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捜索の足掛かり

「と、まぁこんな感じよ。って寝てるじゃないのよ!」


バシっといい音が部屋に響いたと同時に俺の頭に軽い衝撃が走った。

目を開けるといつも慈愛の表情を浮かべている睦月の顔が鬼の形相となっていた。

いつの間にか寝てしまっていたらしい。


「どこまで聞いていたのよ」

「気付いたら木の根元に立っていた辺りだな」

「最初の方じゃないの!」


睦月は改めて最初から掻い摘んで説明し直してくれた。

こういう所は世話好き姉さんという感じで好感が持てる所である。

あらかた話を聞き終えた所でいい時間となり、睦月は帰って寝ると言い去って行った。

俺の容態も特に問題は無いという事で、明日退院させるとの事だった。

睦月が去って静かになった部屋で、改めて俺は眠りに就いた。


翌日、俺は退院の運びとなった。

睦月の知り合いという事で部屋も一番いい個室を準備されていたらしい。

費用についてももちろん免除だ。

持つべき者は頼れる仲間だな。


---


数日後、睦月の仕事の休みの日に合わせて梅園寺邸で情報の刷り合わせが行われた。

結果として逆転移実験は失敗に終わった。

この世界ではシステムアナウンスが流れない。

瀕死状態でリターンポイントに戻るか、その場に留まるかの選択は確かシステムメッセージによってガイダンス的に流れていた気がする。

睦月の指摘があるまでは、俺もリオナールもそんな事をすっかり忘れ去っていた。

睦月は年齢は不詳とされているが、明らかに年上の様で俺達の目が行き届かない細かい部分を見ていたり、知らないネタを知っていたりする。

ジェネレーションギャップだといつもからかってはいるが、こういった場面ではとても助かる。

まぁもこもこも年上ではあるのだがあいつは例外だ。

脳味噌筋肉で人生ノリで生きてる楽観的な奴だからな。


もこもこの事を考えていると、同じくもこもこの事を考えていたのだろう、リオナールがポツリと呟いた。


「睦月もこの世界に飛ばされていたとなると、やはりもこもこもこの世界のどこかにいるのだろうな」

「そうね、割と皆近い距離に居たみたいだし、もこもこちゃんも近くにいるんじゃないかしら?」

「それならまずはもこもこの捜索から始めるか」


当面の目標は定まった。

もこもこの捜索だ。

そうは言っても、地道に足で稼ぐのは未知の土地という事もあり途方も無い作業である。

そういう事ならばと、リオナールの傍にくっ付いて来ていた茉莉華お嬢様が父、仂定に電話を掛けて交渉を始めた。


「リオ君……こんな若い子まで手懐けちゃって……」

「誤解だ! 全ての女性に優しく接するのが俺のポリシーなだけだ」

「ふーん、その結果がこれなのね」

「嫉妬は見苦しいぞ睦月」

「賢二郎君にはもう回復魔法掛けないね」

「ごめんなさい。本当にごめんなさい」

「分かればいいのよ」


茉莉華お嬢様の手配によって、父:仂定の経営する会社のシステムで大規模なもこもこ狩りが行われる事となった。

まずは近郊の緑地から徐々に範囲を広げていくという方法を取った。

通例から言って、この下野近辺へもこもこも飛ばされている可能性があるからである。

システムを使って世界規模の捜索が可能とはいっても、人1人を世界中から探す訳である為時間は掛かるとの事だった。

暫く捜索結果が出るまでの間は、それぞれ今までの生活を送る事で連絡が入るのを待つ事となった。


---


2人に暫しの別れを告げ、久しぶりに天羽の家へと帰宅した。

この時間だと、既に学校も終わっている時間でもあり既に帰宅済みであるだろう。

遠目から見ても天羽の家の窓からは灯りが漏れている。

いつぞやの様に飲み歩いていて閉め出しを食らうという事もなさそうだ。


在宅を確認し安心した俺は、入り慣れた天羽宅のドアノブを掴みドアを引いた。

その瞬間、「ガチャッ」という音が響き開扉が拒まれた。

