四人寄っても知恵は出ない
「そんなこんなで今に至るにゃ!」
「なるほど。化け物は大変だな」
「化け物じゃないにゃ!!」
「まぁその容姿じゃこの世界では浮くな」
「この世界って何にゃ?」
「そうか……この山から殆ど出れてないんだもんな。あとで教えてやるよ」
もこもこの状況報告を全て聞き終わった頃、辺りは日もすっかり暮れ、山は闇に支配されていた。
灯りはというと、月明かりと焚き火のみの状況である。
長々と話される間に、焚き火に薪としてくべられたもこもこの簡易ベッドはほぼ原形を保っていない状態となっていた。
「今日はもう遅いし、明日の明け方に日が昇り始めたら一旦梅園寺邸へ戻ろう」
「そうだな。茉莉華に明日迎えを遣す様に連絡を取っておこう」
「けんじろがボクのベッドを燃やしちゃったから雑魚寝にゃ」
「仕方ないだろ。こんな暗い所にずっといられないよ」
「ボクは平気にゃ」
「お前だけは、な」
大方の話が纏まった所で、リオナールが茉莉華に支給された携帯電話で迎えの連絡をし始めた。
連絡も付き、明日迎えが無事来る様である。
今夜は一先ず朝日が昇るまでここに滞在し、明日再始動だ。
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翌朝、リオナールの携帯電話の着信音で目が覚める。
間もなく到着するという知らせであった。
連絡を受け、帰還に向けて各々準備をし始めていた。
出発をする前に、まずはもこもこに偽装を施す必要があるだろう。
マタギに見付かったり人に見られたりしたら、また狙撃されたり石を投げられたりしかねないからな。
俺は鞄の中を弄ると、愛用のジャージを取り出した。
「もこもこ。これを履いて上着の方を頭に巻いて尻尾と耳を隠せ」
「何でにゃ。嫌にゃ。けんじろ臭が酷いにゃ」
「ちゃんと洗ってある! そのままの姿で歩いたら化け物だってバレるだろ」
「化け物じゃないにゃ! それにダサイにゃ。オシャレじゃないにゃ!」
「また狙撃されたり石投げられたりしたいのか?」
「それは嫌にゃ……」
「じゃあ我慢しろ。安全な所に着いたらまた対策を考えてやるから」
「うにゃぁ……」
4人揃った事でいつものフォーメーションが出来上がった。
リオナールを先頭に、その後を近接アタッカーのもこもこ、ヒーラーの睦月、そして殿から俺がカバーする。
1人増えたことにより目の行き届く範囲も広がり、スムーズに移動が行なわれた。
行きに通った道をなぞる様に山の入り口まで戻って来た。
山の入り口には、昨日見たマタギの車らしき物は停まっていなかった。
ヘリコプターまでの道も、まだ早朝という事もあり人影も無く安全に戻る事が出来た。
人影は無いものの油断は出来ない。
そんな状況の中、ヘリコプターを見たもこもこが大声で騒ぎ出した。
「ぎにゃー!! 何にゃ! 『まどーへいき』にゃ! 敵襲にゃ!!」
「うるさいぞ、もこもこ。魔導兵器じゃない、乗り物だ」
「乗り物なんてウソにゃ! こんな物見た事ないにゃ!」
「この世界では常識だ。それより騒ぐな! 人に見付かる!」
「フー! フーにゃ!」
興奮するもこもこを宥め、ヘリコプターに乗り込むと人に見付かる前に直ちに出発した。
ふわっと浮き上がったヘリコプターは帰路へと方向を定め進み出した。
「何にゃ! 飛んでるにゃ! やっぱり『まどーへいき』にゃ!」
「魔導兵器じゃないのよ。落ち着いてねもこもこちゃん。よしよし」
「ギニャー……にゃう……ゴロゴロ……」
睦月の手捌きによって大人しくなったもこもこを余所目に、順調に進んでいたヘリコプターは目的地の梅園寺邸へ到着した。
ヘリコプターから降り立つと、茉莉華お嬢様が着陸地点で出迎えていた。
「おかえりなさいなの、リオナール様。そちらが最後のお仲間ですの?」
「ああ、もこもこ にくうまと言う名だ。暫くここに滞在させたいと思うが構わないか?」
「はいですの! リオナール様のお仲間でしたら歓迎いたしますの」
「もこもこにゃ。よろしくにゃ」
「はい、梅園寺茉莉華ですの。宜しくお願いしますの」
帰還報告も終わり、今後の方針を決めるべく室内へと移動をする事となった。
相変わらず広い敷地にでかい建物である。
それを見たもこもこは、やはり興奮を隠せず大はしゃぎとなる。
池に放たれた鯉を捕まえそうになるハプニングも、睦月のゴッドハンドには太刀打ち出来ず成すがままになり事無きを得た。
俺達は、室内に用意された待機部屋に通された。
今後の方針を検討する為、テーブルに向かい合って並ぶ様に座っていった。
「やっと4人揃ったな。結局全員この世界に飛ばされてしまっていた様だな……」
「一体何が原因なんだろうか……」
「だからこの世界って一体何の事にゃ!」
「もこもこちゃんにはちょっと難しい話だから静かにしてようね」
「そうだぞ、バカには分からん話だ」
「バカじゃないにゃ! バカっていうやつがバカにゃ!」
