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ファン感謝デー

リオナールとの電話が終わった後、俺は転移に関する情報を整理していた。


まず、一緒に居た4人の内3人は既に転移している事は確定している。

4人目のもこもこについても恐らく転移しているだろう。

確証ではないが、あの映像はもこもこに違いない。


転移先には何か理由があるのか、はたまた偶然であったのか。

今まで全員が近い場所に転移していると思い込んでいた。

もこもこの転移先が中野県であるとしたら、前提としていた物が覆される事となる。

その理由を解明しない限り元の世界には戻れないのではないか……

そんな事さえ思い込まされる。


堂々巡りの考えで頭をよじれさせていると、天羽に声を掛けられた。


「あなた暫くはまたここに滞在する気なの?」

「そうだな。リオナールから情報が入るまでは動けなそうだからな」

「なら日中は学校行きなさいよ」

「学校に行っても俺にはあまり意味をなさないのだが……」

「私には意味があるのよ。この家に1人でいられても困るの」

「横暴だな」

「嫌なら自分で滞在先を確保しなさい」


飯付きの無料宿泊施設をみすみす逃す訳にはいかない。

俺は翌日から学校へまた暫く通う事となった。


---


翌日、久しぶりの学校に出向いた。

どうせ俺の事など覚えている奴もいないだろうと、特に目的もなく与えられた席へと向かう。

するとどうだろう。

以前は一言も言葉を交えた事もなかったクラスメイトが次々と声を掛けてくるではないか。

どういう風の吹き回しだろうか。

俺の居なかった間に何が起こったのだろうか。


声を掛けてくるクラスメイトの内の1人を捕まえ、何があったのか問いただしてみた。

すると、この変貌はコウタによる謀略である事が判明した。

どうやらコウタはインターネット上に配信している『電撃コウタWORKS』でちょっとした人気者になっている様だ。

雷属性魔法を駆使したコウタの特技が話題となり、そのやり方について質問責めにあっているらしい。

俺はコウタに魔法を教えるにあたり、魔法の存在を他言しない様に事前に約束をさせていた。

質問責めに合ったコウタは、魔法の存在は他言しなかったものの、やり方について俺から教わったと言ったのだという。

間違いではないが、コウタへのベクトルがそのまま俺に向いてしまっている。

そしてかの張本人が久しぶりに登校してきたのである。

そりゃ気になる奴は声を掛けてなんとか仲良くなろうとするであろう。

全くいい迷惑だ。

これはコウタを再教育し直さなければなるまい。


そこへ颯爽と現れたコウタ。

まさに飛んで火にいる夏の虫である。


「おい、コウタ!」

「おー! 上杉じゃないか! 学校で会うのは久しぶりだなー!」

「おー! 上杉じゃない。ちょっと面貸せ」

「ど、どうしたんだよ……」


不安そうな表情のコウタを他所に、一先ず人目の付かなそうな場所へと連れ出す事とした。

とりあえず授業まで間もない事もあり、普段使われていない教室のある廊下へと誘導をし、詰問を開始した。


「お前、スプーンおでこに付ける特技俺に教わったと言いふらしてるらしいな」

「え? うん、言ってるけど魔法の事は一言も言ってないぞ?」

「俺に教わったと言いふらしてる事で俺への注目が高まっているんだが」

「おー、人気者だな!」

「俺は人気者にはなりたくないんだよ」

「そうなのか? 人気者はいいぞ?」

「お前は良くても俺は嫌なんだ。今後俺に教わったと言うなよ」

「えー……じゃあ何て言えばいいんだよ……」

「簡単には教えられないとでも言って置けばいいだろ」

「おお! 流石上杉! 頭いいな」

「そうだな、少なくともお前よりはな」

「ちぇっ」


少しばかり拗ねた表情のコウタではあるが、一先ず再教育は済んだ。

授業の予鈴もなり始めた所で教室へと戻る事にした。

戻る間際、何かを思い付いた様な表情をしたコウタに引き止められた。


「そうだ! 上杉!」

「なんだよ」

「今日の放課後、こないだやってた地面から少しの間浮いてるやつ教えてくれ!」

「嫌だよ。また俺に教わったって言いふらすんだろ?」

「もう言わないよ。何とか誤魔化すから頼むー!」

「放課後までに考えて置くよ」

「やった! 約束だぞ!」


まだ教えると言ってもいないのに、コウタは喜び勇んで教室へと走って行った。

憎めない奴ではあるが困ったものである。


---


そして迎えた放課後。

コウタの目を盗み帰ろうと思ったが、既に先回りされ門で待ち構えられていた。


「上杉! 教えてくれるって約束だろ!」

「まだ教えるとは言ってないだろ」

「頼むよ……一生のお願いだ!」

「一生のお願いって言う奴の人生は何生あるんだろうな」

「そんな事いうなってー。友達だろう?」


コウタはこの世界では唯一心を許せる友達とも言える立場の奴だろう。

そこまで熱心に頼まれては断り辛くもなる。