どうやら鍵が掛かっている様だ。

家の中に居ながら入室を拒むとは、俺の存在を忘れてしまっているのだろうか。

一先ず、存在をアピールする様にドアを叩きながらドアノブをガチャガチャと回しまくってみた。


「うるさーい! 近所迷惑でしょうが!」

「いるんじゃねーか」

「いるわよ! インターホン押しなさいよ!」

「インターホンってなんだよ」

「そこのドアの横に付いてるボタンあるでしょ!」

「これか」


----- ピンポーン……ピンポーン……ピン・ピン・ピンポーン…… -----


「うるさいっての! 今鳴らさなくていいわよ!」

「確認だよ、確認」

「必要ないわよ! て言うか何しに来たのよ!」

「ひどい言い草だな。帰って来たんだよ」

「暫く帰って来ないからもう元の世界に戻ったかと思ったわよ」

「色々大変だったんだよ」

「とりあえず中入って……」


うんざりとする表情の天羽の後ろを追う様に、俺は天羽宅へと入って行った。

暫くとてつもなく広い家に滞在していた事もあり、天羽宅は相変わらずではあるがより一層狭く感じた。

俺が居ない事により部屋は荒れ放題となり、ビールや酒の瓶等が散乱している状態であった。


「とりあえず飯食いながら話そうか」

「当たり前の様に要求するんじゃないわよ!」

「ここはタダ飯を食わせて貰える場所と聞いていたのだが」

「誰もそんな事言ってないでしょ!」

「わかった、じゃあちょっとコウタに聞いてみるわ」

「止めなさいよ! 出せばいいんでしょ! もう!」

「相変わらずコウタには頭が上がらないんだな」

「うるさい!」


程なくして雑多な飯が準備され俺の前に出された。

文句を言う割りに自分の分のつまみまで用意している。

とりあえず気になってはいた様で、俺の話を聞く体制は出来ているという事か。


俺は、天羽にここ数日であった出来事を順を追って説明をしていった。

今後は4人目のもこもこを探す事になり、情報が入り次第また数日帰らなくなる可能性がある事も話した。


「ふーん。あなた以外にもこの世界に飛ばされていたのね」

「ああ、割と近い所にいたな」

「それでそのリオナールって人はどんな人なの?」


何やら天羽から雌の臭いがした。

男日照りらしいからな。

近しい間柄の男には遠慮なく唾を付けて行く腹積もりなのだろう。


「屈強なイケメンだな」

「イケメン!! 歳は!?」

「18歳だ」

「なによ、ガキじゃないの……」

「そもそも俺の仲間に色目使うんじゃねーよ」

「こっちは必死なのよ! お母さんから結婚はまだかとか見合いがどーだとか……」


天羽のグチグチとした発言が目立って来たので、TVを付けて聞き流す事にした。

TVではニュースが流れている。


「ちょっと! 聞いてるの?」

「ああ、聞いて……って、ちょっと待て!」

「何よ!」


聞いていないのに聞いているという常套句で聞き流そうと思った所、流れているニュースに目が止まった。

ニュースでは「UMA発見か!」という題材が取り上げられていた。


『中野県の山中で人型で猫の様な耳と尻尾を持った未確認生物が発見されました』

『第一発見者の証言によると、機敏な動きでヒラヒラとした服装をしており、鹿を一撃で屠っていたとの事です』

『では、目撃者が携帯動画で撮影した未確認生物の映像をご覧下さい』


その映像は粗く、ずっと見ていると酔ってしまいそうな映像だった。

映りは悪いものの、所々でその未確認生物を一時的に捉え切っている部分も見受けられた。


映像に映り込んでいるその未確認生物と称されていた者は、武器を持たず拳のみで鹿と呼ばれる動物を仕留めていた。

一時的に捉えられた動きを繰り返し流す映像をじっくりと見ていると、見覚えのある動きである事に気づいた。

拳のみで仕留める動きは、格闘士ギルドで教え込まれる格闘術によく似ている。

似ているというかそのものだ。

アップで映された静止画は、引き伸ばされた状態で顔付きまでは見受けられないが、性別は女性の様に見える。