「じゃあちょっと難しい事言ってみろ」
「むずかしいこと……にゃ!」
「『むずかしいこと』って言えって言ったわけじゃないぞ?」
「わかってるにゃ! 今考えていたところにゃ!」
「とりあえず今方針を考えてる所だから静かにしててくれ」
「けんじろのせいで怒られたにゃ……」
「いつもの事だろ」
「キシャーー!」
頬を膨らませプリプリと怒っているもこもこを、睦月が頭を撫で宥めていた。
睦月のゴッドハンドに、またも制圧され静かになったもこもこを他所に、俺も今後の方針について思考していった。
まず、全員が揃った事で行なう事は元の世界へ戻る方法を探るという事だろう。
俺が個人で確認した瀕死状態での逆転移は失敗に終わっている。
全員で死んでみてもやはり同じ結果だろう。
下手をしたら回復役が居なくなる為、瀕死を通り越して死を迎える可能性はある。
この世界で死を迎える事もなく、安全に元の世界に戻る方法……
そんな都合の良い方法なんてあるのだろうか。
各々が、やはり元の世界に戻る方法を考えているであろう状態で、時は悪戯に過ぎて行く。
何の案も浮かばないまま、思考状態で一言も言葉が発せられない部屋は、静寂で包まれている。
静寂の中、カチコチと鳴り響く置時計の音とゴロゴロと喉を鳴らす睦月に愛でられているもこもこの喉の音だけが部屋に響き渡っていた。
どれくらい静寂が続いただろうか。
これと言った妙案が浮かばないままであった。
そんな時、ドアをノックする音と共にドアが開かれ俺達の思考が寸断された。
「上杉ー!! 帰って来たなら言ってくれよー!」
「おお、コウタじゃないか。久しぶりだな」
「上杉が居ないと学校もつまらないよー」
「嘘を付け。キアラと楽しそうに仲良くやってたじゃないか」
「キアラたんは別腹なんだよ……」
「もう『たん』付けで呼ぶ仲になったんだな」
「そ、そんな事よりなんかしんみりしてないか?」
「ああ、今今後の方針について考えてた所なんだ」
「また元の世界に戻る方法とか?」
「ああ、そんな所だ。良い妙案が浮かばなくてな……」
「そうなのかー……」
以前の逆転移実験の際も、コウタの持って来た自殺マニュアルによって事が進んでいる。
失敗には終わっているものの、これと言った案が浮かんでいない状態の為、藁をも掴む思いである。
うーん、うーんと唸っているコウタから妙案が出て来る事を期待し、暫く静観する事とした。
すると、暫くしてコウタが何かを思いついたかの様に携帯電話で誰かに電話を掛け始めた。
「あ、もしもし? キアラたん? コウタだけど! ……うん、うん。わかった。ありがとー!」
電話の相手はキアラの様であった。
もう既に連絡先も交換しているとは、流石プレイボーイコウタである。
コウタは、キアラから良い情報が聞けた様子で笑みを浮かべこちらに向き直った。
「上杉! 妙案かどうかはわからないが試してみる価値がある話は聞けたぞ!」
「今の電話の相手、キアラだよな?」
「うん、キアラたんは小説とかゲームとかネットサーフィンが趣味らしいんだ」
「それで、どんな情報だったんだ?」
「それがね……」
コウタにより、キアラから聞いた情報について掻い摘んだ説明があった。
要約すると、キアラが読んだ事がある小説に宇宙戦争物の話があり、物語の主人公達は宇宙船に乗り移動をしている。
その宇宙船は、敵からの目を眩ます為に光の速度でワープを繰り返し、遠方へ逃げたり遠方から敵船にワープで近付いたりするのだという。
そのワープの方法が、光の速度で空間を歪ませ時空を飛び越えるという事だった。
コウタの考えでは、そのワープを実現出切れば時空空間を通って元の世界へ戻れるのではないかと言う事だった。
コウタの捻り出した案を、ここに居るメンバーで考察する事にした。
まず、小説の中の話と言う事なので作り話になる。
光の速度で時空の歪みを作り出し、そこにワープゾーンを生成するという話だが、勿論光の速度で移動する事は出来ない。
では、どうするか。
光の速度で移動は出来ないが、光の速度で動く物は発生させる事は可能である。
雷魔法である。
雷魔法を使っていて時空の歪みが出来たという話は聞いた事がないが、この世界では魔法の概念が存在しない。
そういった世界ではまた違うのかもしれない。
試しに雷魔法の最上位魔法<デザストルトネール>を1点凝縮でヒットさせ、時空の歪みが発生するか確認をしてみる事になった。
実験日は全員が集合出来る日で、見届け役のコウタの予定も合わせられる日程となる。
予定日は5日後、例の公園で実験を行う事とした。
当面の予定が立った所で、本日はお開きとなった。
睦月も病院が気になると言い、帰って行った。
俺はと言うと、もう遅い時間だしとなんだかんだ理由を付けて、豪華な食事と絢爛なベッドでの就寝を期待し滞在し続ける事にした。
念の為、もこもこと合流した事や今日は梅園寺邸に宿泊する事、今の話の経緯について天羽にメッセージを送っておいた。




