


青年は、仕事の忙しさを癒す様に多数の趣味を持っていた。

帰宅後から寝る迄の間や、数少ない休日に出来る趣味と言ったら限られてくる。

それでも、趣味による癒しは青年に必要な物だったのだ。


青年の趣味の中にはゲームも存在した。

隙間の時間にも出来て出掛ける必要もない、まさにうってつけである。

幼い頃からゲームが好きだった青年は、それこそ様々なゲームに手を付けていた。

そのゲームの中にはオンラインゲームも含まれている。

プライベートの時間を長く取れない青年にとって、オンラインゲームは会話や風景を楽しむツールとなっていた。

ただ、ここ最近は時間があまり取れず、オンラインゲームを楽しめる時間が少なくなっていた。


青年は、オンラインゲーム内で自らギルドを作り仲間を募っていた。

ただ、最近のギルド運営状況を考えると、ギルドマスターとしての役割をほぼ果たせていない事が気がかりであった。

活発的な活動をしているギルドもある中、自分の運営する弱小ギルドに加盟してくれている仲間を思うと心苦しい所である。


青年は、ギルドマスターを辞める事を考えていた。

青年がプレイしているオンラインMMORPG<シーナリーリピート>では、ギルドマスターに1度就くと、引退するかギルドを解散するしか辞める方法がない。

引退するつもりはなかったが、1度解散をして再結成をする事でギルドマスターを誰かに委譲するつもりであった。

青年は、意を決してゲームを起動させた。


--- シーナリーリピートへようこそ! ---

--- ログインID/PASSWORDを入力して下さい。 ---

--- 認証されました。起動します。 ---


青年の目の前のパソコン画面にはゲーム世界が広がっている。

ログインしたと同時に、青年の操るキャラはギルドチャットで声をかけられた。


『蒼海 Vさんがログインしました。』


[My Poo] お、マスター久しぶり!

[蒼海 V] お久しぶりです。

[蒼海 V] 今日はログインしてるのまいぷーさんだけですか?

[My Poo] ん、なんか良く分からないけど最近いないんだよねー

[My Poo] メンバーリストあんまり見ないから気付いてないだけかもだけどw

[蒼海 V] まいぷーさんは合成ばっかりしてますもんねw

[My Poo] まーねー

[蒼海 V] なんか4人の現在地表示がおかしいですね

[My Poo] ん?どれどれ

[My Poo] あー、これなんか最近流行のバグのやつや

[蒼海 V] バグ、ですか?

[My Poo] 知らんのかw

[My Poo] なんかシナ板で話題になってたけど、こないだのアップデート以降バグでギガコマ狩るとログイン出来なくなるんだって

[My Poo] ログイン出来てる人から見ると、リスト表示の所在地が??????になってるんだとか

[蒼海 V] まさにこれですね……4人で狩りに行ったんですか?

[My Poo] なんかもこちゃんの未消化クエの討伐とかちょっと前に言ってたなー

[蒼海 V] そうなんですか……対策はないんですか?

[My Poo] 公式では調査中になってるけど、シナ板ではギルドに加盟してる人はマスター召集コマンドで戻って来れたって書いてあったよ

[蒼海 V] ギルドに加盟してない人は今の所方法がないと……?