この場合雌と言った方がいいのだろうか。


その風貌は、コウタと行った電気街の傍らで客引きをしていた猫耳メイドの様に頭の上に耳が付いている。

電気街のそれと違う所は、顔の横に耳がないという所か。

電気街の猫耳は飾り物である為、頭の上にカチューシャ状の耳を着けているのだとコウタが言っていた。

顔の横に耳がないという事は、頭上の猫耳が本物の耳という事になる。

静止画からは尻尾が生えている様には見えるが、その尻尾が飾り物であるかどうかまでは判断が付かなかった。

服装はというと、長い間着込んでいたかのように裾の部分がボロボロである。

ただ、動き安い服装かというとそうは見えない。

格闘スタイルには似付かない、動き安さとは無縁のお洒落を意識したかの様なヒラヒラの服装だ。


その見た目から総合的に判断すると、1人の人物が記憶の中で一致する。

いつでも猪突猛進、タンクより先に突進して行く脳筋スタイル。

戦場にもお洒落を!と見た目重視で火力を落とす、アタッカーの風上にも置けない奴。

そんな残念な人物、一緒にパーティを組んでいたこの転移事件の切っ掛けを作った張本人、もこもこ にくうまである。


撮影された場所は確か中野県と言っていたな。

今いる場所は深草とは聞いているがここから近いのだろうか。

地理的な部分についてはまだそこまで詳しく把握している訳ではない為、一緒にTVを見ていた天羽に聞いてみる事とした。


「中野県ってここから近い所か?」

「そうね……車でも5~6時間は掛かるんじゃない?」

「遠いな……なんであいつだけそんな場所に……」

「なんでそんな事聞くのよ」

「この映像に移っている未確認生物な、多分俺のパーティメンバーだ」

「え!? 異世界から一緒に転移して来た人……? なの?」

「ああ、恐らくな。あいつは獣人族だから耳や尻尾が生えているんだ」

「そんなのまでいるのね」

「俺の世界では人族以外にも獣人族、エルフ族、ホビット族等多種多様だからな。ちなみにリオナールはエルフ族だ」

「エルフってあの耳がちょっと尖ってるシュっとしてる感じの?」

「そうだ。よく知ってるな」

「私の趣味で読んでる本とかにもよく出てくるもの」

「あのエロ本か?」

「エロじゃないやつも読んでるわよ!」

「じゃないやつも、か」

「いちいち引っ掛かるんじゃない!」


もこもこもこっちの世界に飛ばされている可能性は十分ある。

あの風貌から察するにやはりあの映像の人物はもこもこだろう。

だが情報が少なすぎる。

まだその場所に滞在しているとも限らない。

ましてや、車で5~6時間は掛かる程遠い場所だ。


今までの他2名の居場所からすると近い場所に転移されているであろうと踏んでいたが……

捜索に出向くにも少し情報が足りなすぎる。

どうするべきか……


突然舞い込んで来た情報に、俺は少し戸惑いを隠せないでいた。

そんな中、天羽に与えられていた携帯電話が突如鳴り響いた。


「ケンか? 俺だ、リオナールだ」

「おお、リオナールか、どうしたんだ?」

「今TVで流れていた映像を見ていたんだがな、その映像に映っていたの多分もこもこだ」

「ああ、今俺も同じ物を丁度見ていたよ」

「おお、そうか! それでな、今までもこもこ捜索を下野周辺から広げていたんだが、中野県を中心に捜索してもらう事になった」

「あの梅園寺グループのシステムで情報を探っていたやつか」

「そうだ。それで暫く中野県からの情報を探ってみる事になったからまた詳しい情報が入ったら連絡する」

「わかった、頼む」


リオナールも同じTVを見ていてくれた事で情報共有をする手間が省けたな。

丁度中野への捜索の手掛かりが欲しいと思っていた所だ、渡りに船である。

暫くはリオナールからの情報が入るまで待つ事にしよう。


しかし、何故中野県なのだろうか……

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