コウタには念押しをし、人目にあまり付かないいつもの公園へと移動してそこで教える事となった。


「じゃあまずはおさらいだ。魔法の属性にはどんな種類があった?」

「あれだ、えーっと……雷!」

「他は?」

「色々!」


溜息が漏れる

コウタには学術的な事は不向きなのは分かっていたが、ここまでアバウトとは。

そしてこれだけアバウトなのに雷属性だけは多少使いこなせている事に疑問を感じる。

まぁ、使えていればいいと言えばいいが……


「まぁいい……属性の種類は……」

「???」


そこまで発した所で不意に視線と人の気配を感じた。

気配の先に視線を送ると、同じ学校の制服を来た女がこちらへと近づいて来ていた。

女は俺達の傍まで近寄ってくるとピタリと立ち止まった。

視線の先は、何故かコウタを見据えていた。

何か用事でもあるのだろうかと様子を窺っていると、ボソリと言葉を発し出した。


「あの……電撃コウタWORKSの……木村航太さんですよね……?」

「え、あ……はい。そう、ですけど……」

「私を……弟子に……してください……」

「弟子!? 何の!!?」

「私……インターネットで動画見ました……私も……あれ、出来る様に……なりたい……です」

「あれって、スプーンくっ付けたりするやつ?」

「そうです! それです! 私、コウタさんの大ファンなんです!!!」

「えー! そんな事言われても……」


世の中には物好きな奴もいるものだ。

あれを出来る様になりたいという女がこの世にいるとは……

まぁ、人の好みは好き好きだ。

出来る様になりたいというのであれば出来る様に頑張ればいい。

しかし、俺はこの女には教える気はない。

教える義理もないからな。


コウタはと言うと、困り顔で俺へと助けを求め視線を送って来ている。

しかし俺は助けない。

ここはコウタへ俺からの再教育がしっかり行き届いているか、確認も含め静観させてもらおう。

まぁ、感覚派のコウタが人へ指導出来るとは思えないが……


大ファンと言われまんざらでもない様子のコウタは、意を決した様で女へと語り出した。


「あの業は簡単には会得出来ない物なんだよ」

「大丈夫です!! 頑張ります!」

「君には出来ないかもしれないよ?」

「コツだけでもいいんです。お願いします……」

「仕方ない……君名前は?」

「紀亜羅です」

「キアラちゃんね。じゃあ取り合えずやって見せるから真似してみて!」


こうして、コウタによるキアラへの熱血指導が開始された。

予想していた通り、コウタの教え方はまるで理解出来る様な物ではなかった。

何というか……擬音が多かった。


「まずくっ付けたい部分に集中するんだ。何かがギューンと集まる様な感じ」

「ギューンですか……」

「そう、それで集まった! と思ったらそれを表面にポンっと出す様な感じで」

「ポン、ですね」

「そう、ポンっとね! そしたらそれがジワーっと広がる様な感じにする」

「ジワー……」

「そのジワーが安定して来たらすかさず金属をピタっと!」

「ピタッ!」


俺にもどうやってコウタが理解しているのか分からない気の流れの感覚を、キアラが直ぐに分かるはずもない。

ピタッと言いながら手を離したキアラの持っていた空き缶は、やはりくっ付くはずもなくそのまま地面へと落下し音を立てた。

1回で出来るはずもないと覚悟をしていたのか、キアラはそれでもめげる事無く何度も試していた。

その度に空しく音を立て地面を踊る空き缶に、哀愁さえ感じる様な感覚に陥っていた。


「駄目……ですね……」

「駄目……だね……」

「1日じゃ難しいですよね!」

「そ、そうだね! 俺もかなりの特訓をしたし!」

「はい! 私も特訓します!」


キアラは健気だ。

それ程までに会得したい業であるのだろうか……

何度となく繰り返される光景に飽き飽きとし始めていた頃、キアラが腕に付けていた時計を見て何かを思い出したかの様子で動きを止めた。


「あぁ……もうこんな時間なんですね」

「え? ああ、そうだね。結構頑張ってたからね」

「私、そろそろ門限があるので帰らないと……」

「そっか! じゃあまた明日、ここで一緒に特訓しよう!」

「本当ですか!? 絶対明日も来ます!」

「うん、待ってるよ!」


師匠と弟子の誕生した瞬間であった。

何かに熱中して真剣に取り組む姿は美しい。

それが何をやっているかに拘わらず……


そしてその日はキアラの帰宅と同時にお開きとなった。

コウタはキアラの出現によって、当初の目的である浮遊魔法を教えてもらうという事をすっかり忘れてしまっている様であった。

何にせよ俺にとっては好都合である。

その上、コウタは俺との約束である『魔法の存在』と『俺に教わった』という2つの禁止事項を守ったのである。

そうであるのなら、俺には特に言う事もない。

この先、コウタがキアラの師匠として業の伝授を出来るのかどうかはさて置き、2人の師弟関係を生暖かく観察していこう。

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