[My Poo] そうなんじゃない?w

[蒼海 V] ひどいですねw

[My Poo] 試しに使ってみたら?マスター召集コマンド

[蒼海 V] そうですね、やってみますか


ギルドメンバーのMy Pooさんの提案により、ギルドマスターのみが使用可能なコマンド<マスター召集>を使用してみる事にした。

マスター召集コマンドは24時間に1回、緊急時にギルドマスターの元へギルドメンバーを召集させるコマンドである。

もちろん召集される側は何をしているか分からない。

召集される側の画面にはシステムメッセージが流れ、召集に承諾するか保留にするかを選択出来る様になっている。


青年は、ギルドメンバーリストを再確認しメンバーの内4人の所在地が??????になっている事を確認する。

確認を終えると、ギルドマスターコマンドリストを開きその中からマスター召集を実行した。


『蒼海 Vよりマスター召集が発動されました。』


[My Poo] 今ちょっと合成中だから行けないよーw

[蒼海 V] はいw

[蒼海 V] これでログイン出来る様になるのでしょうか

[My Poo] どうなんだろうね


青年は改めてギルドメンバーリストを確認してみる。

先程はバグ表示となっていた4人のメンバーの所在表示がログアウト状態に変わっていた。


[蒼海 V] メンバーリスト正常になってるみたいですね

[My Poo] お、ほんまや

[蒼海 V] これでログイン出来る様になるんでしょうか

[My Poo] 皆にログイン出来るかメッセージ送ってみたら?連絡先知ってるんやろ?

[蒼海 V] ああ、そうですね。送ってみます


青年は、ゲームコントローラーを床に置き、充電中となっていた携帯電話を取り上げた。

ギルドマスターである青年は、何かの時の為にメンバーとメッセージアプリの連絡先を交換している。

とはいえ、My Pooさんだけはガラケー使いだといい、メッセージアプリを入れられないと聞いていた。

結局の所、1人と連絡先を交換したら、その場に居た全員が交換し合ってしまったというオチではある。


同じコミュニティーに属しており、SNSで連絡先を知っていたら必然的にグループ会話が発生する。

青年は、リアル事情をあまり知られたくは無かった為、グループ会話には属していたが普段はあまり発言をしていなかった。

怒涛の勢いで流れていくグループ会話に、通知音の煩わしさが出て来てしまい通知をOFFに設定していたのだった。

その事が災いし、久しぶりに開いたメッセージアプリには未読メッセージが数百件と溜まっていた。

青年は、グループ会話へ久しぶりの発言をした。


「蒼海 : お久しぶりです。皆さん不具合が出ていてログイン出来ていないと聞きました。」


メッセージを送信した時間が夜間という事もあり、間髪入れず既読となり返事が戻ってくる。

皆、ログインも出来ず暇をしている様である。


「もこもこ : マスター! マスター!」

「ショコラ : お久しぶりです。」

「リオナール : おー、マスター久しぶり!」

「上杉賢二郎 : ちょwマスターやっと来たよw」

「もこもこ : マスター! マスター!」

「リオナール : ログイン出来ないぞ」

「上杉賢二郎 : マスター召集かけてくれ、マスター」

「蒼海 : 先程マスター召集をかけてみました。皆さんログイン出来る状態か確認して頂けますか?」

「リオナール : おお! やってみる!」

「ショコラ : ありがとうございます。」

「上杉賢二郎 : おっけ!」

「もこもこ : マスター! マスター!」


青年は伝える事を伝え終わると、携帯電話を充電器へとそっと戻し再度コントローラーを握った。

画面を見詰めていると、ログインが出来ていなかったメンバーが続々とログインして来ていた。


『リオナール スラッシュバイトがログインしました。』

『賢二郎 上杉がログインしました。』

『睦月 ショコラがログインしました。』

『もこもこ にくうまがログインしました。』


[リオナール スラッシュバイト] こんばんは

[睦月 ショコラ] こんばんは

[賢二郎 上杉] ういーす

[もこもこ にくうま] やっと入れたにゃー!

[蒼海 V] おかえりなさい。

[My Poo] おー、やっとにぎやかになったなw


無事全員ログイン出来た様であった。

青年は、全員揃った所で今日ログインした本来の目的である『ギルドの解散』について話す事にした。


[蒼海 V] さて、皆さん揃った所でお話があります。

[賢二郎 上杉] なんだなんだ?

[もこもこ にくうま] ボクのクエストの再開にゃ?

[リオナール スラッシュバイト] ああ、そうだな。リベンジしないとなー

[蒼海 V] 残念ながらそのお話ではないです。

[蒼海 V] 今回ログインした目的ですが、このギルドの解散をしようと思いログインしたのです。

[賢二郎 上杉] なにー!!

[もこもこ にくうま] なんでにゃー!

[睦月 ショコラ] 何かあったんですか?

[リオナール スラッシュバイト] 理由を教えてくれ

[My Poo] なんだなんだ?何があった?合成してて聞いてなかったw

[蒼海 V] まいぷーさんも出来れば聞いてください……w

[蒼海 V] お分かりの事かと思いますが、自分はログイン状況が芳しくないです。

[蒼海 V] この様な状況ではギルド運営に差し支えが出ると思うのです。

[蒼海 V] 一度ギルドを解散する事でマスターの権限を誰かに委譲した上で、このギルドを改めて再編して欲しいのです。

[リオナール スラッシュバイト] なるほどね

[My Poo] 俺は合成出来れば誰がマスターでもいいやw

[もこもこ にくうま] マスター!マスター!;;

[賢二郎 上杉] それで、誰にマスターを委譲するんだ?

[睦月 ショコラ] 私はマスターになれないわよ。

[蒼海 V] 出来ればリオナールさんにお任せしたいのですが……

[リオナール スラッシュバイト] 俺ですか!wまぁこの中なら妥当なんですかね……w

[蒼海 V] ありがとうございます。

[蒼海 V] では、解散は3日後としますので、解散されたら改めてギルドを再編成して下さい。

[リオナール スラッシュバイト] わかりました。

[蒼海 V] 宜しくお願いします。


---


そして3日後、青年はギルドの解散をする為再度ログインをした。

ログインをすると、既にメンバーは全員揃っている状態であった。

挨拶をそこそこに済ませ、解散のアナウンスをギルドメンバーへと通達していった。


[蒼海 V] では、予定通り一旦ギルドを解散します。

[蒼海 V] 解散後、リオナールさん再編成お願いします。

[リオナール スラッシュバイト] 了解です。


『ギルド:ビタミンチャージは解散されました。』


長らくギルドマスターをしていた青年から、何か肩の荷が降りた様な感覚があった。

それと同時に、少しばかりの消失感もある。

青年にとって、ギルドマスターをしている事は苦痛であった訳ではなかったのだ。


暫くして、リオナール スラッシュバイトにて新しいギルドが作成された様であった。

青年のキャラにもメンバー加盟要請が届いたのである。


『リオナール スラッシュバイトからギルドの加盟申請が届いています。』

『ギルド:ビタミンチャージ2の加盟を承認しました。』

『蒼海 Vがギルドに加盟しました。』


[もこもこ にくうま] マスター!マスター!

[リオナール スラッシュバイト] マスターは俺だw

[もこもこ にくうま] 元マスター!元マスター!

[蒼海 V] 元……ですかwお誘いありがとうございます。

[リオナール スラッシュバイト] マスターの委譲ってだけですから。メンバーが欠けては意味がないですよ。

[蒼海 V] そうですね。ありがとうございます。


無事ギルドマスターの委譲作業も終わり、日常と同じ状態のギルドに戻っていた。

青年は肩を撫で下ろし、静かにその様子を見つめていた。


[My Poo] 公式見た?

[賢二郎 上杉] いや、見てないな

[リオナール スラッシュバイト] 何か書いてあったんですか?

[My Poo] ギガコマの修正入ったって

[賢二郎 上杉] おおー

[リオナール スラッシュバイト] よし、じゃあこれからリベンジと行くか!

[賢二郎 上杉] そうだな!

[睦月 ショコラ] 今度こそ誰も死なせない!

[もこもこ にくうま] 気合入れていくにゃー!

[蒼海 V] 皆さんがんばって下さい。自分はそろそろ落ちますね。


不具合の解消がされた事により、ログイン障害を食らっていた4名が再度対象のクエストを行う様だ。

青年は役目を果たし、そっとゲームからログアウトしていった。

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